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ある日のチー牛。

うまーい

入店音が響く。


「いらっしゃいやせー」


お、今日はカワサキか。こいつは料理を出すのが他の店員よりも若干早い。別に急いでいるわけではないが、早く出されるに越したことはないだろう。私はそれだけ確認していつも通りのメニューを頼んだ。


こういったチェーン店では、「いつもの」という言葉は通じない。もちろんお互い顔も覚えているし、頼むメニューも毎回同じとはいえ、私は決してこの言葉以外は言わないでいる。


「チーズ乗せ牛丼で」


「かしこまりやしたー」


カワサキが厨房に戻るのと同じくして俺はスマホでSNSを眺める。そうしてタイムラインを数回流し見していると、チーズ乗せ牛丼が目の前に差し出された。注文してから六十秒と少し。さすがに早いと言わざるを得なかった。


「おまたせしやしたー」


私は箸を持ち、「いただきます」と小さく零してからごつごつのあはんあつあつのごはんを口に入れた。

やはりおいしい。ほぼ毎日お昼はこの料理を食べているが、飽きない。牛丼だけでもおいしいのに、そこにチーズまで乗せる至高の一品。チーズ乗せ牛丼を考案した人は、神と呼んで差し支えないだろう。


そうして半分ほど食べたあたりで突然変化が起きた。周りの景色が一瞬にして変わったのだ。


「はえ?」


思わず変な声が出た。先ほどまでいたなじみの深い店はそこには無く、ただただ狭いだけの部屋に私はいた。

とりあえず、持ち上げていたご飯とどんぶりに入ったチーズ乗せ牛丼をかきこんだ。


チーズ乗せ牛丼を食べ終えた私は、空になったどんぶりを畳の上に置いた。そして状況を確認する。

六畳一間の部屋には一つの扉以外の出口は無く、窓もない。天井に吊り下げられた豆電球はかろうじてこの部屋をぼんやりと照らしていた。


そして目の前には謎のスプレー缶。ラッカー塗料だ。


いや、どういう状況だよ。


私は迷わずたった一つの扉を開け外に出た。


「な、なんだよこれ……」


外にはたくさんのビルのような建物が乱立していた。しかしそのどれもが瓦礫と呼んでも問題ないほど崩壊していた。


辺りを見渡すが、人が生活しているような気配は一切ない。振り返ると、先ほどまでいた部屋の扉だけが、周囲に浮いたように存在していた。


私はスマホを取り出し、地図アプリを起動する。


「ここがどこかわかればいいんだけどなあ。タクシーでいくらかかるんだろ」


しかし開いた地図アプリはいくらたってもローディング中のままだった。不審に思った私は、電波を確認する。


「圏外かよ」


帰る手段がなくなってしまった。どうしよう。というかどうして私はあんなところにいたんだろうか。これが夢遊病ってやつか?


ガラガラ……


廃ビルの瓦礫が少し崩れた音がした。私がそこに視線を向けると、そこには男が佇んでこちらを見ていた。


「お、人が……ん?」


男は私をぼーっと見ている。その眼はどこか虚ろで生気が感じられなかった。


「なあ、あんた……。ここがどこだかわかるか? いつの間にかここにいてさ、帰り道が判らないんだ」


私は、不気味さを感じながらも遠くから男に声を掛けた。しかし男からの返事は来ない。代わりにゆっくりとこちらへと歩を進めてきた。


「おーい。聞こえてるのか?」


不気味な気配がさらに増してきた。これ以上はなにかまずいと心の奥底で何かが叫んでいる。そうだ。私はこういうのを見たことがある。主に映画とかで、だ。


男の足はだんだんと速くなってくる。その足取りは体幹など考えてもおらず、明らかに不自然な走り方だった。やはり、映画とかでよく見るタイプのゾンビにそっくりだ。こういうのは速度が遅くて逃げやすいイメージがある。私は恐怖を感じ後退りを始める。


「あああああああああああああああああ」


それを見たのか、男は急に叫び出すと、全力ダッシュで俺に向かって走ってきた。


「うわああああああああああ、速いタイプのゾンビかあああああああああ」


私は、先ほどいた六畳間へと一目散に走った。


扉に近づくと、思いっきり開けて私は中に飛び込んだ。そして体当たりで扉を閉める。


「はあ、はあ」


後ろで扉を激しく叩かれて、振動が頭まで上ってくる。


やばいやばいやばい。


これは本当にゾンビなのか? なにかのドッキリか?

しかし現在の状況が全く持って理解できない以上、本能で今は動くしかない。


扉が先ほどよりもさらに強く叩かれる。

どう考えても大人でも出せない強さだ。


必死に耐えてはいたが、私はその勢いに負けて大きく吹き飛ばされてしまった。


男が扉からゆっくりと侵入してくる。こんな狭い部屋だ。私を見つけるのは容易だった。


感情の無い顔で私を見つけると、口をあり得ないほど大きく開けた。その口は蛇のように顎が外れる勢いで開かれている。


やばい、噛まれる!


私は咄嗟に手元に落ちていたラッカー塗料を吹き付けた。この程度で動きが止まるはずはないが、もう無我夢中だった。


しかしそれは結果として私の命をつなぎとめたのだった。


男は顔を黒く塗りつぶされ、制止していた。もう動く様子はない。助かったのだ。


私はへなへなとその場に座り込む。


「なんなんだよ……、これ」


男を見上げてみると、身体のところどころが腐敗していた。やはり本物のゾンビだ。このラッカー塗料が効いたのだろうか。念のために男の全身に塗料を塗りたくって外に運び出した。

そして扉を閉じる。


そうして部屋に視線をもどすと、ついさっき空になったどんぶりには、チーズ乗せ牛丼が入っていた。

そしてもう一つのラッカー塗料。


「なるほど……ね」


……


…………


なにが、「なるほど」だよこんちくしょう。

うまかった

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