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床の芸術家は物語る  作者: 知足湧生
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第2話「福福らーめん」



店内に入ると、思わず唾液がジュワジュワ分泌されるような匂いで出迎えられた。

「ああ、今日もラーメンを食うことになるな」とそれだけで注文が決まってしまう。


学校から数分にある『福福らーめん』は絶品を出す穴場として俺たちは多用していたのだ。

こうして月に2回くらいは、気が付いたら練習終わりに店に入っていることが多い。


広々とした店内にはテーブル席やカウンター席もあって、人数に合わせて席を寄せることも出来るのだ。

俺たちはテーブルを1つ寄せてそれぞれ陣取り、各々注文を始めた。


「皆は何食べるー?私はもち、豚骨チャーシューメン大盛りで!」

「はいよ!次のお客さんはどうするかね?」


ユウカが口にしたのはここ大阪の福福らーめんならではの定番メニューで、

豚骨や香味野菜などを毎日丁寧に時間をかけて煮込んだ濃厚スープだ。旨味のたっぷり詰まった自慢の味だ。


「お婆さん!いつもの組み合わせを御願いします!」

「肉玉醤油らーめんに、餃子1人前だったね。はいよ!」


こうして店員さんに俺の顔を覚えられてる程にすっかり常連客となってしまっていた。

皆もそれぞれの注文を終えると、俺とクルミは食べ放題の前菜を取りに行ったのだ。


「えへへへへ」

「ちょっとハルトくん、流石に盛りすぎだよ?」


そう行って俺の奇行をくつくつと笑うクルミ。

これでもかという程に俺は両方の小皿に前菜を詰め込んで行った。


「だって仕方ないだろ。これ本当に美味しいんだから」

「うん、辛くて食べ応えがあるからついついハマってしまうよね」


名前が分からないが、何かの緑色の葉っぱに辛子も混ざっており、

口にすると辛味が舌に広がっていき、噛み応えも抜群で気がついたら病みつきになってしまっていた。


クルミがもやしを積んで、俺は皆と自分の分を詰めて席に戻っていった。


「相変わらずその量エグいっしょ!どんだけ食うんだよお前」

「ハルトだけ一皿独り占めとかずるいから!ウチにも半分くらい分けてよね」

「そのための2皿めなんだが…?」


これ本当に美味いもんな。俺もそう思いたくなる気持ちはわかるよ?

皆の分の水も取りに行ったクルミが帰ってくると皆のお待ちかねの料理が一斉に運ばれてきた。


「はい!お待ちどうさま。ゆっくり食べていってね」

「「「「「有難うございます!」」」」」


やっぱり店員さんには優しく対応しないとな。

「客は神様だからな」と偉そうな態度を取るような奴にはなりたくないものだ。


ク…!焼き上がったばかりの餃子が見るからに美味そうだが、先ずはタレ浸しにしなければ。

1人だけ具の量が桁違いですかさずクルミが突っ込む。


「ユウカちゃん、痩せてるのに本当によくそんなに食べられるよね。私も1年生の頃に来てその大盛り頼んだけど、量が多過ぎてハルトくんに食べてもらったよ」


あのときは初めて女子とのモロな間接キス以上の行為で本当に気恥ずかしい思いをしたけど、

今もそうだが俺はあまりチャーシューが好きじゃなかったからリオに残りをあげたんだっけ。


「くうちゃんお水さんきゅ!こっちは朝に練習してから菓子パン食べるからね。放課後の練習終わったらついコンビニのホットスナックも食べちゃうし、夜ご飯もガッツリ食べるからねー」


それにリオが呆れて返事する。


「いやいやそんな食生活を堪能できるのはユウカだけでしょ。ウチが真似したらぶくぶく太っていきそうだし、普通の醤油らーめんで十分だわ」

「私も肉醤油らーめんで丁度お腹いっぱいだね」


2人が注文したのは柔らかい豚肉を炊き込め、その旨味を加えたあっさりとしたラーメンだ。

もみじ下ろしですっきりとした味わいがこの店自慢の品でもある。


「えっ、逆にそれだと皆本当にお腹空かないの?」

「ユウカだけなんじゃないか?そんなにバクバク食えるのは。胃袋が実はブラックホールなんじゃないの?」


たまに朝早く登校するとユウカが1人で技の練習をしてたことが何度もあったな。

去年の夏休みのバトルで負けて以降、練習に気合を入れ始めてて本当に偉いと思うよ。


「乙女に向かってそんなこと言うのはマナー違反なんじゃないの、ハルっち?それに私はつくべきところにしかつかないみたいなんだよねー」


恐らく肉体を動かすための燃料や筋肉のことを言ってたんだと思うが、女性陣は違う風に解釈したようだ。


「ちょっとユウカそれでそのスタイルの維持って反則過ぎるんじゃないの!?」

「リオちゃん私もその気持ちはわかるけど、今はきっと見てみぬふりするしかないよ」

「「あんた(くうちゃん)には言われたくはないのよ!!」


リオとユウカがクルミのそのたわわな双丘を睨みつけ始めて本人が困惑気味に。

俺も多少そうだとは思うが、俺とセシルからすれば君たちの3人ともスタイルがおかしいんだよ…。



--



飯を食い終わった俺たちは数日後に行われる1年生用の部活紹介について話し合っていた。

今食べたのが春休み最後の晩餐だったから、明日からまた学校が再開するのだ。


「やっぱり出るって言ったらハルっちとセシルでしょ!凄いムーブがんがん飛ばしてたら会場湧くんじゃない?」


「それを言うならユウカもそうだろ。パワースタイルの女性ブレイカーなんて珍しいもん見せられたら、多くの生徒が感銘を受けてうちの部に入って来そうな予感もするぞ」


ダンス部の総メンバーは1年生の体験入部者の予約数を合わせたら驚異の80人と驚きなんだが、

結構な割合で幽霊部員も居るし、誠に遺憾ながらもブレイクダンサーは俺たちに先輩2人のみと少人数なのだ。


特に男子のブレイクダンサーなんて俺が部に入ってからはリク先輩に、俺とセシルだけだったのだ。

彼は今イベントで忙しいからとここに居ないが、俺とセシルの師匠を引き受けてくれた人物なのだ。


いつも軽薄ぶってるのにことブレイクダンスにおいては自分にも他人にも厳しくなる人だったため、

彼が1年生の時に他の男子ブレイクダンサーが全員辞めたという過去のトラウマを持つ。


「女性部員がもっと増えて欲しいってこと?うわー私たちというものがありながら何考えてんだかねーハルっちは?」

「えー、何それどういうことなの!ウチのどこに不満があるってのよ!?」


いやどうしてそういう風に解釈してしまうんだよ。

こっちはただ部に更なる活気をもたらそうと考えていたのであってな…。


「おいユウカ、俺に何の恨みがあるんだ。俺の成長に焦ってるのはわかるけど、ユウカだってエアフレア上手くなってるだろ」

「誰かさんのおかげだねー。それに、私のムーブ中にハルっちの視線がいやらしいのも知ってんだらねー」


まあ、バレてだろうことはとっくに前から知ってたけどさ、

男友達みたいな存在として接してるからって、異性としての魅力を感じない訳じゃないんだよ。


「からから笑ってんじゃねえ、どう考えてもちゃんとシャツをタックインしないユウカが悪いだろうが」

「何で私がそんな面倒なことしなくちゃならないのさ。大体、ダンスでしこたま汗かいてる真っ最中にタックインなんて暑苦しくてやってられますかっての!」


ユウカめお前はもう少し自分が異性としても魅力的であることを自覚した方がいいと思うんだよ。

気軽に接してるとたまに自分に無頓着だし、いちいちドキドキさせられてしまう。


「ハルトくん?帰りにお話があります」

「…ごめんなさい許して下さい」


流石に理不尽すぎないか?けどクルミには逆らえないんですよ僕。

だが可愛い子ならもうとっくに間に合ってるんだよなあ。


「ともかくさ、出るなら俺たち皆で出ないか?まさに少数精鋭部隊で場の空気をモノにできるっしょ!!」

「確かにそれ良いな。皆で得意なムーブ披露していったら良いんじゃないか?」


セシルがトーマスフレアなどのパワームーブを適当に乱発してるだけでも会場が湧きそうだしな。

俺もご自慢のシグネチャームーブを披露しておけばかなり盛り上がるだろうと予想してる。


トーマスフレアとは体操の開脚旋回から直接引っ張ってきた大技のことだ。

両手を交互に地面に付けている以外は常に下半身を反か時計回りにぶん回すパワームーブで、

セシルのようなゴリゴリのパワームーバーは技の繋ぎとかに連発してることが多い。


「私とセシルで一緒にエアートラックスしとけば大受けできそうじゃない?」

「その中心でウチがウィンドミルすればかなり映えるじゃない?凄いしてみたくなってきたわ!」


エアートラックス、別名エアフレアとは空中で回るウィンドミルのようなものだ。

これは倒立状態に入ると同時に、軸腕を床に着けるに合わせて軸足を斜め上に蹴り上げるのだ。


そうすると一瞬だけ両腕すらもが空中に浮遊する時間が生まれて、また片手で床を捕らえて上記の工程を繰り返す。

俺はパワーよりもスタイル重視だから習得してないけど、セシルに聞いたら大体そんな感じだと説明された。


「なるほど、ルーテインみたいな感じか。それを最後にやるとして、それに至るまでの踊りはどうするんだ?」

「振り付けはもう本当に簡単なもので行こうぜ。新入生も早く派手な動きが見たいだろうし」


ルーテインとは予め打ち合わせで決めつけられた短時間の振り付けのことで、

一緒にステップを踏んだりコンビネーション技を披露したりする多人数ならではの踊りのことだ。


バトルになると、雰囲気(フレーヴァー)を一気にこっちに持っていける程に力がある戦術で、

ルーティン同士のぶつかり合いが起きると、それをより上手く掴めた方に空気が傾くが、それはまたおいおいふかぼっていくとしよう。


「そうだね。基礎的な動きをなるべく丁寧に見せていく方向に作ると、良いんじゃないかな?」

「流石は我が部のマネージャーだね!ちなみに、私たちはダンス部の中でもどの順番で踊るの?」


向井堂部長は新入生になるべく色んなダンスのジャンルを見てもらえるようにと、

各ジャンルでそれぞれの踊りを披露するために時間を多めに取ってくれたのだ。


「最初はジャズ、ヒップホップ、ワック、ポップ、クランプ、ハウス、ロック。んでブレイクの順番だよ」

「お!俺たち最後じゃん!よっしゃあああ燃えてきたな!!」

「ウチらマジでラッキーじゃん!!」

「確かに!私だって最後のデザートとくれば燃えるタイプなんだよね」


これは、運が良いな。ダンス部は全部活の中でも発表順が最後に選ばれたようだし。

派手に締め括る役割に選ばれたような気がして俺も密かに燃えるシチュエーションだな。


「そうだな。最後に選ばれた以上はド派手に決めてカッコ良い印象を1年全体に浸透させてやろうぜ!」

「めっちゃ良いじゃんそれ超燃えるんだけど!!」


そうすれば俺たちは一気に有名になって俺もモテモテに!!…なんてな。

ブレイクダンスしてるからって異性から注目させることにはなったとしても。


別に『先輩の2000が素敵すぎてお股がびしょ濡れになっちゃいました!好きです!抱いて下さい!!』とはならないだろう。高身長イケメンのあのセシルですらアピールが空回りしてるんだ、間違いないだろう…って否定したい気分だよ。


「その後は各自ソロで踊っていって締め括ろうか!先ずは俺から行くぞ」

「えー、最後こそはハルっちだと思ってたのに。なになに、アンカーだと変に緊張しちゃうタイプだったの?」

「アハハハ何それ凄い可愛いんだけど!チームバトルだと殿もほとんどセシルに任せてきたもんね」


いや違いますそんなことないですぅー!

それはブレイクダンサーでも珍しい、俺の天才的なスタイルを活かして相手との距離を序盤で突き放してだな‥。


「なんせうちのチーム自慢の特攻隊長様だもんな。…いや、ただの早漏野郎か?」

「本当うるっせえな、チャーシューの脂肪ぶつけんぞオラ!!」

「ハルトくん食べ物で遊ばない!!」

「はいッ!!」


俺たちはぷはっと吹き出した。その後も俺たちはしばらく団欒を続けた。

やがて俺たちは帰路に着くために今日はもうお開きとなった。


ちなみに帰りが同じ方向なクルミにまた怒られたようだ。

‥だから本当にごめんなさいって。


さてと、明日は始業式で久しぶりの登校日だから、今夜もぐっすりと眠ろうか。


小説書きの初心者、知足湧生ともたりはるきです。よろしくお願いします!


『面白かった!』

『続きが気になる、読みたい!』

『今後どうなるの?!』


と思ってくれたら。


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をよろしくお願いします!


面白かったら星5つ、つまらなければ星1つ。

正直に感じた気持ちで全然大丈夫です!


ブックマークも頂けると泣いて喜びます!


なにとぞ宜しくお願い致します!


もっと工夫できそうな点もあれば、ぜひご教授下さい!

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