第8話 グロリアスとの入浴
夜が明けると、宿の全体がはっきりと分かるようになる。来た当初は、初めての場所で興奮していて、良く観察もしなかったが、1日が過ぎるとどういう場所かが理解できた。
宿は3階建てであり、1階を宿の受け付け兼住まいとして、アリッサの両親が住んでいる。2階は客間として使われており、ちらほら人通りがある。
三階がグロリアスとアリッサの部屋であり、温泉は1階の外側に設置されている。男女両方のスペースがあるが、朝にどちらか一つを集中して洗っているようだ。
私の部屋はといえば、グロリアス達と同じ3階だが、屋根裏部屋のような場所だ。ダブルサイズのベッドと、少しの家具、私サイズの洋服が並ぶ小さな部屋だった。
私の寝るダブルベッドと服だけが綺麗に掃除されているが、それ以外は少しホコリが積もっている。掃除をする必要を感じていた。
急遽来た私を受け入れてくれたのには、本当に感謝をしなければいけない。しかも、3食オヤツ付きの好待遇なのだ。
アリッサが教える仕事をこなす以外は、基本的に自由だった。部屋でゲームをしていても怒られないし、グロリアスと一緒にアニメを見る事も許されている。
グロリアスに至っては、そこまでの世話をさせられていながら、その仕事も放棄している。アリッサの両親も婿候補だからか、彼には甘く感じられた。
「ご飯ですよ!」
「はーい」
アリッサの声が聞こえて、私は1階の食堂に降りる。昨晩は20分ほど電気を発生させる修行をしていたが、疲れていたので寝落ちしていた。
8時くらいに自然と目が覚めて、朝の光によって自分の部屋の様子を観察していると、彼女の声が聞こえて来たのである。
私は、ネグリジェ姿のまま、1階へ降りていく。すると、外の温泉が目に止まった。昨晩は、寝落ちしていたのでお風呂に入れなかったのだ。
宿に来た直後にシャワーは浴びたが、温泉までは浸かっていなかった。臭くはないが、やはり温泉に入ってから食事をしたいという衝動に駆られる。
「10分くらいなら良いよね? ちょうどパンティーとブラジャーも干してあるし、タオルも乾いているし……」
私は、干してあるタオルと下着を取り込んで、ネグリジェを脱ぎ始めた。私専用のブラジャーとパンティーも洗濯済みであり、着替える事ができる。
「ふんふんふん……。ちょっとはセクシーに見えるかな?」
私は、下着を脱ぐ前に、ブラジャーとパンティーを身に付けた姿を確認する。キュッと持ち上げられたオッパイが、自分でも信じられないくらい美しく感じた。
世の中の男性が見たら、この姿に目を奪われてしまうだろう。うぶ毛もない白い肌と青い下着のコラボが神々しくさえ思えていた。
私はそれらの下着も脱いで、生まれたままの姿で風呂場に向かう。まだタオルが必要とも思わない年齢のため、何も持たずに温泉へ直行する。
女湯とか、男湯とか考える余裕もなく、ただそこにある温泉に飛び込んでいった。男湯と女湯を分ける暖簾も取り付けられておらず、今は混浴の状態だった。
脱衣所から見た温泉は、誰も入っていないように感じ、私の貸し切りだと勘違いする。簡単に体を洗って、海や川にダイブするように飛び込んだ。
体の小さい子供だからこそできる危険な行為だ。大人なら、死の危険さえも感じてできないような芸当だった。
「ザッパーン!」
私が足から飛び込むと、お湯が体積分膨れ上がり、温泉の外へ波の波紋を立てていた。さながら噴水のように水飛沫が派手に上がる。
「ぶっわ、なんだ? 気持ち良く寝ていたのに……」
「あ、グロリアス……」
「ローレンだったのか。危ないぞ、そんな入り方は……」
「えええええええええ、何でいるの?」
「俺の方が先客なんだが……。むしろ、そこまで驚くなよ。人の存在を確認してから入って来たんじゃないのか?」
「ここ、女湯じゃなかったけ?」
「今は、男湯は清掃中だから、女湯は混浴になっている。一応、宿の受け付けにもそう注意書きがしてあるぞ。俺だったから良かったものの、他の客がいたらクレーム並みの大迷惑だぞ。
もう少しお淑やかに入って来い。お前のような子供では、サービスではなく、迷惑行為になるわ。今の入り方では、他の客に摘み出されるぞ!」
「いやああああ、せめてタオルを持ってくるんだった。グロリアスに見られちゃう……」
「ふう、やかましい奴だ。ほれ、俺のタオルを使うが良い。本来なら湯船に付けるのはマナー違反だが、今ではそんな古いルールも無くなってしまっている。これで体を隠せば、恥ずかしくはないだろう」
「えらい親切で、逆に怖いわ……。でも、ありがとう。使わせてもらう」
「ほう、さすがに、温泉内では手袋もしないか……。放電の危険も少ないしな……」
「そうね、温泉では電化製品も無いし、不便だからね。サウナも炭を使っているし、テレビも触れないようになってるし……。お風呂と寝る時くらいは外しても良いじゃない」
「ドライヤーを使う時は注意しろよ! アレは、電化製品だ。まあ、壊れる事は滅多に無いと思うが……」
「うん、注意する。あー、気持ち良い!」
「いきなり大きな声を出すなよ。びっくりするわ」
「ごめん、ごめん」
私は体にタオルを巻き、お湯に浮かぶように横たわる。乳首やボディーラインなどがバッチリ分かるが、温泉の気持ち良さで隠すのも面倒くさくなっていた。グロリアスは、私の体を見て注意する。少し開放的過ぎたのだろうか?
「おい、いろいろ見えているぞ。油断するなよ!」
「うーん、なんか、どうでも良くなってきた。むしろ、何であんなに見せたくなかったのかな? 別に、グロリアスに見られても異性として思えないのに……」
「おい、それは聞き捨てならんな……。俺も一応、男なんだぞ。少しは危険を感じろ。まあ、子供の内は、女子の方が恥ずかしさを克服し易いそうだな。混浴でも女性の方が積極的になるし、大胆にもなるという……」
私は、オッパイを寄せて、タオルで隠した胸を強調してみせる。グロリアスを誘惑してみたくなった。枯れているとは言うが、本当なのだろうか?
「巨乳かな?」
「いや、肉まんにさえ匹敵しない。もう少し大きくなってから誘惑して来い」
「ぶっ、そういうわけでもないけど……」
「さて、俺はそろそろ上がるぞ。お前も早く出て来い。朝ご飯が覚めてしまうからな」
そう言って湯船から出てきた彼の体は、かなり鍛えられていた。私も見惚れてしまうほどの逞しさを感じる。下半身よりは、上半身に注目していた。
「おお、ワイルド……」
厚い胸板と腹筋がある事が分かる。私が魅入っていると、鳥の糞が私の頭に落ちて来ていた。セクシーさのカケラも見せる事ができない。
「ぎゃああああ、鳥の糞が……。どこから降って来たのよ!」
「はっはっはっ、森にいるフクロウだな。朝ご飯を食って、オキャン(おてんば)な娘に狙いを定めて来たようだ。ペットでできるならしても良いぞ。
賢者の中にも、フクロウをペットとして飼っている奴はいるからな。宝石を飲み込んでも吐き出せるし、飼い慣らせば便利だ。賢者には、黒猫や犬と並んで人気のペットなんだぞ」
「ふーん、臭い……」
グロリアスのアドバイスも聞いていなかった。髪を念入りに洗い、匂いがなくなったのを確認してから温泉を出る。グロリアス以外の入浴客はいなかった。
「ふー、さっぱりした」
温泉の外に出ると、グロリアスが私を待っていた。なんか、父親が娘を待っているような雰囲気だ。私が飲む用の牛乳を渡してくる。完全に宿といった感じだ。
「ほらよ、牛乳だ」
「私、コーヒー牛乳が良い!」
「お前、巨乳になりたいんだろう? なら、牛乳を飲め、牛乳を……」
「はーい……」
私はしぶしぶ牛乳を受け取る。今までそんなに好きじゃなかった牛乳も、お風呂上がりに飲むと最高だった。しかし、次飲む時は、コーヒー牛乳にするんだけどね。
「ローレンちゃん、ご飯ですよ!」
「はーい」
アリッサの呼ぶ声を聞いて、私は急いで食堂へ向かおうとする。すると、グロリアスは浴衣を差し出して来た。彼は風呂上がりには浴衣を着るようで、紺色の渋いデザインだ。私の浴衣は、少し色の薄い水色だった。少しは可愛いデザインを選んだのであろう。
「温泉といったら浴衣だ。今度からは、これを着て入浴しろ」
「また一緒に入っても良いの?」
「他の客に迷惑になるからな。俺がしっかりと指導してやるよ。タオルを持参して、今ぐらいの時間帯に来れば、背中くらいは流してやるよ!」
「ふーん、グロリアスも私と一緒に入浴できて嬉しいんだ。次は、背中と頭を洗ってあげるよ。お父さんにはしていたから、グロリアスも気持ち良くなるよ!」
私は、グロリアスをお父さんに見立てていた。お父さんにしてあげたい事も今はできない。それをグロリアスを代わりにして、感謝を示したくなっていた。彼の腕を組んで、娘の気分を満喫する。
「うお、無いオッパイを押し付けてくるな。あくまでも指導者として、一緒に入浴するのだ。こんなおてんばを野放しにしておいたら、アリッサにも苦情を言われてしまう」
「そうだ、アリッサさんも呼ぼうよ。3人で仲良く入浴するのも楽しそうじゃない? 彼女なら、なんだかんだ言っても一緒に入ってくれるよ?」
「この話は、無かった事に……」
「えー、なんで?」
「Eカップのバストは、俺には刺激が強すぎる。まずは、お前の体でワンクッション置かないと、俺が悩殺されてしまう……」
「ふーん、アリッサさんは女性として見てるんだ……」
「お前も一部の男性には危険な部類に入る。少しは女の子という自覚を持ってくれ」
「うん?」
どうやら、グロリアスもギリギリだったようだ。いずれは、私の美貌で彼を悩殺してやろうと思う。まだAカップの私では、それも難しそうなのだが……。