第87話 キングVSグロリアス
グロリアスは、キングと呼ばれる男が賢者協会のボスに近付いている事を確信していた。その為、ダイアナとハンナ達から離れて彼を追跡する。大きな広間の部屋で彼に追い付いていた。ボスの部屋から10メートルほど離れた位置だ。
レッドラム達にダイアナなどの強敵を引き付けておき、キングと呼ばれる凄腕の暗殺者の彼が単独でボスを始末する作戦だった。グロリアスはその作戦に気が付き、そのキングが出没するであろう場所で待ち構えていた。
「キング、まだ拘っているのか?」
「拘っているのはお前の方だろう、グロリアス」
「ふん、犯罪者を扱うのに、確かな証拠を求めるのは当然だ。俺達は、人間なんだからな」
「お前の考えは分かった。だが、その証拠を探し出すのにかかるタイムロスは不必要だと思うぞ。その間に、犯罪者の被害が増えるんじゃないのかな?
特に、子供にとっては致命的なほどの精神的ダメージを与える可能性がある。犯罪者は、即処理した方が社会の為ではないのかな?」
「犯罪者の情報だけで逮捕する事はできない。噂話程度の信用度で犯罪者を裁いていたら、気に入らない奴は噂話を流して殺されるという恐るべき世の中になってしまう。確かな証拠があり、犯罪者だと特定できるだけの情報が必要だ」
「だから、賢者協会のボスに仕立て上げて、保護という名目で近付いているのか? 事実上のボスは、ダイアナだろう?」
「そうだ。ダイアナが奴を誘って、いろいろ情報を聞き出しているからな。六神通の眼力をもってしても、奴の尻尾を掴むには至ってないらしいが、それなりに情報を集めている。その出所などを探ってみたり、犯罪行為がないかを調べている。
しかし、証拠や被害者の証言さえ出て来ないのが現状だ。裏で何者かが動いているようだが、攻めるにしても密かに探りを入れる事しか出来ない。何か、とんでもないネタがあるとは思うのだが……」
「そこまで分かっているなら十分だ。奴は、強力な能力を持つ賢者達を集めている。そればかりか、自分で孤児などを集めて教育させているらしい。その数が半端ない。間違いなく、奴が裏で手を引いて、悲劇の孤児を作っているはずだ。
ローレンというガキも、俺のレッドラムも奴らの被害者だと俺は考えている。理由は簡単だ。お前も薄々知っているだろう。賢者能力が爆発的に成長するという状況については……」
「ああ、3つの方法が考えられている。1つは、大切な人を守る為に尽力する場合。もう1つは、熟練した技術に何らかの付加能力を加えたいと強く願う場合。最後の1つは、子供時代に悲劇を経験した場合だ。いずれも、幼少期に能力が爆発的に高まっている」
「そうだ。奴は、よりによって最後の方法を使って、子供達を化け物にしようとしているのさ。孤児を養うという状況を利用してな。それには、子供達に悲劇を与える事が必要だ。こんな非人道的な事を許して良いと思うか?」
「許してはいけないだろう。だが、今は多くの子供達を世話する良い奴とみられている。悪い事をしている証拠もない。早急に犯罪者と決め付ける事は出来ない。
確かな証拠さえなくして裁いてしまえば、世の中は恐るべき世界となってしまう。奴を捕まるには、確かな証拠が必要だ」
「そんな悠長な事を言ってる暇はないぜ。今も、多くの子供達が悲劇を経験してるかもしれないんだ。そいつらを守る為なら、俺は奴を殺してやる。冤罪だろうが仕方ねえ。子供達を助ける方がはるかに重要だ」
「お前の考え方は危険過ぎる。結果的に子供を助けられるかもしれないが、多くの悲劇を生む場合だってあるんだぜ。特に、そのレッドラムという少女にとっては悪い影響になっているかもしれないぞ?」
「ふん、何を言っている。アイツは俺が手塩にかけて育てた弟子だ。いずれは、正義を貫くスナイパーとなり、多くの悪を裁く事だろう。実力は言うまでもなく、心さえ正義の心を持っているはずだ」
「それはどうかな? 子供は、親を見習って善悪を知るもんだ。今の彼女は、正義の心なんて持っちゃいないぜ!」
「ふん、まさか。御託はもう良い。俺の目的を邪魔すると言うのなら、ここで消え去るが良い。邪悪な犯罪者を守ろうとするのなら、お前も同じ犯罪者という事だ。俺の実力で突破してやるよ! くだらない正義感を俺に語るな!」
「お前、やはりレッドラムという少女の事件から考え方がおかしくなったな。お前の考え方を正しいとさせるわけにはいかない。悪いが、ここで止めさせてもらうぜ!」
「ふん、俺もアイツも同じ境遇を持っているんだ。きさまのような綺麗事を並べるような奴には負けないぜ!」
こうして、キングとグロリアスの対決は始まった。マシンガンなどを使い、キングはグロリアスを攻める。しかし、グロリアスの新技『黒飴』によって、キングの銃弾は全て避けられていた。
「お前の技は全て見切っている。俺には一切通用しないぜ!」
「やれやれ、本気を見せてやるしかないか」
キングが犬笛を吹くと、数十体の犬が姿を現した。それらは、全て訓練された軍用犬である。彼の指示通りに、陣形を保つように指導していた。
それらの犬がグロリアスを囲むように円になる。そこから、彼の恐るべき攻撃が始まるのだ。更に、彼はコインを地面にばらまいたりしていた。
「ふん、準備は整った。喰らえ、俺の賢者能力『円と円を繋ぐ者』!」
「出たか! 円をワープゾーンに変えるお前の賢者能力が……」
そう言ってグロリアスは上半身裸になる。ボタンなどの円形の物質は全てキングに利用されてしまう危険があった。その為、脱いで危険を回避する必要があるのだ。
「ふっ、覚えていたようだな。普段の俺は、武器の取り出しくらいしかワープゾーンを使っていない。だが、お前が相手なら、全力でやるしかないよな」
キングは、普段持っているカバンの中や服の内側に円形の模様を描いていた。そこをワープゾーンにして、大きな武器などを別の場所にある倉庫から取り出していたのだ。必要物をただ取り出すだけという省エネ方法で賢者タイムを避けていたが、今回は全力で来るようだ。
グロリアスは、自分の衣服や部屋の中などを確認して、ワープゾーンになる円形の物を確認していた。そして、自分の胸を見た時、キングに絶対に勝てない事を悟っていた。自分の体の一部に、円形の物が取り付けられていたのだ。
「ああ、俺の乳首が狙い撃ちされてしまう! どんなに避けようとも、乳首をワープゾーンに変えられたら瞬殺されてしまう!」
グロリアスは、乳首を手で押さえている。その姿は、脱がされたセクシーな女性のようだった。もしも、彼の考えが正しければ、キングにはどんな人間も勝つ事が出来ないのだ。乳首のない人間などいない。ダイアナのような女性でも綺麗な乳首がある。瞬殺は免れない。
「いや、自然の円形ではワープゾーンに変えられないんだ。あくまでも、人工的な綺麗な円でないといけないんだ。人間の乳首では、わずかに歪みがある。楕円形だったり、少し形がいびつだったりするからな」
そう、キングのワープ能力は、綺麗な円形の人工物でなければ変えられないのだ。人体や自然物では、わずかに歪みがある為、ワープゾーンにする事ができないのだ。それが、キングの賢者能力の制限ともいえる。
時計やボタン、コップなどがワープゾーンにする事ができるのだ。キングの準備した軍用犬には、綺麗な円形に毛が剃られていたり、丸い印が付けられていた。コインやドアノブなども円形のワープゾーンにする事ができるようだ。




