許すなんて死んでも御免です
ーーーー姉さんの家 風呂場
「お風呂はじめてだけど気持ちいいの!」
「そうね。アゲアゲね」
泡立てた体をシャワーで流すと、リュカちゃんは満面の笑みで私に感謝を告げた。
あの日、私はリュカちゃんを連れて帰ったわ。こんな可愛い子を独りで残すなんて死んでも御免だもの。
リュカちゃんには言わないけれど、あそこの世界はそこまで衛生的じゃないわね。
女の子がお風呂を知らないなんて信じられないわ。
本当は帰ってからすぐに野球のルールを教えるつもりだったのだけれど、その前にお風呂の入り方を教えといて正解だったわね。
「お姉さん! お背中流すの!」
「ありがとうリュカちゃん。でもそれはバスクリンよ」
ふっ、何回か一緒に入る必要がありそうね。
「お姉さん! 『はぶらし』につけるやつがおいしいの!」
「美味しいわねリュカちゃん、でもそれはバーニャカウダよ」
ふふっ、何回も一緒に入る必要がありそうね。
「リュカちゃん。お風呂の醍醐味はね、湯船なのよ」
「ゆぶね?」
ーーかぽーん
「ふぃ〜……気持ちよすぎて骨まで溶けるの」
「感想がキマってるわね」
リュカちゃん。それは法律用語で『ラリってる』と言うのよ。
こう言った常識も追々教えて行かなければいけないわね。
はじめてのお風呂でテンションが上がっているリュカちゃんは、あの世界での話を私に語りはじめた。
「でね、でね、リュカはケモンの中で1番かけっこが早くてね! それでねーー」
「走塁適正があるのね」
「パパとの骨取りごっこではね負けたことないの!」
「守備範囲も広い……センターは決まりかしら」
「お祭りの玉避けで優勝したこともあるの!」
「選球眼まで……1番センター確定じゃない」
ーーザパァ!
『お主等! 風呂ぐらい静かに入らんか!』
いつのまにか湯船に入り込んでいた箱が私達に説教をしてきた。
「箱……いつから居たのかしら?」
「箱さんもお風呂なの?」
『いつからって最初からに決まっとるじゃろが。三葉とやら、ひょっとしてアホかの?』
フェッフェッフェと箱は笑っていたわ。
人生の最後を締めくくる台詞はそれでいいのかしら?
ーープルルルル ガチャッ
「姉さん急に電話なんてどうしたの?」
「玉城君。私はお風呂に入ってるの」
「リュカもー!」
「報告は以上ですか? じゃあ切りますよ」
「ちょっと待って頂戴。箱って何ゴミかしら?」
「箱? え? 風呂で箱⁉」
「察しが良くて助かるわ玉城君。で、何ゴミかしら?」
「予想に反して相当なエロ箱っすね。じゃあこういうのはどうでしょう」
「……名案ね。協力感謝するわ。玉城君」
さてと、
ふふふッ、この箱は許してはいけないわね
『おい、どうした三葉。なんじゃそのゴミを見る見たいな目は! おい、やめろ近付くな!』
ぴょんぴょんと洗面所へ逃げようとする箱。馬鹿ね、逃がすわけ無いじゃない。
「だめだめだめだめだめ。箱さん、あなたは死ななくてはいけない運命なのよ」
『なんじゃやめろ! おい、何をするつもりじゃ!』
「覚悟はいいかしら? 私は出来てるわ」
「お姉さん、目が怖いの……」
『やめろ、何じゃその紐は! ワシの、ワシのそばに近寄るなァァアアアアアッッ!!!』
こうして箱は、姉さんが何処にでも行けるようにと、切手を貼り適当な住所に送られた。
その箱は新興宗教団体の関西支部に送られ
すぐに捨てられ
その行方は……誰にも、もう……
分からない。