新章 鬼神戦隊デカデルデ 第1話 それはまるで遠い記憶
追い風が吹いている。今はただがむしゃらに、走れ。
【海岸に人語を話すサメ現る!地元住民は大パニック!笑】
途中まで読んだ新聞を、俺は畳んで燃やす。
いかにも大衆が好きそうな【浅い】記事だ。嫌になる。
俺みたいな一流の新聞記者は新聞が入った【壺】を海岸から見つけてくることも容易い。
それも新聞は国内のものではない、新聞は海外のものだ。
いまや世界中で発生する超常現象とそれに伴い増え続ける【壺】は世界中の人々を恐怖に陥れている。
「一応【王様】に報告するか…」
気は進まないがこれは俺に課せられたもう一つの任務でもあった。
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【解説:ゴリラ大臣】
王国の長である王様が最も信頼する部下のうちの一人。母乳が出る。
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「…ということなんです。わが王よ」
『ふむ、それは看過できんな。イロミズ39号作戦を始動し、急ぎ【サメ】の討伐に向かわせよう』
「ははっ!ありがたき幸せ」
今日もまた、王国の危機を未然に防いでしまった。
何を隠そうこれが私の裏の仕事、国家エージェント【Lila=Kahlheit】としての私だ。
さて、人事は尽くした。後は天命を待つのみだ。
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【解説:ラビット式レイザーテール7号】
海外で発生した特異事案を解決するために王国が派遣する戦闘用ロボットのスタンダードタイプ。
特筆するような戦闘能力はないが、クセがなく初心者でも扱いやすい。
現在まで、王国では約200体が製造されている。(*1)
メインウェポンは腹部に取り付けてある高性能酸素吸引機と可視光線。さらにコクピットからは不定期に怪音波が射出されている(*2)。
300km/hでの高速飛行が可能だが、度重なる領空侵犯により各国から警戒されており大抵の場合は特異事案発生現場に到着することなく撃墜される。
また、多機能エンジンへのバードストライクが多発することも問題となっており、去年の実績は年間865件/164機。
製造費も320憶フォンベスと多額であることから、無用な墜落を防止するための改良型機体の導入が望まれている。
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『ここに至りて候』
過剰ともいえるラッパの多重奏とともに、【ラビット式レイザーテール7号】が空へと打ち上げられる。
操縦士はパイロット歴17か月のベテラン。玉宮操縦士だ。
操縦士にとって最初の難関はこの打ち上げである。
垂直に打ちあがる機体は高度7200フィートまでは自由が利かず、操縦士はコクピットで祈るしかない。
無論、この時の祈りの力が強ければ強いほど離陸成功確率(通称FJP)は高くなる(*3)
この光景は国営放送でも生中継で配信され、その結果に国民は一喜一憂する。
その日も国民たちは固唾を飲んでその光景を見守っていた。
その時だった、玉宮操縦士が操縦する【ラビット式レイザーテール7号】がゲーミングPCめいて七色に発光する。その姿はまるでゲーミングPCのようであり、あるものは歓喜し、またある者は昔を思い出して涙した。
「……確変だ。」
その日、王国は約215dBの歓喜の声に包まれた。
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*1
正月には作りすぎた機体を王国が国営オークションで叩き売りする。
それでも捌ききれなかった在庫は福袋に入れられる。
*2
怪音波が発射されるタイミングは操縦士にも分かず、また格納庫にて収容されている状態であっても発射されるため、国民の約68%がこの機体のことを良く思っていない(国営放送調べ)
*3
地球上でもっとも多くの機体を撃墜した撃墜王ラプス=ドフェルトマンは祈りを欠かさない男でもあった。目が覚めて眠れない夜などは早く眠れるように神に祈っていたという。
*4 いわゆる超常現象と呼ばれる不可解な事実。金縛りなどがこれにあたる。
*5 縦笛は縦に長いことが周知されている。(いわゆるサービス問題)
彼は目から汁を流して歓喜した。悲しみの味を知らない一匹の獣は、今日、【可能性】になった。