古びた機械式蓄音器
【カルワリアエ事件・関係者へのインタビューより】
ジラフ管理官(以下管理官)「貴方があの街で見た事を今一度お話しできますか?」
被験体Ac(以下Ac)「はい。しかし、何処から話せばいいのか……この事を語るには、まずこの世界から説明しなければなりません」
管理官「構いません。時間は悠久にあります。貴方の話したいところから話してください」
Ac「わかりました。この星は……」
以降、基礎的な天文学、古生物学、人類史、文化歴史に関して(中等寺子屋2年で学ぶ程度のもの)を16時間4分話す。本題と思われる箇所まで略
以下、本題と思しき箇所
Ac「あの日、私はいつものように12式移動型バートゥー……あ、もちろん喋らない奴です。たまに喋る似たタイプの奴がいるので念の為……で、バートゥーで職場の街まで来てたんです」
管理官「お仕事は何を?」
Ac「私は街で【一般人】をやってます。でもそれはそこまでこの事件に関係はないんです。例え私が大臣やパイロットでもきっと変わらないのです」
管理官「わかりました。では続けて」
Ac「私はいつも通り巡回ルート、丘上の王立職業安定奉仕センターの前を通りました。いつも通り昼10時5分きっかしです。でもいつもなら無職で溢れかえっているセンター前がその日に限って人気がありませんでした」
管理官「センター前に人がいない?私の勤めるKBIの本部ビルはセンター前を一望できますがそんな日は一度もなかった。あいつらは24時間センター前にいる!」
Ac「不思議でしょ?でも私は間違ってない。確かにあそこは王立職業安定奉仕センターの前だったし時間は10時5分きっかしだった!
だけど、誰もいなかったわけじゃないんです。」
Acは寸前まで疑われたことへの懐疑と怒りの表情であったが【彼】のことを話そうとした後からは終始穏やかな、慈しみを持った表情だった。
Ac「【彼】はわたしに気づきました。そして、笑いかけた」
管理官「【彼】?【彼】とは誰なのですか?貴方の知っている人ですか?」
Ac「えぇ、勿論。貴方も知っている筈です」
管理官、戸惑いの表情。
Ac「【彼】はわたしを見てくれた。そして語ったのです。
『この先にあるものを私の元に持って来なさい』
こう言いました。間違いありません」
管理官「それで王立職業安定奉仕センターからこれらを奪っていったと……」
管理官は机の上に押収品(以下、順番にAc-1、Ac-2とする)を並べた。
Ac-1は円柱状の金属筒。噴霧機構の付いたノズルが上部に接着されており筒にかっちりハマる円柱状のプラスティックの蓋が覆っている。内容物は不明。金属筒の表面には言語と思われる記号が書かれている。
Ac-2は丼に入った牛丼。白米の上に牛肉が載っている。さらにその上から溶けたチーズがかけられている。見た目は一般的な牛丼。だが因子解析によると白米、牛肉共に未知の品種であり既存の生物の因子に合致するもので最も近かったものはキタミズスマシ(甲虫目ミズスマシ科)であった。
これら押収品はあまりにも特異すぎる為、情報閉鎖し一級国家秘匿情報とする。
彼の話は続く。
Ac「えぇ。【彼】はきっとまた私の前に来てくれます。そして、それらを持ってきた私を称えてくれるのです」
管理官「まだ信じてますか?その、えーと、【彼】がまた来ると?」
Ac「えぇ、信じてます。だって私より前に【彼】に会った人が2人もいますから。何世紀も先かもしれないですがまた【彼】は戻ってきますよ」
以降、取り留めもない世界情勢の話をしてインタビューは終了。
被験体Acは3年後、監視施設内でロープを使い自殺。
[管理記録保管:ウインドハークス・サウスウエスト精神病院]