第78話 セクシー美女同士の死闘
ダイアナは、医者の格好をしながら戦闘モードに入っていた。鋭いメスを何本も器用に使い、部屋の壁に張り巡らされたトラップをドンドン切り裂いて行く。それに対して、アリスと呼ばれる賢者も姿を隠しながら、自分の得意なフィールドにしようと躍起になっていた。
「さすがは、ダイアナだ。この部屋に張り巡らされたワイヤートラップをほぼ全て見きってしまった。これでは、アリスという美女も新たにワイヤーを張り巡らすか、姿を現しての中距離戦、接近戦へ移らなければならない。
とりあえず、ダイアナをセクシーに縛って身動きを取れないようにしなければ、ことごとく彼女の技が見破られてしまうのだ。いずれにしても、俺達にはこの戦いを目に焼き付けるほかないのだ」
「ああ、次のターゲットがハンナちゃんになるかもしれない。そうしたら、僕がハンナちゃんを逃がすために一旦全裸にしなければならないようだ。そうでもしなければ、複雑に絡まった鉄のワイヤーを解く事は不可能に近い!」
グロリアスとジャックは不真面目な解説をする。本来ならば、ダイアナがツッコミを入れるタイミングだが、彼女はバトルに集中していて彼らに構っている暇はない。代わりに、ハンナがツッコミの蹴りを入れていた。
「あんた達、彼女が真面目の戦ってるのに、何を喜んでいるのよ」
「いや、だが、この戦いには期待してしまうじゃないか! 勝利条件はお互いに、脱がすか、相手を行動不能にさせた方の勝ちだ。
つまり、ダイアナがメスでアリスの服を切り裂くか、アリスがワイヤーでダイアナの肢体を縛るかの戦いだ。これは、期待するなという方が無理な話だ」
「サイテー!」
グロリアスの決死のフォローに、ハンナはドン引きしていた。だが、分かって欲しい。男は、女性のセクシーな姿に惹きつけられてしまう悲しい生き物なのだ。だが1人、この戦いを冷静に観察している男がいた。
「ふん、ハンナちゃん、僕は他の奴らとは違うよ。ダイアナのセクシーな格好にも、アリスとかいう女賢者の裸にも興味はない。僕が最も見たいと思っている裸の女性は、ハンナちゃんだけなんだ!」
「より嫌だわ!」
「全く、ハンナちゃんはワガママな子だね。他の女性に興味があってもダメ、彼女自身に興味があってもダメとは……。さすがは、その年齢にして、Dカップというワガママボディーを持つ女の子だね。でも、僕は諦めないよ♡」
「セクハラ! 完璧なセクハラワードを含めて来やがった!」
ハンナが、2人にドン引きしていると、そいつらが彼女を注意する。
「ハンナ、遊んでいる場合ではない! これは、2人の上級賢者による接戦の戦いなのだ。自らの目で見て、多くを学習しなくてどうする!? この戦いが、お前の命を左右する可能性だって残っているのだぞ。
もしもアリスが、ダイアナをセクシーな姿にされた場合、次のターゲットは間違いなくお前だ。少しでもアリスの賢者能力を調査しておかなければ、一瞬にして服を切り裂かれて、Dカップのオッパイを露わにされてしまうぞ!」
「ふえええ、それは止めてくれないの?」
「もしもハンナちゃんの裸が露わにされ、その綺麗な体とDカップのオッパイがみんなの目に晒された時は、僕が責任を持ってハンナちゃんを娶ろう! 真っ先に籍を入れて、盛大に結婚式を執り行ってあげるよ。何の心配もいらない。
僕はこう見えても、かなりお金を稼いでいる方だからね。ハンナちゃんと僕の子供を養って行くぐらいの経済力はあるさ。必ず、君を幸せにして見せる!」
「ちょっ、何で私だけそんな絶望的な状況に追い込まれるのよ!?」
グロリアスは、ダイアナが負け、ハンナも負けた状態を想像して泣いていた。どうやら、ハンナが負けた場合、ジャックと結婚して2人くらいは子供を産む計画を立てているようだ。年齢的な問題を考慮し、子供を産ませるのは16歳になってからの予定らしい。
彼らの脳内では、事細かに交際の期間と行動が決められているようだ。どうやらジャックがすでに結婚までのルートを決めているらしい。子供の名前までも考えられているようだ。グロリアスがそう漏らし始めた。
「ハンナ、負けても恥じる事はない。相手が悪かったのだ。ウィルちゃんとリンドくんを精一杯育ててやるんだぞ!」
「それは、いったい誰だよ!? くう、このままジャックのワイフになどなってたまるか。ダイアナさん、頑張って敵を全裸にするのよ!」
ジャックは、ハンナの応援を聞くが、すでに彼の脳内では結婚は決まっていた。どういうルートを辿ろうと、結局はハンナと結婚して、ウィルちゃんとリンドくんを産ませる気らしい。恐るべき変態は、やはり彼女を狙っていた。
「ふっ、僕にとっては、多少結婚が早まるかどうかというレベルだ。さあ、アリス、僕とハンナちゃんの結婚のために頑張るが良い!」
グロリアスとジャック、ハンナの応援を受けて、2人は少し集中力が無くなっていた。特に、ダイアナは3人の話を短かで聞いていただけに、ツッコミを入れたい気分でいっぱいだった。だが、それよりも結婚という単語に強く反応する。
「ふっ、勝っても私には一切メリットがないのね。なんか、ヤル気が……」
「じゃあ、君が勝ったら、俺と結婚しようじゃないか!?」
「ロバート、うん、私も覚悟を決めたわ♡」
ダイアナとロバートもラブラブモードに突入していた。これで、ぼっちはこの部屋内に潜伏しているアリスだけとなっていた。頭では理解していても、男女のラブラブ姿を見ているのは、ぼっちには相当の苦痛を伴っているはずだ。案の定、彼女の攻撃技が強くなる。
(ワイヤーは、囮だよ。本来の私の魔法技術は、こっちなんだ!)
ワイヤーがゆっくりと別の物質に変化していた。音もなく変わり、キマイラ達を危機的状況に陥れた技だ。ダイアナの近くでワイヤーが変化した途端、ダイアナは一瞬にしてその脅威を感じ取っていた。自分を捉えようとしているワイヤーが、一瞬にして別の物質に変わる。
「なっ、これは……、ダイナマイト!?」
ダイアナがそう言った瞬間、一気に彼女は爆発に巻き込まれていた。
(くっくっく、残念……。綺麗な裸体どころか、その美しい肢体は全て消し飛ばしてあげたわ。美人な女性も、無残に飛び散った肉片になってしまっては、目も背けたくなる情景よね?)
グロリアスとジャック、ハンナは、あまりの突然の爆発に驚いていた。ダイアナの爆発に巻き込まれて、煙に包まれた情景まで観察していたのだ。守る物がないあの状況では、爆発に巻き込まれてバラバラに飛び散ってしまったと考える。
「ああ、ダイアナさんが爆発に巻き込まれた!まさか、死んじゃったの……」
「大丈夫ですよ、ハンナさん。我々の本当のボスは、この程度で負けるような柔い女性ではない。それよりも、あなたが煙を吸い込まないようにしてください。一酸化炭素中毒は危険ですからね」
「ありがとう、ございます……」
ただ、ロバートだけは冷静な状態を保っていた。彼は、長年ダイアナと共に一緒に生活して来たのだ。その年月は、すでにグロリアスやジャックと一緒にいた時間よりも長い期間となっていた。そのために、彼女がここで死ぬような人間ではない事を確信していた。
「ふー、危ない、危ない……」
ダイアナは、グロリアスの予想通りの姿をしていた。白衣だけが爆発で消し飛び、赤く可愛らしいブラジャーとパンティーが姿を覗かせていた。爆発は免れたが、さすがに至近距離での爆発を無傷で済ます事は出来なかったようだ。下着姿で戦闘を強いられていた。
「ふっふっふ、言っただろう。とりあえず、ブラジャーとパンティー姿にはなるだろうとな。この勝負、ここからが本番という事だ。だが、アリスは下着姿を晒すどころか、姿さえも見えてはいない。このままではダイアナが不利だ!」
グロリアスは、彼女の下着姿を見て元気が出ていた。無事だった事を喜んでいるのだろうが、その姿はまさに変態オヤジそのものだった。遠目だったから思わず言葉に出てしまったのだろう。ハンナとロバートが彼を蔑んでいた。
「あーん、何下着姿を見て興奮してるのよ、このオヤジ」
「自分には彼女もいて、それを理由にダイアナを振ったくせに……。彼女にこれ以上、こいつの前で素肌を晒されるのは我慢なりません。彼女は、もはや私の女性なのです。代わりの白衣を着せてあげて来ます」
「そうね。女性としては、そういう行動を取ってくれる男性の方が素敵よね!」
ロバートは、一瞬にしてダイアナに近付き、白衣を着せる。夫婦並みの阿吽の呼吸があるからこそできる。これがグロリアスやジャックだったら、近付いた瞬間にメスで攻撃されていた事であろう。ダイアナは、彼のその行為に喜んでいた。
「ありがとう」
そう言って可愛い笑顔を見せる。そう、もう彼女の心はロバートの物なのだ。キマイラとして誕生し、様々な過酷な試練と戦闘を生き延び、彼女を常に助けて来たからこそ見れる笑顔だった。本来ならば、彼女に危険な戦闘などさせたくないが、そうもいかない。
ロバートでさえ、アリスのワイヤーからダイナマイトに変化する技を見抜くのは不可能だった。後方支援として、彼女をサポートするしか方法がない。ダイナマイトを操るアリスに対抗できるのは、ダイアナが自ら自分自身が最適と判断したのだ。




