09 手持ちの戦力を理解しよう
「え!?ガバーム様が……負けた!?」
「は?嘘だろ?」
「あのガバームが……?黄石級ごときに!?」
中庭から受付カウンターへ戻り、試験の顛末を話すと受付嬢が驚き思わず叫ぶ。
聞き耳を立てていた周囲の冒険者もざわざわと騒ぎ出した、本来ガバームはかなりの大物なのだろう。
「ああ、してやられたよ。さすがに剣士って聞いてた冒険者が魔法や奇跡を使いだしたんだ、俺だって意表を突かれて負ける事だってあるさ」
「え、魔法?それに奇跡まで?バルさんは剣士じゃなかったんですか?」
俺は冒険者に登録する時に剣士として登録した、背には流星を背負っているし誰も疑いを持たず納得していた。この世界では魔法も剣も使う冒険者は少ないのだろうか?以前いた世界では使える人間がほとんどだったんだが。
『剣士が魔法を使っちゃいけないなんてルールは無いだろう、なら使えるように練習すべきだ』
「確かにその通りだが、剣士であるにも拘らずあそこまで高度な攻撃魔法を使う者などほとんどいないと思うがな、ましてや先日冒険者になったばかりの少年が使うなんて想定できる訳が無い」
『何にせよ俺は力を示した、青石級へ昇格させてくれ』
俺は胸からギルドエンブレムを外し受付嬢へ差し出す。
受付嬢はハッとした顔をした後、仕事用の顔へ戻り俺のエンブレムを手に後ろの職員用の部屋へ移っていく。
「それにしても、君のような有望な冒険者がうちの支部で冒険者になってくれて嬉しいよ。これからも励んでくれ」
『もちろん、言われるまでも無く努力するさ。ところでガバームは何級なんだ?』
「俺か?」
俺の問いに対して、ガバームは事も無げにこう答えた。
「俺は元極楽石級で……今はここのギルドマスターをしている、今後ともよろしく頼むよ新人君」
◆◆◆◆◆
やばいやばいやばすぎる、っていうかどうしよう。
俺は明るく黄色い石から変わり、透き通った青空のような青白い石を新たに嵌められたギルドエンブレムを受け取ると、挨拶もそこそこに逃げるように冒険者ギルドの施設から退出した。
一時の感情に任せてギルドマスターの両足を吹き飛ばしてしまった。
奇跡で治癒したからノーカン?ノーカンなのか?
そもそも本来ギルドのランク昇格試験ってどのぐらいのやり取りをするものなんだ?
寸止めで「まいった」とか言わせる稽古レベルだったとしたら……俺は相当過剰に試験官を傷つけた事になる。あそこまでやる必要あったのか?と言われれば、頭の冷えた今なら断言できる、必要なかった。
数合打ち合って、ある程度対応できれば合格だったと思う。
『ああ……俺今度からどんな顔してあそこに顔出せばいいんだよ……』
昇格の条件を満たす為にも色々やらかしたしなあ……。
受付嬢の印象も悪いだろう。どうしたものか……。
(まあいいか)
それなりに考えた末に、俺は開き直る事に決めた。
俺はルールはひとつも破ってない!俺は悪くないんだ!
曖昧なルールで試験を実施するギルドサイドにも問題があるのだ。
最悪、ここの冒険者ギルドで上手くやっていけなかったら他の支部で活動すればいいだけだしな。
そう考えればかなり気が楽になった。
(それはそうと、遂に念願の青石級になったんだ、迷宮に潜ったり色々やれる事が増えた)
(実は未だにドレッドノートの性能をきちんと理解出来てないんだよな、それに剣の成長についても検証すべき事が山積みだ)
(今日は一度宿で休み、明日早速迷宮で試すとしよう、明日から忙しくなるぞー!)
すっかり気分を取り戻した俺は、茜色に染まるフロンテラの街並みをゆっくり歩いていく。
その後、宿を引き払ったままなのを思い出し慌てて宿探しに奔走したのは言うまでも無い。
◆◆◆◆◆
翌日、早朝に宿を出て朝もやに包まれまだ人もまばらなフロンテラの都を歩いていく。
昨晩は少量の酒を祝杯として呑んだが今は万全な状態だ、爽やかな空気を切って南から都の外へ出た。
都から出ると眼前に美しい湖の湖畔が見えてくる。嘘か本当か知らないがスフレが何も無い土地から作り出したと言われる、聖都フロンテラのすぐ近くにある湖「スフレ湖」だ。
そのまま真っ直ぐ進み、湖に面した砂浜に辿り着いたら西へしばらく進む。
すると、見覚えのある岩山が見え、その真下に穴倉がぽっかりと空いているのが分かってくる。
この世界で一番最初に訪れた迷宮、水とかげの迷宮だ。
以前は転移魔法で一瞬だったが、自分の足できちんと歩むとそれなりの距離があった。
それでも早朝に出発したおかげで、陽が高く上る前に到着する事が出来た。
今回この迷宮に訪れた理由は2つ。
①ドレッドノートの能力を明確にする。
②俺の剣「流星」に付与された能力「その剣は生きている」の特殊能力が増える条件の検証。
主にこの2つだ、特に②は重要だ。
何をもって迷宮をクリアしたと認識するのか?同じ迷宮を何度も攻略しても能力に影響があるのか?
それらを調べない事には、今後どのように迷宮を巡っていくかが大きく変わってしまうからだ。
(改めて今の流星の能力を確かめるか)
俺は流星を鞘から引き抜き、目の前で掲げながら能力を知りたいと強く願った。
名前『流星』
【迷宮攻略歴】
迷宮攻略総階層:五階層
迷宮攻略回数:二回
【性能】
鋭さ:B
重さ:D
頑丈:A
【特殊性能】
・その剣は生きている <ランク:なし>
・その剣は壊れる事を知らない <ランク:なし>
・その剣は所有者に身体強化・猫を与える <ランク:1>
これが今の流星の能力。
最後に生えている「身体強化・猫を与える」は前回水とかげの迷宮を攻略する際に生えたものだ。
より詳しく見てみよう。
【特殊性能・詳細解説】
・その剣は所有者に身体強化・猫を与える <ランク:1>
【詳細】
特殊性能「その剣は生きている」によって水とかげの迷宮を攻略した際に得た特殊性能。
その力は、所有者に猫のような身体能力を与える力。
この力を得た事によって対象は走行・足音・暗視能力・視野・聴覚等に補正を得る。
この力は強化である事がミソで、本来猫が抱える遠くを見渡す能力の低さなど、デメリットは付与されない。様々な能力が強化される特殊性能だが、その中でも足音を消すという能力はランクが上がると共に凄まじい恩恵を対象へ与えるだろう。暗殺者なキミにおすすめ。執筆担当:ローラ 25歳
この特殊性能を得てから暗闇の中でも行動しやすくなった、深い森の中でもランタンいらずだ。
たださすがに光源が全く無い迷宮の中ではランタンが必要だと思う。
ランクが上がれば改善の可能性もあるのか?そもそもこの特殊性能のランクってどうやって上げるのだろうか?使い込んでいけば上昇するのか?
『まあ、そのうち分かるか』
流星の能力確認が終ったので次はドレッドノートを呼ばなければいけない。
呼び方は簡単だ、手を胸に当てその名を念じればいいだけ。
──来い!ドレッドノート!!
[薬草採取はいやなの!薬草採取はもういやあああああああああああああああ]
俺の眼前に銀色に輝くボディに黒い尾ひれがチャーミングなお嬢様系サーモン。
サーモン・プリンセスのドレッドノートが絶叫しながら現れた。
『そんなに薬草が気に入ったのか、また気が向いたら連れてってやるよ』
[いぃぃぃいいぃぃいやぁあぁあああぁああぁあああ]
空中で荒ぶりながら、絶対拒否の構えを見せるワガママプリンセス。
苦い薬草を延々と刈らせて調教した結果、自分の立ち居地をようやく理解したようで、以前ほどは暴言を吐かなくなり付き合いやすくなったのだ。
『今日はお前の使い魔としての能力を測る為に、ほとんどお前に魔物の相手をしてもらうぞ』
[フッフッフ、ハーッハッハッハ!苦い薬草を延々と刈らされる修行に比べたらとかげやろーの相手なんて楽勝なのよ!!]
さあ、今日こそお前の使い魔としての力を見せてもらうぞ!
俺は期待を胸に鮭を率いて迷宮へ足を向けるのであった。
【冒険者の階級まとめ】
冒険者の階級は黄石<青石<赤石<金石<青雷石<極楽石<紫星石の順です。
ギルドエンブレムに嵌められた瞳石の名がそのまま階級として扱われます。
黄石から金石までが鉱石級、青雷石から紫星石級までが魔法石級です。
この世界では鉱石<魔法石な価値観です、金属より魔法石の方が軽いにもかかわらず硬く強力です。
エンブレムに嵌められた石に対応した魔法を使用する事が出来ます。
マジックアイテムのようなものなので、非魔法使いでもエンブレムを介して魔法の行使が可能です。
石箱(迷宮主の体内に生成される宝箱みたいなもの)にも色を当てはめているので紛らわしいのですが、結局この設定のまま行く事にしました。