「|京平《ジンピン》」終わりなき戦い
1914年の中国。当時の王朝「清」は終わりを告げ、新たな時代へと移り変わっていった。
そこに一人の拳法家がいた。名前は「紅蓮・柳・京平」。
紅蓮家に伝わる一子相伝の拳法「紅蓮拳」の伝承者であるが、まだこの時代ではこのことを誰も知る由もない。
河南省西部。京平は師であり、親でもある「紅蓮・楓・龍二」の元を訪れていた。
「父さん。いずれここへも白狼匪が来る。母さん達と逃げよう」
「待て京平よ。私たち拳法家には義務がある。賊を鎮める義務があるのだ。私たちの先祖である「紅蓮・花・天一」は三国志の時代において黄巾賊の頭領「張角」を打ち破った。私の父「紅蓮・樹・勝負」は太平天国の乱にて戦い、「洪秀全」との一騎討ちで差し違えてではあるが乱を終わらせている」
「故に私たち拳法家は戦わねばならぬ。『力を持つものが、力なきものを守らねばならぬ』これは先祖代々私たち紅蓮一族の存在意義なのだ。わかってくれ京平」
「なんでだよ!そんなことしなくたって北京の政府軍がいずれ来るんだ!俺たちが戦う必要はない!」
「ならば待つのか?いつ来るのかわからない軍を待っていれば、誰かが死ぬ。それを黙って見ているわけにはいかないのだ」
話し合いは決着が付かなかった。しかし父を見捨てることのできない京平は実家に泊まっていた。
「助けてくれ龍二さん!白狼匪が来た!」
夜遅くこの家を訪問者が訪れた。その者が言うには村に白狼匪が現れたという。
「父さん罠だ。白狼匪がこんな何もない村に来るわけがない。行ってはいけない」
「行かないわけにはいかない。彼は困っていると言っているんだ。ここで見捨ててしまっては先祖に顔向けができない」
龍二はその白狼匪が集まっている広場へ向かった。
「ここか。いるんだろう白狼匪ども」
「ふっふっふっ。現れおったな。奇妙な拳法を使うと言うのはお前だろう紅蓮楓龍二」
「お前は「白朗」!?10年前に死んだはずの貴様がなぜここに!?」
「ふふふ。10年前のあの日、お前に敗れ、俺は地獄を彷徨った。血の池をすすり、針の山を這いずり回った」
「そして俺は最強の力を手に入れた!これを持ってお前に復讐を果たすのだ〜!」
「なんだと!」
龍二が拳を白朗に向ける。
「待て待て。お前の相手は俺ではない」
「お前の相手をするのはこいつだ!出てこい王鉄石!」
そう言って出てきたのは日本人。
「こんなやつでは相手にならないぞ!白朗!」
「ふっふっふっ。それはどうかな」
突然龍二に向かい、王鉄石と呼ばれた日本人が殴りかかる。
違う!殴りかかったのではない!手に隠し持った短刀で切り掛かったのだ!
「なにっ!」
「ふっふっふっ。そいつは日本軍によって作られた殺人人形!到底お前に倒せるものではないわ〜!」
「舐めるな!紅蓮脚!」
王鉄石に対し、龍二は紅蓮拳奥義の一つ、紅蓮脚を放った。これは強力な連続蹴りで紅蓮拳の開祖「紅蓮・木・星影」の放ったこの技は虎をも殺したと言われている。しかし龍二は星影ほどの技量を持っていない。王鉄石はこれを防いだ。
「ふっふっふ。このまま戦えばお前の父は死ぬぞ〜!」
「なに!?」
「王鉄石は俺の部下の中でも最強だ!お前の父に倒せる訳がない!」
「だがひとつだけ助ける方法がある。」
「お前が俺と戦って勝つことができれば、俺は王鉄石を止めてやる」
「いいだろう。戦ってやる」
そのまま向き合い、お互いに構える。白朗は奇妙な構えで京平を見つめる。
「俺の拳法について教えてやろう!白狼拳!それが俺の拳だ!」
白狼拳。古くは水滸伝の時代から伝わる伝説の拳法。開祖である劉狼が梁山泊の地で白い毛の狼から教わったとする拳法である。
「ならばお前に教えてやる!俺の拳は紅蓮拳!お前を打ち倒す最強の拳法だ!」
紅蓮拳。道教において、太上老君が開祖「紅蓮・木・星影」に教え、生まれたとされる拳法。大陸の秘宝とも呼ばれる。
「俺はお前を殺して龍二への復讐を果たしてやるのだ〜!」
そう叫びながら連続で素早い突きを繰り出す。
「くらえ〜!白狼流羅刹掌〜!」
しかしその技は京平によって簡単に防がれてしまう。
「こんなものか!」
京平は白朗に向かって奥義「紅蓮天相拳」を繰り出す。
「うわー!」
白朗はそれを防ぐことができず、もろにくらってしまう。そのまま倒れる。
しかし周りの白狼匪たちが騒ぎ出した。
「そんな技で白朗様を殺せる訳がねぇ!」
「ほれ蘇るぞ〜!」
倒れた白朗が立ち上がる。出血さえ止まっている。
「なに!?」
「ふっふっふ!これが俺の切り札「黄泉がえり」よ〜!」
「なんだと!?そんな技白狼拳には!」
「これは俺が地獄を彷徨っていた時、マオという拳法家に教えてもらったのだ〜!」
「お前に俺は殺せん!だが俺はお前を殺すことができる!その事実に恐れるがいいわ〜!」