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02 サモンしたサーモン



「それじゃあ、試し斬りも兼ねてちょっと迷宮へ行ってみようか」


 スフレ様が、ちょっとした散歩を勧めるかのように俺に提案してきた。


『ここって、聖都と呼ばれる都なんですよね?近くに迷宮なんてあるんですか?』

「ああ、あるよ?水とかげの迷宮なんかは駆け出しでも行けるんじゃないかねえ?」


 うーん、そうなのか。

 確かに、俺も冒険者である以上いつかは迷宮に挑まないといけないし、賢者様という保護者が同伴してくれている内にこの世界の迷宮がどんなものか、試しておくのもいいかもしれない。


『じゃあ、お言葉に甘えて連れて行って貰っても良いですか?』

「ふふ、それじゃあ行くよ」


 スフレ様が指をパチンっと鳴らすと景色が入れ替わり、目の前には青く透き通った湖畔、遠くの方には山頂にまだ雪が残る山々が連なっていた。おそらく、上から落ちてくる際に見えた湖だろう。



 えっ?

 もしかしてこれって伝説の転移魔法?

 嘘だろ……詠唱もせずに?!



「えーっと、確かこっちの方だったかな?ああ、見えてきたね」


 スフレ様に手を引かれ、歩いていると湖畔の近くに大きな岩山があり、地下へ続いているであろう穴倉も開いていた。駆け出しの冒険者向けのダンジョンだからだろうか?地下へ続く穴の近くに「みずとかげのめいきゅう」と分かりやすく大きな字で書いてある立て札が立っていた。


「じゃあ、迷宮に潜る前に使い魔を召喚しな」


えっ、使い魔?


「ん?もしやまだ契約していないのかい?」

『はい、というより、俺の世界では使い魔なんて貴族の魔法使いぐらいしか契約してませんでしたよ』


使い魔は、非常に強力な旅の友だけど、契約に必要な服従の石というアイテムが希少で、貴族ぐらいしか俺の居た世界では使役していなかった。この世界では違うのだろうか?


「あれ?おかしいねえ。服従の石ぐらいそんじょそこらのダンジョンに転がってるものだけど」


 えぇ……、そうなの?

 こっちの世界は俺の居た世界とは色々な事が違うみたいだ。


「ふむ……そうか、まあこれぐらいはサービスであげても良いか」


 スフレ様は、先程不思議な指輪を出した時と同じ様に手を握りこみ、開くと手のひらに赤黒い尖った石が出現していた。これってもしかして……?


「はい、これが服従の石だよ。使い方は分かるかい?」

『ごめんなさい、良く知らないです』

「はっはっはっ、謝る事は無いさ──1から丁寧に教えてあげるからね?」


 う~ん、スフレ様は優しいなあ!

 これが賢者様の余裕って奴?すごいなあ、憧れちゃうなあ。

 俺はスフレ様に、手取り足取り使い魔召喚の儀式について教えて貰った。

 手の甲に服従の石を突き刺し、血を捧げる。

 そして唱えるのだ、使い魔を呼ぶ為の呪文を!


『我望むは、彼方へと続く果て無き旅路の同行者』


 呪文を唱え始めると、服従の石が細かく震えながら赤く輝き始める。

 そして、俺の手を離れ青空へと浮かんでいく。


『呼び声に応えし者よ、苦難に立ち向かう勇者よ、今ここに絶対の契りを結ばん』


 空に突然ひびが入り、そこから一つの光球が現れる。

 強く輝く黄金色の光球だ、それが石にゆっくりと吸い込まれていく。


『サモン・メサイア!!』


 石から閃光がほとばしり、周囲を黄金色に染めた。

 石が弾け飛び、中から何かが飛び出してきた。


 黒く輝くその瞳から感情は読み取れない、泰然とした態度で周囲を見回している。

 その身体は銀色に輝いている、まるで鍛えたばかりの鉄鎧の様にきらめいていて、背ヒレや尾びれの深い黒がよりその輝きを際立たせている。


 ──俺が呼び出したのは、魚だった。銀色の魚。

 川から飛び出してきたのでは?と思えるような普通の魚だったのだ!


『え、失敗?』


[なによ!人の顔を見て失敗って!私を呼び出しておいて、不満なの?]


『喋った?!魚なのに?』


 俺がスフレ様に失敗したのでは?と声をかけると、唐突に魚が空中を飛びまわりながら叫び始めた。

 この世界の魚って空を飛べるんだな、そして喋れるっておかしくない?そして魚の癖に無駄に声が可愛い、自分と同い年くらいの少女だったら似合うんだろうが……残念ながら銀色に輝くおさかなさんだ。

 それにしても、正直こんな魚が本当に役に立つのかめちゃくちゃ不安なんですけど?!

 ダンジョンで役に立てるのか?こいつ……。


 ワーワーと騒いでる俺達を見かねて、スフレ様が間に入ってくれる。


「やれやれ、とりあえず自己紹介でもしたらどう?これから長い付き合いになるんだし」


 とりあえず、俺達は自己紹介をし合うことになった。

 魚と見つめ合い自己紹介をする男、正直かなりシュールだ。


『俺の名はバル、マシロ村出身の駆け出し冒険者だ。趣味は鍛錬、夢はいつか王都に家を買えるぐらいビッグな冒険者になることだ!よろしく頼む』


 俺が自己紹介をすると、何故か呼び出した魚は首を捻った。

 何か疑問があったのだろうか?


[まあいいわ、私の名はドレッドノート。高貴なるサーモンの姫、サーモン・プリンセスのドレッドノートよ!冒険者の身で、私と契約を結べた幸運に咽び泣きながら崇め奉りなさい!!]


 サーモン──ドレッドノートはそう偉そうに宣言しながら俺を見下ろした。

 ふんぞり返れないもんな……、魚だし。

 それにしても偉そうな魚類だ、こんなのとうまくやってけるかなあ?


「ふう、それじゃあ次は、ドレッドノートちゃんの力を確認しないとね?剣の能力を確認した時のように、彼女の力を見たいと思えば契約を結んでる状態なら、力を把握する事ができるわ」


 俺はスフレに促されて使い魔の能力を確認する事にした。

 何が出来るか分かってないと、どう使えばよいのか分からないからな。

 俺が願うと、頭の中にいくつか情報が浮かんできた。



 【名前】『ドレッドノート』

 【種族】サーモン・プリンセス

 【技能】

 魔法・鮭:ランク5 万能遊泳:ランク6 魔法調合:ランク3 防御:ランク7

 【詳細】

 異界より召喚されたサーモンのプリンセス。故郷を離れ、果て無き海へ旅する種族に生まれついた彼女は、冒険に適した才能を多く持つ。中でも<魔法・鮭>は、異邦の地へ旅立つ彼女達の経験と知恵で洗練された魔法群であり、水中はもちろん地上や空においてもその効果を遺憾無く発揮する。執筆担当:シルヴィア 18歳



 なんだこれ。


 名前と種族は特に疑問もない。

 技能ってなんだ……?字面的に、身につけている技術の事とかかな?

 魔法・鮭って、鮭固有の魔法なんだろうか。

 あまりに安直な名前で……、何となくしょぼそうな印象を受けるなあ。

 万能遊泳っていうのは、この空を泳ぐ技術の事かな?

 防御のランクが高いな。守るのが得意なんだろうか?



 この【詳細】っていうのは、このドレッドノートちゃんがどんな子かっていうのを解説した物だろう。

 何かすごいサーモンだってことはぼんやり分かった、ところでこの執筆担当って何だろう?これって誰かが考えて手書きで書いた内容なのか?謎だ……この世界は未知で溢れている。



「どうだった?」

『うーん、なんか技能がどうとか出てきましたが、よく分からないことが色々あって』

[なによ!無知ね、よくそんなんで私の事を呼び出せたわね!]

「まあまあ、バルは初心者だからね。何処が分からないか教えてごらん?」


 俺はとりあえず分からない事を全て聞いてみた。

 するとスフレ様はどのように解説するか一瞬悩んだ後に、俺に答えを教えてくれた。


「まず技能ね、ランクから説明した方がいいかしら?」

『お願いします』

「技能は基本的に(・・・・)ランク1から7の7段階。1が最も低く、初心者的な立ち位置ね。2から4ぐらいになると実戦で行使しても問題ないレベルだわ。」

「ランク5から6は熟練で、そのランクまで技能を上げた事を誇って良いランクね。7は最高だから、その技術を極めた達人という事になるね」


 なるほど、ランクは1が初心者、2から4が平均、5から6が熟練者で7が達人ね。

 要は数字が大きければ大きいほどすごくて強いのだ。俺はそう理解した。

 そしてここである事を思い出す。


『スフレ様、それって俺の剣の性能にも当てはまるんですか?』

「ええ、そうね。バルくんの剣にも当てはまるわよ?まあ、今あるのはランクがない性能だけだったけど」

『ランクがない性能ってランク1より弱いってことですか?』

「ちがうちがう、性能や技能には成長する物としないものがあって、君の持ってる剣には成長しない不変の性能しか付いていないというだけで、決して無能な力というわけではないのよ?」


 なるほど、確かに剣が生きる事や壊れない事に成長要素なんてない気がする。

 もっとこう、鋭さが増すとか頑丈さが上がります!みたいな特殊性能だったら、ランクがあってもおかしく無さそうだけどね。これからも特殊性能は増えるみたいだから、そういった性能が生えるのを楽しみにしつつ育てていこう。


「えーっと、何処まで話したかな?ああ、そうだ。ランクの話が終ったんだね。じゃあ次は技能の中身について話そうか」

「<魔法・鮭>はサーモン族に伝わる特殊な魔法群ね、サーモンは川で生まれ海へ旅立つ種族だから、旅や冒険、そして未知へ挑む際に切り札となる魔法をたくさん覚えるわ。具体的に何が出来るかは……実際に迷宮に潜りながら知った方が早いと思うわ」

「<万能遊泳>は海でも空でも宇宙でも泳げちゃうっていう技能ね、何処でも旅が出来る様になる~ぐらいに考えておけばいいわ。<魔法調合>はそのまんま、道具無しで魔法を使って調合をする技能よ、まあ道具なしって言っても材料やレシピの知識は必要なんだけどね」

「<防御>の技能は敵の攻撃から身を守る技術はもちろん、仲間を守る術も<防御>に含まれるわ。守り方や駆け引きなんかのテクニックに関する技ってことね」


 なるほど、そんな感じか。

 

「最後に、解説の執筆者に関してね。使い魔の情報や所有している剣の特殊性能の解説は、天使がローテーションを組んでひとつひとつ丁寧に手書きで書いているわ。だから、たまに変な解説があったりするけどあんまり気にしなくていいのよ」

『ん?剣の特殊性能にも解説があるんですか?』

「あったりなかったりするわ、あと目新しいものだったりすると、執筆が間に合わなくて後で解説がついたりもするわね。既存の特殊性能なら過去の解説を丸写しすればいいから、すぐ表記されるんだけどね」


 そうなのか、ちょっと試しに見てみようかな?

 俺は念じて剣の性能を頭に浮かべ、その特殊性能の詳細を知りたいと更に願った。

 すると……?


【特殊性能・詳細解説】

・その剣は生きている <ランク・なし>

【詳細】

 聖都の賢者スフレが、哀れな少年冒険者に恩を売る為だけに付与した特殊性能。

 その力は剣に<生きている>という概念を付与する力。この力を付与された事により、この剣は人間や魔物の様に成長する事が可能になった。ただ、喋ったり、擬人化したりするような力を持っているわけではないが、その代わり……?(これ以降は次の成長段階に至った際に解禁されます)執筆担当:ローラ 25歳


 今まで見えていなかった詳しい解説が見えた!

 って、なんでもったいぶるみたいに解説が途切れてるんだよ!そこはきちんと解説してくれよ!

 ……とりあえずもう一個のほうも見てみるか、俺はもう一つの特殊性能の解説を見てみる事にした。



・その剣は壊れる事を知らない <ランク・なし>

【詳細】

 このちからがあるとすっごくかたくなって、なにがあってもこわれないんだって!

 すごいね! 執筆担当:イサナ 8歳


 8歳?!説明が抽象的過ぎてアレだが特殊性能自体がシンプルだから辛うじて命拾いしたな。

 難解な特殊性能の時にイサナちゃんに当らないように祈っておこう……。


 とりあえず使い魔も無事召喚出来たし、その性能とこの世界の新たな知識も手に入れた。

 これでいよいよ冒険に出る準備が出来たな!ところでさっきからドレッドノートが会話に混ざって来ないけど何をしているんだろうか?


 俺が気になって周囲を見回してみると、そこには無邪気に湖畔でトンボを追いかけるサーモンの姿が。

 ……本当にこんなので大丈夫なんだろうか。

 俺は不安に飲まれそうになりながらも彼女を呼び、いよいよ、この世界に来て初めての迷宮探索へ挑むのだった。

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