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03 水とかげの迷宮①



 これから水とかげの迷宮へ挑む、その為の第一歩を踏み込もうとした際にドレッドノートが変な行動を取り始めた。迷宮の入り口に身体を摺り寄せブルブルと震えだしたのだ。


『何やってんだ?』

[マーキングよ、見れば分かるでしょ?]


 はあ。

 それは分かるけど、何でやってるのかを聞きたかったんだけど。


 ドレッドノートは暫く身体をこすり付けた後、満足したのか俺の頭の上に乗った。

 磯臭い……。思わず眉をしかめたが、彼女はドンと居座りまるで退く気配がない。

 仕方がないのでそのまま迷宮に入る事にする、ここからは気を引き締めていかないと。


 俺は魔法の袋から、ランタンをひとつ取り出し左手に掲げ迷宮に侵入する。

 袋もランタンも村に居た元冒険者のおっさんから買い取ったものだ。

 ランタンの型は古いが手入れがきちんとされていて、笠の部分に数多の冒険の傷跡を刻んだそれは周囲を仄かに照らし出す。


 俺はとりあえず周囲の様子を観察する。

 床や壁はごつごつとした岩、端にちょっとした雑草が生えている以外に特筆するべきものはない。

 道の広さはちょっとした馬車が2つ並んで通れそうなほど広い、剣を派手に振っても問題は無さそうだ。

 高さもかなりある、ちょっとした一階建ての建物の屋根にあたる部分ぐらいの高さまであるかもしれない。逆に言えば飛行型の魔物、例えばこうもりの類が上に迫っていても気付き辛いかもしれない。


 とりあえず、環境的にはそこまで問題は無さそうだ。俺は執拗に罠を警戒しつつ先へ進んだ。

 しかし、あまりにも罠を警戒しすぎて奇妙に見えたのかスフレに問われる。


「うーん、バルくん。ちょっとばかし罠を警戒し過ぎてないかい?ここは元々が天然系迷宮な上に、ギルドできちんと管理された迷宮だから罠なんて無い筈だよ」

『俺は似たような、ギルドで最初に挑むのを推奨されるような初心者向けの迷宮の罠で、この世界に落ちてきたんですよ?迷宮に絶対なんて無いんです……』

[よく分からないけど、まぬけなのね!]

「なるほどね、まあ冒険初心者なんて子が、なんで異界落ちなんていう奇妙な事になってるかと思えば、そういう事か。」


 スフレ様は納得したという顔をした後、俺を可哀相な者を見る目で見つめて来る。

 ドレッドノートは「ばかねーばかー、すっごくばかー」とか言いながら俺のつむじ辺りをべしべし前ヒレで叩いてくる。……串に刺して焼いてやろうかと一瞬殺意が沸いけど、そこはグッとこらえた。

 

 今日初めて出会った相手だ、最初から理解し合うなんて不可能だ。

 少しづつ言われたら嫌な事、やられたら嫌な事をお互いに学んで適切な距離感をつかんでいこう。


 しばらく進むと、正面から冒険者らしき人達が歩いてきた。

 剣士が一人に槍使いが一人、魔法使いと聖職者っぽい人が一人づつで計四人だ。

 俺は少し警戒しつつ距離を測る、迷宮内で冒険者同士で殺し合いになることもあるらしいからだ。

 しかし、どうやら今回は杞憂に終ったようだ。こちらに気付いた4人組は一瞬驚愕した顔を浮かべた後、軽く会釈して足早に去っていった。


(なんだ、案外こんなもんなのか)


 それが俺の感想だった、初めて迷宮内で同業者に会ったと言う事で、少し警戒し過ぎていたのかもしれない。


(罠も、今の同業者とすれ違う時もそうだけど、少しびびりすぎているかもなあ)


 迷宮では平常心で居る事も大切だと、冒険者ギルドの講習会でも言われていた気がする。

 俺は気を引き締めなおして、再度迷宮深部へ足を踏み出してく。


 幾度かT字路や行き止まりに翻弄されながらも先へ進んでいくと、少し開けた場所に出た。

 ちょっとした広場程度の室内には水が満ち溢れていて、大人がぎりぎり渡れる程度の狭さの通路と僅かばかりの陸地が、島の様に点在している。そしてその水中のあちこちに、ゆったりと泳ぐとかげ達が見えた。この迷宮の名前にもなっている水とかげと呼ばれる魔物だろう。ランタンの光を反射して、とかげ達の目がぎらりと光ったように見えた。


 俺が掲げるランタンの光に導かれるように、2匹の水とかげ達が身体を揺らし、こちらに向かって優雅に泳いでくる。


「ふふっ、さあどうする?ちなみに私は手を貸さないわよ?本当に危なくなったら助けてあげるけどね」

『そうですね、とりあえず水中で相手をするのは論外として少し部屋から離れた場所まで引っ張りましょうか。増援が来ると手間ですから』

[たった二匹でしょ?そのぐらい瞬殺しなさいよ!]


 たった二匹と言えど、水とかげは想像より大分強そうだった。

 不潔に黄色く光る歯に鎧のような鱗、丸太のような太さとベッドぐらいはありそうな体長。

 そして何より圧倒的な殺意、食い殺すと言う絶対的な意志が篭った殺意がこちらに突き刺さる。


 これ、本当に初心者向けなんだよな?

 ギルドに管理されてる迷宮なんだよな?絶対嘘だろ。

 大角カエルに比べて格が違いすぎるだろ?


 とりあえず、一対一だ。せめて一対一。

 俺は背に吊るした鞘から流星(ミーティア)を抜きながら考える。

 根性見せて戦うにしても、いきなり数的不利を抱えたまま戦うのは無謀だ。


『ドレッドノート、一体の相手を頼んでもいいか?』

[ふん!私を誰だと思っているの?余裕よ!]

『……そうか、左のを頼む』


 逐一偉そうでイラっとするなあ。

 まあいいや、俺は自分が担当すると決めた右側の水とかげとどう戦うか考える。

 当然の事ながら、人間と水とかげでは背の高さが違う。だから、俺の方が力が強い場合は上から敵の急所、頭や内臓の多い腹部を背中側から貫き地面に縫い付ける形で止めを刺すのが良いと思う。


 だけど、水とかげの全身は筋肉の塊で、とってもパワフルそうだ。

 奴を刺しても、勢いを止めきれず逆に足に食いつかれそうな気がする。

 恐らく奴に致命的な傷を負わせる事も可能だけど、逆にこちらも大きな傷を負ってしまいかねない。

 魔物一匹倒すのにそんなリスクは背負えない。


 俺は水とかげが近付いてきた所で、擦れ違うように脇を走り抜けるついでに水とかげの右前足を斬り飛ばした。いきなり止めを刺す必要なんてない、機動力を奪った後に一方的に殺してやる。

 俺は即座に切り返し尻尾と左後足を斬り飛ばした。賢者様に力を与えられる前から、かなりの鋭さを持っていた相棒は期待通りの仕事をこなしてくれた。

 前後の足を一本ずつと、尻尾を斬り飛ばされジタバタしている水とかげの腹部へ、俺は頭上から思い切り剣を突き刺し止めを刺した。


 自分の担当分を狩り終えて、そういえばあのサーモンはどうなったんだと左方を確認してみると、焼け焦げた水とかげとその尻尾をかじる魚類の姿が。焼け焦げている点を見ても炎や雷で水とかげを攻撃したんだろうか……?魚なのに炎や雷って意外感があるな。水とか氷ならまだ分かるんだけど。


 俺は二匹の水とかげの解体に移った。とは言っても、水とかげの爪や皮はあまり良い素材ではないらしいので、売却目的と言うよりはスフレ様に指導されながらの解体練習が主な目的だった。

 俺も最低限の知識や練習は自習や講習でやってきたけど、賢者と呼ばれる程の熟練者から見れば、見ていられないレベルだったようだ。今日倒す水とかげは全部丁寧に解体しながら指導を受けることになった。それと、賢者様の家に戻ったら、解体はもちろん冒険に役立つ本をいくつか貰っても良いそうだ。


 俺はその後、ドレッドノートと協力しながら八匹ほどの水とかげを屠り部屋を抜けた。

 部屋を抜けた先は下層へとスロープ状になった道が続いていて、この道で上下の層を行き来するようだ。俺のいた世界では階段が主流だと聞いていたので、これには大変驚いた。


 賢者曰く、この迷宮はこの第二層までしかなく、迷宮主が居る事以外は第一層と大差が無いらしい。

 それでも、前回のトラウマが残っている俺は、罠と不意打ちに怯えながらそーっと第二層へ向けて歩を進めていった。

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