第66話 美少女スナイパー襲来!?
私は無駄球を2つも使ったものの、ムカつく賢者供を震え上がらせる事は出来なかった。奴らの合体技の2分の1ほどしか威力が出せない。エイトガンの制限がある以上、その威力が私の出せる最大技だったのだ。
「くそう、何でもっと強力な技を撃ち出せないようにしないのよ!」
「これが1人の七賢者の最大級の攻撃技なんだよ。もちろん個人差があるけど、一般的の平均値で、このレベルの技が最大級だと決められている。ローレンが際限なく賢者能力を使ってしまわないように、そこまでの設定に留められているんだろう。
もしも、直径1キロぐらいの距離を吹っ飛ばす火球なんて使われたら、お城ごとみんなを巻き添えにしかねないからね。威力の調整ができない以上、制限をかけて威力をムリやり調整するのは必要な措置だと思うけど……」
「そうか、本気を出せば、そこまでヤバイ事になるのか。それじゃあ、仕方ないね……」
私とカステラが話していると、風の賢者が話しに割り込んでくる。炎の賢者じゃなくてまだイライラはしないから良かった。どうやら、私の破壊力が問題らしい。
「ローレンさん、あなたが戦いに参加できない理由は、実力不足もそうなのですが、一番の理由は自分の技の威力を全く調整できない点なのです。今の技でさえ、お城内部で使えば、どのような事故になるか分かりません。
敵を運良く倒せればまだ良いですが、味方に当たって全滅する危険さえも出てくるのです。バトルに参加したいのならば、最低限威力の調節くらいはして貰わなければいけません。分かりましたか?」
「ふんだ! あなた達を超える威力の技を出せば、バトルに参加しても良いんでしょう? なら、もっと強い攻撃技にしないと。2人が炎と風を合わせたのなら、私も同じようにして威力を合わせれば勝てる!」
私は、火球を撃ち出した後、風球も続けて撃ち出す。最大級の威力の球が2つ続けて撃ち出されたが、合体して威力が上がる事はなかった。これで、4発全てを撃ち出した事になる。以前までだったら、ここで賢者タイムになっていたはずだ。
「あれ、上手くいかない?」
「2つの球のスピードが違い過ぎる! 火球は超高速で飛んで行くから、わずかに遅い風球が追い付く事はできないよ。あの2つの技を維持させてこそ、合体技がようやく完成するんだ。本来、属性による攻撃は移動する速さも違う。
2つを空中で合わせるとなると、やはり威力を調整するか、撃つ順番を変えるしかないよ。タイミングと技の威力が合ってこそ、合体技は威力を発揮できるんだ。即席では、さすがに無理なんだよ」
「そんな……」
私が落ち込んでいると、炎の賢者が追い打ちをかけるように畳み掛けてきた。どうやら、ここで私の心を折って、戦いには参加しないようにさせようとしていた。この落ち込む瞬間を待っていたかのように笑いながら語る。
「はっはっは、分かったか? お前のようなパワー馬鹿は邪魔なだけなんだよ。賢者能力は、巧みな操作技術と科学的知識があってこそ、本当の価値ある賢者となるのだ。攻撃を撃ち出すだけの三流賢者は引っ込んでな!」
炎の賢者の厳しくムカつく対応とは逆に、風の賢者は優しく私を励ましていた。まるで対局のような教師だったが、2人の意見は一致していた。
「あなたには、まだまだ可能性がある。ここで危険な暗殺者の賢者と戦うよりも、生き残って才能を開花させる方が良いでしょう。
ここは、プロの我々に任せてください。あなたは、自分の与えられた課題に集中するのですよ。数年後は、私の娘のライバルになっているかもしれません」
「はっはっは、無理無理。俺の娘の方が100倍は優秀だぜ! 将来に備えて、賢者学校を首席で入学して、卒業までトップを取れるように期待しているんだ。まあ、一緒にいる機会なんかほとんど無いが、俺の血を引いているんだ。最強の賢者になるはずだぜ!」
「まあ、いずれにしても、あなたは私達のテストをクリアー出来なかった。今回は、お城の片隅で大人しくしていてください。ダイアナやグロリアスから、成長する為の課題も出されるでしょうし……」
私は、まだ賢者タイムになっていなかった。余力があるのを感じて、降参する事はしない。意地でも、奴らの合体技に追い付く気になっていた。エイトガンを構えて、電気を貯める。銃のダイヤルは、風属性のままにしていた。
「ふん、風属性の攻撃スピードが遅いなら、先に出させて火球と合体させる。これなら、威力は上がるかもしれない」
「馬鹿な! そんな攻撃方法で火球の威力が上がるはずが……」
炎の賢者はそう言うが、風の賢者は客観的に見て上手く行く可能性がある事を感じていた。要は、2つがタイミング良く合わされば良いのだ。
「なかなか分析力はある子のようだな。まあ、火と風は合わせ易いから上手く行くと思うが……」
「くう、こんなガキにまで、賢者能力を追い付かれてたまるかよ……。いくら才能が凄いとはいえ、俺はこの威力になるまでたくさん修行したんだ。ぽっと出の賢者なんかに技を真似させるとは……」
「私は良いと思いますよ。これは、あくまでも可能性の問題です。技術面では、まだまだ私達には追い付いていないでしょう。彼女の思考力を伸びさせるのは、賢者協会にとっても良い傾向になります。まあ、いずれは私達の娘と良いパートナーになれるかも……」
「ふん、エヴァンズの娘が……。ちょっと魔法技術が強いからって粋がるなよ……」
風の賢者が分析するように、私が続けて火球を出すと、風球と火球が合わさって、奴らの合体技と同等の威力のある火炎球を生み出していた。遠くの上空のために威力が全く同じかは分かりにくいが、多分同じ威力になったのだろう。
再び夕日のような美しさが生み出されていた。暗くなった周囲を、火炎球が明るく照らし出す。カステラの判断によると、私と奴らの合体技は、ほぼ同じ威力だったらしい。しかし、炎の賢者はそれを否定していた。
「わーい、私がバトルに参加するのも認めてくれるよね?」
「いや、まだだ! お前は、俺達と同じ威力を出したに過ぎない。俺達を超えてはいないぜ。それに、お前ももう賢者タイムに入るんじゃないのか?
あの超ド級の火球と風球を合計6発も出したんだ。どうやっても、これ以上の威力のある技を撃ち出す事は出来ないはずだぜ。この勝負、初めから俺達の勝ちなんだよ!」
「えー、まだ電気出るよ! あと1発くらいは……」
私がトリガーを引くと、一回り小さい火球が出た。その一発を撃つと、私の賢者タイムが来た事を悟る。ここから十分間は、トリガーを引いても火球が出る事も、電気を発生させる事も出来ないのだ。
「うー、賢者タイムが来ちゃった。もう撃てない……」
「合計7発が限界のようですね。最後の1発は、おそらく最初に足元に電気を集中させて浪費した分だけ威力が落ちたのでしょう。いくら子供とはいえ、合計7発も撃てるとは……。グロリアスの奴が一目置くだけはありますね。
相当電気を発生させる修行を積んで来たようですな。これは、将来的に期待できますよ。ですが、やはり今回ばかりはバトルに参加してもらうのは無理のようですね。試験も私達の技の威力と同じ程度では、パスした事にはなりませんし……」
「そんな……」
私が弱音を吐くと、風の賢者が私を褒めてくれていた。しかし、試験の内容を変えるような事はしてくれない。これでは、バトルに参加することが出来ないのだ。アリッサのように部屋にこもって、課題でもしている他ない。
結果は残念だが、私の賢者能力によって撃ち出せる弾の数が分かった。最大火球を放った場合、7発で賢者タイムになってしまうのだ。威力を調節すれば、もっと多く撃てるが、威力の調節ができていない私では、それが限界値だった。
「さて、貴重な賢者になれるかもしれない人才です。これからは、私達大賢者が一緒に行動して、あなた達の身の安全を守ってあげましょうかね?」
「えー、一緒に付いてくるの?」
「ふん、俺も嫌だが、お前の安全の為に仕方なくだ。それに、キマイラの娘と一緒にいる方が、俺達も気が休まるんだよ。常に警戒しているのは、結構しんどいんだ……」
「ぶー!」
こうして、炎の賢者と風の賢者が一緒に行動し始めていた。風の賢者はまだ許せるけど、炎の賢者はウザい。逐一私に対して文句を言ってきていた。家族関係も良くないようで、その不満を私に八つ当たりしているようだ。
--------------
私の弾数が判明した頃、敵の暗殺者が遠くから私を眺めていた。彼らはすでにグロリアス城下町に潜伏しており、私達を攻撃する機会をうかがっていたのだ。彼らの目的は、あくまでも賢者協会のボスである。アジトがどこかを探り始めていた。その少女の格好は、赤い服を着ており、まるでサンタのような色合いだった。
「ふーん、あの子の弾数は、7発が限界みたいね。威力は強くても、たった7発じゃあ、大した脅威にはなり得ないわね」
「そうだな。威力の調節もできていないようだし、他の奴らが警戒しているようだ。しかし、良いのかよ、奴らを仕留めなくても……。ようやく会えた愛しい恋人ちゃんじゃないのか?」
「やーん、私の恋人は、キング1人だよ♡ まあ、今狙撃しても、キマイラも警戒を怠っていないし、他の賢者達も注意している。人間には、自然と油断する時があるから、私はそれを待っているんだよね」
「本当に、お前ってエゲツないよな……」
こうして、敵のスナイパーは、常に遠くから私達を見ている状態だった。狙撃をしない限りは、キマイラでさえも驚異を感知することができていないのだ。私達が油断する時を狙って、銃の手入れをしながら待ち構えていた。




