番外編2 運命の人?
やった! すごぉーい!
産まれて始めてデートに誘われた!
でも私、デブだし、オシャレでもないし、暗いし、メガネだし。
どうして? でも名前を知ってて。
なんか、私に会えて嬉しそうだった。
不思議な人……。イケメンだし、着てる服もイケてた。そんな人がどうして私なんかを? でも、すごぉーい!
……やばい。語彙力を失った。
家に帰ると、すでに2月15日。そりゃそうか。明日も仕事だから寝ないと。でも寝れないよぉ~。
その時トークアプリに着信。達也さんだった。普段は企業の公告ばっかりの私にも、ついに男性から!
『会えるときが待ち遠しいです。土曜日に会いませんか?』
ええええええ。会う会う会うー!
でも落ち着いて返信っと。
どうしよう。もう好きになっちゃってる。勧誘だったらどうしよう。
そしたら名前なんて知るわけないもんね。やっぱり運命の人?
いつの間にか眠ってて、目覚ましで起こされた。でも飛び起きて母の元に。
「お母さん! お母さん!」
「どうしたの? 朝から騒々しいね」
「今週末、デートすることになった」
母は口をしばらく開けていたが、やがて弓のように口を曲げて微笑んだ。
「本当? やったじゃん! バレンタイン告白?」
「違う違う。あれはなんだろう……? ナンパ?」
「え? ナンパなの?」
「うーん。でも違うのかな?」
「へー。どんな人?」
「カッコいいの。そんで私のこと大好きみたいなオーラがすごい」
「えー、なんか」
「うん……。そこだけ聞くと怪しいかもしれないけど」
「ふーん。信じてるんだ」
「まだ少ししか話してないけど……。なんていうか、運命?」
「ふーん……」
どうしよう。母にうまく伝えられない。て言うか、私自身も達也さんのことよく知らないし。ああん。早く土曜日にならないかなぁ。
もう仕事もバリバリだった。突然覇気が出たっていうか、周りもビックリしてたけど、やる気がでちゃったからしょうがない。
家に帰ると、母がショッピングモールに服を買いに行こうというので、センスのない私は、もう母だけが頼りだった。
父もなんかついてきて、彼が出来たことを喜んでいた。まだ彼じゃないけど。
服も靴も買って、モールでそのままお食事。少しでも気を付けて有機野菜のヘルシーなお料理を食べた。
約束の土曜日。体重計に乗ると98kg。2kg痩せてる! まぁオデブは2kgくらいはすぐに変動するか……。
10時に駅前の公園で待ち合わせ。車で迎えに来てくれるって。どんな車かな? 楽しみ!
約束の10時よりも少し前に到着。達也さんも待っていた。
「やあ。紗菜……さん。可愛い。その服装似合ってるよ」
「ええー。本当ですか? 達也さんったらお上手ですね」
「夕べは楽しみでそんなに眠れなかったよ。車はパーキングに止めてあるんだ。ドライブしながら話をしよう。じゃ行こうか」
わーい。何もかもステキ。可愛いって。眠れなかったって! もうラブラブですぅ。
駐車場に行くと、グレーの軽自動車。その助手席を開けてくれた。
「ごめん。こんな車で。お金貯めてちゃんとしたの買うから、少しの間我慢して」
ううん。全然いい! 断然、二人っきり空間が狭いほうがいい!
彼の運転でドライブスタート。山に登って景色を見て、その後ひと気のない道をただただ走りながらいろんな話をした。
達也さんは、ライン工場の社員さんで自動車部品を作ってるってこと。同じ市だけど、小中高は別なところ。歳は同じ。お給料は今は私の方が上かな。でももっと上を目指してること。
あと好きな食べ物とか、好きな映画とか。なんてことない雑談をして、食事をした後、家まで送ってくれた。
全然、ナビしてないのに、気付いたら家の前だったので驚いた。
そしたら、もっと驚くことを言ってきた。
「紗菜さん! 好きだ! よかったら付き合ってください!」
完全に脳が麻痺して動けなかった。真っ赤な顔して「はひはひ」言ってたけど、達也さんは、「はいってこと? はいってこと?」って、何回も聞いていたことに頷いたことを覚えてる。
出会って一週間経ってないのに付き合うことになった。そして、明日も会うことに。
こんなに幸せでいいのかな……。
チビデブでオシャレでも、なんでもない、暗い私で本当にいいのかな……?
次の日。達也さんは玄関先まで迎えに来てくれた。父も母も驚いて頭を下げていた。
「涼本達也と言います。お嬢さんとお付き合いしています!」
て宣言カッコいい! 父も母も、完全に気迫負け。
私たちは連続デートに出掛けた。
ショッピングモールでウインドウショッピング。オシャレじゃないので、なにが自分に合うのか分からないのが口惜しい。
達也さんは笑って、服を合わせてくれた。
ゲームセンターでちょっとだけクレーンゲームをした後、昼食。
どうして達也さんは、そんな恋する瞳で私を見るんだろう。ひょっとして、デブ専のブス専ですか? 聞くと私が哀しくなるから聞けないけど……。
「あら」
だ、誰? 可愛い人。胸とか体のラインとか強調する服着てるし。達也さんと私を交互に見て……。なんか嫌な感じの人だな……。
「達也じゃない。この女の人は?」
「なんだ。聖良か。今彼女とデート中なんだ。用がないなら向こうにいけよ」
んんん? 達也さんも、なんか喧嘩腰。いったい誰?
「へー。彼女。私も今カレとこれからデートなんで」
「そりゃよかった。おめでとさん」
「一週間前に私にフラれたからって、もう別な女? そこまでレベル落とさなくてもよくない?」
「は? 紗菜は最高の女性で運命の人なんだよ。その価値も分からないお前なんかと話もしたくない」
きゃ! 運命の人? 運命の人! なんか、頭が沸騰。目がグルグル。
「あのさぁ。私の次がコレだって、共通の友だちとかに見られるのが嫌なんだけど」
「なに!? 取り消せよ!」
達也さんは、掴みかからんばかりに激昂して立ち上がったが、その女の人は意に介さずといった感じで、どこかに行ってしまった。




