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第5話 私の最初の友達

 夕方近くになり、私達は夕飯を食べる。グロリアスと向かい合わせに座り、パンやサラダ、シチューが並べられた食卓に付いていた。アリッサさんは、小説の執筆が忙しいらしく、一緒に食事する事はない。


 小説家というのは、一度執筆しようという意欲が湧くと、自分の気がすむまで執筆を中断できないのだ。中断してしまえば、アニメを一緒に見てしまったり、眠気に襲われたり、ツイッターで雑談をし始めたりするらしい。1話を一気に書きあげる事が、大半の作家の習性だとグロリアスは語る。



「ところで、今日の昼くらいに会った男性を覚えているか? 俺が夫婦間の仲を良くする方法を教えてやったら、喜びながら帰っていったリーダー格の男だ。そいつからの連絡が来ていた。なんとか夫婦間の関係が改善されたようだ。キスとハグをして、もう浮気はしないと誓ったらしい。



 男性に後ろめたい部分があるからバレてはいないが、奥さんは本気で男性の浮気を疑っているらしい。俺がでっち上げた内容を鵜呑みにしているようだ。まずは、奥さんの誤解を解きに行く。そして、彼女の父親である大賢者との仲も執り持つようにしなくてはいけなくなった。



 元々は、奴が俺に夫婦間の仲を壊しように依頼して来た事が原因なのだ。その父親を説得しなくては、いずれ奥さんに別れる事を提案されて、再び夫婦間の仲が悪化するだろう。彼の孫が生まれるまでは、彼らの関係を良くしておかなければ……。孫が生まれれば、誰も彼らの仲を壊す奴はいなくなるのだが……」



「ふーん、頑張ってね!」


「それでな、お前も明日の昼くらいに、一緒に付いて来て欲しい。なぜなら奥さん1人と直接話し合って誤解を解く事にした。しかし、俺と奥さんの2人では、またあらぬ誤解を受けるし、奥さんの方から俺を誘惑して来るかもしれない。



 タオル1枚を体に巻いて、『今は、夫も父も居ません。どうか、私に女の喜びを教えてください』とか言ってきたら、俺の封印された性欲が復活するかもしれない。潤んだ瞳、お風呂上がりの良い香り、俺と彼女の2人きりの空間、俺は確実に、洗脳されたように行動して、彼女と肉体関係を持ってしまうだろう。



 この状況を回避するには、お前が一緒に来る事が重要だ。いくら彼女でも、13歳の娘の前で誘惑して来る事は無いだろうからな。アリッサと一緒ならば、『3人で楽しみましょう?』とか言って、誘惑して来る可能性は高いが……」



「考え過ぎじゃないの? でも、2人きりで一緒に居たら、確かに誤解しちゃうかもね。分かった、賢者の仕事と思って、一緒に付いて来てあげるわよ!」


「バイト代とかは出ないぞ! 交通費くらいなら支給してやるが、賢者の修行として参加してもらう。良いな?」


「ちぇっ、まだマトモな修行もしてないのに……。賢者の修行はどうなったのよ?」


「分かった、分かった。食事が終わったら、訓練を開始してやるから……」


「わーい!」


 こうして、夕食の後に、私の修行を開始する。食事のテーブルは綺麗に片付けられ、私の修行場となっていた。改めて、アリッサのお母さんが有能だという事を思い知らされる。彼女のアリッサは、部屋でレズ物の小説を書いているというのに……。



「さて、いきなり賢者になれると思うなよ。何事にも段階ステップという物がある。お前は、魔法技術マジックスキルが判明した程度に過ぎない。だが、俺が出す課題を合格クリアーしていけば、徐々に賢者に近付ける。1つの工程自体に時間がかかる可能性もあるんだ。



 数日間で賢者になる事は、出来なくはない。魔法を適当に習得すれば、一応は賢者と呼ばれる。だが、それは三流の賢者止まりだ。忍耐力や臨機応変に対応できる一流の賢者になるには、時間がかかる場合も少なくない。一流になりたいのなら、1つの課題に集中してみろ。修行という段階も面白くて大切な時間だ。



 大人は、結果ばかりを求めて来るが、重要なのは過程も楽しむ事だ。お前には、容易に出来ない事も見付かるだろう。それとは逆に、お前には容易に出来て、他の子が中々上手くできない事もある。それら全てを覚えていき、どうやったら上手くできるか、どうやったら上手く教えられるかを学ぶのだ。



 昔は、学校教育という物が有ったらしいが、今は廃れてしまっている。親や周囲の大人は、子供に知識やマナーを教える事はできるけど、学んだ事柄を実践させる事は難しい。社会に出て、人との関係を学ぶ事はできるけど、相当なストレスになってしまう。自分とは、立場の違う人や年齢の違う人が多いからね。



 子供という身分や立場の違いを知る前だからこそ、他人の体も心も傷付けないようにする事を学べるんだ。不正や悪い事をして、自分が苦しい状況になる事も学べるし、その行為が他人に迷惑をかけてしまう事も知る事ができる。社会に出た後でそんな事を学んでも遅いのだ。



 確かに、苦しい経験をするかもしれないが、人間の脳は悪い出来事による記憶よりも、良い出来事による記憶を残し易い。学校での勉強は大変かもしれないが、後に残る物は楽しい出来事の記憶だ。一生の思い出にもなるし、一生の友達ができるかもしれない」


「ふーん……」


「お前、今読み飛ばしただろう? 俺の有難い言葉を……」


「うん、関係ないと思って……」


「関係はあるぞ! 賢者の学校が数年後に設立される。お前は、その学校に入学して、一流の賢者を目指すんだ。入学条件は、魔法を使える事だ。準備期間として2年ほど俺の元で修行を積んでもらう。


 簡単に賢者になどさせないつもりでいるから、俺と戦い合う気で向かって来い。俺がお前に協力できるのは、そこまでだ。後は、学校で仲間達と競い合ったり、励まし合ったりして強くなれ!」


「同い歳の子が集まるの?」


「ああ、年齢は15歳以上だろうな。賢者の専門学校だから、それより上もかなりいると思うが……。まあ、心配するな。俺がお前をマトモな賢者にしてやるよ。まずは、この銅の板を使った修行だ!」


 グロリアスは、テーブルの上に、コースター(カップを置くオシャレ道具、無くても大して困らない物)状の可愛い金属製の板を置く。軽くて丈夫だが、電気を通し易い素材らしい。銅で出来ているようだ。


「何、これ……」


「可愛いデザインだが、ただの銅の板だ。可愛い鍋置きになるかと思って買っておいたが、お前の修行道具にピッタリだと思う。まずは、触ってみろ!」


「うん……」


 私が銅の板を触ろうとすると、静電気が発生して光る。バチっという音と共に、指先に痛みを感じていた。もう慣れているが、私は反射的に後退りしてしまった。静電気体質である事を思い出させる。


魔法技術マジックスキルの習得は、全員がそれぞれ自分に合ったトレーニングをする。お前の場合は、第一段階として、電気をできるだけ早く起こせるようになる事だ。


目標としては、10秒以内。まだ賢者タイムが発生する段階ですらない。何度でもトライしてみてもらってもいいが、俺も忙しくて付きっ切りではいられないからな。


 1日10分間だけのトレーニングとする。それ以外は、自分で電気を起こせるイメージをして、自主練習でもしていろ。生活の中に、能力の開発のヒントを見付けたり、能力の良い点と悪い点が見えるようにもなる。銅の板は、後で回収する。今日はシチューだ。コイツの本来の仕事をしてもらわないと困るからな」



「つまり、10分でどれだけ多くの電気を発生させられるかの修行という事ね」


「そうだ、最初の内は、静電気が発生し易い物を身に付けても良い。自分が電気を起こせる事をイメージする事が大切だ」


「うーん、痛いから嫌なんだけど……」


「泣き言を言うな! お前の体に一番適した能力なんだぞ!」


「うわぁ、最悪……」


 こうして、私の特訓が開始された。明かりを消して、電気が発生したのがハッキリと確認できるようにする。グロリアスは電気が発生しても分からないので、音と光で電気が発生したかを確認できるようにしていた。



「良し、程良く薄暗いな……。銅の板に触れてみろ!」


「うーん、どうだろう、出るかな?」


 バチッという音と共に、電気の光が発生した。私は喜ぶように、彼の方を見る。薄暗い中でも彼が集中しているのが分かる。これは、第一段階の始まりに過ぎなかった。


「何を喜んでいる? 2回目からが難しいのだ。銅の板に、全ての静電気を吸収されるから、最初から電気を溜めないといけない。どの程度で次の電気が発生させられるかを測っているのだ。1分ほどで電気が出せれば良い方だがな……」



 私は、彼のアドバイスを聞き、1分ほどでしてから銅の板に触れてみた。しかし、電気は発生しない。時間を空け、2分、3分と徐々に長めにしていく。自分で時計を見て、静電気が発生する時間を計っていた。


「むー、難しい……。全然発生しない……」


「次がラストチャンスだな。そろそろ4分になるぞ!」


「えっ、もうすぐ10分!?」


 1分、2分、3分と時間を空けて触れていたので、気が付けば残り時間は4分となっていた。私は、ジャスト10分のタイミングで銅の板に触れてみる。すると、バチっという音と共に、電気の光が発生した。どうやら、私の電気が発生する間隔インターバルは、4分間という事らしい。



 そこからイメージトレーニングによって、徐々に時間を短くしていかなければいけない。4分間を10秒以内にまで短くしないといけないから、確かにキツイ修行だ。すぐにできるようになるとは限らない。私は課題の難しさに汗をかいていた。いつになれば、この課題を克服できるようになるかも分からない。



「今日は、ここまでだ。どうやったら静電気が発生するかを考える事が宿題だ。では、銅の板は、シチューの鍋置きになってもらう」


「えー、もっと練習したい!」


「短い時間に集中して訓練するのも効果的なトレーニングだ。それに、お前には宿代として、俺の分も含めた家事をして貰わなければならない。アリッサが小説の執筆を切り上げてまで待ち構えているのだ。お前と一緒に作業がしたくて、うずうずしているぞ!」



 背後に只ならぬ気配を感じ、背後を振り返った。すると、食堂の扉がわずかに開いており、そこから鋭い目が私を睨み付けていた。扉はスーッと開いて行き、不気味な笑顔をしているアリッサさんが現れた。


どうやら小説の執筆が上手くいったようで、自然と笑顔になってしまうらしい。しかし、暗闇の中に見る彼女は、とても怖かった。


「はーい、お洗濯の時間ですよ。宿代が払えない以上、体で払ってもらうしかありませんからね。今日のお仕事は、私達の服を洗ってもらう事です。大丈夫ですよ。洗濯機で洗うので、手荒れの危険もありません。


あかぎれとかは、本当に痛くて執筆も困難になりますからね……。あなた達は、洗い終わって乾かした洗濯物を畳む事です」


「私達? グロリアスもお手伝いするの?」


 私はグロリアスの顔を見ようとするが、すでに食堂にはいなかった。仕事が忙しいらしく、すぐに自分の部屋に篭ってしまったらしい。アリッサの背後を見ると、私と同い歳くらいの黒人の女の子が、彼女の後ろに隠れるようにして睨み付けていた。ロリ顔の可愛い女の子であり、オッパイもすでにDカップほどに成長していた。



「あんな無職ニートは当てになりません。むしろ、足手纏いになるだけです。この『ハンナ・ヘルナンデス』ちゃんが、あなたと一緒にお手伝いしてくれます。実は、私の血の繋がらない妹で、今は少し離れた所に住んでいるんです。だいたい徒歩で20分程度の所ですかね?



 彼女は、もともと養子として一緒に暮らしていたのですが、経済的に安定して来たので引き取りたいと、親戚の叔父さんが提案して来たんです。私としては、可愛いので離れたくなかったのですが、叔父さん夫婦は子供が生まれなかった為に、娘ができる事を切望していました。こんな可愛い子に毎日背中を流してもらいたいと……。



 それで、叔父さんの家に引き取られて行ったんです。それでも、私を慕って、数日に一度の頻度で会いに来てくれるんですよ。さらに、勉強も好きみたいで、私の小説を真剣に読んでくれるんです。今では、読み書きもできますし、魔法技術マジックスキルもあるんですよ。賢者としては、習い始めなんですけどね」



「むー、確かに、可愛い……」


 私は、ハンナという女の子に嫉妬していた。子供の私からして見たら、母親代わりのアリッサを取られそうになっている心境だった。アリッサの弟子みたいに見えるし、彼女が書いている小説も理解しているのだ。言葉にこそ出さなかったが、アリッサは私の物なのだ。他の女の子に取られたくはない。



「よろしくね」


 私は、握手しようとして手を差し出した。ハンナも私と同じ仕草をして、手を差し出そうとする。


「よろ……」


 彼女と手が触れると思った瞬間、バチッという音が鳴り響いた。私が頭の中でイメージした通り、彼女との握手中に静電気が発生して、電撃攻撃を仕掛けていたのだ。イメージ通りの攻撃ができ、私は思わず笑う。


「よくもやってくれたわね……」


 ハンナも、私がワザと攻撃した事を悟っていた。彼女も私に手を差し出して来た。どうやら、握手が上手くできなかったので、再度しましょうという意味らしい。しかし、彼女の表情には悪意が込められていた。絶対に何かを仕掛けている。私は拒絶したかったが、これを拒んだら敗北したような感じに思っていた。



「ふふ、よろし……」


 私が握手しようとすると、パンッという音と共に、私の手が弾かれた。彼女は驚いたフリをしてこう語る。


「あらー、どうしたのかしら?」


 彼女は握手をしようとしていただけのように演技をするが、絶対に攻撃する意思を持っていた。なんらかの魔法技術マジックスキルによって、私との握手を拒絶したのだ。『コイツ、ムカつく……』と、お互いに全く同じ事を考えていた。

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