第86話 フィールドを変える賢者能力(アビリティー)発動
レッドラムのライフルが、ダイアナとハンナの心臓を狙う。弾は発射された瞬間に、巨大な火球が2人を狙う弾を一瞬で溶かす。火球はそのまま直進して、彼女達の頭上の壁にぶつかり、壁の一部を丸い穴を開けて溶かしていた。
「ふーん、ライフルの弾が一瞬で溶けた。どうやら、来たみたいだね!」
「ハンナちゃんを傷付ける事はさせない!」
レッドラムの背後に、私はエイトガンを構えて立っていた。本当は、レッドラム自身を狙ったのだが、彼女が背後に近付く火球の存在に気付いて避けていた。幸い、2人を狙うライフルの弾も溶かし、2人にも当たらなかった。
「危ないわね! 殺す気かしら?」
「ローレン、調節力が無さすぎ! 当たらなかったから良いものの」
私が命を守ったにも関わらず、彼女達はブーブーと文句を言い始めた。まあ、壁の一部が派手に破壊されたので、彼女達を怖がらせたのかもしれない。今の私には、彼女達を気遣っている余裕はなかった。暗殺者のレッドラムが至近距離で私を見据えているからだ。
「初めましてだね。城下町で目が合ったよね? 実は、その時からずっと気になっていたんだぁ。あなたに会えて嬉しいよぉ!」
赤い帽子を被った少女は、まるで友達が欲しそうな無邪気な顔でそう言った。しかし、彼女が私を友達にする気など毛頭ない。頭をかきながらこう言ってきた。その体は私と同じくらいであり、オッパイだけがちょっと大きく成長していた。
「うふふふ、私さあ、狙撃で目が合った人間は、ほとんど抹殺してるんだよね。それが、あなたみたいな同い年の女の子に、ライフルを阻止されて反撃まで撃たれちゃった。ちょっと体がムズムズしてるんだよねぇ。あなたに恨みは一切ないけど、痒いから死んで!」
「私もみんなを守らないといけないから、あなたをここで捕まえるよ! まずは、みんなから離れろ!」
私は、レッドラムに飛び付いて抱きしめる。銃を構えていたので、火球が来ると思っていた彼女は、一瞬びっくりした顔をする。オッパイが手の甲に当たり、私の良い匂いを嗅いでいた。無情なレッドラムが一瞬だけ女の子の姿に戻っていた。
「魔法No.(ナンバー)10 フレイムバースト!」
「おお、ここで火球!?」
私は、レッドラムを抱きしめたまま、火球で移動する。お城から離れて、彼女と一緒に草っ原にダイブしていた。彼女は、体勢を立て直して私を突き飛ばした。そして、流れるように草っ原に着地する。私は、エイトガンをもう一発撃って着地の衝撃を和らげていた。
「魔法No.(ナンバー)30 ウォーターボール!」
「ふーん、技を読まれないようにコード化してるのか? でも、あなたの残り残弾は、後4発。どこまで楽しませてくれるのかしら?」
私が着地した場所には、水溜りができていた。レッドラムは、それを見て怯む。彼女の武器の大半が火薬を使用している。水に濡れれば、攻撃力は半減するのだ。水辺から少し遠ざかり、武器が濡れていない事を確認する。
「ふー、危ない、危ない。武器が濡れるとヤバかったわ。この子、意外と考えているのかしら? 油断すると危なそうね!」
「何が?」
レッドラムは10メートルほど離れた場所から、私に自己紹介する。どうやらライバルとして認められたようで、自分の名前を私に教えて来た。彼女なりの敬意という事なのだろう。
「私は、『赤馬羊子』。暗殺者としてのコードネームは、『レッドラム』。赤馬凛子は、私のお姉ちゃんで、キングは私の恋人だよ。じゃあ、あなたの名前を聞いておこうかな?」
彼女の丁寧な態度に私も敬語になる。とりあえず、お辞儀をしてこう自己紹介した。
「えっと、グロリアスの弟子で、『ローレン・エヴァンズ』です。ローレンとお呼びください。後、ハンナちゃんの親友です!」
「ふーん、ローレンちゃんか。私の本気にどこまで付いて来れるかな?」
レッドラムは、真っ直ぐに私に突っ込んで来る。接近戦にも自信があるようだった。私は、エイトガンのダイヤルを木にしてトリガーを引く。彼女は、一瞬躊躇して止まる。確実に、私の攻撃を見切ってから近付く気のようだ。
「ローレンの攻撃、一撃でも受けたら終わりのレベルなんだよね。だから、最強の賢者と戦うつもりで確実に攻撃を見切ってから動くよ。それを避けたら、残りは4発だから注意してね!」
私はトリガーを引くが、2秒ほどしても何も起こらなかった。レッドラムと見つめ合い、5秒ほど時が止まったように感じる。それでも、何の弾も発射される事がない。私は、エイトガンを見つめて呟いた。
「あれ、これはどんな技なんだろう? 故障かな?」
弾が出ずに狼狽えていると、彼女が不思議な者を見る目で私を観察していた。どうやら、今まであった賢者達とはテンポが違うらしい。そして、彼女はこう結論を出す。
「うーん、ローレンは戦闘経験が無いのかな? もしかして、パワー馬鹿?」
レッドラムは銃を構えて、私の足元を攻撃し始めた。仮に火球が飛んで来ても、足元ならば打ち消されないと考えたのだろう。私は、飛んで来る弾を避けようとしてズッ転けた。エイトガンの銃口が地面に触れるように尻もちを突き、無防備な姿をさらけ出す。
「あわわわわわ、不味い!」
「ふふ、チェックメイト……」
レッドラムが私に銃口を向けると、地面から大量の植物が急激に生えて来る。数秒で草っ原一帯が森林となっていた。レッドラムは草木に絡め取られて、森林の中のどこかに消える。
彼女は、自分の手足を拘束しようとしていた木の枝を、自分の銃で撃って、なんとか自由になっていた。しかし、森林は思っていた以上に広い。
声が届くくらいの距離まで離れているが、すぐに私を見つけ出すことは難しかった。地面の泥濘みや木の根に足を取られて動き辛い。
「おっ、面白い! 水を地面に撒いたことで、植物の促進が数倍の規模になってるんだ」
「はっはっは、魔法No.(ナンバー)40 フォレストフォートレス! 足を取られて動きが遅くなった所を、私の火球が狙っているぞ!」
「うわぁ、偶然できたっぽい技。とはいえ、意外と脅威かもしれないな。慎重にローレンに近付いて行った方が良いのかも……。まあ、これで残り弾は、後3発! 鬼ごっこバトルのスタートだよ!」
レッドラムは、私のエイトガンを注意しながら近付いて来た。気配や音を消しながら近付いて来るが、どこで私が待ち伏せしているかも分からないので、行動がゆっくり目になっていた。私は、森林の中に入らずに、外側から彼女が来るのを待っていた。
赤い服さえ見えれば、一気に狙い撃ちする事ができるのだ。こうして、しばらく2人の対決は静かな場面を迎えていた。私も、自分のエイトガンの残弾が少ないので、慎重に狙いを定めて撃つことにしていた。




