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島風

と言うわけで水着回。

露柱ソフィア・シーシキン。

西柱ミランダ・タマヨ。

中柱(シエ)神煌(シェンファン)


宇宙へと飛び立ってしまった豪柱を除いた十二勇士の女性陣は、ただいま南の島へと降り立っていた。


「いやぁ~、綺麗なロケットだったあるね」

「んもう、豪柱のことも考えなさいよね。ミランダを見習いなさい。さっきからずっと黙りこくっているわよ」

「……いや、私はただ飛行機しただけだヨ。――うぷ」


なぜ彼女らがここに降り立ったかと言うと、もちろんただの休暇――ではない。

ここフルワイネ島にて鮫が出現したとの情報を掴んだからだ。

フルワイネ島は、ハワイ群島から南東に2000キロいったところに位置する。


ここは管理された無人島だ。とあるビッグオーナーの購入物で、彼のプライベートビーチとして使用されているものなのだが、先日ここでヌーディストビーチを開催したところ、鮫と思しき生物に襲われたとのことだった。


鮫と聞いては黙ってはいられない十二勇士。しかし、この鮫はか弱い女性の前にしか出てこないという情報もあり、この女性陣三人で向かうことになったのだった。


「よーしよし、ミランダ。ここなら吐いても問題ないよ」

「うぷ……うげ~……」

「汚っ――、はーいそっちの水で洗い流しちゃいましょうね」

「汚いって……うぷ、言わないで」


ソフィアはミランダを介抱しながらオーナーの別荘へと向かう。そこで少し休めばミランダも少しは回復するだろう。ソフィアは思った。まさかミランダがここまで飛行機に弱いとはつゆほども思わなかったと。


ソフィアの中では、さっさと鮫を退治して余った時間でビーチを満喫する予定だったのだ。それがどうだろう。着いた瞬間グロッキーな仲間を介抱する羽目になっている。これでは先が思いやられてしまうだろう。


だが、彼女ら一人一人は超戦闘力を持つ十二勇士の精鋭、柱だ。女性とは言えそこらへんの隊士と比べるべくもない程の対鮫戦闘力を誇る。ソフィアが介抱しているこのミランダ・タマヨは、その妖艶な舞踏を魅せるかのような戦闘スタイルは、見るものをハラハラとさせることで有名だ。


かくいうソフィア・シーシキンも、バカにはできない。彼女は気候を操る。正確には、周囲に冷気を漂わせるという恐ろしい技を使う。その絶対零度の領域下では敵味方問わず、動きを鈍らせ死に至らしめるだろう。


(シエ)神煌(シェンファン)は名前からして強い。


「おーい、ミランダー、ソフィアー。着替えてきたあるよ~」


飛行機から降り立った瞬間真っ先に別荘へと走っていったシェンファンが駆けてくる。てっきりミランダの介抱を手伝ってくれると思ったソフィアだったが、彼女のその姿に考えを改めた。


なんとシェンファンは既に水着に着替えていたのだった。ふくよかな双丘はオレンジ色の布で支えられ、彼女が動くたびにそれをたゆませる。普段からシニヨンで隠しているその長髪は今は解かれており、後ろで軽くシュシュでまとめられているだけだった。


まさに女性らしい、見る男全てを魅了させんとする風貌であった。


「あのさ~、シェンファン。あなただけ先に着替えるなんてずるくない!? あたしだってこの綺麗な海で泳ぎたいのよ! んもう、ミランダ! さっさと歩くわよ。このままじゃ出る鮫も出ないじゃない」

「……うぷ、少し待つんだヨ」




それから十分後。

ソフィアとミランダは別荘からシェンファンの元へと向かった。

シェンファンは、一人でいるのがつまらなかったらしく、砂浜に巨大な長城を作っていた。


「じゃーん、千里の長城あるよ」

「なんかちょっとスケールダウンしてるわね」

「おー、二人とも可愛い水着あるね! ウチの水着には程遠いけど、目の中に入れても痛くないアル」

「どういう表現よ……、でもありがとう。なかなか選ぶのも大変だったのよ」

「私もいいの選んだヨ」


ソフィアは、ブロンドの長いウェーブがかった髪を強調するようなブルーの水着だ。身体の曲線を描くように腰のあたりまで布で隠されているワンピースタイプだが、それが余計に彼女のスタイルの良さを知らしめていた。彼女の水色の瞳とよくマッチしている。


その隣には普段の雰囲気とはギャップを感じさせる可愛らしい水着を着たミランダがいた。ミランダは、その控え目な胸をフリルで覆い、ところどころにリボンが散らされた少女趣味な水着を着ている。身長もこの三人の中でも一番小さく、遠目から見たら子供と間違われてしまうだろう。


「さて、さっさと鮫をおびき寄せましょ!」


ソフィアが意気揚々と二人に告げるが、二人は頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。


「ちょ、まさかあたしたちがここに来た理由を忘れたんじゃないわよね?」

「……遊ぶためアルか?」

「……遊ぶためだヨね?」


二人して遊び目的であることを告げられたソフィアは、わざとらしく盛大な溜息をついた。自分も遊びたい欲があるのを棚上げにして彼女はここに来た理由を説明する。


「ってなわけで、ここの別荘で鮫が出現するの。あたしたちはこれをやっつけて残った時間でめいっぱい遊ぶのよ。一先ず鮫をおびきよせないといけない。鮫の目撃情報があるのは別荘裏にある海蝕洞(かいしょくどう)よ。そこに1人で入った女性がなかなか戻らないらしくて捜索したところ近くの浜辺で倒れていたの」

「倒れていたって、死んでいなかったってことアルか?」

「いえ、彼女は確かに息はしていた。しかし、まるで魂が抜けたようにぼーっとしてしまっているらしいの。今もその状態が続いているらしいわ」

「魂が抜けたように……か」


彼女ら三人は、どのようにして海蝕洞に攻め込むかを思案した。そうして決まったのが、囮役としシェンファンが単身で洞窟に侵入。その後、しばらくしたのちに、ソフィアとミランダが追い込むといった感じだ。


もしシェンファンだけで片付くようならそれでいいし、厳しいようでも直ぐにソフィアとミランダが駆けつけるので安心だ。

作戦が決まった三人は、さっそくその海蝕洞まで向かうことになった。







「ではウチが先に行ってくるアル。みんな後は任せたアルよ」

「頑張ってらっしゃい」

「後は任せるのだ」


シェンファンは、足場が水びたしの洞窟の中へ一人忍び込んだ。

暗い暗いその洞窟は、ひたすらに不気味な様子であった。オーナー曰く、鮫が出現する前は肝試しの一環としてここを利用していたそうだが、本当に度肝を抜かれるとは思わなかったと語っていた。


全然面白くないなと、シェンファンは心の中で思っていた。ぴちゃぴちゃと進む音が洞窟内を反響する。この環境下であれば、鮫がどこで出現しても音で判断ができる。

常人ならばこの反響音の中で位置を把握するのは難しいが、柱であるシェンファンならば余裕であった。


ぴちゃぴちゃとさらに歩を進める。すると、奥の方で微かに何かが揺れる感じがした。

隠していた鉄扇を静かに構える。ゆらりと前方の影から鮫が現れた。


「おやおや、今回はまた強そうなお嬢さんじゃないか」

「やはり鮫だったアルか。しかも相当な強さと見た」


それを聞いた鮫はくっくっくと嗤う。


「ほう、わかるかね。この俺様の強さを」

「ふん。だけどウチにかかればどうってことないアルね」


これは嘘である。シェンファンは心の中でド畜生と叫んでいた。確かに、シェンファンは強い。しかし目の前にいる鮫は、シェンファンと同程度かそれ以上のオーラを放っていた。これは危険極まりない。しかしこれだけのオーラ、通常の鮫ならば放ちようがない。


「お前、どうやってそれだけの力を得たアルか?」

「ふっふっふ。珍しく喰いがいのある人間だ。メイドの土産に教えてやってもいいな。これを見ろ」


鮫はその両ヒレを広げて見せる。すると背後にはおびただしい程の数の魚が浮いていた。どれも(えら)が動いているように見えるが、生命の気配が全くない。だからシェンファンも気づき様がなかったのだ。


「こ、これだけの魚の力を奪ったのかっ!」

「ああ、そうさ。ただまあ、結局は魚だ。人間のほうが効率がいい。ここは余り人間が来ないからなあ。力を蓄えるのも大変なんだぜえ。それにしても、前にふらりとやってきた女はうまかったなあ。あいつ、俺を見た瞬間に恐ろしくて逃げるでやんの。でもそこを見逃す俺じゃあねえよな。恐怖に打ちひしがれる女を丸ごとぱくりだ。ケケケ」

「許せんっ!」


ダンッ、とシェンファンが地を蹴る。音を超えんばかりの速度で鮫の首元に鉄扇が降りぬかれる――はずだった。

しかし、斬り飛ばす対象を見失った鉄扇は空しく虚空を切り刻んだ。


「残念だったな。俺はその程度なら避けられるぜ。でも俺の攻撃をお前は避けられない」

「それはやってみなきゃわからないさ……なッ!!?」


シェンファンは自身の身体が思うように動かないことに今更ながらに気付いた。

これはこの鮫の能力だ。


「ふっふっふ、気づいたようだな。そういえば名乗り上げるのを忘れていたな。十鮫月(チェントスクアーロ)満ち潮の三の(のど)、歌声のネス。俺の領域『抗えぬ黄金劇場(セイレーン)』の攻撃はどうかな」


シェンファンは気づいた。さっきから身体が動かない原因は()だ。人間には聞こえない音波がこの洞窟内を覆っている。その音が、空気を振動させることで空気を固体のように凝固させている。

それだけじゃない。この攻撃にはほかにも……!


「さて、そろそろお前の魂も頂いちまうかな。さあ、俺の歌声で眠れ――」

「な……」


シェンファンの耳元で鮫が囁く。それだけで、シェンファンの意識は途絶えた。






「遅いな~シェンファン。そろそろ時間だぞ。さて、見つからないのか苦戦しているのか。行くぞ、ミランダ」

「はいヨ~」


ぴちゃぴちゃと洞窟内を響き渡る足音。


「うぅ、なんだかお化けが出てきそうな雰囲気だよなあ。ミランダ、隣のちゃんといるよな?」

「はいはい、いるヨ」


少しの音でも反響する洞窟内。しかし進めど進めどシェンファンが何者かと戦っている音は聞こえてこない。


「あれ、もしかしてシェンファンのやつ、かなり奥の方まで行っちまったのかな」

「そうかもね。でももしかしたら違うかもしれない」


ソフィアはびくびくしてそれどころではないが、ミランダは何か嫌なものを感じ取っていた。

そうして進んでいくうちに二人は前方に立つシェンファンの姿を捉えた。

シェンファンは、何かを見つめているかのように突っ立ったままだ。


「なんだ~、シェンファン待っててくれたのか。で、どうだ。鮫は見つからなかったのか?」


ソフィアがシェンファンの肩を軽くたたくのと同時にミランダは叫んだ。


「ソフィア、危ないっ!」


間一髪、その声で反射的に後退したソフィアは、直前まで立っていた場所に大きな窪みが出来たことに肝を冷やした。


「うおお、あぶねえ、助かったわミランダ」

「どういたしまして。それよりも見て、アイツ。鮫だ。それも相当強い」


二人の前には、先ほどソフィアを殺めんとした鮫が一匹こちらを見つめていた。


「ほう、今の攻撃を避けるか。さすがに人間の中でも強い奴にはまだ見破られちまうか。だけど、先ほど食べたコイツの力で俺はもっと強くなったんだぜ」

「食べた……?」


ソフィアはシェンファンを見つめる。シェンファンは相変わらず何もせずに突っ立ったままだ。隣に鮫が立っているにも関わらずだ。まるで魂が抜けたように……。


「まさかっ!」

「そのまさかさ。こいつは俺が食った! 俺は特殊でなあ、肉体を食う必要が無いんだ。その魂だけを抜き取って力を得る。なんて美しい食べ方なんだろうな。他のやつには真似できねえぜ?」


ニタニタと嗤う鮫。


「許せないヨ。シェンファンは返してもらう!」

「おっと、そうはいかねえ」


シュンっと飛び出したミランダをはねのけるように鮫が突撃をしてきた。思わず受けてしまった衝撃をミランダは受け身を取って流す。


「ああ、そうだ。面白いことを考えた。『おい、起きろ』」


鮫はシェンファンの耳元でそう囁く。そうすると、シェンファンがこちらに向き直って……。

ソフィア目掛けて鉄扇を振りぬいた。

突然のことで動転したソフィアは、その攻撃をまともに受けて吹き飛ばされる。


「シェンファンに何をした!?」

「いやね、あの小娘。魂の大きさが他と段違いでよ。まだ食べきれてねえんだ。だけど、既に体の主導権は俺が奪っちまっているからこうして動かせるってわけだ。ケケケ便利だろ。お前も俺のエサ兼傀儡にしてやろうか?」

「させるかヨ!」


ミランダは、縮地を思わせる歩法で鮫との距離を詰める。そして暗器を取り出して振り上げた。

虚を突かれた鮫はその鱗に軽い傷を負う。


「くっ。やるじゃねえか。だけど俺の力はこんなものじゃねえぜ」


キィィィン。


鮫の口から何かが震えるような音が漏れ出る。それを聞いた瞬間にミランダの身体は硬直した。


「これは一体なんだ!」

「領域『抗えぬ黄金劇場(セイレーン)』だ。これを受けたやつはすべからく俺のエサだ」


鮫がミランダに近寄る。しかしそこに謎の横やりが入った。

その衝撃で拘束が解けたミランダは慌てて後退する。


「ありがとう、ソフィア。シェンファンの方はどうなったの」

「どういたしまして。あの子は今、足だけを凍らせて動けなくしてるよ。身体はやっぱり強いけど、頭が働いてない分、やっぱり相手じゃないね」

「よくもやってくれたな……」


鮫は自分の頬を突き刺した氷の棘を抜き取る。


「おいおい、鮫は髭なんて生えてないはずだヨな?」

「こんのぉ……、小娘風情がぁぁ!! 『抗えぬ黄金劇場(セイレーン)』!!」


再び、鮫の口から謎の怪音波が漏れ出る。ミランダとソフィアはその攻撃を受けて身体が硬直する。


「ふん、これで動けまい。お前らの命運もここまでだ。ここで俺に食われて死ねえ!」


しかし、鮫の攻撃が届くことはなかった。なんと、動けないはずの二人が動いたのだ。

ミランダが右ヒレ、ソフィアが左ヒレをそれぞれ切り裂いた。


「な。なぜ動ける!!?」


鮫は激しく動揺した。今まで抗えぬ黄金劇場(セイレーン)を受けて動けた者はいない。現に彼女らと同格らしき少女を拘束して食った。しかし、なぜ今彼女らは動けている。


答えはすぐ分かった。


「空気が……凍っている……?」


ひりひりとしたその空気に鮫は気づいた。そう、ソフィアの権能『凍死する酒(アブソリュートゼロ)』によって空気が凍り付いていたのだ。凍り付いた空気をいくら振動させたところで、先ほどまでの拘束力は望めない。だからこそ彼女らは過敏に動けたのだ。


「ここまで……なのか」

「残念だったな。アンタの唯一の不幸は、ソフィア・シーシキンというあたしに巡り合ってしまったことよ」

「……くそ」


そうして鮫は息絶えた。

後に残るは静寂。


ミランダとソフィアは倒れたまま動かないシェンファンの元へ歩いた。


「楽しい休暇を三人で過ごすって約束しじゃんかよ……」

「先に逝っちゃうなんてね。悲しいヨ」


二人してしんみりとしてしまう。


「ちょ、勝手に殺さないで欲しいアル!!」


だが、ガバっとシェンファンは起き上がった。


「ずーっと意識はあったアルよ! 安心するアル!」

「まさか、シェンファンが死んじゃうとはね……」

「悲しいヨ」


だがミランダとソフィアはまるで聞いてないといった風で洞窟を出ようとする。


「ちょ、ちょっと待つアルよ~!」

「嘘嘘。生きていてよかったわシェンファン。あたしたち、アンタが死ぬだなんてこれっぽっちも思わなかったわよ」

「え、そうなの? ソフィア」

「ミランダ、ひどくないアルか!!?」


三人は笑いながら洞窟を出た。

危うく死にかけた激戦であったが、生き延びた彼女らは任務終了期限までフルワイネ島を満喫した。

彼女らの髪をなでる島の風は、空へと溶けていった。

え、唐突な長編すぎない?

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