置いて帰るなんて死んでも御免です
ーーーーーナベツ城下町近辺
「止まれ! そこの薄汚いケモン族!」
「リュカ、悪いことしてないの! 追ってこないでなの!」
そのリュカと言う少女は頭についた耳をぺたんと閉じて疾走する。
『どうしてなの! どうしてこの人達は、わたしを殺そうとするの⁉』
懸命に走るが、モフンとした尻尾を垂らしたリュカの足では騎馬隊には到底敵わない事を、その少女自身が知っていた。
「フン! 我らベイスター騎士団が直々に処刑してやると言っておるのだ! 光栄に思えガキッ!」
『なんでよ! リュカはただ、あの変な玉をあの騎士団に渡しただけなのにッ!?』
ーーズザアア!
「いたッ!」
「大人しくしてろ……へへ、すぐ楽にしてやるぜ!」
「ヤダ! ヤダヤダ! リュカ死にたくないの!」
リュカが処刑される直前、彼女の願いは叶うこととなる。
何故なら、空から勇者が降ってきたからである。
「……タイタイタイどいてぇえええ!」
ーーズボコォオ! ビーーン! ィーンィーン
はい俺でしたーッ! 首埋もれちゃってまーす!
グハ! ペッペッペ! 大量に土食っちまったッ! 気持ち悪ぅ!
いやぁ、自分が怖いわぁ。突き刺さった後、地面に首だけ埋もれて壊れたメトロノームみたいに揺れてたのにケツの方が痛いんだもんなー。
さすが異世界! 何ともないぜ!
てあれ? この女の子ケモミミじゃん。やべーテンション上がるわー。
姉さんまた鳥肌出るなーこれ。
「ゆ、勇者様! 勇者様なの!?」
「は? なんで?」
「その腕輪は勇者様の証なの……」
「へぇそうなんだ。どうでもいいやそれは。とりあえずちょっと耳触っていい?」
言う前にケモミミちゃんは俺に抱きついて来た。
あ、これ母性本能擽られるわぁー。てめっちゃ震えてるじゃん。こんな可愛い子をこんな目に合わせるなんて……コイツはメチャ許せんな!
「あの高さで頭から落ちて死んでないだと!?」
「おいテメエら! こんな可愛い子をどうするつもりだ! 返答次第じゃ俺と姉さんが黙ってねえぜ!」
「その腕輪……クソ、勇者か! おいコイツも殺すぞ!」
「いや、会話しろよ!」
その会話にならない連中に俺とケモミミちゃんは包囲される。
これは困りましたね。どう考えても負けるビジョンが出てこない。そしてこんな王道展開は姉さんが許さない。
どうする俺! このテンプレを回避するには……
そうだ!
「聞け! 甲冑バカ! お前らはな、お前らはなぁ! まとめて全カットだーーッ!!」
「「!?!?」」
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と言う訳で、ケモミミちゃんを連れて姉さんの元へ帰ってきた。平和って良いよね。
「玉城君おかえりなさい。というかその子、震える程にテンプレね」
「テン……プレ? ごめんなさい、わからないの」
「「可愛い」」
人差し指を加え、首を傾げるケモミミちゃんに俺と姉さんは一撃でイチコロになってしまった。
もうこれはしょうがないよ。
「私は朝霧でそこに居るのが玉城君よ。テンプレケモちゃんのお名前は?」
「リュカなの! 助けてくれてありがとうなの!」
語尾かわいい! 二の腕弛んだババアが言ってたらぶん殴ってる所だが、ケモミミちゃんが言うと可愛さ100倍じゃん。やべえな。キュン死するわ。
「あ、お姉さんも勇者様なの!」
「どういうことかしら?」
俺は姉さんに腕輪が勇者の証という事を教えてあげる。
当然ながら姉さんは、便所のネズミの糞にも匹敵するほど興味を示さなかった。
ブレねえなこの人。
「お姉さんは、勇者嫌なの?」
「違うわ。ちょっとそういうのに飽きているだけよ」
姉さんはリュカちゃんから目線を外し、俺の方をジッと見る。
「玉城君。今の聞いてた?」
「何がすか?」
「リュカちゃん、私のこと『お姉さん』と言ったのよ」
「まぁ、年上でしょうし。別に良いんじゃないですか?」
「玉城君は馬鹿ね。良い? お姉さんっていうのはね、頭がいい人って事なのよ」
「頭悪いこと言ってんじゃねーよッ!」
馬鹿かよ。ていうか馬鹿かよ。今の発言は頭悪いわー、引くわー。
と、その時
『ぎゅるるるる……』
「おなか、すいたなの」
俺と姉さんは目を合わせ、トライアングルフォーメーションβでリュカちゃんに近寄る!
「姉さん! さっきのまだ余ってる!?」
「ええ、食べかけだけど」
姉さんから渡されたハンバーガーをリュカちゃんに渡す。
「さ、お食べリュカちゃん。これは姉さんが舐った後があるけど、美味しいぞ」
「玉城君、言い方」
リュカちゃんはお礼を言うや、ハンバーガーに齧り付いた。はぁ、姉さんもうちょい残しとけよ。使えん奴だ。
と、リュカちゃんは喉が詰まったような感じがしたので、姉さんから受け取ったドリンクも渡した。
「さ、お飲み。このストローは姉さんのヨダレがいっぱい付着してるけどきっと安全だから」
「玉城君。私だって傷つくのよ」
お腹がくちくなったリュカちゃんは姉さんをジッと見つめて、満面の笑みでお礼を言った
「お姉さんのヨダレ、美味しいなの!」
「コイツも大概だな!」
姉さんを見ると普通に照れていた。変態かよ。ただちょっと可愛いじゃねーか。
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で、リュカちゃんからの話を纏めると、多分俺達がホームランしたオーブを騎士団に渡したら殺されかけたと言うよく分からない感じになった。
「リュカちゃん、他になんか言ってなかった?」
「なんか、だんちょーにけんじょーとか、てんぷくーとかいってたの!」
嫌な予感しかしないな。
団長に献上で、転覆かよ。メンドクセー。
ちょっとこれは箱と相談案件ですねぇ。
「その騎士団のお名前もう一回言ってくれるかしら?」
「ベイスター騎士団なの」
「気に入らない名前ね。玉城君、潰すわよ」
「いつになく物騒ですね姉さん。まぁ例のチーム名に似てますけど」
「玉城君、この異世界に分からせてやるのよ。『青枠』は1つで良いってことをね」
「いい加減怒られるぞ!」
他にも青あるだろ! 青いの全部潰す気かよコイツ。おっかねーな。
日が暮れてきた。そろそろいい時間なので帰る事にするか。
「リュカも連れてってなの!」
「リュカちゃんご両親は?」
「居ないの。ずっと1人なの……」
「「よし、連れて帰ろう」」
アカン、こんな子を1人にしたらアカン!俺と姉さんは満場一致で連れ帰る事にした。と言う訳で、
「おい、箱。俺達帰るから」
『オーブを見つけ出すまで絶対に帰らせんぞ!』
はぁ、疲れる箱だわぁ。空気読まないわぁコイツ。友達いないだろ? 箱だし。
「仕方ないわね。玉城君、リュカちゃんの耳を塞いで」
お、流石姉さん! 一発だ、一発で決めるつもりだぞ!
はい、大きく息を吸ってぇえええ
『おい、やめろッ! 言うな、怒られるぞ!』
「オマ……」
ーーバコン! ヒュルルルルルルル
ーーぐぎゃ
ーーすちゃ!
リュカちゃんは姉さんにお姫様抱っこで着地した。うん、姉さんナイス!
「ここ、どこなの……?」
「まぁリュカちゃん気にしないでいいぜ。絶対に1人にしないから」
「うん、ありがとうなの」
流石に俺が連れて帰る訳には行かないので、リュカちゃんは姉さんの家に泊まる事になった。
俺以外に姉さんと呼ばれ、興奮冷めやらぬ姉さんは急いで家路についた。
箱? うるせーから縛ったけど。
また明日、暇なら縄解いてあげていいかな