17 未発見迷宮⑤
俺は思わず周囲を見渡す。
そこには視界いっぱいに空が広がっている、黄昏時を思わせるオレンジ色の空だ。
石造りの道がそんな空に浮かんでいる、一体どれ程に造られたのか定かではないがその道を形作る石材は朽ち果てていて、何とも頼りない、足を乗せたら崩れ落ちてしまいそうだ。
石造りの道のところどころに神殿の成れの果てのような建造物が散在している。
柱が折れていたり屋根が崩れていたりこちらもガタが来ている感じ。
俺はそーっと足元を覗いてみる。
どこまでも空が続いている、底が見えない、どれ程の高さなのか、そもそも底なんてものが存在するのかすら定かではない感じだ。
魔物は今の所見えてない。
だが、いないなんて事は無いだろう。
ここは迷宮だ、おそらく身を隠すのが上手い種なんだと思う。
警戒が必要だ。
『行くか』
[ええ、慎重にね]
剣を背から抜き石造りの道を叩きながら進む。
文字通り石橋を叩いて進んでいるのだ。
この地形で一番恐ろしいのはやっぱり滑落だ、警戒して損は無いだろう。
慎重に歩を進め、検証していたうちに分かった事だがこの道は基本的に崩れない。
何らかの特殊な力が働いていて、石の道をその位置に定着させている。
道自体が多少割れていたりしても道の破損が原因で落ちることはほぼ無いと思われた。
最初から罠として作られた場所があった場合はきっと落ちるんだろうけど、基本的には大丈夫なようだ。
神殿跡もいくつか調べてみた。
名を知らぬ女神の像と祭壇が置かれただけのあまりにも簡素な物から、信者が座る椅子が何脚も置かれたやや規模の大きな物まで様々だった。
女神の像を詳しく見てみる。
波打った長い髪を持つ女性を象っている。
手には稲穂のような物を持ち、それを大事に両手で握り締めている。
豊穣の女神か何かなのだろうか?女神像は、今は信者もいない迷宮の底で静かに佇んでいる。
『これは……なんだろう?』
[巨大な杯?]
ぽつりぽつりと点在する神殿とそれを繋ぐ石道を黙々と進んでいたが。
とある神殿の奥で巨大な杯が飾られていた。
大きさは見上げるほど大きく横幅は大人4人が手を広げた幅以上あるように見えた。
そして俺は何故かこの杯の中身が気になった。
杯とは中に何かを満たす物だ、カラという事は無いように思えた。
『……杯の中に何が入っているか見てきてくれないか?』
[分かったわ]
ドレッドノートは空を飛べる。
この状況で杯の中を覗くなら彼女に頼るのが最適に思えた。
[中には輝く青白い液体と全身鎧と盾と剣……かな?]
『お宝っぽい感じか?』
[そうね、しかも上で見たのよりすごそうな感じがする]
上で見た宝の山の中身、あれも吟味はして無いけれどかなり上等な物に見えた。
彼女がそれよりも格上だと判断する武具か……、出来れば手に入れておきたいな。
『中に満ちている液体の様子は?危険そうか?』
[そんな感じはしないわね、神聖な気を感じるもの]
神聖な気か。
彼女の嗅覚がいかほどのものか分からないが、とにかくこの杯の中身を実際に目にして見るか。
俺は転がっている朽ちた柱を組み上げて杯に登れるように簡易な階段を作る事にした。
途中でカサが足りなかったので水とかげの迷宮で得た採掘具──水精のつるはしで適当な石柱を削り折って素材の足しにした。それなりの時間は掛かったが何とか形にする事が出来た。
『うん、これは聖水だね──魔物除けと腐敗防止の聖水か、効果は単純だけど質が異常だね』
[そんなにすごいの?私にはよく分からないわ]
『これを作った奴は天才っていうより人外だね、本当に人間じゃないかも』
杯の中を覗いてみると中には確かに青く輝く聖水が満ちており、奥深くに全身鎧、剣、盾が沈んでいた。
杯を満たす聖水の質ははっきり言って異常の一言だ、俺でもここまで効果の高い聖水は作れない。
俺も人間の中ではかなり異常な実力の持ち主だと思うんだけどな。
聖水を魔法の袋に詰め込んだ。
ポーション用、素材採取用の容器に入れても収納し切れなったので最後は直接魔法の袋に吸い取らせた。
地上に戻ったら大量の容器を購入して小分けにしないと。
聖水を吸いきると底にあった武具の色合いや様子がより詳細に分かるようになった。
山羊を象ったフルフェイスヘルム、無骨でシンプルな分厚い鎧にガントレット、シンプルながら凄まじい切れ味を予感させる輝きを秘めた剣。
そしてそのどれよりも存在感を放つ巨大な盾。
俺の足元から肩ぐらいまでありそうな重厚な盾で、あらゆる攻撃でもビクともしなさそうに思えた。
見た目もそうなのだが非常に強力な魔力と聖気を感じる、何らかの特殊な効果を秘めていそうだ。
『この盾、すごそうだな……効果が分かればいいんだが』
「うん、この盾なら私の格につりあいそう」
『[え?]』
突然、後ろから聞き覚えの無い声がした。
振り返って見てみれば──頭上に輪を浮かべた有翼の女性が立っていた。
黒い髪に黒い瞳、その顔はありえないほど整っている。
生地が薄く透けている大胆なドレスを着ていて、物語で伝え聞く物とは大分雰囲気が異なっているように思えるが──彼女は天使だ、何故かそう思えてならなかった。
「そんなに慌てなくても大丈夫です、戦う気は無いですから」
『貴方は一体……もしかしてこの迷宮の迷宮主?』
「違いますよ?湖で見かけたときからこっそり後をつけていただけの野生の天使です」
『野生の天使って……』
物語によると天使とは神の使いであると言われている。
そんな存在が何の理由もなく野にいるとはとても思えなかった。
「私にも事情がありまして、出来ればその盾に宿りあなたと共に冒険したいのですがよろしいですか?」
盾に宿る?一緒に冒険したい?そもそも事情って何?
いきなり現れてそんな事を言われても正直困るんだが、もうちょっと丁寧に説明して欲しい。
「ざっくりと説明させて頂きますと、貴方の傍にいる事が私にとって都合がいいんですよ」
『もうちょっと順路立てて丁寧に説明して欲しいのですが……』
「そうですね、少し長くなりますがよろしいですか?」
彼女の説明は本当に長かった。
要約すると彼女は神同士の戦いで天使として戦っていたらしい。
そしてその戦いで敗れ、傷つき、この地で静養している。
しかし普通に休んでいても力は一向に回復しない。
この土地には聖気が少なく、天使である彼女にとってはあまり良い環境ではなかった。
どうすればより効率よくこの地で傷を癒せるのか、考えているうちに都合の良い人間が空から降って来る事になる。つまりこの地では稀有な多くの聖気をその身に宿した俺だ。
彼女は俺の近くに、多くの聖気を持つ者の近くにいればその身に刻まれた傷を癒す事が出来るのではないかと考えた。ただ近くにいるだけでも効果があったが、より効果的に傷を癒す手段として彼女が考えたのが──俺の身に着けている武具に宿るという手段だ。
この世界では精霊が武具に宿り、冒険者に加護を与える場合がある。
自分も同じ事をして直接俺に触れれば、より近くで多くの聖気に触れる事が出来ると考えたのだ。
しかし、俺が今まで身につけていたローブなどでは彼女ほどの存在が宿るのは難しかった。
天使ほどの高位の存在だと並大抵の武具に宿るのは難しいようだ。より強力で、大きな力を宿しても耐えられるような武具でないと──それから彼女は待ち構えていたのだ、虎視眈々と俺が強力な武具を手に入れる、その瞬間を。
『大体の事情は分かりました、ですがまだ効果も分からない武具を今すぐ身に纏う気は無いですよ?』
「私達天使は神の瞳であり尖兵、下界の武具の性能なども見通す事が可能ですので──少しよろしいですか?」
『え?』
天使は突然滑るように俺に近付き──その額を俺の額に当ててきた、両手で側頭部を鷲掴みにしながら。
すると頭に何かが流れ込んでくる、それは今まで何度か経験したあの感覚だった。
名前『アウロラの重層鎧』
【性能】
厚さ:B
重さ:A+
頑丈:A+
【特殊性能】
・その鎧は衝撃に強い耐性を持つ <ランク:7>
・その鎧は魔法に強い耐性を持つ <ランク:5>
・その鎧はあなたからすれば羽の様に軽い <ランク:なし>
・その鎧は長い年月を共にしたかのようにあなたに馴染む <ランク:なし>
【詳細】
いつかこの地を訪れる英雄の為に豊穣の女神であるアウロラが依頼し生み出された重層鎧。
迷宮エルフが素材を集め、神をも超える実力のドワーフが槌を振るった自信作。
依頼主である女神の名を冠する至高の鎧。その色合いは敵性の魔法や剣撃に対応してオーロラのようにその色合いを変えていく、通常時は明るい緑と青が絶妙に入り混じった色合いをしている。単純な鎧としての性能はもちろん、魔法的な効果も使い手の事を考え理想的な物を揃えている。武具に突飛な性能は要らない、単純で質の高い物こそ最強という製作者の思想が感じられる一品。執筆担当:ホルダード 年齢:秘匿
名前『アウロラの幸運剣』
【性能】
鋭さ:A+
重さ:E
頑丈:A
【特殊性能】
・その剣は魔獣に有効だ <ランク:7>
・その剣は悪魔に有効だ <ランク:7>
・その剣は不幸を寄せ付けず幸運を呼び込む <ランク:7>
・その剣はあなただけでなく隣人にも幸せを運ぶ <ランク:なし>
【詳細】
いつかこの地を訪れる英雄の為に豊穣の女神であるアウロラが依頼し生み出された剣。
重さで断つ一般的な剣とは異なり圧倒的な鋭さで敵を断つ、少し風変わりな剣。
魔王が暴れ、世が乱れていた時代に生み出されたという時代背景から仮想敵も魔王やその眷属を想定した魔法的効果が備わっている。そして実力だけでは覆せない逆境を乗り越える為には運命を味方につけるしかない、その強者に必要な最後のピースを埋める一品。執筆担当:ホルダード 年齢:秘匿
名前『アウロラの神秘盾』
【性能】
厚さ:A+
重さ:A+
頑丈:A+
【特殊性能】
・その盾は敵対者の骨を砕くのに最適だ <ランク:7>
・その盾はあなたの思うがままに操れる <ランク:7>
・その盾はあなたの盾への理解を深める <ランク:7>
・その盾は豊穣の女神の加護を持つ <ランク:なし>
【詳細】
いつかこの地を訪れる英雄の為に豊穣の女神アウロラが自ら作り出した巨大な盾。
特殊な金属や木材で作られているわけではなく、地上の惨状を目にしたアウロラの涙が地に落ち、固まり、気付けば一枚の盾となっていた。下界の住民では理解出来ない過程で生まれた異色の盾である。地上を滅茶苦茶にした魔王に対する憎しみや悔しさが元になっている為意外に攻撃的な性能を秘めている、美しい豊穣の女神様は表出こそしないものの、その内には意外に苛烈な感情を秘めているのかもしれない。執筆担当:ホルダード 年齢:秘匿
「最後に、解説の執筆者に関してね。使い魔の情報や所有している剣の特殊性能の解説は、天使がローテーションを組んでひとつひとつ丁寧に手書きで書いているわ。だから、たまに変な解説があったりするけどあんまり気にしなくていいのよ」
かつてスフレに言われた言葉だ。
流星やドレッドノートの力について知りたいと願った時頭に浮かぶ内容は天使が執筆しているのだと。
それなら目の前にいる彼女が同様の力を行使する事も可能に思えた。
「これで効果は分かったでしょ?」
『そうですね、えーっと、お名前はホルダードさんで良いんですか?』
「ホルさんで」
『あ、はい。よろしくお願いします……ホルさん』
彼女は満足そうに腕を組み頷くと盾に指で触れ二言三言ぼそりと呟く。
するとその身姿が輝く光となって盾に吸い込まれていった、上手く宿れたって事かな?
俺はローブを脱ぎ、街で着る用の普段着として買った服の上から鎖帷子を着る──鎖帷子は竜を倒した後に見つけた宝の海産の物だ、効果はまだ未知だが呪いの気配はしないので気軽に身に纏った。
そしてその上から鎧を着る、途轍もなく重いかと思ったが特殊性能は着る前でも発動するらしい。
簡単に着る事が出来た、いや、冷静に考えるとこれで本当に着方合ってるのか?
……地上に戻ったら鎧の装着の仕方も正しく学ぼう、そうハンドブックに記載しておいた。
幸運剣は脇に吊るしておく事にする。
滅茶苦茶軽いのでこの位置が良いと思った。
正直、剣としては流星を手放す気が無いので幸運を呼び込む力目当てに一応身につけておこうかなぐらいの感じなんだよね。あとは悪魔相手に力を発揮するようなのでその時持ち替える感じかな?
盾は左手に持っている。
ただ、正直いくら特殊性能で持ち運びに不自由しないとはいえデカ過ぎる。
それに手にランタンを持って迷宮に挑む際は盾をもてない。
いや、接敵した際にランタンを地面に放って盾に持ち替える事とかも出来なくは無いから不可能ではないのか……?とりあえず手を自由にしつつ光源を確保する方法とこの盾を背に吊るす為のベルトが欲しいな。
さすがにそこまでピンポイントな宝は、宝の海にも無かったみたいなんだよね。
結局、その日は冒険の熱が冷めてしまったので杯のある神殿で休息を取る事にした。
冒険って言うのは勢いが大事だ、無理して先に進もうとしても上手く行く事なんてない。
俺は短い冒険者生活の中でそれを学んだ、特にここの迷宮に入ってからはそうだった。
やる気の萎えた時に無理なんてするものじゃないのだ、いっその事しっかり休んでしまった方がいい。
◆◆◆◆◆
翌日、改めて九階層の探索を開始する。
相変わらず魔物は出ない、もしかしたら本当に魔物のいない階層なのかもしれない。
そんな事ありうるのだろうか?謎だ。
魔物が出たら出たで厄介なんだけど全く出ないとそれはそれで不安になるんだよな。
嫌な予感がしてきてしまうというか。
延々と続いた探索にもやがて終りは訪れる。
空に浮かぶ巨大な白亜の神殿、その周囲には大きく厚い黒雲が漂っている。
そして終着点には白銀の鎧、長大な槍と大きな盾を持った騎士が待ち構えていた。
魔物なのか?俺には正直人間に見えた。
[あ、あれ?]
『ん?どうした?』
[なんかここに見えない壁があって……っ!弾かれるみたい!]
『つまりはそういうことなんだろ』
[え?]
『ここに訪れた人間ひとりで立ち向かわないといけないって事だろ、多分ね。ちょっと待っててくれ、すぐに終らせてくる』
[バル!!]
ドレッドノートに軽く手を振った後、騎士の方へ向かう。
彼女の侵入が拒まれた理由──恐らくこの迷宮は試練系迷宮なんだろう。
神造迷宮の一種で、英雄や勇者を選別する為に創造される迷宮だ。
正直、道中でもしかしたら最後はこうなるんじゃないかと推測はしていたので意外と冷静でいられた。
ホルさんの教えてくれた迷宮産武具の解説欄にも匂わせるような文章はあったし、想定内だ。
こんな所で死ぬつもりは無い、力を試したいなら受けて立とう。
流石にここまで来て尻尾を巻いて逃げる気はしなかった。
騎士の背後にはどう見ても道はない、つまり奴こそが迷宮主なのだ。
俺が白亜の神殿に足を踏み入れると、騎士は僅かに身体を揺らした。
何をしているんだ?と注視していると──奴の足元が爆発し、こちらに猛スピードで突撃してきた。
マントをなびかせ彼我の距離を一瞬にして埋める槍騎士の突進に対して俺はとっさに姿勢を低くし盾を前に突き出した。俺が盾を突き出した瞬間凄まじい音を立てて盾に槍が何度も突き出された。本来なら遙か彼方にまで吹き飛ばされてしまいそうなほどの衝撃だった筈だが鎧の重量の違いからか大きく突き飛ばされる事はなかった。
重さはこちらが上か。
今の俺はかなりの重武装だ。
特殊性能のおかげで過不足なく動けているが、もしそれがなければ鎧という物に馴染みもなく、訓練も受けた事の無い俺ではまともに歩く事さえ難しかったかもしれない。
それから何度か切り結んだが状況は良くない。
相手が速過ぎる為に剣が当らないのだ。
そして何とか隙をつけたと思えば向こうの盾に弾かれる。
面白い。
相手の槍騎士の動きや立ち回りはある意味俺の目指すべき理想の動きだった。
速さと頑強さを併せ持ち、手にする槍の一撃も強烈だ。
これで奇跡や魔法も使えば本当に理想だったな。
俺は槍騎士の動きを丁寧に観察しつつ戦った。
異常とも思える堅牢さを持つ鎧と盾を手に入れた故に出来る事だ。
その動きのひとつひとつから何を盗めるかを考えつつ剣を振るっていった。
槍騎士との戦いは俺に多くの気付きを与えてくれた。
今まで俺は戦士は魔力を使わないと思っていたがそれは全くの間違いだったのだ。
足裏から地面に対して魔法のように形にする事なく単純に魔力を叩きつけて加速する技術などは目から鱗が落ちた。魔法というのは手から放つ物だと意味もなく考えていたが、よくよく考えてみれば手を使う事に深い意味など無い。人間が何らかの力を行使する際には手を使ってしまいがちだ、要は知らなかったから出来なかっただけだ。
槍騎士はその長大な槍を振り回す際にも魔力を使う。
肩や腰、腕にかけてに魔力が集い瞬間的に強大な力が振るえるようになる。
最初は真似する事など不可能に思えたがいくらか繰り返すうちに拙いながら真似する事が出来た。
もし念唱や無詠唱のような技術で詠唱自体をこちらに気付かせないように魔法を行使していた場合、その内容を知らない俺には真似のしようなど無かったはずだが、どうやら魔法ではなく魔力運用の小技だったようだ。
槍に魔力を込め瞬間的に鉤爪のように曲げる技術に関してはそういう魔法があるのか槍自体の効果なのか俺にはよく理解出来なかった。だが真似して魔力を流星や神秘盾に込めているうちに別の事に気付いた。
魔力を剣や盾に纏わせる様に込めてもそれなりに鋭さや硬さの増強などの効果があった、だがその武装の奥深く、芯とも呼べる部分にまで魔力の腕を伸ばすと劇的に性能が向上したのだ。
武具の芯を探り当てる技術を体得したあたりから俺と槍騎士の戦いは拮抗し始めた。
目が慣れ、身体が慣れ、盾の扱いに慣れ始めたのだ。
最高の見本は目の前にいる、最高の練習相手も目の前にいた、あとは数をこなし洗練させるだけだ。
目線や体重移動によってのフェイント、盾殴り、時には盾で視界を奪ったり投げてきたりする事もあった。俺は面白いくらいその技術に引っかかった、鎧がなければ何度死んだか分からないほどだ。
『そろそろ勝てそうな気がする』
[それ、三日前にも言ってたのよね……もう見切ったとかなんとか]
『いや、今度こそ本当にイケるから、見てろよ?』
[はいはい、好きにしなさいな]
白亜の神殿から最も近い神殿で食事を取る。
身体を十分に休めたら槍騎士に挑む、ここ最近はそれの繰り返しだ。
残りの食料もあと僅か、そろそろ粘るのも厳しい頃合だ、俺は本格的に打倒槍騎士に挑む事になる。
白亜の神殿に足を踏み入れ、槍騎士に頭を下げる。
ここまで多くの事を教えてもらった返礼のつもりで行った事だが──何と槍騎士も頷き返してきた。
やはり魔物とは思えない部分がある、俺にはそう思えた。
お互いに武器を構え気を窺う。
そして同時に足元に魔力を込め加速した。風を切り盾で半身を隠しながら剣を持つ手を背に流す。
槍騎士の槍に魔力が込められ赤い光が槍を包み込む、そして四条の光となって槍が放たれた。
2本は避け2本は盾で受けた、一瞬押しのけられそうになったが更に足元を爆発させ剣の間合いに飛び込む。槍騎士のマントに魔力の気配を感じた、そしてこちらの盾を巻き込むかのように横向きに大きく振るわれる。
流星の特殊強化によって強化された俺の感覚はその軌跡を読みきった。
俺は滑るように背を低くしながらそれをかわした。
一閃。
擦れ違い様に素早く振るわれた横薙ぎの剣閃が槍騎士の鎧の脇を食い破った。
切り替えし、再び剣を交える。
多くはお互いの盾に阻まれる。
時に弾き、時に受け止めた。
全てを盾に任せるわけではない、ほとんどは事前に予期しかわす。
やがて地を蹴り空を蹴り白亜の神殿の内部を立体的に使った戦闘が繰り広げられた。
槍騎士の盾を回り込むように放たれる鉤爪型に変形する槍撃で手が削られ、何度か盾を落としそうになる。だがこちらの剣による攻撃も槍騎士の胴や足の鎧に大きな傷を与えていた。
槍騎士の盾に再び剣が阻まれた。
流星が槍騎士の盾の表面を滑り、流される。
その瞬間に俺は思いっきり盾に身体を密着させ槍騎士へ突進を仕掛けた。
槍騎士は剣の先へ視線を走らせていたのか避ける事が出来なかった。
超重量の全身鎧と盾を持った俺の一撃で槍騎士は押し倒された。
重さに圧倒的に差がある俺と槍騎士、押し倒し、組み伏せたらどうなるかは言うまでも無く。
俺は長大な神秘盾を真上から槍騎士の喉元へ叩きつけた、盾はその重さと魔法的効果によって槍騎士の命と首の骨を断った。