さび付いた手回し式レコーダー
彼がどうして人前で涙を見せないのか、知っているかい?
時は27世紀、ウィンドハークス南西部、ある夏の昼下がり。
六畳一間の部屋には男が一人、うだるような暑さに悶えている。
部屋内にはオールドメン(1886)の「謝罪と贖罪」が延々とリピートされており、その事実が男をより不快にさせた。
~♪~
「うるさい!」
男はラジカセに対し拳をたたきつける。が、硬化したラジカセはビクともしない。
男はため息をつくが、そのため息に祭壇の火が引火して部屋のあちこちから炎が吹きあがる。
「はぁ…まるで…。」
言いかけた言葉を飲み込み、男はめんどくさそうに立ち上がる。
部屋の四隅から消火器を1つだけ持ってくると、急ぎ消火活動に取り掛かる。
こんなものは男にとっては日常茶飯事だ。
「頼むよぉ…」
男は情けない声を上げながら消火活動を継続する。
これまでの体感では成功確率はおよそ6割といったところか。
これが消化できるのとできないのとでは大家の態度が違うのだ(本当に違う)
男は考えた。常に考え続けなければならない状況にあった。
人間は考える葦である。かの有名なオウムスティンもそう言っていた。
当然覚えている。それは当然だ。
何を隠そう、彼はオウムスティンに憧れてパイロットになったのだから。
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2086年
ムールシガレット領空内
『プシュッ!プシュッ!』
(このころはまだ)新人パイロットのアルフォンスは先輩パイロットであるオウムスティンの指導の下、新人訓練を行っていた。
新人訓練とは読んで字のごとく、使い切ったスプレー缶から残ったガスを抜く作業である。
(この作業は密閉された機体の中で行われ、新人パイロットのおよそ3割が失敗しそうになるという恐ろしい訓練であった)
この新人訓練の真に恐ろしいところは、先輩パイロットとの運命共同体であるところである。
アルフォンスが優秀なパイロットであったことは間違いない。だが、他人の命を預かるとなれば話は別だ。
アルフォンスが不意にポケットに入れていたねずみ花火に火をつける。
ほんの一瞬だが彼は油断した。ガスで充満した機内で炎をつければどうなるかは想像に容易い。
「バカ!まだ早い!」
オウムスティンが必死に止めようとするがもう遅い。機体は爆音とともに散体し、流れ星のごとく空を舞った。
その後、飛び散った機体がムールシガレットの一等地ホテルに墜落したことは言うまでもない。
オウムスティン、享年62歳にてその人生に幕を閉じた。
オウムスティンはスピンオフ作品にて「あくま大王」として世界を闇へと誘います。