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見え隠れするフッ素化合物

ーー場所はアフリカ。


傍から見れば砂漠と森林の間にある妙に出っ張った岩のような形をした洞穴。

それは見る人が見れば中に広大な空間があることを示す特徴が散りばめられていた。

そんな洞穴の中、一匹の小動物が、その大きな耳を立てていた。


「よく聞こえんな」


小動物は、その見た目からしても不釣り合いなハスキーな声で言葉を綴った。

小動物が喋るという珍事であるが、それに驚く者はこの場にはいない。

より正確に言うならば、その小動物によって(たお)された屍がそこに転がってはいるが。


ピクリピクリと左右の耳がそれぞれが独自に動く。この長耳がこの場のあらゆる情報を掴む。

そうして知り得た情報を吟味し、事をなすのがこの小動物の常套手段だった。

名をラルリエル・エルルリルというこの小動物は、かつてゴアラビット族の長であり2代目淫柱のバター犬を務めてもいた。主亡き今、かつての主君の望みを叶えるためこうして1匹で旅をしていた。


「ここにミラクルファイズアイズが眠っているのだろうか」


ミラクルファイズアイズによって磨かれたモンテプルフルをガニアッタしたナマスを使えば、初代淫柱が目を覚ますのだという。初代本人が、来るべき聖戦のために半永久コフィンで眠っている。その初代が自ら眠る前に2代目に伝えた秘術なのだ。

しかし、その後の激闘に巻き込まれた2代目は、初代を目覚めさせる前に命を落とした。


まあそんなことはさておき、ラルリエルがやらなければいけないことは確かなのだ。だって、彼以外やり方を知らないし、そも淫柱が形はどうあれ生きているという事実を知るものもこの世に居ないのだから。


今彼が耳をぴくりと動かしているのは、地下に広大な空間を持つ名も無き大迷宮のマッピングのためだ。

こういった迷宮は、魔力の多さと謎の湿気によって数多くの魔物を生み出す。

ラルリエルはその魔物から発生する産声のようなものを聞き取ろうとしていたのだ。

その甲斐は虚しく終わる。なぜならば、力を多く持つ迷宮の中には特殊な環境が発生しているものも数多くあるからだ。今回も例に漏れず、この大迷宮にも特殊なデバフが掛かっていた。

別フロアの音を一切遮断するというものだ。

その違和感に気づいたのか、ラルリエルは耳を忙しなく動かすのをやめた。


なんだって意味ないからね。意味無いことはやらない主義のラルリエル。

そのラルリエルが成そうとする偉業はそれ程までに大切なんだと、本人は思うことにしている。


迷宮内を把握することを諦めたラルリエルは、その小さな前足を洞穴の中に踏み入れた。

必ず亡き主の彼岸を達成すると心に決めて。


ただし、ラルリエルはただひとつの調査を失念していた。

迷宮の中には特殊な環境を発生させるが、大迷宮に関してはもう1つの特性が与えられることを。

ラルリエルの踏み込んだ名も無き大迷宮は、フロアごとの音の遮断だけではなく、一度踏み入れた者は決して戻ることが出来ないという呪いがあった。


付近の街で、帰らずの迷宮と呼ばれていることをラルリエルが聞いていたならば、あるいは小さなダミー用のネズミを1匹放り込んでいたならば。

ラルリエルがその呪いに気づくのは、そう遅くないものとなる。



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