異世界旅行(第15部)
薫と翔平は
一面広がる雪の中にいた
空から降ってくる雪は7色
薫は手のひらに雪を載せた
薫
「うわぁ、素敵7色の雪だわ!」
翔
「うん、こんな雪初めてだな」
地面も7色に輝いている
「お待ちしてました」
その声で振り向くと
女性が一人微笑みながら
立っていた
彼女の案内で
一旦彼女の家へと、向かった
家は、空中に浮かんでいた
彼女が手を翳し
下へ下ろす素振りをすると
音もなく
家が地面へと降り立った
杏里
「どうぞ、お上がりください」
彼女の名は杏里
この異世界の住人だ
杏里の家へ入ると
また家は浮上し定位置に戻った
家の壁は全体が真っ白で
何もない
杏里が部屋の壁にタッチする
暖炉が壁の中から現れた
手を翳し
空間を円を描くように描く
テーブルとソファが現れた
薫と翔平がソファに腰掛ける
テーブルをトントンと2回叩くと
ティセットがテーブルの上に
現れる
杏里がティセットのカップを
持ち、薫と翔平の前に置いた
薫と翔平は、注がれたカップの中の
紅茶を口へと運んだ
暖炉の火がパチパチと音をたてる
薫は、ぐるりと家の中を見渡した
家具らしき物がない
恐らく先程の暖炉の様に
壁をタッチすると現れるのだろう
杏里が窓をちらりと見た
7色の雪は風を受け
強くなっていた
杏里が立ち上がり
また壁をタッチする
壁の中から今度は
暖かな料理が出てきた
出てきた料理を
テーブルの上に並べた
杏里
「暖かいうちに
どうぞお召し上がりください」
薫
「ありがとう、いただきます」
暖かなシチューを口へと運ぶ
滑らかなクリームの味が口の中へと広がった
ちょうどよい甘さに
程よい熱さだった
部屋は一見して
何もない様に見えるが
壁をタッチすると
必要な物が出てくる
夕食を食べ終わると
またテーブルを2回叩く
今度は珈琲セットが
テーブルの上に現れる
次に杏里は、壁に手を翳し
三角を描くように
手のひらを動かす
壁の中から部屋全体に
音楽が流れる
杏里の家だけでなく
この異世界では全ての家が
こういう造りになっていて
家も地上には降りないと
話してくれた
丸い窓から外を眺めると
7色の雪が地面に落ち
7色の地面になっている
杏里は
薫の疑問に応えるかのように
奥の部屋から
一冊の古書と
大きめの手鏡を持ってきた
古書は
隆史の部屋で見たものと同じ
羊皮紙で出来ている
手鏡を、覗くと
別の異世界の住宅街と大樹が見えた
薫は杏里に
手鏡の中の世界の事を聞いた
杏里は丁寧に
薫の質問に、1つ1つ応えていった
鏡を触ることは許されないが
見るだけなら出来る事や
鏡の中の住人と
鏡を通じて会話も出来ること
ただ、時間帯が違っていて
こちらは昼間でも鏡の異世界では深夜だったり
時間帯も、まちまちでこちらが夜で
鏡の異世界は早朝であったりもする
なので
時間帯が、たまたま合わないと
鏡の異世界の中の住人と会話
することは
あまりないと話してくれた
薫と翔平には
驚くことばかりの杏里の異世界
杏里にとっては
普通の事だが
薫と翔平にとっては
理想にも近い異世界だった
薫は、ここが自分の世界だったなら
どんなにいいだろうと思っていた
杏里も優しく微笑が絶えない
優しい女性で、以前この異世界に
楓と隆史が来たことを
杏里の友人から聞いたと
話してくれた
薫と翔平は
この異世界にも隆史達が
来たことを知って驚いた
古書の内容も
読めないものの
明らかに文字が違うことだけは
わかり
この古書は
何冊かあるのだろうと察した
杏里の勧めで
今夜はここに泊まる事にした
1室に案内され
何もない部屋に通された
杏里が壁をタッチすると
壁の中からベッドが現れ
空中で丸く円を描くように
手を翳すと
テーブルとソファが現れた
薫と翔平は
窓から見える7色の雪景色を
見ながら
ソファに腰掛け
ぼんやりと窓の外を眺めていた
風は止み7色の雪が
ゆっくりと落ちていた