表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/106

第95話 恐怖の記憶が蘇る

 キングとレッドラムは、謎の賢者の嵐のような攻撃を避ける。しかし、今まで見た事もないような規模の攻撃力だった。私の火球ですらビビっていたキングには、彼の攻撃力は脅威でしかない。交戦できる次元を軽く超えていたらしい。


「レッドラム、ここは一時退却だ。俺の賢者能力アビリティーを使って逃げた方が賢明らしい。さあ、この円を使って逃げ切るぜ!」


 キングは、地面に2メートル級の形状記憶合金を置く。小型に折り畳まれていた輪っかは、一瞬にして2メートル級の2人分が優に入れるワープホールと化していた。地面の下が未知の世界に変わったような光景だった。


「キングが戦わずに撤退するなんて、それほどの奴だっていうの?」


「正直言うと、あのローレンとかいう小娘にも恐れを感じていたよ。俺の賢者能力アビリティーは、完全に技術能力に頼り切った戦い方だ。逆に言えば、巨大な攻撃技には一切対応できない。俺が対処できる力量を持っていれば、力技で負けちまうからな」


 キングとレッドラムは、ワープホールに入って退却しようとしていると、物凄いスピードと正確性で小石が飛んで来た。円の縁にあたり、円が破壊されるほどの威力を誇っている。それを見て、キングは死期を悟っていた。もうワープ能力は使えないのだ。


「レッドラム、全速力で逃げろ! お前が逃げ切るまでは時間を稼げるように何とか踏ん張ってみるからよ……」


「ええ、私1人で!?」


「逃げろ、奴の狙いはお前だ。お前が逃げれば、奴も注意力が散漫になるはずだ。俺がそこを狙って倒すから……」


「うん、分かった」


 レッドラムは、とりあえずグロリアス達のいるであろう城まで向かって行った。一番近場で安全に逃れられる場所といえば、さっきまで戦っていたダイアナ達のいる場所しか思い付かなかったようだ。ムシの良い話だが、匿ってもらおうと思っていた。


「良い判断だな、オッさん。だが、無駄だぜ。俺の前に10秒でも足止めできると思っているのかよ?」


 謎の賢者は、巨大な刃と化した風をキングに浴びせかける。物の数秒で体を切り裂くような恐るべき威力を誇っていた。


(ふん、因果応報って奴か。人は、自分が蒔いた物を刈り取る。俺は子供達を助けたいと奮闘していたのだが、自分の判断だけで行動した結果、トンデモナイ奴まで呼び出してしまったようだ。


 せめて、赤馬あかば羊子ようこことレッドラムには危害を加えないでくれよな……。全部俺が蒔いた種だ。アイツは、俺が武器の扱い方や教育を受けただけに過ぎない。


 ローレンとかいう小娘達と一緒に学ばせたいんだよ。そして、同じように幸せを掴み取って欲しいんだ。俺は教育を間違えていたようだが、それは全部俺の責任なんだよ。全部、俺に受けさせてくれや……)


 キングは、自分のこれまでしていた事に、心の中で懺悔ざんげし始めた。良い事もしていたが、中には非人道的な事もあるのだろう。レッドラムが犯した残虐な行為も黙認していた時も少なからずあるようだった。


 キングの体は、一気に切り刻まれ、ただの肉塊となっていた。謎の賢者の力は強く、痛みさえも感じる間も無く死んでしまったようだ。だが、謎の賢者を足止めする時間は稼げなかった。キングが死んだ様子を、レッドラムが目撃してしまう事になった。


「いやあああああああああああああああああああああああああああ、キング!」


「ははは、良い声で鳴くなぁ! レッドラムとかいうガキだよなぁ? お前も死にな!」


 レッドラムは、謎の賢者の攻撃を避ける事さえしなかった。キングを目の前で殺されて、精神的な安心感が完全に欠落したようだ。身動きさえも取れずに、一気に攻撃を喰らい、キング同様にただの肉の塊となって地面に倒れ込んでいた。


「くっくっく、行けねえ! レッドラムまで殺しちまったぜ! まあ、力があり過ぎたって事だよな。良く見たら、結構可愛い女の子だったのに勿体無いねぇ。まあ、ボスは生死問わずと言っていたし、まあ良いか!」


「良くねえよ!」


 謎の賢者の前に、グロリアスが立ち塞がっていた。どうやらキングを追って来たようで、キングやレッドラムがやられてしまう所を遠目で見ていたらしい。助けるのが遅くなり、自責の念を抱いているようだった。


「すまない。助けられなかった……」


 レッドラムの遺体に自分の服を掛けて、その哀れな姿を見えないようにしていた。彼女は幼いながらも美しい少女だった。それが無残な姿で殺されたのだ。グロリアスなりの敬意を込めての葬いといった行動だろう。


「くっくっく、レッドラムの遺体は、こっちに渡して貰おうか? 何らかの実験に使いという依頼主からの命令なんでな。俺とお前は、今回は味方同士だ。2人ともキングという暗殺者から賢者協会のボスを守るのが狙いだろう。戦う理由はないぜ?」


 グロリアスは、一通りレッドラムの遺体を綺麗に整えると、彼の方を向く。全く知らない間柄ではなく、少しは彼の情報を知っていた。


「お前は、危険度ランクC級の犯罪者ジェンキンズ・クリストファー。窃盗やら詐欺といったセコイ軽犯罪に手を染めていたはずだが、そこまでの賢者能力アビリティーは無かったはず……。独学で賢者能力アビリティーを学んだ3流賢者だったはずだが……」


「ふん、随分と昔の話だよ。5年前くらいからは、俺は超一流の無限賢者になったのさ。最高レベルの大賢者達を圧倒的な力で殺した。今の実力は、危険度ランクS級の世界的な犯罪者を軽々と殺せるほどの実力者なんだぜ。


 そして、賢者達からは認められて、お前と同じ最強賢者に名を連ねる一員となっているぜ。お前とほぼ同業者といった所さ。依頼主の命令があれば、どんな命令でも請け負うスペシャル賢者様さ。以後、よろしくな!」


「依頼主というのは、賢者協会のボスか?」


「ノーコメントだ。依頼主を伏せておくのは、探偵としての常識だろ?」


「まあ良い。お前を捕らえれば、誰が何を目的に行動しているかも分かるはずだ。悪いが、拘束して尋問させてもらうぜ!」


「けっけっけ、俺を捕えるとか、できるのかな?」


 グロリアスとジェンキンズは交戦しようとしていると、草の茂みから物音がし始めた。2人は、突然の物音に注目する。どうやら、キングやレッドラムを追って来た人物がもう1人いる事に気が付いたようだ。


「レッドラムちゃんは、こっちに飛んで来たはずだけど……」


 草の茂みから現れたのは、私だった。グロリアスとジェンキンズが激しい緊張感で睨み合っている。その空気をぶち壊すように登場した。2人とも、出て来た私を見て、一瞬だけ気が緩んでいた。


「あっ、グロリアスだ。それと、そっちは……」


 私は、グロリアスと対峙している人物を見て驚愕する。そいつは、かつて私の両親を死に至らしめた極悪人だったのである。いずれは殺そうと決意していたが、こんなタイミングで出会うとは思わなかった。恐怖の記憶が一気に蘇ったのである。


「きゃあああああああああああ、こいつは……。私のパパとママを殺した謎の賢者!?」


「あーん? 誰かと思ったら、その銀髪には覚えがあるぞ! 確か、俺が強くなって初めて依頼を受けた時のターゲット・エヴァンズ夫妻、その娘にそっくりだな。まさか、あの状況から生きていたとは……。もう一度会えて嬉しいぜ!」


 ジェンキンズは、嫌らしい顔で舌舐めずりをする。かつての凶悪な犯罪者の顔そのものだった。私は、恐れながらも憎しみを露わにし始めていた。この男が目の前に現れた時には、殺してやろうと思い定めていたのだ。


「お前は、謎の賢者! 殺してやる! よくも私のパパとママを……」


 私が憎しみに押し潰されそうな表情をして、彼を睨み付けていると、グロリアスがその肩を優しくポンと叩いた。まるで、父親が蘇って、そんな憎しみに満ちた表情はするなと言っているように感じられた。


「グロリアス……」


「こいつには、聞きたい事が沢山ある。今回は、俺に任せてくれないか? 今のお前では、奴に一矢報いる事さえできないだろう。


 裁判で彼を有罪にするのも立派な復讐の一部だし、お前の両親もそれを望んでいるはずだ。正攻法で、奴を犯罪者として捕えようじゃないか!」


「うん、任せる……」


 私は、怒りを抑えてグロリアスに全てを任せる事にした。グロリアスならば、必ず彼を捕らえて、多くの犯罪を明るみに出せるはずだと確信していた。私は、2人の戦いの邪魔にならない場所まで離れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ