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14 未発見迷宮②



 ドレッドノートと共に階段を下っていく。


 今まで潜っていた塔部分と違い壁が月光石で作られている訳ではないらしい。

 普通の石材のようだ、周囲は当然暗い、等間隔に置かれたランタンの明かりだけがぼんやり周囲を照らしている。


 階段には埃が溜まり、天井の隅に張られた蜘蛛の巣が、この階段がどれ程の時間放置されていたのかを示している。少なくても数ヶ月は人が訪れていないだろう。


 階段を降り始めてからどれだけの時が過ぎただろうか。

 ようやく階段の果てが見えてきた。


 通路だ、途轍もなく広い通路。

 広さは大人が手を広げて十人並べそうなほど、高さは建物の四階相当か。


 壁や床には読めない不思議な文字が刻印されている。

 その文字がぼんやりと金色の光を放っていて回廊内はとても明るい。


『雰囲気が上と全然違うな』

[やっぱり上と違う迷宮なんじゃない?]


 正直俺もそう思う。


 迷宮と一口に言っても様々な種類がある。


 基本的に神造迷宮・魔迷宮・人造迷宮・天然迷宮の四つのカテゴリー分けをされ、更にその迷宮が生まれた年代を特定する事によって更に細分化される。

 

 神造は神が、魔迷宮は悪魔が、人造は人が作り出す迷宮だ。

 天然迷宮は何らかの条件が重なり自然発生的に生まれた迷宮を指す。


 つまり、どのような存在が生み出した迷宮かで迷宮の種類を分類する訳だ。


 そして意思ある者が作る以上、迷宮には作り手の趣向が現れる。

 罠が多い迷宮、強い魔物が多い迷宮、謎を解きギミックを解かなければ先へ進めない迷宮。

 それらを観察し、研究する学者によると、迷宮にも街娘のファッションと同様流行り廃れと言うものがあるらしい、その迷宮の傾向から迷宮が大体どの年代に生まれたのかを知る事が出来るのだ。


 上にあった塔型の迷宮は資料によると人造の迷宮とされている。

 大昔にこの塔に住んでいた魔法使いが製作したらしい。


 地下へ降りる階段があった部屋の様子を見るに、それが本当かどうか怪しくなってきたけどね。

 階段があった部屋は魔法使いの塔って感じじゃなかった、もしかしたら元々ここを監視する為の塔が、巡り巡って魔法使いの物になって何も知らないまま迷宮化させたのかもしれないな。


 資料には月夜の迷宮に地下があるという記述なんてなかった。

 だがそれだけで上と下が別の迷宮だと判断した訳ではない。


 俺がこの地下部分が別の迷宮だと判断した理由、それは壁や床を走る未解文字(アート)だ。

 未解文字とは神造の迷宮でよく見られる、人には理解出来ない神々の文字だ。

 神造の迷宮以外だと聖遺物(レリック)とか、神から与えられたとされる聖なる物に彫られてたりする。


 上の部分が人造で下の部分が神造、そんな事ありえるだろうか?

 あり得るかどうかは学者じゃないので知らないが、別々と考えた方が自然だろう。


『とりあえず進んでみるか、慎重にいくぞ』

[そっちこそね]


 静まり返った通路を黙々と進む。

 流星の特殊性能「その剣は所有者に身体強化・猫を与える」がランク7に至ってから、俺の足音は全く聞こえなくなった、石を蹴飛ばしても草を掻き分けても音が出ない、理屈は謎だ。

 ドレッドノートも空中を泳ぐ際に音を発しない。

 なので本当に何の音も聞こえない時間が続いた。


 しばらくすると、ドシン、ドシンと大きな何かが床を踏み鳴らす音が聞こえた。

 ドレッドノートに手振りで静止を促す。


『大きな何かが歩く音が聞こえた、デカイのがいるぞ』

[作戦は?]

『俺の魔法を準備し終えたら前進、最初は魔法で様子を見る』

[了解、私の魔法は必要?]

『一応いつでも詠唱出来るようにしておいてくれ』

[分かったわ]


 俺を先頭に音のする方へ忍び寄っていく。

 するとしばらくして三メートルはありそうな大型の魔物が見えてきた。


 巨人……いや、オーガか?

 だがオーガは大きな角・赤い肌・巌のような巨体である以外は人間と似た特徴を備えているはずだ。

 遠くに見える魔物は大きな角を持ち顔に巨大な一つ目をもつ謎の魔物だった。

 肌は青く、腕は丸太の様に太い。その手には鈍く輝く銀色の斧を持っている。


 <雷槍>を自分が生み出せる最大数、十五本展開し魔物へ放った。

 魔物は魔法を展開した時点でこちらへ気付いた、魔力を感知したのだろう。


 槍は雷速で魔物に突き進んでいく、魔物は避けようとするが──遅い、全ての槍が魔物の足を刺し貫き通路に魔物の絶叫が響いた。


 ──まずい!


 信じられないほどの絶叫が通路に響いている。

 もしあの魔物の仲間がいたら……!


 通路の奥から凄まじい足音が聞こえてきた。

 あの魔物の仲間が奥に潜んでいたのだ。


[撤退する?]

『迷うところだな、足音的に向こうさんは七体ぐらいだ』

[やれそうだから撤退するまでも無さそうって事?]

『ああ』


 俺はすかさず謎の魔物の元へ向かう。

 増援が来る前に止めを刺す為だ。

 奴は必死に最後の抵抗をしたが、流星で首を断つとすぐに動かなくなった。

 魔法の袋の中に魔物をしまう、魔法の袋はどんな巨体でも入り口を広げるとすぐに飲み込める。


『わざわざ向こうから来てくれるんだ、お前の魔法で一掃してやれ』

[ふん、よゆうよ!]


 ドレッドノートの体表に燃えるような斑点が浮かび上がり、赤い光球がドレッドノートを中心に漂い渦巻いていく。魔法の準備が終る直前に増援がこちらへ辿り着いた、全員先程の魔物と同じ見た目だ、いや、手に持つ武器が少し違うか?剣や槍を持っている奴もいる。


[<炎色斑紋(パーマーク)>]


 無数に飛び交う光球が魔物を飲み込んでいく。

 次の瞬間、炎の嵐が全てを飲み込み魔物達は絶叫を上げながら倒れていった。


 炎が収まると同時に魔物に近付き死体を回収していった。

 解体は上に戻ってからでいいだろう、でもひとつだけやっておくべき事がある。


 死体を一個だけ残しておきエンブレムに手を当て呪文を唱える。


『<識別アイデンティファイ>』


 エンブレムが輝くと同時に、目の前の魔物の情報が頭の中へ──。


 名前:名称不明の魔物の死体

【説明】

 冒険者ギルドに情報の無い魔物の死体です。

 魔物の肉体を出来るだけ持ち帰り、ギルドへエンブレムを提出してください。


 

 なんだと。



 情報の無い魔物?

 つまり識別とはギルドが把握している情報しか知る事が出来ない魔法だったのか?

 という事は、これから先なんでも識別で判断できると考えるのは危険か。


[どうだった?]

『何故か情報が見れなかった、ギルドに情報が無いからって』

[おそらく、どこかの施設で情報を集積して、それを共有する魔法なんじゃない?]

『うーん、役に立たないな』


 識別は過信できないようだ。

 どんな情報でも知れる都合のいい魔法、そんなものは無いってことだな。


 それから何度か一つ目を倒した、大きいだけで魔法も剣もよく効くので対処は楽だ。

 この迷宮の難易度は、意外と大した事無いのかもしれない。


 しばらくすると階段が見えた。

 通路同様、未開文字が床や壁にびっしりと掘られた階段だ。



 ──階段に足を踏み入れると同時に、周囲の文字が一瞬強く光り輝いた。


 何が起こった?と周囲を見渡してみても変化は無い。

 先程の輝きはもう無く、この迷宮に入った時から変わらない光量に戻っている。


 ……いつまでも階段で佇んでいても仕方が無い。

 俺達はやや警戒しながらも階段を降りていった。



◆◆◆◆◆



 第二階層は先程より通路が狭くなった。

 道幅が大人が五人並べる程度、高さは二階建ての建物ぐらいか。

 前に比べれば随分と狭くなったもんだ。


 壁や床の見た目的な変化は無い。

 だが周囲の壁から漂う魔力の濃度が高くなった気がする。

 嫌な雰囲気だ、俺はそう思った。


 しばらくすると、重い足音が聞こえてきた。

 先程の階層で見かけた一つ目と同じ物に思えた。


 音がする方へ歩いていくと、やはり一つ目が居た。

 <雷槍>を4本生み出し、両腕と両足を穿とうと放った。

 魔法は四条の光となって、狙い通り一つ目に当たり。


 まるで霧に消えるかのように魔物の肌に触れた瞬間雲散霧消した。


『第一階層の奴と違う!別種か?!』


 一つ目がこちらに駆けて来る、速い、上で見たウスノロとは違う。


 俺は背に吊るした流星を抜いた。

 魔法が効かないなら剣で戦うしかない。


 前へ踏み出し、加速する。

 彼我の距離があっと言う間に縮まる、既にお互い必殺の間合いだ。

 一つ目が右上から左下へ凄まじい速度で斧を振るう、奴の股下をくぐるかのように滑り込み回避した。

 切り替えし、その太いくるぶしへ突きを放つ──貰った!突きから強引に右へ引き裂いた。

 膝を突き、唸る一つ目、その瞳は血走り怒気を孕んだ目でこちらを睨みつけてくる。


 斧を握り締め俺と睨みあっている一つ目が突然倒れた。

 <銀壁>を使い硬くなったドレッドノートが奴の死角から体当たりをぶちかましたのだ。


 その隙を逃す俺ではない、一気に駆け奴に止めを刺さんとする。

 一つ目も苦し紛れにこちらを手で掴もうとするが──速さが違う。


 伸ばされた丸太のような手を跳ねるような動きで避け、逆に切り飛ばす。

 それでも身をよじり、ちぎれた腕を振り回し最後まで抵抗したが隙を突き首を飛ばされると、やがて動かなくなった。 

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