鬼☆戦隊デデンデ 第3話 最悪のシナリオと大学のキャンパスに置き忘れたキーチェーン
祈りを欠かさない私は、今日も教会の隅で腕を組んでいた。教会に立ち入ってくる者たちをこうして眺めるのが好きだからだ。
なぜ人は祈るのか。それは実に明快である。機体が操縦不能なのだから祈るしかないわけだ。
この王国にいる者は皆何かしら祈っている。コクピットに乗るパイロットはもちろんその家族や恋人、果てはペットからサメまで様々だ。
さあて、今日は男二十四人、女五十九人、ペット一匹、サメ四柱か。少し女が多い日だったな。こういう日は、かならずコクピットにアイツが乗っていることが多い。
そう、女性人気の高いアルフォンスだ。彼はパイロット歴八ヶ月のベテランで、様々な特異事案任務に出動しては、飛行できたことに感動して他国の領空侵犯を繰り返しているエースだ。その手腕はゴリラ大臣も一目を置いているほどで、類まれなる才能を称え勲章を授かっているほどだ。
彼ならば、今回も特異事変を蒐集して帰ってくるだろう。
しかし、そうは問屋が卸さなかったぜ。
「号外! 号外! 名将アルフォンスが墜落!」
街を走る新聞記者がまるで見て来たかのように大声をあげて新聞を配り歩く。私はすぐにその新聞を受け取り投げ捨てた。
『アルフォンス戦死か? 歪んだ島に落ちた形跡有り。捜索隊急募!』
私はその捜索隊に志願するため、区役所へと走った。
「これがラビット式レイザーテール7号か……。見事な汎用品だ」
私はてかてかと光るアルファルトにタイヤを切りつけながら暗闇を抜けた。
今回向かうのは歪んだ島。直近に発令されたイロミズ39号作戦で打上時点で墜落したアルフォンスと機体の回収任務だ。
ほぼほぼ生存の見込はないと思われるが、あの歪んだ島のことだ。また前回のように特異事変になる可能性も高い。
私はパイロット歴一ヶ月のベテランだが、あの時の事変はラジオ中継で聞いていたのをよく覚えている。細かいことは忘れたが、あの島の内部に入ると何もかもが歪んでしまうという。それこそ生命の有無など些事であるかのようにだ。
「へへ、お前さんも金目当てかい? 俺はサディって言うんだ。これからよろしくな。なあ、聞こえてるか? 俺はサディって言うんだ。おーい、聞こえてるか? サディだ、サディ! サディ! サディ!」
大型空母に乗せられて私はラビット式レイザーテール7号、通称ポムちゃん(今名付けた。かわいいだろう)と共に港を出た。歪んだ島まであと2時間半。この任務に乗ったのは私を含めてもかなり少ない。それはそうだ、特異事変に進んでかかわりに行こうとするなぞ余程のバカか、サメくらいしかいないだろう。現にこの船にもサメはいた(もちろんしゃべらない。しゃべったらそれこそ特異事変モノだ)。
「視えたぞ! 歪んだ島だ!」
出発時点から見えていた歪んだ島を偵察隊が大声で指をさす。ようやく任務の開始だ。私は飲んでいたソーダフロートを置いて、サングラスを掛けた。
「イッツア ショウタイム!」
結果としてアルフォンスは見つかった。なんと驚くことに、生存した状態であった。たまたま木に引っかかっていたグエンタクリヌンチャスを食し、生還していたのだ。これは驚くべき事態。まさに特異事変。仲間のサメ1柱が宙を舞った。
「号外! 号外! 名将アルフォンス、無事帰還!」
私は今度は落ち着いた気持ちで新聞を受け取り、破り捨てた。
やはり彼はこうあるべきだ。
今日も教会は賑やかだなあ。
星にあげられたのは人。託されたのは思い。ひとえに希望を抱いて、落ちるは地に住む我ら。
ならば咲かせて見せよう、大地の命脈。
(グエンタクリヌンチャスの花言葉より)