博士とスパイと作者が愛したサメ(愛称:キャシー)
父は私にいつも言っていた。
「恐るな。歩み続けろ。例え失敗し何かを失ってもお前は諦めるな」
父の言葉は今の私を動かす力だ。
父の期待のため、父を見返すため、父に認めてもらうために私は歩み続けてきた。
だが、よくよく考えればどうだ?私は何か生み出したのか?私は何かになれたのか?
私は生きた証を、爪痕を残したいのだ。この世界に、人間の歴史に私というちっぽけな人間が生きた証を刻み込みたいのだ。
それが、私の父への復讐だった。
地平線に真っ赤な太陽がゆっくりと沈んでいく。研究室の窓から金色に輝く街並みが見える。
「博士。」
研究室の扉が静かに開き、真っ黒な軍服、金髪碧眼の女が入ってきた。
いつも通りのクソ真面目な顔だ。
「遅いじゃないか。日にちを間違えたのかと思ったよ。この日のためにケーキまで予約しておいたのに」
「ご同行お願いします」
私は協力者の第四帝国の女と共に黒塗りの車に乗り込んだ。
彼女は、いや、彼女の組織は私の研究に賛同し資金を援助してくれた。資金だけではない。研究に必要な実験体も組織が用意してくれた。
「博士、例のテスト結果が出ました。」
「どうだ?」
「成功です。人体内擬似頭脳は推測通りの挙動を示しました。それと同時に自爆プログラムも正常に作動。完璧な挙動です」
素晴らしい。
やっと私の研究は完成したのだ!
いや、まだ完成ではないな。今日、これから完成するのだ!!
車は海辺の道を進む。海からの強い風で車が煽られている。車窓から見える海はいつもと違い相当荒れていた。
「嵐になるな。施設は大丈夫なのか?」
「はい、問題はありません。それより博士、例のウイルスは今どこに?」
「ふふっ、ここにある」
私はそういうと私自身を指差した。
「私の中だよ。だから不用意なことはやめたまえ。まぁ、君たちではまだこの先は無理だろうが……」
が、次の瞬間車大きく揺れた。舌を噛みかけた。危ないなぁ。
いや、まて、これは揺れたどころじゃない。私は……宙に浮いている?
「は、博士!」
車が見えるぞ。大きく揺れた時の衝撃で車外に吹き飛ばされたのか……
それにしても私は凄い冷静だな。自分でもドン引きするわ。
うん?あれ?私は宙に浮いているが同時に何かに咥えられている。うん?体が固定されていて確認できないな。どうなってるんだ?
そして次の瞬間には私は冷たい海の中にいた。
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私は余りにも衝撃的な場面を見てしまった。
博士が護岸を超えた大波に乗ってきた巨大な(目測8メートル)のメスのホホジロザメ(Carcharodon carcharias)に喰われた。
いや、まるで狙ったかのように博士をドアごと食いそのままジャンプして海に帰っていた。
いや、たしかに研究の用済みになった博士は始末しようとしていたが……
こんなふうに始末することは考えてなかった。
まさかメスのホホジロザメ(私は彼女をキャシーと名付けた。キャシーは私の従兄弟の名前だ)があんなアクティブに襲ってくるとはな!
博士はその直前になにか大事なことを伝えようとしていたが私はもうすっかりそのことを忘れていた。
そしてこのことを上司に報告したが無茶苦茶怒られたあと、ウイルスのサンプルをちゃんと持って来いと言われた。
博士の研究室を探したがどこにもない。
こまった。