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『賢者タイム』という科学的過ぎる魔法制限 〜賢者魔法のご利用は計画的に〜  作者: ぷれみあむ猫パンチ
第3章 『闇の(ダーク)道化師(クラウン)』との死闘
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第56話 グロリアスの不安

 私とダイアナ達が列車を乗り換えている頃、グロリアス達も同じように列車を乗り換えていた。全員がスムーズに列車を乗り換えた為、危険な暗殺者を引き離す事に成功したようだ。しばらくは、私達の安全が確保できたといっても加減ではない。


「あーあー、列車を乗り換えるの、失敗しちゃったね。キングがウンコなんてしてるから……」


「ウンコじゃない。下品な言葉を美少女が語るんじゃねえよ。まあ、腹を下したのは本当だけどな。お花を摘みに行くとか、リラックスタイムと呼んでくれ……」


「ぶっはははは、私が朝食に準備した牛乳が腐ってたね! まさか、賞味期限が切れてたなんて……。田舎町のコンビニはヤバイね。やっぱりチェーン店じゃないと信頼感が違うというか……、まさか1ヶ月近くも日付が過ぎてるなんて……。あははははははは!」


 赤いコートと私の作った赤い帽子を被った茶髪の少女は、駅のホームで笑い転げていた。少女がミスしなければ、2人の乗客と6人の乗務員が死ぬ事も無かったのだろうが、私達も無事では済まなかった。キングという男は、真顔になり忠告する。


「ふん、奴らの行き先は分かっている。次の電車で、奴らに追い付くぞ!」


「ぶあっははははは、今更格好良い顔して暗殺者みたいなクールさを気取ってる! ウケる、あははははは……」


「うるせい! お前が賞味期限を確認せずに買ってきたのが悪いんだろうが! 今度からは注意してくれよな!」


「ぶー、キングだって確認せずに飲んだくせに……」


 キングという男は、帽子を深く被り、本気モードに入っていた。サングラスの向こうには、冷たくて切れ長の目が光る。これ以上の追求は、少女にとっても危険である事を示す警告だ。茶化して良い状況ではない。


「もう済んだ事だ。今は、ストッパ(下痢止めの薬)も常備している。同じてつ)は踏まないさ。ここから先は、グロリアス達との男の勝負だ。まあ、グロリアスの奴が怖気付いていなければの話だがな。


 奴は、仲間が死ぬ事を最も恐れている。仲間を心配して、俺達との戦いに参加してくれなければ儲け物だ。俺と奴の実力は拮抗している。勝負になれば、お互いに無事では済まないだろう!」


「下痢ピーの叔父さんは、私に全部任して休んでいなさいよ!」


「だー、それを言うなって!」


「あははははは……」


 キングは少女を捕まえようとするが、恐ろしいほど速くて捕まえる事ができないでいた。銃の腕はキングが上だが、身体能力では少女の方が上らしい。茶髪の少女は、異常とも思えるようなほどの身体能力を有していた。


 --------------


 キングの予想は的中していたようだ。グロリアスは、列車内で真剣な表情をしていた。アリッサとハンナは仲良くお喋りしているが、なかなか話しかけ辛い雰囲気になっていた。意を決して、アリッサに話しかける。


「ちょっと、聞いて欲しい事がある。大切な話だ……」


「うん、どうしたの? 改まって……」


「あまり言いたくないが、今回の敵は次元が違い過ぎる。アリッサとハンナには、戦いに参加して欲しくない。ローレンにも、訓練だけをさせる気でいる。お前達も、俺達が安全だと判断するまでは、部屋の中で大人しくしていて欲しい」


「ほう、私達が戦力不足だと言いたいのですね。確かに、遠距離からの狙撃には対応できませんが、これでも射撃の腕も鍛えているんですよ。近距離でなら、私もハンナちゃんも十分な戦力になるのでは?」


「ダメだ、危険過ぎる! お前達を守りながらの戦闘では、俺も守り切れる自信がない。相手の男は、おそらく俺と同じくらいに強いんだぞ!?」


「ほーう、あなた、私よりも実力が上だと思っているんですね。それで、私を戦力外呼ばわりですか……。その勘違いを、今ここで撃ち砕いてあげますよ。私の狙撃、避けれるものなら避けて見てください!」


 アリッサは、オッパイの間から小型のポケットガンを取り出す。ただのオモチャだが、ガスでプラスチック製のBB弾を撃ち出せる仕組みとなっており、当たれば相当痛い。列車の大きな個室を占領できたのでできる芸当だった。


 乗客は、この車内には、グロリアスとアリッサとハンナの3人しかいない。他は、ダイアナ達も含めて前の車両に移動しているらしい。謎の銃撃事件が発生して、乗客が少なくなっていた。子供とお年寄りの乗客2人、車掌6人が射殺されたらしい。


「何をする気だ?」


「ふふ、そんなに驚かないでください。あなたなら、銃撃くらい余裕でしょう?」


 アリッサは、エアガンを使って、グロリアスにダメージを与えていた。ダイアナと同じ、グロリアスの体が飴に変化する前の僅かな部分に攻撃を加える。彼は、痛みによって体を飴にする事ができないでいた。


「ぐわあああああああああ……」


「ふん、私を舐めないでください。ダイアナと同じ能力を十分程度ですが持っているのです。そうだ、私に敗北したのなら、あなたは戦いに参加せずに、私とハンナちゃんが守ってあげるというのはどうですか?」


「くう、この技は、ダイアナの六神通の攻撃と全く同じだ……」


「ええ、ダイアナ・フィリップスの六神通を丸々コピーする事は出来ませんが、肉体の動きを見る目と物の流動を分析する能力ならばコピー可能でした。どうです、私の方が強くなっちゃったのかしら?」


「ふん、丁度いい修行相手だ。ダイアナの技を打ち破る訓練をさせてもらうぜ。そうすれば、俺の弱点も克服されるはずだ」


「ふふん、そして、克服しなければ、あなたは戦いに参加できないという事でよろしいですか?」


「ああ、お前を倒して、俺は暗殺者と直接戦う! いや、戦って止めなければいけない相手なんだ!」


 こうして、グロリアスとアリッサとの対決が始まった。アリッサには、10分間だけだが六神通の能力の一部がコピーされている。彼女には、彼の体のどこを攻撃すれば攻撃が通るのかがはっきりと分かるのだ。


 それを、持ち前の射撃で確実にぶち当てる。電車内の狭い空間では、ほぼ100%の確率で当てる事が可能だった。今、賢者の最高峰『3つの(トリプル)王冠クラウン』に最も近いのは、この列車内ではアリッサだけだった。


 その『3つの(トリプル)王冠クラウン』のうちの1人、グロリアスを成すすべなく追い込んでいるのだ。彼女が撃ち込む場所は、ことごとく彼にダメージを与えている。痛みによって集中力が途切れて、体を飴に変える事ができないでいた。


「くう、正確無比な銃撃だ。心を読む能力を最大限に発揮すると、今まで見てきた超能力者タイプの能力がコピーする事ができるのか。これは、恐れ入ったよ……」


「どうやら、私の方が少し強くなってしまいましたかね? これが実弾ならば、あなたは今頃死んでいますよ。まだ3分ほどですが、このまま何の対策もできない程度の雑魚なら、暗殺者との死闘に参加させるわけにはいきません。足手纏いになりますからね!」


「ふん、十分間だ! お前が賢者タイムになる前に、俺がお前の攻撃を防げるようになってやる!」


 アリッサは弾切れをするが、入念に準備していたのだろう。マシンガンタイプのエアガンを装着する。ダイアナの助けもあるのだろう。でなければ、これほど高性能のエアガンを買えるはずもないのだ。


「ぐうううう、強い……。アリッサもダイアナも、俺を強くするために本気のようだな」


 グロリアスは、彼女とダイアナの愛をうっすらとではあるが感じ取っていた。このままの状態で『闇の(ダーク)道化師クラウン』と死闘をすれば、確実に彼の不利になるだろう。それは、彼の死を意味していた。


 それをさせないために、2人がタッグを組んで訓練相手になってくれているのだ。アリッサは、自分の心を鬼にする闇魔法も使っていた。彼がどれほど苦しく痛がっても、攻撃の手を緩める事はない。


「ええ、あなたが命懸けの戦いをする以上、この訓練さえも遊びではありません。私は真剣に戦い、あなたはそれを克服しなければいけない。


 まあ、私に勝てない程度では、あなたは戦力外という判断ですよ。私やダイアナのお母さんに守られて、眠っていると良いわ、グロリアス坊や?」


「ミルクは出るのかな?」


 彼の一言に、アリッサは怒ったような笑顔を見せる。ちょっとだけ殺意が籠り初めていた。挑発する為に坊やという単語を使ったのに、その坊やになろうとしているような気がしたのだろう。容赦のない攻撃が続く。


「出ませんよ! 私もダイアナも子供は産んでませんので……」


「ふん、冗談だよ。お前が宿す子供は、間違いなく俺の子供だろう?」


「いつもの調子で恥ずかしがらせ、戦意を削ぐ作戦ですか? 今の私には、その程度の小細工は通用しません! あまりガッカリさせないでください!」


 いつもならば、彼のこんなセリフを聞けば、恥ずかしがって顔が赤面するはずなのに、今のアリッサには通用しない。


 それどころか、恥ずかしがる素振りさえもない。冷酷な暗殺者のように、彼に厳しい攻撃を続けていた。彼の口に目掛けて、強烈な銃撃を浴びせる。


「いたたたたた……」


「残り5分ですよ? このまま、ゲームオーバーですかね?」


 アリッサは、冷めたような目で傷付く彼を見つめていた。

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