第92話 レッドラムの『流れ星(シューテングスター)』
レッドラムは化け物並みの身体能力で、10メートルほどの距離を一歩で詰めて来る。彼女は一瞬にして銀色のリボルバー銃をホルダーから抜き出して攻撃できる態勢を整えていた。私も、彼女に反応してエイトガンをホルダーから抜き出す。
レッドラムが想像以上に速いスピードで近付いてきたので、私は驚いて反射的にエイトガンを使い、前方の彼女に向かって風球をぶっ放していた。たとえ身体能力が凄い彼女でも、直撃すればゲームオーバーの威力を持った弾だ。
「ふふん、真正面から近付けば、そう来ると思っていたよ。でも残念、私は空中でも自在に動けるんだよ! この二丁の愛銃があればね!」
レッドラムは、もう一丁の黒い銃をホルダーから抜き出し、自分の左側の虚空を射撃する。撃つ対象は何もないが、銃を撃った反動で彼女自身が右側に移動していた。それにより、巨大な風球を髪一重で躱す。
「おお、凄い! でも、私もただ撃っただけじゃないべ! 喰らえ、魔法No.(マジックナンバー)21『バックドラフトボール』だ!」
私は、風球を撃った直後にエイトガンのダイヤルを火球に切り替えていた。そして、刹那のタイミングで火球を同じ方向に撃ち出す。
風球と火球が空中で合体して、2倍以上の火球に変化していた。レッドラムを優に飲み込めるほどの大きさを誇っている。
(バックドラフトだと!? 密閉空間内で火種がくすぶっているのに、酸素を流入した場合は爆発的に炎上する事がある。ローレンは、その現象を利用して火球の威力をあげたという事か。このままでは、火球の直撃を受けてしまう!)
わずかに方向転換をした程度では、この合体技を防ぐ事は無理だった。風球と合体した火球がわずかでも触れれば、彼女にも大ダメージが与えられ得るだろう。
「うわぁ、私が戦慄を感じるなんて……。でも、わずかに遅かったね。本気モードになった私には、そんな変化球も対応する事ができるわ!」
レッドラムは二丁の拳銃を交互に撃ち、火球の攻撃を避ける。まるで、二丁の銃で空を飛んでいるような動きだった。火球を避けた後は、銃を後方に撃って、推進力を付ける。
「喰らえ、『流れ星』!」
レッドラムは火球を避けて、そのまま私に体当たりを仕掛けてきた。スピードが銃を撃つごとに速くなり、反撃の一撃を撃つことさえできない。気が付くと、彼女のキュートな笑顔が目の前に来ていた。目が合い、彼女は勝利を確信する。
「ローレン、チェックメイトよ!」
「わあああああ」
レッドラムは、私に向かって銃を撃つ。ほぼ私の目の前だったが、なんとか反射的に避ける事ができた。攻撃自体は速くても単調なので読む事はできる。
「あっぶな!」
「良く避けたわね。やっぱり反射神経は、あなたも化け物並みね。まあ、私の前には意味ないけど……」
私はギリギリで彼女の銃弾を回避するが、彼女を懐の位置に入れてしまっていた。私があっと気付いた時には、彼女が銃を振り回していた。
私の顎を狙い、銀色の銃でブン殴る技だった。銃弾を避けられても、その避けた先にはトンファーと化した銃本体が攻撃して来るのだ。
「うおおおおお、銃が……」
「はい、ドッカン!」
レッドラムは、思いっきり銃を振り回して攻撃して来たが、私に攻撃が当たる事は無かった。私は反射的に、エイトガンのグリップを盾にしてなんとか銃本体の攻撃を避けていた。それでも威力は強く、私自身もろともエイトガンと共に吹っ飛ばされていた。
「うう、衝撃が……」
私は後方に吹っ飛ばされていたものの、なんとか衝撃を吸収して倒れずに立っていた。彼女の次の攻撃を備えようとして身構える。しかし、怒涛の連続攻撃というわけではなかった。彼女は一呼吸置き、私に話しかける。
「ふう、やるわねローレン。まさか、この攻撃を防がれるとは……。でも、全くの無傷というわけにはいかないみたいで良かったわ」
「何の事?」
彼女は、すっと私の方に向かって指をさしていた。彼女の指差す先は、エイトガンであり、グリップの所に巨大な亀裂ができていた。そのままの威力でエイトガンの弾を発射すれば、衝撃に耐え切れずに破壊されるほどの亀裂のように思う。
「ふふ、あなたの銃に亀裂が入ってるね。さっきまでと同じ威力ならば、銃を撃った衝撃でバラバラになると思うよ。それに、あなたの弾の残数も後1発。さっきの技があなたの最強の技らしいけど、私には通用しないよ。
更に、私はあなたの火球でようやく脅威を感じる程度なんだよね。ぶっちゃけ、普通の賢者の技じゃあ、威力もスピードも全然脅威じゃないの。もしも威力が落ちたのなら、ジリ貧の私でも対応する事は可能だよ。これは、勝負が決まっちゃったかな? 」
「くうう、私のエイトガンが……」
私はピンチになった事より、エイトガンが壊れかけて泣いていた。レッドラムの言う状況とかは、あんまり私自身は自覚していない。彼女のような勝負勘や経験も無いので、自分自身が窮地に陥っている事も分からないでいた。
(うーん、これで降参されたらどうしよう? さすがに、無抵抗の相手をボコボコにするのは気が引ける。暗殺者とはいえ、相手が逃げ出したり、反撃して来るから無情に殺せるのであって、こんな泣きながら懇願されたら草生えるわ)
レッドラムは、私が戦意を喪失したと思って、ボーっと私が泣いているのを見つめていた。私は、しばらく泣いていたら、レッドラムとの決着を付けるのを思い出した。いくらエイトガンが壊れかけているとはいえ、勝負を諦める事はしない。
(うーん、ちょっと威力を落とせば使えるだろう。それよりも、レッドラムちゃんがやっていた銃を使って空中を浮遊する技が使ってみたい。バランスが重要なのだろうか?)
私は、エイトガンを構えてレッドラムに向き合う。彼女に何発かの見本を見せてもらおうと思っていた。彼女は、私に戦う意志がある事を悟り、笑顔で対峙していた。
「よかった! 武器が壊れてヤル気が出ないとか言い出したら、そのまま頭を打ち抜いてあげるつもりだったよ。泣いて縋り付いて来たら、さすがに見逃してあげたんだろうけど……。いや、私の性格じゃあ、ウザいって撃っちゃうところかな?
まあ、いずれにしてもバトル続行ができて嬉しいよ。私も思わず、歌を歌うのを忘れちゃった。本当なら、バトル中にも歌っているんだけど、いろいろ考え出すと歌うのを忘れちゃうね。ローレンは、中々曲者という事なのかな?」
「歌う暗殺者ってどうよ? 声で居場所とかバレちゃうじゃん!」
「うーん、その方が正々堂々感があって良いかなと思っている。私はやっぱり、暗殺より真っ正面から道場破りとかしたいタイプだからさ! キングは、完全に暗殺専門の賢者能力なんだけど……」
「まあ、良いや。私もレッドラムと戦いたいと思っていたし……。ちょっと見せてよ?」
私はしゃがみ込んで、レッドラムの下側を見ようとする。レッドラムは、パンティーを押さえて見えないようにしていた。実際には、銃でどうやって飛ぶかを見たかっただけなのに、彼女に勘違いさせたようだ。
「おーい、パンティーはタダ見せさせないぞ!」
「いやいや、あの銃の技を見たかっただけですよ? 私もちょっと浮きたい年頃なんです」
「なんだ、そういう事か……。じゃあ、遠慮なく見せてあげる!」
レッドラムは、私に向かって二丁の銃を使って、空中から突撃して来た。一瞬フワリと灰色のスカートがめくれ上がり、赤いパンティーが見える。私は、一瞬赤いパンティーに目を奪われたが、なんとか彼女の技と動きに注目する事ができていた。




