第67話 私とハンナの会合
私が変な賢者2人と接触をしていた頃、グロリアスとハンナも奴らの仲間の残りのメンバーと接触していた。ハンナは、黒猫に化けたジャックを両腕で抱いている。丁度彼女の膨やかな胸がスッポリと彼の頭を覆い込んでいた。
彼らが出会ったのは、木と土の能力を持つ七賢者達だった。グロリアスをライバルだと勘違いしているらしく、ムカつく態度で近付いて来る。まだ、炎の賢者の方がマシなレベルだ。エリート意識を丸出しにして、グロリアスを挑発して来ていた。
「おやおや、そこに在わすは、有名な賢者のグロリアスさんじゃありませんか? 年端もいかない可愛い女の子とデートとは羨ましいですな。エリートの我々とは違い、結婚相手もいないから、そのような幼女に手を出すのでしょうか?」
「ほほう、オッパイもかなり大きくなっておられる。どうやら、相当激しい訓練を受けているようですな。その若さで、その大きさという事は、賢者学校に通う事もせずに彼の奥さんになる予定なのですかな?」
「中途半端な賢者には、中途半端な女の子がお似合いだ。せいぜい弟子と称して、彼女を手篭めにしてくださいよ。中途半端な三流賢者達からは、尊敬と信頼の眼差しで見られますよ。我々は、死んでも関わりたくないですけどね」
「まあ、噂では優秀な弟子らしいですし、結婚ができる年齢になるまで大切に育ててあげてくださいよ。たとえ、それが途中で成長を止める予定だとしてもね」
「おお、怖い! 我々のようなエリートの弟子ならば首席で入学して、無事に卒業まで立派に成長させる事ができるのに、彼の弟子になったばっかりに将来を頓挫されてしまうとは……」
「まあ、我々が手塩にかけて育てて来た我が子には勝てないと思いますけどね。どうぞどうぞ、早々に失敗して、さっさと退学させてあげなさいよ。賢者協会の将来は、全て私達が責任を持って管理していきますからね!」
2人の賢者は、すでにダイアナから教師の資格を得ているのだろう。グロリアスには無い講師専用の校章を見せつけて来た。依頼があった時に協力する彼には、まだ貰える予定さえも決まっていないようだ。
グロリアスの弟子と見られた上に、彼といかがわしい関係を疑われていたハンナは、超不機嫌になる。当然だ。アリッサの弟子として、すでに一人前の賢者として認められている実力なのに、私と間違いられた上、嫌らしい目付きで見られて来たのだ。
普通の賢者同士ならば、セクハラで訴えて、今頃はブタ箱行きになっているだろう。それどころか、ハンナの賢者能力で再起不能になるまでボコボコにされていてもおかしくはない。
「私、グロリアスの弟子じゃないんですけど……」
ハンナは、怒りを抑えて、その一言だけを告げていた。本気の七賢者レベルの戦いになれば、死者さえも出しかねない。黒猫と化したジャックは、彼女の一言が遅れていたら、彼らを即死させていた事であろう。
彼女に対する暴言は、ジャックの判断では死刑に値するのだ。自分の愛する彼女が、友人といかがわしい関係を疑われた事だけでも惨殺したいのに、彼女に対するセクハラ発言まで出て来たのだ。彼の眼光は鋭くなっていた。
「フッシャー!」
「わぁ、猫ちゃんどうしたの?」
賢者2人は、ジャックの猫パンチを軽く受け流す。やはり猫の姿では本気を出す事もできなかった。
「ふん、使い魔の猫ですか。主人を守ろうと必死とは、健気ですね。しかし、ただの猫パンチでは、私を傷付ける事はできませんよ。やはり、エリートの賢者が所有する使い魔こそが、一流の能力と有用性を持っているのです」
「そして、一流のエリートこそが、常に期待されて、一流のエリート教師の教えと素晴らしい教育を受けるのです。その未来も輝かしい将来が決まっているのです。まあ、雑種で、中途半端な三流賢者を師匠としたあなたには関係ないのでしょうけどね」
「はっはっは、我々は、この護衛の任務を無事に終えて、ボスとダイアナから信頼を勝ち得てみますよ。この任務が終わった後には、あなたと私達の関係は逆転する事になるでしょう。せいぜい死なないように隅っこに隠れていてくださいね」
賢者2人がそう話し合っていると、ハンナが遠くにいる私を発見した。遠くの上空に、私が放った火球が見えたので、ゆっくりとだが私達の方に近付いて来ていたのだ。距離としては10メートルほどの間隔が空いていた。
「あっ、ローレンだ、やっぱりいた。おーい!」
「ああ、ハンナだ! おーい!」
私が手を挙げると同時に、ジャックが黒猫の姿から元の姿に戻って、ハンナを押し倒していた。グロリアスもその行動を瞬時に理解して、地面に伏していた。その上で、木と土の賢者に警告を与える。
「狙撃が来るぞ! 早く伏せろ!」
しかし、2人の賢者は微動だにしない。グロリアスの冗談だと考えていた。
「はっはっは、その手には乗りませんよ。この人混みの中、狙撃されるわけがない!」
「ダーゲットである我々を特定する事さえも難しいでしょうね」
「もう少し上手く……」
彼らがそう言った瞬間、何処からともなく銃弾が飛んで来た。その銃弾は、正確に彼らの頭と心臓を撃ち抜く。悲鳴をあげる間も無く、彼らは即死していた。ハンナはジャックに守られており、グロリアスも銃撃をなんとか躱す。
「くっ、あの馬車に飛び乗るぞ!」
グロリアスがそう言い、ジャックはハンナを連れて馬車に飛び乗った。グロリアスも馬車の後ろにしがみ付き、なんとか狙撃から自分の身を守っていた。2人の賢者には申し訳ないが、生存を確認する余裕さえもない。近くにいるキマイラ達に任せる以外に方法がない。
「はあ、はあ、はあ、このままグロリアス城まで行くぞ。いくら奴らでも、馬車のスピードには追い付けまい。ローレンは、向こうにいた3人の賢者に任せるしかないな。こっちも命懸けだ。助ける余裕が一切無い!」
「まあ、ターゲットはあくまでも僕達だ。ローレンちゃんを殺す必要はないでしょう。生かして、潜伏場所を炙り出すのに使われると思うよ」
「なら、良いんだけどな……」
グロリアスと私は、別々のルートで城を目指す事になった。恐るべき狙撃手が、私達を狙っているのだ。油断すれば、木と土の賢者のように、一瞬で射殺されてしまう。彼らは、馬車に乗って狙撃手の脅威から逃れていた。
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赤い帽子を被った女の子が、撃っていたライフルの標準器から目を離す。自分の狙撃が失敗した事を悟っていた。ターゲットが8、9人ほどいたが、殺せたのはたったの2人だけだったのだ。少し機嫌を悪くしていた。
「ちぇっ、2人の雑魚賢者しか殺せなかった。せっかく奴らが最も油断するであろう出会いの瞬間を狙ったのに……。相当警戒している兵士でも、自分の仲間と出会うと警戒心が一瞬緩むのよね。そこを狙ったつもりだったのになぁ。まさか、半分以上も殺せないなんて」
「はっはっは、さすがに、キマイラを配置して警戒していただけはあるな。奴らの感覚は、野生の獣以上に優れている。ライフルを扱う時の音、薬莢の匂い、殺気なんかも敏感に感じ取るんだ。ダイアナが大量のキマイラを作り出している裏には、そういう理由があるんだ。
この混雑している道端でも、狙撃で射殺できないとなると、奴らの潜伏している居場所を特定するしかない。まあ、何人かは怪我人がいたんだ。すぐにでも潜伏している場所に逃げ込む事だろう。それまで泳がしておくんだ」
「さすがは、キングだね。怪我人が出る事も含めて作戦を練っていたなんて。本当に好きになっちゃう」
「ふん、七賢者の内の2人を葬っただけでも上出来よ。賢者能力は強くても、お前のエゲツない攻撃には太刀打ちできなかったな」
「もーう、こんなのスナイパーの常識だよ!」
恐るべきスナイパー達が、私とカステラを付け狙い続けていた。どうやら、グロリアスとジャック、ハンナの方は怪我人はいないようなので、私達に狙いを集中して来たようだ。




