第69話 ローレンVS美少女スナイパー 互角の戦い!
馬車ごと引っくり返されて、私とスナイパー目が合っていた。遠くから一直線に見ているだけだが、彼女の顔と表情は分かる。超ご機嫌な顔で射撃していたようだ。私は反射的にエイトガンの火球を発射していた。
窓ガラスや馬車ごと吹っ飛ばし、スナイパーの弾丸を掻き消していた。完全に視覚に捉えていたにも関わらず、強力な火球が飛んで来た事により、暗殺者達は狼狽えていた。スナイパーの彼女が攻撃出来るという事は、裏を返せば私も攻撃出来るという事だ。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ、火球が来てる!」
「キング、煩い! 今考え中なんだから……」
「何、火球が来てるこの状況で熟考してるんだよ!?」
キングという鬱陶しいオッさんが騒いでいる中、スナイパーの彼女は私の火球攻撃を分析しているようだ。
(ライフルを撃ったのに、火球の温度で溶かされたか。正面からの戦いでは、あの攻撃力の前には、私のライフルでは不利ですね)
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、マジで前まで来てる! もうダメだ! 視界が全て火球になって来たぁ!」
「はあ、煩いなぁ……。はいはい、そろそろ避けますよ!」
「ぐおっ!?」
スナイパーの少女は、キングという男の首根っこを掴まえた。軽々と大の男を持ち上げて、私の火球攻撃をサラリと躱す。本来ならば、確実にぶち当たる距離にも関わらず、少女は慌てず騒がず、当然というような表情で火球を避けていた。
そして、火球を避けた後で、私達がいた馬車を確認する。私の撃った火球によって、馬車は半分が吹っ飛んでいた。彼女は、私達が馬車の中に隠れていると思ったが、そこにも周囲の場所にも私達の姿は見当たらなかった。
(いない! 火球が飛んで来る一瞬の内に逃げた!? 私を倒したと考えて、油断してもおかしくない状況だったのに……。どうやって逃げたのかしら? そこまで機動力のある乗り物が有ったとも思えないけど……)
少女が立ち止まって考えていると、キングという男性に腕を叩かれていた。彼女はハッと気が付き彼を見る。その顔は青白くなっており、今にも死にそうな様子だ。呼吸ができない状況になり、呼吸困難に陥っていたようだ。
「あっ、ごめん。ちょっと考え事していて……。苦しかった?」
「当然だ! 首を絞められていたんだぞ! 腕力も俺の首を握り潰すかと思うほどの威力だったし……」
「めんごめんご、力加減が上手くいかなかったよ。人間の体って、脆いね!」
「お前の力が強過ぎるんだよ。そんな細腕をしてるくせにな……」
少女は、彼が無事だという事を悟ると、再び馬車のあった方角を見る。逃す事のない状況にも関わらず、私達に逃げられた事で納得いかないといった表情だった。わずかな痕跡でも分析して、私達の逃げたルートを探り出そうとしていた。
「気になるか? 奴らがどうやって逃げたのか」
「うん、逃す気なんて無かった。確実に全滅させるつもりだったのに……」
「火球で俺達に目隠しした後、スレ違い様に馬車に乗ったんだよ。お前は、倒れた馬車やターゲットに注意を集中させていたから、奴らに近付いていた馬車には分からなかったんだ。奴らの仲間にキマイラが居たからこそ、そこまでの判断が出来たのだろうが……」
「私と目が合って、逃げした奴は初めてだよ。悔しい……」
スナイパーの少女は、私の姿を目に焼き付けていた。次に会った時には、確実に殺す事を自分に言い聞かせているようだった。彼女が自分の失敗を悔いているように感じたキングという男は、彼女を優しく慰めていた。
「ふん、今は逃して正解なんだよ。奴らの潜伏先を見付けるのが狙いだからな。まあ、奴らもお前から逃げられたと思って、油断しているだろうな。安心しろ、殺人神父ならば、すぐにでも奴らの潜伏先を見付けられるさ、なあ!」
男がそう言って叫ぶと、黒服を着た殺人神父が上空から姿を現した。自らの炎の能力を使い、ジェットエンジンのように移動して飛行していたのだ。この能力によって、私達の列車による撹乱作戦も短時間で破られてしまっていた。
「やれやれ、列車で撹乱されたのを助けてあげたのに、次は馬車ですか。仕方ありませんね。上空から追跡してあげますよ」
「絶対に、逃さないでね! あの銀髪の女の子は、私が確実に殺してあげる!」
少女は、目を見開いて、無表情な殺人鬼の顔になっていた。彼女の決死の表情に、思わず殺人神父もキングという男も恐怖を感じていた。普段は無邪気な彼女だが、こういう表情をした時は恐ろしいと感じてしまう。
「私は、追跡能力にかけては専門ですよ。必ずや姫君をご所望の人物の所まで案内して差し上げましょう!」
「任せたわ。そういえば、あなたの名前は知らないわね。結構長年一緒に行動していたけど、名前を聞いた事は無かったわ。ずっとコードネームの『殺人神父』で呼んでいたからね」
「ありませんよ。私には、『殺人神父』以外の名前を付けられた事は無いんです。子供の時から、今に至るまでずっとね……」
彼が悲しい表情をすると、少女の顔が和らいだ。自分と同じ境遇の人などいないと感じていたのに、急に親密になったような安らぎを感じていた。彼女の心は、キングという男にゾッコンだったが、『殺人神父』と呼ばれる男の事も嫌いではない。
少女が不思議な顔をして彼を見つめていると、キングと呼ばれる男が補足説明をしてきた。『殺人神父』と呼ばれる彼を育てたのは、このキングなのだ。スナイパーの少女にとっては、兄弟子に当たる人物だった。
「コイツはな、お前よりも酷い境遇で育ったかもしれない。育てられた孤児院は、神父のいる教会施設と一体化していたようだが、そこでそいつから虐待と性的な暴行を受けて来たらしい。親がいないという事から、そういう行為は明るみに出なかったようだ。
名前さえも与えられず、その時の記憶は完全に忘れているそうだ。気が付いたのは、その孤児院を完全に破壊した後だったらしい。魔法技術を必死で磨き上げて、神父を焼殺したそうだ。
逃げる時には、その憎い男の神父服を着ていた。それ以来、コイツは『殺人神父』として呼ばれているし、他の名前で呼ばれた事なんて覚えていないんだ。この賢者能力だけが、奴が育ての神父から貰った贈り物らしいな」
「ふーん、それは悲しいね……」
少女は、『殺人神父』と呼ばれる男の境遇を知り、本気で悲しんでいた。彼女は、恐るべき悪魔のような暗殺者にもなれれば、慈愛の天使のような美少女にもなれるのだ。子供だからこそ、コロコロと表情が変わる。今度は、飛び切りの笑顔になる。
「じゃあさ、私が『殺人神父』の本当の名前を考えてあげようか? コードネームだけじゃあ、家族みたいな感じがしないし……」
「カッコイイ名前をお願いしますよ?」
「じゃあ、あなたの賢者能力に因んで、『神崎真火流』と名付けようかしら。どう、気に入った?」
「ふふ、素晴らしい名前ですよ。では、姫君の為に、あなたのターゲットは私が追いましょう。必ず潜伏場所を調べて差し上げますよ!」
「ふふ、あの銀髪の子だけは生かしておいてね。まあ、他は殺しちゃっても問題ないけど」
「分かりました。因みに、グロリアス達は『アリスちゃん』がバイクで追跡していますよ。では、潜伏先が分かり次第連絡をしますよ」
神崎真火流という名前を付けられた『殺人神父』が上空に飛び立って行くと、キングというサングラスの男が少女の肩を軽く抱く。そして、こう言って行動を開始し始めた。
「じゃあ、俺達は徒歩でのんびり追跡しますか?」
「キング、なんでリーダーなのに一番機動力がないのよ?」
「まあ、バイクとサイドカーという手もあるが、ゆっくり歩くのもある意味味があって良いぜ?」
「ふう、お腹空いちゃったし、ここで食べ歩きでもしながら追跡するわよ。キング、奢ってよね?」
「ふん、安い物で頼むぜ!」
こうして、キングと少女は、徒歩で私達を追跡し始めた。その姿は、中年の男性と可愛い少女という見た目的にヤバイ状況だ。警察が機能しているなら、逮捕されるのは必須といった感じだった。幸い、ここも規制が緩くて助かっていた。




