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テンプレ通りなんて死んでも御免です

ーー某月某日、黄泉霧高校「科学準備室」


「玉城君、私、異世界に行きたいわ。ちょっと連れてってよ」

「そりゃ無理っすよ姉さんっていうかパンツ見えてますよ」


「玉城君、誰が被っていいって言った?」

「いや、言ってねえし」


 実はこの会話、今日で3回目だ。

 俺は『玉城哲平』。この黄泉霧高校で高校2年生をしている。ルックスはきっとイケメンだ!


 そんで俺の前で机に両足を乗っけてパンツを見せつけている上に、異世界に行きたいと駄々をこねる女の子は『朝霧三葉』通称姉さんだ。姉さんだけども同級生である。


 何故『姉さん』と呼んでいるかだが、大した意味はない。

 ある日急に『姉さん』と呼べと言われたからだ。まぁこんなのは結構あって、その前は『タツナミ』だったり、もっと前は『リナレス』だったか。


 んで、もう『姉さん』は2年ぐらい呼んでいる。言う側も朝霧の大人っぽい印象も相まってしっくりきているため特に変える事なく今日まできている。


 ちなみに姉さん設定なので少し敬語っぽくしている。慣れすぎてもうずっとこのままだろうなぁ。


 お互いに幼馴染で馬鹿で、いや、特に姉さんは狂ってる方の馬鹿だった。

 何だかんだで同じ高校に入学し、部活申請してないのに部活と称してこの科学準備室で暇を弄んでいる。


 どのくらい暇かと言うと、今やっている事と言えば、少し空いた教室から横切る人間にあだ名を付ける部活をしている。


 まさに暇の真骨頂だ。ただ、こんなことが出来る感覚っていうのが妙に姉さんと俺は合っていて、馬鹿な喧嘩をしても次の日にはこの場所に来ているような間柄である。


 そして誰も教室前を通らなくなると、姉さんの異世界に行きたい病が発病する。

 更に、何度もいうが既に3回繰り返していた。


 っと、誰か横切るぞ!

 あ、これは3年生の餅田先輩かな? ちょっとぽっちゃりした先輩で、顔は可愛いが、やっぱりぽっちゃりしてるというマニア垂涎の女の子だ。


 ーースッ


 よし、横切ったな。そしてこのゲームのルールは、ちゃんと標的が聞こえない距離まで離れてからスタートする。

 下手に他人を傷つけることはお互いに本意ではないからだ。


 さて、順番で言うと、俺が先行だったな。


「便座壊し」

「……フッ、やるわね」


 どうやら姉さん的に高ポイントだったようだ。次は、姉さんのばんだ。さぁどう来る!?


「2年目の外人」

「ブワッハッハッハ!!!」


 やべえめっちゃ笑っちゃった! 餅田さんに聞こえてませんように!


「私の勝ちね」


 勝利のVサインでドヤる姉さん。

 いやぁ、しかし笑った笑った。確かに初年度で結果残した外人って「オフに何してたの?」ってぐらい太って来日するよね。なんでだろうね? 緩んでるよね?


 そして、また無駄な時間が過ぎて行く…


「玉城君、私、異世界に行きたいわ。ちょっと魔法陣出してよ」

「姉さん、それはちょっと無理っすね。あとパンツ見えてますよ」


 そんな4回目の天丼をしたとき、


ーーボワッ! ゴトンッ!


「うわ! なんだこれ!」

「玉城君、うるさいわ」


 いきなり対面して座っている俺等の間に、何かオルゴール?のような変な模様の箱が現れて机に落ちた。


 てか姉さんなんで驚かないの?

 あ、よく見るとちょっと内股だ。

 可愛いじゃねーか姉さん。突っ込んだら怒りそうだから見なかった事にしよう。


「それにしても、何かしらね? これ」


 ようやくパンツを見せるのをやめた姉さんが謎の箱に興味を示す。


「いやー、なんすかね。オルゴールかな?」


 するとその箱は突然『パカッ』と開き、俺と姉さんを瓢箪に吸い込まれる金角が如く吸い込んだ。

 俺は必死に抵抗しようとするが、姉さんはノリノリだ。


「玉城君、ついに来たわね。これは例のアレよ」

「え?ちょっと俺は嫌っすよ!」


ーーヒュルルルルルルル


「うわああああああ」


 俺達の意識は遠のいていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーードスン!  うげッ

ーードスン!  きゃッ


 潔く着地に失敗した俺と姉さんは、立ち上がり辺りを見渡す。

 右側にはちょろちょろとせせらぐ川が流れており、左側と川を超えた先はもう、見渡す限りの草原!

 説明するのが馬鹿らしい程の草原である。あ、川に沿った先に街っぽい所があるような、ないような……


 ふと、2-3歩歩くと、『ガチャ』という音が自分から聞こえてきた。

 ん? 俺は自分の姿を見て声を荒げる


「なんじゃああこりゃああああ!!」


 俺はフルプレートメイルのような鎧を装備していた。よく見たら背中にはめっちゃでかい剣が帯刀されている。

 制服は? 俺の制服は? やばいこの格好、とんでもなく恥ずかしい!


「姉さん、大丈夫? あと制ふ……」


 制服と言おうとして、姉さんを見た俺は驚愕する。

 次に口を開いたのは姉さんだった。


「フフフ、玉城君、見て。とんがり帽子よ」

「いや、帽子だけじゃねえよ!」


 全身だよ全身! そこにはガッツリ魔女スタイルの姉さんがちょっと長めの杖を野球のバットのように素振りをしていた。

 馬鹿だこの人。何処を見てほしいんだよ。


「姉さん! これどういう状況すか?」

「分かるわけないじゃない。玉城君ってばかなの?」


 この女ぁあああ! 状況も不明なのに、なんで帽子自慢しながら素振りしてんだよ!

 ひとしきり素振りを終えた姉さんは、興奮冷めやらぬ様子で俺に言う


「玉城君、これは異世界よ」

「まぁ、そうでしょうね」


「見た目の感じだと、私が勇者で、玉城君は……魔界村ね」

「姉さんの目って節穴すか? フシホールですか?」


 どう見ても戦士と魔法使いだろ。マジもんかよコイツ。そんな俺を余所に姉さんは続ける


「玉城君、こういう世界ではね『ステータス』って言うと何かが起こるのよ。ちょっとやってみてくれる?」

「いや、俺もそう言うのは結構見てるんで、大体予測はつきますけど……まぁいいや『ステータス』ッ!」


ーーボワン!


 俺の目の前に空中液晶のような画面が浮かび上がり、それにはステータスが表示されていた。ソレを見た俺は少なから興奮してしまう。


「おおおお、すっげー! ほんとに出た!」

「チッ」


「姉さん見てくださいよ! 俺、やっぱり戦士で、なんか色んなスキルいっぱいありますよ! チートっすよチート!」

「チッ」


「いや、なんすかさっきから舌打ちばっかりして」


「良い? 玉城君、あなたはね、ステータスを表示して驚いた後、喜んだのよ?」

「まぁ、そりゃそうですけど」


「気に食わないわ。こんなのテンプレじゃない」

「そこで普通切れます?」


「当たり前じゃない。何が悲しくて他のやつと同じリアクション取らなきゃいけないのよ」

「どんだけひねくれてんだよ!」


 アカン、アカン人だ! まぁ知ってたけど。


「じゃあどうしたいんですか?」

「だから言ったじゃない。全てのテンプレを否定するわ。玉城君もそうしなさい」


「ええ……いや、ほんのり気持ちは分かりますけどピンチになったらどうするんですか?」

「そこは、状況次第よ。ただ、出来る限りテンプレは否定して、全てのフラグをへし折るのよ」


 最後に姉さんは付け加えた


「だって、あなたの能力チートなんでしょ? せっかくだから私達の楽しみ方でやるべきだわ」


 確かに。目からウロコだ。

 姉さんのこういう所は素直に尊敬する。

 俺も実のところテンプレ通りの世界には飽きている。よし、そうと決まれば。


「分かったよ姉さん。ここをパーフェクトワールドにしてやろうぜ!」

「さすが玉城君ね。信じてたわ」


 それから俺達は、今現在この世界で分かる事を確認しておく事にした。

 まず、俺達についてだが、ステータス色々書いてあったのできっとチートである。

 もっとじっくり見たいが姉さんに拒否された。イカしてるぜ!


 そして、アイテムボックスを持っていた。便利。うん、便利。


 更に、俺と姉さんはなんかよく分からない腕輪している。5色の宝石が順番に埋め込まれていて、二人共真ん中の青い光を放っている。


 まぁこんなもんか。と俺と姉さんはいくつかの取り決めを交わす事にした。議題は、テンプレ撲滅についてだ。


「まず私だけど、そうね、一切の『魔法』を使わないわ」

「いきなりぶっ飛んでますね!」


「なら俺はそうですね……街に行かない! そして街を造らない!」

「ああ、楽しくてクラクラするわ玉城君」


 大体街に行くとギルドやら冒険者やら王様がーみたいなのが一般的だ。当然そんな事はしないしむしろ行かないね!


 更に、街を作ってしまうというのも最近はよくある。こんなものは先にやった人のを見れば良いだけで、俺達がやる必要なんてない。


 こんな感じで令和史上最大のアホな制約で自らを縛っていく。例え、神とやらが居て俺達を放り込んだのであれば、明らかな人選ミスだ。


 だって魔法使いなのに魔法使わないって言ってるんだぜ? 馬鹿だろ?


 とりあえず決まったのが以下の通りだ。

 1、魔法禁止

 2、街に行かない、造らない

 3、モテ行為禁止

 4、魔王とやらがいれば、最速で倒す

 5、風呂には絶対に入る


 なお、命の危険があった場合はこの限りではない。


 うむ、中々いい感じだ。


「本当は10個ぐらい制約は欲しいところね」


 姉さんはドMのような発言をしているが、決して違う。姉さんは自分の美学を突き進んでいるだけなのだ。


 そんな話をしていると、少し離れた場所からムクムクと空中で煙が出てきた。


 その煙はドンドン大きくなっていき、煙が晴れた時、その中からは巨大な1つ目の化物が、これまた巨大なこん棒を引っさげて姿を表した。


「グハハハハ勇者共! この俺『ギガント』様が直々に相手してやるぜ!」


 化物はそう叫び一直線に俺たちの元へ向かってくる。

 うん、これはーー


「玉城君、悪魔『テンプレ』が来たわね」

「いや、ギガントですよ。名前ぐらい覚えてあげましょうよ」


「いいこと、ああいうのはワンパンで倒すのがテンプレよ」

「ですね。どうします? 逃げます?」


「それもどっかで読んだわ。そうね、ややピンチで倒すしかないわね」

「ややピンチ!? 難しいですね!」


「とりあえず初撃は受け止めて頂戴。『最初は強くあとは流れ』作戦よ」


「グハハハハ! 怯えて声も出ないか? 良いだろう一撃であの世へ送ってやるわああ」


 既に目の前まで来たギガントはその巨大なこん棒を俺たち目掛けて振り下ろす!


ーーグォオオオオオオオオン

ーーガキッ!!


 俺は、それを受け止めたーー

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