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16 未発見迷宮④



 首を吹き飛ばされた竜は一瞬、びくりと震えた後に大きな音を立てつつ床に崩れ落ちた。

 俺はしばらく剣を前に構えながら様子を窺ったが、竜が再び動き出す事はなかった。


『なんとかなったか』


 今回は相手が眠っていたから倒す事が出来たが再びこのような竜が現れた際は倒せるだろうか。

 ドレッドノートのあの技があればどうにか出来なくも無いかもしれない、何だかんだで無傷で倒す事が出来たしな。


 そういえば、この竜が迷宮主だったのだろうか?

 解体して石箱の有無を確認出来れば良かったんだけど……。

 水とかげの迷宮でスフレに解体の仕方を学んだとはいえこれほどの巨体の竜はまだ捌ける気がしなかった。

 捌く技術があったとしても、そもそも解体用のナイフが通る気がしないんだよな。

 解体は地上に戻って専門家に任せたほうがいいだろう、魔法の袋に竜を詰める事にした。

 竜の頭はいつも通りゴポっと吸い込むように中に入れられたのだが、胴体のほうは流石に大きすぎたのかギュップギュッポと段階的にちょっとづつ飲み込んでいた、それでもどうにか入れることが出来たようだ。


 剣に特殊性能が増えているかどうかを確認してみようか。

 剣を掲げ祈ってみると──特殊性能が増えていない。攻略回数も増えていない。

 つまり、まだこの迷宮は終っていないのだ、更に先があるはずだ。


(アレ以上の化物がこの下に潜んでいるのか、厄介な)


 道中に竜が潜む迷宮の底、そこには一体何が待ち受けているのか。

 若干の不安を覚えつつも俺達は五階層の穴の底を探索する事にした。



(如何にもな横穴だな)


 五階層の穴の底を壁に沿って歩いていると、壁に穴が開いている場所があった。

 横幅は大人が横に二人並べる程度、高さは二メートル弱程度か?結構狭い穴だ。


[そこ、何かあるの?]

『おっ、もしかして分からないのか?』

[ああ、前みたいに見えない通路?]

『多分そうだな、お前に見えなくて俺に見えるならそうなんだろう』


 この迷宮への道を見つけたときと同様の仕掛けがされた壁があるのだろう。

 俺は通路の位置が分からないドレッドノートを頭に載せ見えない通路へ足を踏み入れた。

 それほど歩かないうちに扉が見えてきた、俺は扉の先から物音が聞こえないのを確かめつつ扉に手をかけようと──。


[ちょっと待って!あんた、上で同じ事して罠発動させたじゃない!]

『あ』

[……今回はちゃんと矢が飛んできても大丈夫なように扉を盾にするように開けなさい]

『お、おう……』


 そういえばそんな事もあったなと納得した後扉を盾にするように開いた。

 その瞬間、扉の向こうから凄まじい音と共に何かが飛んできた。


 槍だ、氷の槍。

 それも一本二本じゃない、数秒間、数えるのもあほらしく思えるほどの槍の雨が通路を蹂躙していった。

 扉にも吹き荒れる氷の槍がぶつかり続ける、何らかの対策がしてあるのか扉へ槍が刺さる事はなかったが通路には幾本もの氷の槍が突き刺さったり砕けたりしている。


 迷宮の床に刺さるレベルの氷の槍?

 恐らくだが並の盾では貫いてしまうレベルの魔法だな、さすがに<貫通>程のレベルじゃないと思うけど。

 もし忠告を聞かずに普通に開けていた場合、一本二本なら避けられただろうが、あの物量だと後続の槍を避けきれずに身体中穴だらけになっていたかもしれない。


 ドレッドノートのそれ見たことか、という気まずい視線を黙殺して扉の先を見てみる、すると……そこには青い光が満ちていた。


 俺の目の前に広がるのは輝く青い海、ただしその海はひとつひとつが怪しい光を放つお宝であり俺の視界をその輝きで染めている。


 ワァオ……凄まじい光景だ。

 あまりの光景に思わず立ち尽くして呆然としていた。

 普段は口うるさいドレッドノートですら言葉が出ないようだ、俺だって同じだ、こんな光景冒険譚ですら読んだ事が無い。


 そこには剣があり、杯があり、鎧があった。

 どれも見た事の無い青い金属……いや、これってもしかして魔法石か?

 とにかく正体不明の鉱石で作られていて、圧倒的な存在感を放ちつつ俺を誘惑してくる。



 これが本当の宝の山か……。



 宝の山と言う言葉を知っていても実際に宝が山の様に積んである光景を見た事がある者はいるだろうか?

 少なくても俺は無かった、当然だ、今までの俺の人生はそう言った富裕とは無縁の代物だった。


『へへ……王都に家どころか城が建てれそうなお宝だな』

[そうね、そのぐらいは出来そうな気がするわ]

『もっとも、この宝が本当に本物ならの話だがな』

[偽物、もしくは幻とか?]

『確かめる必要があるだろ?』

[……うーん、まあ、そうね]


 ここが迷宮でなかったのなら喜び勇んで真っ先にお宝を回収するのだが。

 こんなのどう考えても罠だ、あまりにも怪しすぎる。


 これが罠だとしたらどんなパターンが想定出来る?

 宝が何らかの魔法や魔導具によって生み出された罠で、足を踏み入れた瞬間に底が抜けるとか?

 もしくは頭上から天井が降りてきて潰される、魔物が召喚された上で閉じ込められるとかか。

 罠を抜けた直後に宝を見せる事によって注意力が散漫した所で真の罠が発動する。

 如何にも迷宮にありそうな罠だ。


 とりあえずつついてみるか。

 もしもこれが幻影だったら実体がない筈だ。

 俺は流星を背から抜き、通路側から一番近い所にあった盾をつついてみる。


 コンコンっと、固い何かにぶつかる手応えが返ってくる。

 どうやら幻影ではないようだ。


 床を見てみる、特に異常があるようには見えない。

 少なくても俺の目には未解文字が描かれている事以外は何の変哲も無い床だ。

 最悪この文字列に普通の人間では理解出来ない魔法的意味があって、罠が発動する可能性も0ではないが、それを疑い始めると神造迷宮の探索なんて出来ないからな、あらゆる壁や床に文字は走っているんだから。


 意を決して俺は部屋に踏み入った。

 何も起こらなかった、入るだけなら問題無いようだな。

 ってことはもしかして、本当にこの目の前に広がる宝の山は本物で全て俺の物なのか?


 いやいや、そんな美味い話がある訳無い。

 俺ぐらい性格が悪い人間だと分かっちゃうんだよなあ、本当に嫌な奴の考えって言うのが。

 本物の中に偽物を混ぜる、宝の下に真なる罠が潜んでいるなど疑うべきシチュエーションはいくらでもあるぞ!!


 俺は大分疑いながらも慎重に宝の回収を始めた。

 ひとつひとつの宝の価値なんかは地上に戻った後じっくり調べればいい。

 折角魔法の袋があるんだ、罠が見つかるまでに出来る限り回収しないと……。





◆◆◆◆◆







『罠、無かったな……』

[死んだら元も子もないし、慎重なのはいい事なんじゃない?ちょっと過剰過ぎるけど]

『……』


 この部屋に入ってから宝を回収し終わるまでに三日ほど掛かった。

 罠の有無を警戒し過ぎたというのもあるのだが、部屋自体がめちゃくちゃ広かったのも原因のひとつだけどね。見渡す限りに広がっていた宝の山は全て魔法の袋の中に収まり、あとにはがらんとした大部屋だけが残された。


『とりあえず先に進むか……』

[そうね、いい加減身体がなまっちゃうわ]


 次の階層へと繋がると思われる階段は既に見つけてある。

 宝の下に埋もれていたのだ。

 この世界では魔法の袋は貴重ならしいので、現地人は俺達の様に宝を全て回収して階段を発見するなんていう荒業が使えない。案外これが本当の罠だったのかもしれないな……そんな事を考えつつ俺達は最深層を目指して階段を下りていった。


 六階層は四階層より前と同様石造りの道が続いていた。

 ただし、若干未解文字の光が薄くなったのか薄暗い印象を受けた。

 道幅は十分広い、高さも一階建ての建造物の二階程度まで広がっていて結構高い。

 何となくだが敵は大きい気がする、この迷宮は敵の大きさに合わせて道の作りが工夫されている気がしていた。俺が先頭を歩き少し後ろをドレッドノートがついてくる、いつもの陣形で進んで行った。


 六階層の敵はライオンの顔に熊の身体、背には羽が生えた異形の魔物と様々な息を吐く巨大な蛇の魔物が入り乱れて現れた。ライオン熊はその身に似合わぬ軽快な動きと鋭い爪で俺達に襲い掛かってきたが竜をも倒した俺達からすれば特に問題なく倒す事が出来た。雷槍が効いたのも大きい、雷槍で叩き落した後に剣で殺せばいいだけだった。


 問題は巨大な蛇の魔物の方だった。

 青黒い不気味な鱗は剣があまり通じず、魔法の効きもいまいちだった。

 なんと最強に思われたドレッドノートの魔法もそこまで効かなかった、とにかく固かった。

 その口から火や氷の息を吐くのはまだ良かったのだが濃い紫色の溶解液を吐くのが厄介だった。

 水蛇の盾で試しに受けてみたところ、盾を貫通しそうな勢いで溶かしていった。

 まだ辛うじて盾として使えなくも無い状態だが、もう長くは使えないだろう。

 そこからは溶解液は全力で避けつつ固い蛇をひたすら雷槍と剣で攻め立て、倒す羽目になった。

 これが中々骨の折れる作業だった。


 七階層、八階層も2種類の魔物の出る頻度の差はあれど大した変化は無かった。

 時間は掛かったが特に問題も無く先へ進む事が出来た。




『これは……明らかにやばい感じの場所だな』

[そうね、先へ進むのを中止して一回階段で休息を取った後進んだ方がいいかもね]


 八階層から続く階段をしばらく下りると、前方に大きな扉が見えた。

 翼を持った騎士……天使か?天使をかたどった装飾が施された途轍もなく大きな白銀の扉。

 今まで階段の先に扉があったことなんて無かった。……遂に最深層に辿り着いたのだろうか?


 俺達は念の為次に進む前に休息を取る事にした。

 今回は見るからに危険そうな階層に挑む前夜だ、食事も豪勢にしてみた。

 とは言ってもいつもより多めに肉を入れたスープとパンだけなんだけどね。

 ドレッドノートにはいつも通りいくら味の練り餌を食べさせる。

 こね回した団子状の練り餌を差し出すとガツガツとついばんで食べ始めた。

 いつも美味しそうに食うなあ、お前は。

 餌を食べてる時だけはただの魚だ、黙っていれば結構かわいい魚なんだよなあ。

 ドレッドノートの無邪気な食事風景を楽しみながら俺も食事を平らげ早々に寝た。

 明日は扉の先へ行く、今度は何が待っているのだか。

 不安も色々あった筈だが疲労から来る眠気が勝った、俺の意識はあっと言う間に落ちていった。



◆◆◆◆◆

 


 頭に響く凄まじい振動で一瞬にして目が覚めた。

 一体何が起こったのか、混乱しつつ剣を取り周囲を見渡せば異形の魔物が障壁に爪を立てていた。

 これは……一体何だ?

 1対の巨腕と普通の人間の腕が2対……計3対の腕を持つ謎の魔物。

 その顔は獣のようでもあるし、死者のようでもあった。

 その表皮は分厚い黒い毛で覆われている、身の丈は3メートルほどの筋骨隆々とした肉体を持つ。

 猿か何かの魔物なのだろうか?その魔物は爪を障壁に突きたて明らかな敵意を俺達にぶつけてきた。


 緑色の光で作られた結界が、黒猿の攻撃によって大きく揺らぐ。

 最初に感じた振動は結界が敵の来訪を知らせるべく放った揺らぎのせいだったのだ。


 結構不味い状況だ。

 ここは階段だ。広さこそ迷宮の規模のおかげかそれほど狭くは無い。

 ただやはり剣を振るう前提で考えると微妙だ、勾配もある、剣の振るい方にも制約が生まれる。

 魔法で打開するか?だがこの至近距離、結界も俺が起きるまでにそれなりに消耗しているようだ。

 あまり時間の掛かる魔法は使えない、奇跡もこの場面で役に立つ物は思い浮かばない。


 <石化>は相手の耐性が分からない場面では使う気が起きない。

 <貫通>を使うにはここは狭すぎる。

 <炸裂>は仕込む時間が足りないか──そんな事を悩んでいたがもう時間切れのようだ。

 黒猿の巨腕から繰り出された一撃を受け、遂に障壁が粉々に砕け散ってしまう。


 考えるより先に前へ出た。

 拳を振り切った黒猿の巨腕を思いっきり切り上げた。

 浅い、その深く固い毛は流星が刃を立てる前に滑り受け流してしまった。

 至近距離なので勢いもつけられず大きく振れなかったせいか。


 黒猿も黙ってやられたりしない、こちらへのしかかるように腕を広げ襲い掛かってくる。

 奴はでかい、二倍近くでかい。黒猿からすればこの距離感で小難しい攻防をする必要が無い。

 のしかかり、押さえ込み、圧倒的な膂力で一方的に俺を殺せば良いだけなのだ。

 

 だからこそ俺は階段を飛び回り黒猿から距離を取ろうと試みていた。

 だがこの猿、見た目の割に早い。

 腕だ、巨大な方の腕。

 あの腕で壁や床を支えにして瞬間的に加速しているんだ。

 狭いこの空間に適応している……というより特化しているのか?

 よく分からないが相変わらず不利な状況だ。

 階段を抜けて八階層に戻るか?でもそれで万が一、八階層にいる魔物と挟撃でもされてしまったら完全に詰んでしまう。──事ここに至っては作戦も糞も無かった、持ってる手段で倒すしかない。


[私が時間を稼ぐ!秘蹟を使って!]


 ドレッドノートが黄金色の盾を前面に生み出しつつ俺達の間に割って入ってきた。

 俺は焦る心を押さえつけ心の中で念じ、唱える。


(万物に安らぎを与える闇の神、弱者に眠りを、強者から隠れ潜む安寧を与える慈愛の神よ!その恩寵を我が剣へ与え給え──祝福(ブレス)


 流星が一瞬ギラリと光り輝いた。

 見た目はそれほど変わらないが、この剣は今この瞬間神器にも匹敵する力を秘めているのだ。


 ドレッドノートと入れ替わるように前に出て黒猿へ縦斬りを放つ。

 黒猿は右の巨腕でそれを受けたが巨腕は血の軌跡を描きながら階段を転がっていった。

 絶叫を放ちながら狂ったように残った5本の腕を振り回す黒猿、再びドレッドノートが前に出てその猛攻を凌ぐ、俺は一度後ろに下がり息を整えた後に奴の右足に水平斬りを放った、棒立ちでドレッドノートの展開した盾に攻撃していた黒猿の足はがら空きだったのだ。


 片足を失い黒猿は崩れ落ちるように階段に転がった、それでもまだ諦めていないのか滅茶苦茶に五本の腕を振り回してくる。ここで何も考えずに止めを刺すのは危険に思えた、しっかりと狙いを定めて……。


 黒猿の胸へ剣を突きこもうとしたその瞬間。

 黒猿が身体を捻り残った片足で凄まじい蹴りを俺に向かって放ってきた、加速する意識の中その伸びる(・・・)蹴りの軌道を読み、入れ替わるように前に出て尻から頭へ真っ二つに切り裂いた。


 息を整えながら最後の黒猿の蹴りについて考える。

 アレは一体なんだったのだろう?まだ俺と黒猿の間には距離があり、いくら奴が大きい魔物だからといって普通に伸ばして足が届くようには思えなかった。


 アレと似た現象を最近俺は目にした気がする。

 ドレッドノートが俺と竜との間に割り込んだ時だ、もしかしたら魔物の中にも<技能>を使える者がいるのかもしれないな。


『ありがとう、助かった』

[ふん、あのぐらいどうって事無いわ]


 つれないことを言いながらもドレッドノートはどこか誇らしげだった。

 守る技術を多く持っているし、案外頼られたりするのが好きなんだろう。


 俺達は黒猿を魔法の袋へ収めた後小休止を取った後に扉の先へ行く事に決めた。

 もう一度寝ようと俺は提案したのだが一度襲われた場所に長居する気が起きないとドレッドノートに反論されたのだ。改めて考えればその通りだな。


 寝ていた地点に戻り結界石や寝袋を回収した。

 結界石は結界が破壊されても壊れたりしない、生み出された結界と結界石の耐久度は全く別物だからだ、まだしばらくお世話になるだろう。


 ある程度気持ちも身体も落ち着いた頃合で件の扉の先へ向かう事にした。

 俺は白銀の扉に手をかけ思いっきり引き開けようとしたのだが──俺が扉に触れた瞬間、扉が光を放ち解けるように消えていった。


『これはまた……』

[一筋縄じゃ行かなそうね]


 俺達の眼前には地下にはあるはずのない黄昏時のようなオレンジ色の空、壁はなく、朽ちた道と神殿跡のような建造物。そして眼下には雲が広がっていた。

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