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第94話 キングとレッドラム

 ジャックは、胸に文字通りの穴が開いた真火流まひるの手当てをし終えていた。肺が傷付いたらしいが、命に別状はないらしい。応急手当てが上手くいったので、意識も回復し始めていた。治療は、ジャックの賢者能力アビリティーを使って行われていた。


「僕の万能細胞を使って、傷口の修復はしておいた。多少は違和感があるだろうが、身体機能に影響はないよ。僕にしかできない裏技で、回復も早い。かなりギリギリのところだったから思わず使ってしまったが、本来ならばハンナちゃんだけにする予定だったのに……」


「何か、精神的ショックを受けているようだな。敵なのに済まない。だが、まだ体が思うように動かないな……」


「そうだろうね。出血と肺機能を代用している程度だからね。1日ほどは動くと大出血する危険があるから安静にしている事だ。何、心配しなくても僕の極秘ラボで世話をしてやるよ。ダイアナやグロリアスも忙しいだろうし、君の存在を気にする奴なんていないよ」


「有難いんだか、悲しんだか……。アリスや他の奴らはどうなってる?」


「うーん、分からないね。レッドラムと呼ばれる子が、ローレンちゃんと一緒に外へ出て行ったのは見てたけど……。今頃は、仲良くなっているんじゃないのかな?」


「そうか……」


 ジャックは、真火流まひるの傷を見て言う。


「まるで狙撃されたように傷付いたから、レッドラムという子が撃ったのかと思っていた。役立たずは殺す的な意味や、僕を狙って間違えたとか……。でも、真実は違ったみたいだね。銃弾で撃たれた傷じゃない。体を突き抜けて、地面に小石がめり込んでいたよ」


「ああ、レッドラムは仲間想いの奴だ。決して良い奴とは言えないが、それでも味方を殺そうとする奴じゃない。狙撃に見せかけて、誰かが俺を攻撃したんだろう」


「ああ、それもかなりの実力者だよ。小石は僕の動体視力でも見きれないほど速かった。ローレンちゃん並みの破壊力を小石に集中させて、まるで弾丸のように飛ばしたんだ。間違いなく、トップレベルの実力を持つ賢者だろう」


「心当たりはある。このままでは、キングもレッドラム、アリスが狙われる危険が高い! 助けに行かなければ……」


 真火流まひるは、無理矢理にでも起きて助けに行こうとする。しかし、体がフラついていた。ジャックに支えられて歩くのがやっとという状況だった。


「まだ動いちゃダメだよ。アリスという女性は、ダイアナ達の近くにいた。今頃は、保護されているはずだ。それに、キングやレッドラムもグロリアスが近くにいる。彼が拘束しているのなら、心配する必要はないよ」


「クッソ、力が無いのがもどかしい……」


 真火流まひるは、思っていた以上に怪我の具合が良くなく、ジャックの腕の中に倒れ込んでいた。敵である人物をあっさり介抱してしまうのも、ジャックならではの優しさがある。傷付いた以上は、抵抗されない限り助けるのだ。


「まあ、これで賢者協会の仮ボスである証拠が掴めるのかもな。手下の1人でも捕まえられれば、彼らが何をしているのかが分かるだろうし。キングの言う子供達の実態も明らかになるはずだ」


 真火流まひるを狙った謎の賢者が、今度はグロリアスやキングの元に近付いていた。賢者協会のボスは、元々金持ちの企業家だった。グロリアスとダイアナが怪しい噂を耳にしたので、実態を調査するためにスポンサーとして協力関係にあるのだ。


「グロリアス、キング、ダイアナの読み通りだったみたいだね。後は、彼の仲間や何をしているのかが分かれば良いのだけど……」


 ジャックは柄にもなく、グロリアスやキングの事を心配し始めていた。謎の賢者の実力は、グロリアスやキング以上である事が予想される。場合によっては、返り討ちに遭う危険さえ考えられるのだ。



 ------------------------



 私がいる場所から100メートルほど離れた所で、レッドラムが倒れて気絶していた。防弾チョッキがあった為か、わずかに服が燃え尽きた程度で済んでいた。赤いブラジャー姿を晒して倒れているのを、キングが近付いて来る。


 彼は、自分の茶色いコートを彼女の体に着せて露出を隠していた。彼にとっては、最愛の娘のように感じて大切に育てているようだ。その面影には、暗殺者としての顔は一切なく、優しい父親のように温かい眼差しがあった。


「うーん……」


 キングがレッドラムの顔を眺めていると、彼女が目を覚ました。私の火球を喰らって倒れていたようだが、大した怪我は無いようだ。すぐに起き上がって、キングと一緒に走る事ができるように回復していた。


「キング、ごめん。私、負けちゃったみたい……」


「はっはっは、みたいだな! 同い年の女の子に負けてショックだったか? 勝ち負けなんて大した問題じゃないぜ。今回の目的は、お前とアイツらを接触させる事が重要だったし、グロリアスに警告する事もできた。


 賢者協会のボスは、一筋縄ではいかない相手だ。ジワジワと追い詰めて行き、最後に捕らえられればそれで良い。グロリアス達が警戒している以上、奴も主だった行動は中々取れないはずだ。しばらくは泳がしておくさ!」


「さすがキング! 今夜は帰って焼肉を食べよう!」


「冷えたビールを飲みながらな!」


「本当に美味しいの? チョビッと飲ませて!」


「ダメだ、ビールは20歳になってからだ! 特に、若い女の子は、極力お酒には用心するんだ。男達からアルコール度数の高いお酒を飲まされて、襲われる危険も高い。幼いうちは、男子の家に行くのと、他人から貰った飲み物には注意する事が必要だ」


「若い男性教師とか、男性警官とかもアニマル化するもんね。やっぱり美人の女性教諭や可愛い女性警官は必要だよ!」


「そして、彼女たちに捕まりたいという自首者が増える事だろう。時効制度も無くなったし、どうせ捕まるならあの人に手錠を掛けられたいとか……。自ら軽犯罪を犯して捕まるなんて事も……」


「刑務所足んなくなっちゃうね!」


 キングとレッドラムは、自分達のアジトへ戻ろうとしていると、1人の男性が立ち塞がるように現れた。若い20代ほどの男性だが、金髪の短髪をしており、顔にはバンダナを巻いて隠していた。指名手配犯なのか、自分の素性を隠しているような奴だ。


 間違いなく若い頃にお酒を飲んでいるだろう。お酒はたしかに良い飲み物だが、飲み過ぎたり、あまり飲めない人もいるので強要はしないようにしよう。更に、酒場などの溜まり場には、こういった犯罪者も多くいる。奴らは仲間を求めて彷徨う事もあるので注意しよう。


「待ちな、お2人さん!」


 キングとレッドラムは、怪しい男性から声をかけられた。さながら薬売りの売人のような奴だ。最初はそう言って近付いて来て、仲良くなった頃合いを見て犯罪に手を染めさせるのだ。1週間ほどは優しい人を演じるが、その後は豹変するから関わらない方が良い。


「キングの知り合い!?」


「知らん、無視しろ! 声をかけられても無視していれば、いずれは諦めるだろう。会話を続けずに、素っ気ない態度を見せれば奴も諦めるさ。要は、モテ過ぎて困っちゃう人の振りをするんだ。もう、そんな告白聞き飽きたくらいのオーラを醸し出すんだよ!」


「キング、居酒屋とかではモテてるもんね!」


「おい、バラすんじゃねえよ!」


 謎の賢者が声をかけてくるが、2人のラブラブトークによって無視し続ける。若い男性は完全にアウェーの状態だった。


「おーい、ちょっと話を……」


「あーん、キング、ローレンって子とのバトルで全然歌えなかった。第3章まで作詞したのに、第2章までしか歌えてない!」


「ここで第3章歌えば良いだろ。今は、誰もいないんだ。大声で歌えば良いさ!」


「うん、そうする!」


「おーい、無視すんな!」


 キングとレッドラムは、完全に男性を無視していた。存在さえもいない事にして、華麗にスルーする。レッドラムは、自分で作曲した歌を高らかに歌い始めた。


「顔がボン! 胸がキュン! 心がズドン!

 今まで知らなかった私の心が暴かれて行く。

 あなたが土足で踏み込んで来ちゃったから、私の心も頭の中も乱れ始めちゃったみたい。

 せめて、責任を取って貰わなくちゃ、お互いに前に進めないよぉ!」


「エイオー、エイオー」


「次は、どんなアプローチをしてくれるの?

 私の期待は大きくなって、ドキドキしちゃう。

 失望なんてあり得ないよね!?」


「でも、俺、今月ピンチだから金銭的には絶望させちゃうかも。

 他の面でなんとか頑張るから!」


「ハグ? ハグ?

 あなたの力強い腕に抱き締められたら、私の身体中がゾクゾクしちゃう。

 私もお返しに、キュッと抱き締めてあげるね♡」


「ギャー、そんなパワーで抱き締められたら、胴体が真っ二つになっちまうぜ!」


「キス? キス?

 ここまで顔を近付けているんだから、優しく唇を奪ってよね。

 綺麗な景色に、君と2人きりなら時間さえも止まって感じるわ♡」


「でもよぉ、勘違いだったら慰謝料を徴収するんだろう?

 バイトを探してお前を養おうと思うから、その努力で勘弁してくれないか?」


「ゴー? ゴー?

 お互いに自分の本当の姿を曝け出して、愛し合える時を待っている。

 以心伝心、私達の間には何もないようで嬉しいね♡」


「おい、現実を見ろよ! 子供ができたら育児費用だって必要だし、ちゃんと結婚しなきゃいけないだろう? だから、結婚までは清いお付き合いをしようって言ってたんだ。一気に問題が押し寄せて来て、マジヤバイよ! お父さんに殺されちゃうかも……」


「お互いに相手の事をもっと良く知り合えたなら、きっと喧嘩なんてしないよねぇ。

 もっともっと私を見て欲しいなぁ!」


「一体何年後までかかると思ってるんだ。10年だって足らないんだぜ!?」


「あなたの永遠を私のキュートな笑顔で捕まえてあげるわ、大好きマイダーリン♡」


「バキューン♡」


 謎の賢者を完全に無視して、2人は歌い終わった。新曲の意見をキングはプロデューサーのように語る。彼女は歌い疲れたのでドリンクを飲み始めた。歩いている先で丁度自販機があって、流れるようにEDYカードで買い物をする。


「ふー、どうだったかな?」


「うーむ、曲としては良いと思う。だが、もう完全に恋の歌だな」


「そっか、暗殺者の歌としては不適合ね」


「お前、もう暗殺者を辞めろ。その為に、グロリアスやダイアナと接触させたんだ」


「ええ、ちょっと待ってよ!」


「俺は、この時代に生きて行くには力が必要だと思って、お前に銃の技術やら暗殺家業をやらせていた。だが、お前も子供で女の子だ。それなりに生きていける力は身に付けた。後は、グロリアスやダイアナに任せる事にするよ。


 お前は、お前で生きて行く目標を見つけろ。俺は、囚われている子供達を助けに行く。偶には、お前や凛子りんすの元に帰って来るから心配するな。グロリアスやダイアナと意見が合わないのは、俺だけだ。お前達ならそれなりに仲良くなれるさ!」


「やだ、キングと一緒が良い! 2人は、夫婦みたいな関係なんでしょ? 離れられない関係だったんじゃないの?」


「ふー、俺はお前を娘のように感じていた。凛子りんすちゃんなら結婚相手として本気で考えていた事もあるが、お前には無いよ。お前はまだまだ未来がある。いずれは、恋人以上になれる男性を見付けられるはずだ。ここでお別れと行こうぜ!」


「やだ、やだ、やだもん!」


 キングとレッドラムは、痴話喧嘩で別れかけのカップルのようになっていた。さっきまで空気だった謎の賢者が2人の会話に加わって来る。どうやら会話に入るタイミングを伺っていたらしい。


「くっくっく、それは好都合だな。キングは、確かに、ここでお別れだ。ボスから抹殺命令が来ている。そして、レッドラムという少女は連れて来いという命令だ。生死問わずでな」


 そう言われて初めて、キングは彼に興味を持ち始めた。どうやら賢者協会のボスが極秘で連れている幹部らしい。賢者協会とは別に雇われている巨大な組織の一員だった。こいつを捕まえて尋問させれば、ボス達の目的もハッキリするだろう。


「ふーん、これは思わぬ収穫が手に入ったな。こいつを捕らえて、グロリアスにでも引き渡せば、これで賢者協会のボスの悪行がおおやけにされる。苦しんでいる子供達も助かるというものだ」


「ふん、捕らえられるレベルだと思えば、そうすれば良いぜ? まあ、俺はお前達が戦って来たヌルい連中とは格が違う。賢者能力アビリティーも無制限に使い放題の無限賢者様だぜ!」


 若い男性は、一気にキングとレッドラムを殺そうとしていた。私よりも強力な風球ハリケーンボールが、彼らに襲いかかる。キングは、彼と交戦して一瞬で理解した。彼とマトモに戦えば、自分もレッドラムも無事では済まない事を……。

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