第79話 アリス、ついに姿を露わにする。
ダイアナは、アリスの賢者能力を完全に見抜いていた。それは、戦闘経験と知識による分析能力だった。彼女の武器は、六神通の眼力だけではない。その能力を最大限まで引き出す事のできる頭脳と、それの頭脳に対応できる身体能力だった。
「なるほど。さすがに、キマイラの動きを封じただけのことはあるわね。あなたの本来の魔法技術は、ニトログリセリンを発生させる能力といった感じね。
もちろん、それだけでは危険過ぎる代物だけど、自然属性と組み合わせる事で、安定性とトリッキー度を増したという感じかしら?
ニトログリセリンを木属性のおがくずと混ぜる事により安定性を、それに土属性を混ぜる事でワイヤーにしている。ワイヤーを元の姿に戻せば、ダイナマイトになるというわけね。
たしかに、強力な技術技だけど、ダイナマイトを起爆させるには雷管部分を作らなければいけない。その一瞬だけ、ダイナマイトとワイヤーの変化が止まるわ。
雷管とダイナマイト部分を切り離せば、大した爆発になる事はない。小規模な爆発は起きるかもしれないけれど、致死性は無くなるわ!」
ダイアナの推理により、アリスの賢者能力はほぼバレていた。どんなに頑張ってワイヤーとダイナマイトを作成しても、ネタがバレているのならば、対処法も自ずと分かるという事だ。
通常の賢者ならば、ネタバレしても脅威を持続させる事はできたが、六神通の眼力を持つダイアナに対しては、ワイヤー部分も、ダイナマイト部分も、雷管部分までも分かってしまうのだ。そればかりか、すでにアリスのいる位置まで熱感知能力によってバレていた。
「そこに居るわね。私の六神通は、透視も千里眼もできる。赤外線によって熱感知して相手の動きを見切る事も余裕なんですよ。
さっきまでは、みんなを守る事によってワイヤーを切ることに専念していたけど、この部屋の全てのワイヤーを処理した以上、次に処理するのはあなた自身よ、アリスちゃん!?」
ダイアナは、部屋の天井付近をメスで攻撃する。アリスはワイヤー攻撃で攻撃して来たが、その攻撃を受け流し、逆にワイヤーからダイナマイトに変化した爆弾を使って、彼女が居るであろう天井付近を爆破した。すると、黒い人影が天井から姿を現した。
「くう、居場所までバレていたとは……」
「ふふ、私から遠く離れたところで攻撃していたのは、私に接近戦をさせないためだったのでしょう? でも、姿を現したのなら、もうワイヤーとダイナマイトによる爆破技は効きませんよ。まずは、セクシーな姿になってもらおうかしら♡」
ダイアナは、一気にアリスに近付き、メスでライダー服を切り裂いて行く。他にも武器があるかもしれない以上、脱がすのは当然の選択だった。
別に、グロリアスへのサービスではない。錬金術師タイプは、高い技術を必要とする以上、腕や足にダメージを受ければ攻撃力は半減するのだ。
逆に、ダイアナは接近戦の方が得意だった。六神通で相手の動きは見切れるし、カウンター攻撃に対しても反射的に対応する事ができるのだ。
「くう、接近戦は不味い……」
「これなら、安心して綺麗な体を眺める事はできるわね♡」
ダイアナは、メス数本でアリスのライダースーツを切り裂いていく。アリスの魅惑的なブラジャーが姿を現していた。グロリアスとロバートの巧みな解説が入る。
「おお、黒だ! まさか、黒を所有しているとは……」
「いえ、年齢的には問題ありません。むしろ、18歳前後ならば、彼氏の気を引くためにちょっと冒険してみたい年頃だと思います。黒を所有するのは当然といえますよ。だが、残念だ。いくら冒険して黒い下着を所有していようと、ダイアナの魅力には一歩及ばない!」
「ふん、そのダイアナの魅力的な下着も、お前が買っていると知ってしまえば魅力も半減する。誰が好き好んで、他人の所有物になった証の下着を気にいるものか」
「ふふ、愛する私こそが、その下着を見て真の満足感を得るのです。彼女の魅力に気付かず、捨てた男などに興味はない。そこで黙って、私とのラブラブさを表す彼女を眺めていなさい!」
「それはどうかな? 俺には最愛のアリッサがいる。たとえお前達がラブラブしようが、結婚しようが、俺には大したダメージを与える事はない。せいぜい彼女に尽くして、幸せにしてやるんだな」
「ふっ、これが彼女のいる男の余裕か……。恐れ入る。大概の男は、私を憎しみの対象にするというのにな」
2人の男がダイアナとアリスの下着姿に興奮している中、ジャックだけが冷静だった。それもそのはずだ。彼だけは、ロリコン、変態、ハンナ一筋、という三拍子揃った奴だからだ。たとえダイアナとアリスが全裸になろうが、興奮して凝視する事はないのだ。
「ふふ、僕だけはハンナちゃんでのみ欲情する。こんな半裸になった女共よりも、制服をキチンと着たハンナちゃんの方が100000000倍可愛いよ♡」
「ウゼェ、同い年の女とラブラブしていなさいよ。その方が、私にとっては嬉しい事だわ」
「ふふ、強がるハンナちゃんも超可愛いよ♡」
「くう、効かない……」
ハンナがジャックを警戒し始めた頃、ダイアナは接近戦でアリスをかなりのところまで追い詰めていた。上着はボロボロになり、下半身も露出されそうな勢いだった。なんとか避けて耐えているが、切り札を出さなければいけない状況にまで追い込まれていた。
「ふふ、あなたもなかなか魅力的な格好になって来たじゃない。黒を着て、ぼっちから脱出したいのは分かるけど、今のあなたでは無理よ。今や、暴力タイプヒロインとツンデレタイプのヒロインは、淘汰(とうた:人気なくて辞めさせられる)されつつあるから……」
「うう、世知辛い世の中だよ。まさか、不況の所為で、ヒロインの性格まで変わって来るなんて……。でも、仕方ないかもしれないね。世の中の男はそれなりに頑張っているのに、成果を上げる事ができない。本当に、わずかな頑張りなど焼き石に水のように感じる。
たかが数ヶ月仕事を続けられても、それ以降の仕事が続かない転職人生では、自分に自信があって、能力のある奴しか生き残れない。それを、仕事の機会も与えられずに野放しになっている奴に求めるなんて酷な事だよ。だから、教育なんて何の意味もないと言われるんだ。
実際には、教育も必要何だけど、親や教師と話をする機会さえ少なくなってるから、徐々に世の中の流れについてこれなくなるんだ。飢餓状態にある奴に、いきなり食事などをさせてはいけない。柔らかい物から硬い物を徐々に食べさせて行くしかない。
この社会で真に必要なのは、そんなやる気のなくなった飢餓状態の若者を徐々にやる気にさせていける奴なんだ。そんなヒロインが求められているんだろう? だが、現実的にそんなヒロインは、チョロインとか言われるんだよ。
必要なサルベージポイントは、この3点だ。まず、優しく接してあげる。次に、いちいち主人公がやる事を持ち上げてあげる。そして、主人公のやる気を持続させる。
私が代わりに稼いで上げるみたいなタイプのヒロインが人気だけど、それはダメ男を量産するだけだから、長期的に見ると悪い結果になる。
今、日本に必要なヒロインは、主人公に優しく接し、適度に持ち上げて主人公のやる気を回復させ、さらに主人公のやる気を引き出せるそんな女神のような女の子なんだ。
普通に考えれば、スペックが化け物並なのは間違いないだろう。どんな苦境に陥っても、個人でなんとかできるレベルの怪物でなければなれないんだよ!」
「なかなか分かってるわね。それが分かっているなら、あなたも成れるんじゃない? チョロインに……」
「成りたくねぇ!」
ダイアナは、事実上この話の2大チョロインだった。莫大な資産を有しつつも、主人公であるローレンを影から強力なアイテムでサポートしたり、学園施設を建設して主人公上げをするというチョロインだ。
もう1人は、アリッサであり、母親と恋人、友人、教師、なんにでも成れる万能型のチョロインだった。主人公であるローレンとグロリアスに、セクシーなサービスをさせつつ、要所要所でサポートするという役割だ。
だが、アリスにもそのポジションを狙う事ができるのだ。今戦っている舞台の教師になり、適度にセクシーな露出と、母親のような優しい気遣いができるようになれば、チョロインまで昇格する事ができるのだ。
「ここで勝負を決めて、サッサとこの学園の教師候補に、ゆくゆくはチョロインに調教してあげるわ。そうすれば、私の役割が分担される。中には、まだまだSMプレイをしたいという男性も多いからね。あなたの体、有効利用させてもらうわ!」
「くう、変態共の慰み者になってたまるか!ここは、全力で行くよ。私がただのワイヤーとダイナマイト使いだと思ったら大間違いだ。私にも、対接近戦用の奥の手があるんだからね!」
アリスの足元が爆発する。その推進力を使い、一気に加速する技だった。足元を丈夫なブーツで保護しているからできるが、生身の体だったら綺麗な足が傷付いているところだ。思わぬ加速により、ダイアナは驚くが対処できないレベルではない。
「ヌルいわ。所詮は、直線的な攻撃技、私のカウンター技の餌食よ!」
アリスの決死の特攻も、ダイアナの六神通の眼力には通じない。実際、ダイアナのような超能力者タイプは、接近戦にこそ真価を発揮できるのだ。逆に、アリスのような錬金術師タイプは、接近戦には弱い。トラップや技術を駆使しての遠距離、中距離戦が得意なのだ。
「くう、私の接近戦技が全く効かない……」
「ふふ、正直に言うと、私と接近戦になった時点であなたの負けよ。あなたは、決して私の前に姿を現わすべきではなかった。姿を見せてしまえば、六神通の能力と身体能力の差によって、確実に私が勝ってしまうからね♡」
「ふん、そうやって粋がってな……」
絶体絶命のピンチに追い込まれたアリスだが、まだ切り札を隠しているのだ。ダイアナは、彼女を注意深く観察するが、他の武器やトラップもあまり見られない。ここから逆転する手など、あり得ないはずだった。




