第96話 グロリアスVSジェンキンズ
私がグロリアスから離れると、すでに2人の戦いは始まっていた。グロリアスも冷静さを保っているように見えるが、心の中は怒りの感情でいっぱいだった。親友のキングを殺され、その娘のような弟子も無残な姿で死んでいたのだ。
「このぉ、膨大な風の力で押し切るつもりか? ならば、こっちもオリハルコンの刃で体ごと切り裂いてやるよ!」
「おやぁ? 冷静さを保っている冷酷な奴かと思ったら、意外と本人自身が殺す気満々じゃないか。弟子の女の子を前にして、復讐などさせたくないと思っていたが、いざ俺と向き合うと怒りが込み上げて来やがるぜ。
まあ、その方が、無残に敗北した時の絶望感が増して良いけどな。それに、可愛い弟子ちゃんも見ている。お前を殺した後は、俺が彼女を美味しく頂いてやるよ。俺には勝てないと悟れば、ゆっくりと従順な小娘になるだろうしなぁ!」
「ほざいてろ! 俺に力だけで勝てると思うなよ!」
「力技だけ? こんなピンポイント射撃もできるぜ?」
ジェンキンズは、風の嵐でグロリアスの身動きを封じていたが、グロリアスがそれを上回る動きと攻撃で攻めようとすると攻撃方法を一変させる。今度は、風の力を一点に集中させて、超高速で小石を撃ち出す攻撃をして来た。
オリハルコンの剣や体に当たり、グロリアスの動きが一瞬止まる。連続でやられれば、イライラを増幅させて、グロリアスの動きを単調にさせる事ができるのだ。動きをあらかじめ知っていれば、弱くなった関節部分を攻撃する事も容易なのだ。
「どうだ!? このまま賢者タイムまで押し切ってやるよ!」
「なかなか器用に攻撃するな。動き辛くてイライラしてくるぜ。ならば、次の攻撃方法に切り替えるだけだ!」
グロリアスは、腕の刀だけオリハルコンの素材にして、残りの体は水飴のように柔らかくなる。小石が体を突き抜けて、ダメージをまるで受けない。そのまま小石を通り越して、ジェンキンズを攻撃する。ジェンキンズ自身は生身の体のままだった。
「おっと、刀の一撃を喰らっては堪らない。風のバリアーで強制的に空振りさせてもらうぜ!」
ジェンキンズは、ムリヤリ風を発生させて、刀の軌道を自分から逸らしていた。何度切り掛かっても、刃がその身に当たる事はない。だが、グロリアスはそこも考えて行動していた。彼が自分の攻撃をどうやって避けるかを分析する為に攻撃したのだ。
(風のバリアーで、刀の軌道を逸らす防御か。刀は本来風を受け難い性質を持っている。7賢者のように体を風に変えれる能力まで昇華した者ならば、風を使って刀を逸らすよりも擦り抜けた方が効率は良いはずだ。そこまで成長してはいないという事だろうか?
体を風や水、炎などに変える場合はリスクもある。風や水は、賢者自身が操れないほど拡散されてしまえば強制的に賢者タイムになるし、炎は消えてしまえば賢者タイムになる。そのリスクを避けたという事だろうか?)
グロリアスは、1つの結論が出かかっていた。彼は5年前まで3流賢者として知られていた。その頃は、大した実力もなく、ただ数個の技を使えるに過ぎない。それが急激に強くなったのだ。その強さには、何らかの裏があるように見られた。
(普通で考えるなら、コイツに師匠が付いて技や基本的な能力が向上したと考えられる。しかし、コイツは賢者タイムを全く恐れていない。どんな賢者でも、まずは賢者タイムにならないように、力を制御する技術から入る。
それに対して、コイツは最強レベルの技や防御を使いまくり、完全に浪費しているとしか思えない。まるで、俺の知っている奴を見ているようだ。という事は、賢者タイムにならない出所があるという事だ。それを見極めれば、ローレンにバトンタッチする事ができる!)
グロリアスは、ちらりと私の方を見ていた。両親の敵討ちをさせるつもりはないが、それでも難い賢者を私の手で捕えさせようと考えていた。彼自身の賢者タイムも近いし、しばらく私が相手にすれば勝機は増えるのだ。
(賢者タイムは10分間。しかし、賢者タイムにならなければ、1分間で1割は回復する事ができる。賢者タイムになってしまえば、10分間丸々能力は使えないが、ある程度残しておけば、回復しながら使う事は可能だ。その方が、コイツと戦うには有利だろう)
何も賢者能力を使用しないというのが条件だが、賢者タイムにならずに能力を回復させる事は可能だった。私がわずかでも時間を稼げば、グロリアスが能力を使える時間を稼ぐ事ができるのだ。
「何、よそ見してやがる!」
「しまった!」
ジェンキンズは、水飴化しているグロリアスを攻撃する。体が四散してしまえば、強制的に賢者タイムにする事ができるのだ。そうなれば、10分間は賢者能力を使用する事ができなくなるのだ。
「これで、終わりだ!」
「それはどうかな? アリッサとの修行が役に立っているぜ!」
グロリアスは、風の攻撃を受けるよりも早く、なんとか体を鋼鉄に変える事ができていた。オリハルコンよりは防御力は弱いが、通常の攻撃ではどうにもできないほどの硬さを持っている。とっさの判断だったが、なんとか強制的な賢者タイムを免れていた。
「くう、速い……。ならば、攻めて攻めて賢者タイムにしてやるぜ!」
「こっちも、切り札を出させてもらうぜ! 防御してるのも飽きたんでな!」
グロリアスは、ブラックホールを作り出して、ジェンキンズにぶつける。巨大なブラックホールが目の前に出現して、彼は焦り始めていた。どんなに風で押し返そうとしても暖簾に腕押ししているように効果が全くない。
「うわあああああああああああ!」
「別に、力技だけが実力ではないという事だ。全てを飲み込むブラックホールなら、風で防ぐ事も容易ではないだろう?」
「ぐううう、俺を舐めるな! こんなもの、俺の実力の前には効かねえ!」
ジェンキンズは、風の力でムリやりブラックホールの軌道を変えていた。自分の全ての力を出し切り、なんとか直撃は避けていたようだ。本来ならば、これで賢者タイムに陥るほどの膨大な風を使った防御だったのである。
「はあ、はあ、はあ、俺は負けねえ!」
「そろそろ無限賢者様のネタバレを見せて貰おうか?」
グロリアスがそう言いながら彼を見ると、スタミナドリンクのような飲み物を口にしていた。それを服用して、無理に賢者タイムを避けているようだ。再び膨大な賢者魔法を使えるほどの力が漲って来ていた。




