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第98話 無限賢者というまやかしの強さの代償

 私とジェンキンズの魔術対決は、ジェンキンズの方が有利に思われた。いくら強力な魔法で攻撃しても、彼にはダメージが通らず、スタミナドリンクのような薬で賢者能力アビリティーを回復されるのだ。体力を消耗させる事さえできないという事だ。


「小娘が! ほんの僅かでも俺に勝てると思ったか!? 甘いんだよ!」


「くう、魔術戦では拉致があかない。ならば、接近戦で勝負するよ!」


 私は、レッドラムの戦いを思い出していた。空中を銃で浮遊する技もできるようになったが、彼女は接近戦にも強かった。銃を使って相手の動きを制限して、最後の一撃による恐るべき破壊力で相手を倒すという戦い方だった。


(レッドラムちゃん、私に戦い方を教えてくれたんだね。私なりのやり方で、ジェンキンズを倒してみせるよ!)


 レッドラムは別に、私に戦い方を教えていたわけではないが、結果的にそうなっていた。いや、仲の良い友達のようなフレンドリーな私に、無意識のうちに友情が芽生え始めていたのだろう。でなければ、私と彼女との実力差では勝負にすらならなかったはずだ。


 お互いに辛い境遇から耐えて来た為に、お互いの考えが手に取るように分かっていた。今の私ならば、もしもレッドラムが私と同じ状況だったらどうするかも瞬時に考える事ができていた。まるで、彼女の戦術が教え込まれているようだった。


「まずは、『魔法の(マジック)ブルーム』で限界ギリギリまで相手を翻弄する。そして、相手のバランスや逃げ道を無くしていき、動揺させる。後は、怒涛の連続攻撃を仕掛けて、相手が避け切れないように誘導するだけ」


 私は、レッドラムのように相手を翻弄していた。宙を飛びながら、キックやパンチで相手を揺さぶって行く。ジェンキンズは攻撃が当たらず、逆に小技のような攻撃を受けて、イライラを募らせていた。攻撃方法が荒くなり、動きを見切るのは簡単だった。


「喰らえ、レッドラムちゃん直伝・魔法マジックNo.(ナンバー)81『燃え盛る(バーニング)血潮ブラット』!」


 私は、高速で飛行して、ジェンキンズの目の前まで来ていた。彼の頭目掛けて、火球を発射させる。彼は面食らった顔をするが、攻撃が目の前で発射されたのでギリギリ紙一重で躱していた。髪の毛数本が火球で燃えていた。


「危ねえ、ギリギリ回避できたぜ!」


 彼が攻撃を避けて下を見ると、子供のような笑顔を見せた私がしゃがんでいた。これもレッドラムに成り切っているので見せる笑顔だろう。可愛い笑顔だが、相手にとっては恐怖でしかない。私は、銃を撃った反動で急停止する事ができたのだ。


「うわああああああああああああ!」


「喰らえ、レッドラムちゃんの一撃!」


 私は、レッドラムのような身体能力はない。ジャンプだけでは、彼女ほどの威力を込めた一撃は叩き込めなかった。その為、地面に1発火球を放ち、反動で攻撃力を上げる。銃を撃った反動を使い、そのままジェンキンズのアゴにエイトガンをぶち当てていた。


 ジェンキンズは、アゴの一撃を喰らい、ボクサーのアッパーがアゴに直撃したように震えていた。彼は風の力で防御をしていたようだが、それでも重い一撃を加えた事ができた。プルプルと足を震わせて、ギリギリ立ち上げる事ができていた。


「まだ、負けてはねえぞ……」


「うわぁ、しぶとい。足が産まれたての子鹿のような状態なのに……」


 私はエイトガンを構える。まだ1発分ほど残りがある。この状態ならば、火球を避ける事も防ぐ事もできないであろう。そう思ってエイトガンを見ると、ダイヤル部分がコロリと落ちて転がっていた。もう火球を放つ事もできない。


「あわわわわ、ちょっちタンマ!」


「待てるかよ。フラついているが、ドリンクさえ飲めば俺は強くなれるんだ!」


 ジェンキンズは片手でドリンクの瓶を開けて、一気に数本を飲み始めた。テロップには薬の服用は、容量用法を正しく守ってお飲みくださいと出てくるくらいに暴飲している。私に恐怖を感じた事を恥じているらしい。


「ふー、これで俺は無敵だぜ!」


「あわわわわわ、エイトガンがないなら、私の負けだ……」


 私は、ジェンキンズが回復しないうちに後退りを始めていた。武器が無ければ、どんな技も発動させる事ができないのだ。怯える私だったが、ジェンキンズは怒り狂ったような目をして睨む付けていた。もう容赦する気もないのだろう。


「いいや、ローレンの勝ちだぜ!」


 グロリアスは、私を支えるように肩を抱き、自分と交代するように合図する。どうやらそれなりに休憩できたようで、笑顔で笑っていた。その笑顔を見て、彼にとっては私の勝ちであるという結論を下した事が分かった。


「グロリアス……」


「ジェンキンズ、最後の警告だ。これ以上、賢者能力アビリティーを使用しないほうが良い。お前は今、ギリギリの状態にいるんだ。攻撃をやめて、俺達と一緒に来るんだ。無理に事情を聞くことはしない!」


「はっ、バカが! 命乞いをしているのがモロバレだぜ! 俺の最大最強の技で2人とも消してやるよ! フルパワーの暴風ハリケーンだ!」


 きりもみ状の風球が突っ込んでくる。今までよりも数倍大きく、本当に彼の必殺技のようだ。エイトガンを失った私では一溜りもなく負けてしまうだろう。風球の中は、風の刃が飛び交っており、入った瞬間に切られて、五体をバラバラにされるだろう。


「うう、私達もレッドラムちゃんみたいになるのかな?」


「安心しろ、お前は絶対に傷付けたりしない。俺が全てをかけて守ってやる!」


 グロリアスは、巨大な鉄の球を作り出す。大きさは風球と同じであり、かなりの重さもあるようだ。それを砲丸投げのように、高速で相手に向かって投げ付けた。巨大な鉄球は、引きつけられるようにジェンキンズの方へ向かって行く。


「バカな……、こんな巨大な球を投げられるはずは……。いったい、どういう事だ!?」


「俺のとっておきだ。巨大な鉄の球に引力を付け加えておいた。お前に向かって真っ直ぐに飛んで行くようにな。ブラックホールと鉄の球を合成させた『銀のシルバーボール』だ。消すのではなく、お前に直接肉体的なダメージを与える。


 本来ならば、もう少し早く出しておくべきだった。お前にはすまないと言うほかあるまい。これがあれば、お前をもっと早めに捕まえる事ができたのだが、今思い出したんだ。まあ、実力では勝てなかったと諦めてくれ!」


「このお、負けるか!」


 ジェンキンズは、風を強くして球を回避しようとするが、グロリアスの鉄の球は真っ直ぐに彼の方へ飛んで行った。風球も風の防御も突き抜けて、彼に体当たりを食らわせる。彼は、鉄の球と一緒に飛んで行った。少し遠くの草の茂みまで飛ばされた。


「まだだ、俺はまだ負けてねえ!」


 とんでもなくしぶとい彼だったが、体に異常を感じ始めた。立とうとするが、足に力が入らずに仰向けに倒れ込んでしまった。どうやら体に負荷が溜まり過ぎたらしい。もはや立つ事さえできない状態に陥っていた。


「なんだ、どうしたというんだ!?」


賢者能力アビリティーを使い過ぎたな。お前は賢者タイムを毛嫌いしていたようだが、実は体を守る為の大切なシステムなんだ。当然無理をして賢者能力アビリティーを使い続ければ、体の細胞自身が死んで行くのだ。


 さっきまではギリギリ回復可能レベルだったが、今ので生命を維持する為のエネルギーまで使い果たした。後は、細胞が徐々に死滅して行くのを待つしかないんだ」


 グロリアスが語っているうちに、ジェンキンズの体が灰のように白くなり始めた。足が白くなったかと思うと、その指先からポロポロと崩れ始めてきた。まるで火で焼かれて体が灰になっているかのような現象だった。


「ぎゃあああああああああああああああああ、痛い! 痛い! 痛い! 助けてくれ!」


 ジェンキンズは、あまりの体中の痛みに悶え始めた。それでも灰になって行くのを食い止める事はできない。悲痛で私達にまで助けを求めるような有様だった。


「グロリアス、助ける事はできないの!?」


「ローレン、お前……」


 グロリアスは、『ローレン、お前の両親を殺した奴なのに助けて良いのか?』と言おうとしたが、必死で助けようとする私を見て言葉を出す事をやめた。そして、目を閉じて、自分の気持ちを必死で押さえ込めていた。


「さっきまでならいくらでも方法があったが、今の状況では不可能に近い。だが、可能な限り助ける方法を模索してみよう。お前のアドバイスも役に立つかもしれない。どんどんアイデアを出せ。まずは、体を凍らせて細胞の死滅を防ごう!」


 グロリアスは、ジェンキンズの体を凍らせてみるが体の死滅を防ぐ事はできなかった。それでも体の痛みを麻痺させる事ができたのか、痛みは抑えられていた。彼は意識を取り戻し、正常に話せるまでに回復したように思われた。


「おお、さすがはグロリアス。もう話せるまでに回復したよ。これで一安心だね!」


「いや、残念ながらそれは無理だろう。人間というのは、死ぬ寸前に意識をハッキリとさせる時もあるんだ。一時期は回復したように見えても、数分後には息を引き取るというケースが多く存在する。これもそんなようなものだろう」


「そんな……」


 私は、ジェンキンズの顔に涙を流して泣いていた。私が尽力しても、彼の命を助ける事はできないのだ。ただ、ゴメンねと謝るしかできないでいた。ジェンキンズは私を見て、笑顔を見せる。まさか、死ぬ間際に涙を流されるとは思っていなかったらしい。


「へっ、まさか殺した相手の娘から死ぬ寸前に涙を流されるとは思わなかったぜ。その純粋さがお前の最強の武器なのかもな。今なら、危険な事に雇い主さえ裏切ってしまいそうだ。だが、俺にもプライドがある。雇い主の事だけは聞いてくれるなよ」


「ローレン、彼に尋ねたい事はあるか? 俺には、雇い主の情報が聞き出せないなら質問する意味はない。まあ、ボスが関係している事が薄っすら分かっただけでも収穫というところだ。お前に尋ねる権利を譲ろう」


 瀕死の状態であるジェンキンズを見て、グロリアスは私にそう尋ねて来た。どうやら雇い主の情報以外には答えてくれる気らしい。本来ならば、両親を殺した理由とかを尋ねるが、今の私にはどうでも良い事だった。


「人を殺す人生って楽しかった?」


「ちっ、オブラートに包まない奴だな。今の状況を見てわかる通り、悲惨なモンだよ。小さい犯罪を犯している時が一番スリルがあった。それからドンドン滑るように悪い奴に引き込まれて行って、結果はご覧の有様さ。お前は、同じようになるなよ!」


「うん、ならない」


「能力を持っている賢者は、いずれ選択を迫られるもんだ。お前は、今日その一つを選択した。結果は、敵討ちなどせずに自分の納得する結論に至ったんだ。お前は、今のところ俺とは違う輝かしい場所にいる。その状態を維持していけよ。


 今日の正しい選択をした褒美をやらないといけないな。いずれ、お前はトンデモナイ賢者と出会うだろう。その前に、お前の父親や母親と再び出会う事になる。その2人には注意していろ……」


「それはどういう意味?」


 私は詳しい意味を彼に尋ねるが、彼からの返事が返ってくる事は永久になかった。グロリアスが、彼の死んだ事を私に伝える。すると、見る見るうちに彼の体が灰に成っていき、数秒くらいで白い粉の塊になってしまった。風がそれをフワリと四散させて行く。


「あわわわわ、飛んで行ってしまう!」


「わずかでも残しておいてやろう。せめて、彼の家族の元に届けなければ」


 グロリアスは、自身の能力を使い、骨壷を作り出していた。私は、それを可能な限り集める。わずかでも彼が生きていたという証拠が残っていた。私達が行動しなければ、彼は灰に成って、風に四散させられて生きていた証拠さえも残らなかっただろう。


「ローレン、俺達が戦っている賢者協会のボスというのは、相当手強い相手だ。彼のように敗北すれば自然と消滅するような怪しい薬物や能力などを持っているだろうし、手下となっている賢者達も危険人物揃いだ。


 お前の両親の真の仇を取るには、その黒幕であるボスを捕まえないといけない。それができなければ、更なる悲劇が水面下で大量に発生するのだ。お前の協力が必要だ。立派な賢者になり、大勢の仲間達と一緒に戦い続けるんだ!」


「うん、ジェンキンズも被害者の1人だったんだもん。悲劇を生み出している黒幕を捕まえないと、また多くの人が苦しんでしまう。私もなんか頑張ってみるよ!」


「まずは、賢者学校でしっかり学ぶ事だ。入学の手続きは済ませておく。最低一ヶ月ほどは俺との修行が必要にはなると思うが……。七つの自然属性の内、3つ以上は自分で扱えるようにならないといけない。ダイアナからのお前への課題だそうだ」


「うん、ちょっとは頑張ってみるよ!」


 こうして、私とグロリアスとの個人的な修行が開始された。その後、死んだキングとレッドラムの遺体はどこかへ消えており、行方不明扱いになっていた。


 おそらく『闇の(ダーク)道化師クラウン』の残りのメンバーである赤馬あかば凛子りんすが回収したのだろう。その本人もどこかへ逃げて見付からなくなっていた。


 唯一身柄が拘束されている神崎かんざき真火流まひるは、ジャックによって個人的に世話を受けていた。その為、ダイアナやグロリアスは行方不明扱いにしている。ジャックはやはり特殊な性格をしており、味方に有利な状況でも隠してしまう癖があるのだ。


「おい、ジャック。何を考えている?」


「ふふ、僕が君を匿っている事が気になるのかい? そこまで深く考える必要はないよ。まず、君は結構な重傷を負っていたから、ムリやり情報を聞き出すという行為は危険だと医者の観点から判断した。グロリアスはともかく、ダイアナは拷問までするかもしれない。


 次に、僕も忙しい身なんだ。君が優秀な賢者であるなら、僕の代わりに仕事を手伝ってもらおうと思ってね。僕が君と仲良くしていれば、匿っていた事を後で知ったとしても危険は無いと判断し易いだろう。そのまま教師になれるかもしれない。


 最後に、君に興味のありそうな依頼を受けてしまった事だ。なんでも、神という少女が田舎の村で出現したという情報だ。その少女を賢者学校で教育させたいというのが目的らしい。ちょっと勧誘して来てくれるかい?


 僕が可愛い女の子と一緒に帰って来てしまったら、僕のフィアンセのハンナちゃんが傷付くかもしれない。枕を涙で濡らす彼女にはしたくないんだ。傷の手当てをして、多少の恩義を作った僕の命令ならば、ある程度までは答えてくれるだろう?」


「ふー、今回限りですよ! それにしてもジャック、君は不思議ちゃんに見えて意外と考えているので驚きました。ハンナちゃんという女の子が枕を涙で濡らすという所以外は納得する事ができます。良いでしょう、神と呼ばれる少女の正体を暴いて来てあげますよ!」


 こうして、傷の回復した真火流まひるは、ジャックの紹介した任務をこなす為に田舎町へ向かって行った。神と呼ばれる少女とは、いったい如何なる人物なのであろうか?


 ちなみに、お城に引きこもっていたアリッサは、数日後に部屋の中で発見された。自身の小説が完成して、有頂天に踊り回っていたという。戦闘については、小説の執筆に夢中で気が付かなかったそうだ。グロリアスによれば、良くある事だという。

ローレン役の子役、アルベルト・シルフィンさんが役から3年後の16歳時にこの話を読んだ時の反応。


「うわぁ、ジェンキンズって、オ◯ニーのし過ぎで死んだのかよ。だっせ!」

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