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『賢者タイム』という科学的過ぎる魔法制限 〜賢者魔法のご利用は計画的に〜  作者: ぷれみあむ猫パンチ
第3章 『闇の(ダーク)道化師(クラウン)』との死闘
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第55話 私の作った帽子

 少年が天国から戻って来た頃、ダイアナが列車の中で呼び寄せた業者と取り引きをしていた。色とりどりの布が巻かれた状態で私達の部屋に入って来る。どうやら、少年が勝ったことによって、更なるプレゼントをしようというのだ。


「良し、必要な物は取り揃えたわね。じゃあ、ローレンちゃんとカステラちゃんは、罰ゲームね。この布を指示された通りに縫い付けていって。はい、これが裁縫の道具よ?」


 ダイアナは、ポーンと裁縫道具を私の方に投げる。受け取って中を確認してみると、手術用の医療道具だった。普通の縫い針ではなく、人体の傷を縫合する釣り針のような縫い針である。これで裁縫をしろということだった。


「これ、変な形だよ? 普通の縫い針じゃない……」


 私が戸惑っていると、カステラが見本を見せるかのように教えてくれる。すでに、かなりのスピードで医療用の縫い針を扱えるようだ。


「これは、裁縫に見せかけた医療に関する訓練だ。慣れれば、簡単な傷くらい縫合する事が可能になる。賢者の現場は過酷だ。医療技術が有れば、死ぬような場面でも命を助けられる場合がある。訓練しておいて損はない!」


「どうするの?」


「ダイアナ様が服を即席でデザインしておられる。布にチョークを付けて、ロバートがカッティングをしている。これは、2人でなければできない作業だ。私達は、それを決められたように縫い付けるだけで良い。


 私は数時間訓練して、ようやくこのスピードまでできるようになった。あなたには、スピードを求めてはいない。まずは、正確に縫い合せる事を目標にするんだ。そこの帽子ならば、比較的楽にできるだろう。頑張って縫い合わせてくれ!」


「これかな? うん、頑張ってみる!」


 私は、帽子の完成形を想像しながら、カステラちゃんがやっているように縫い合わせていった。最初は難しくて、1時間かけて1つの作品が完成する。3つ目ができる頃には、カステラちゃんと同じくらいのスピードで縫えるようになっていた。


「うー、難しい……」


「あなた、やっぱり賢いな。この短時間で布の縫合が上手く出来るようになるとは……」


「いやー、カステラちゃんが上手いからだよ。いろいろ教えてくれるし、こんなに上達したのは、カステラちゃんのおかげだよ。それに、カステラちゃんは同じ時間でコートやズボンまで完成させているし……」


「ダイアナ様の見本を真似ただけだ。彼女なら、5分くらいで全てを終わらせる事も出来ただろう。だが、私達の技術開発を図って、デザインとカッティングだけにしてくれたのだ。あなたが縫い方を覚えて、私も助かっている」


「良し、3個の帽子が完成したよ!」


 私は、なんとか3つの帽子を作り出すことに成功した。見た目はどれも同じだったが、最後の赤い帽子だけは、一番良くできていた。ダイアナは、それを少年に渡していた。赤い色は、彼が希望した色だったからだ。


 おそらく、ヒーローの色に因んだ色なのだろう。男の子用に、少しばかりシンプルなデザインになっていた。少年は、とても気に入っていたが、私にさらに要求をしてきた。帽子を私に返して、こう言う。


「僕の名前のイニシャルも縫い付けてよ!」


「イニシャル? 何それ?」


「イニシャルを知らないの? 僕の名前の頭文字と、家族の名前の頭文字を合わせた簡単な表記だよ。僕の名前は、『ロス ライアン(ROSS RYAN)』

 だから、イニシャルは、RRになるね!」


「はいはい、RRね。じゃあ、私も付けちゃおうかな? 『ローレン エヴァンズ』だから、REかな。カステラちゃんも付けてあげるよ?」


 カステラは、大きな目で私を見ていた。どうやら驚いているらしい。今まで正式な名前で呼ばれた事などなかったらしい。


「『カステラ フィリップス』で……」


「はいはい、KFだね!」


 私は、赤い帽子にRRと刺繍をする。帽子の後ろの方に見え難い場所に、サテン縫いで縫い付ける。かなりカッコ良くできたと思う。次に、カステラちゃんの白い帽子にKFと刺繍を施していき、自分の青い帽子にもREと刺繍を施していった。


「できた! 神懸りしたくらいに上手くできた!」


「わー、凄い、素敵だよ!」


「凄い格好良い! お姉ちゃんありがとう!」


 私達は、できた帽子を被って、お互いに見せ合っていた。すると、ダイアナが出来た服を老人に渡して、早々と出て行こうとする。もう、降りるはずの駅に辿り着いたようだ。ロバートが私を抱えながら、ダイアナとこう話していた。


「彼らを、このまま放って置いて大丈夫でしょうか?」


「私達がいて、戦闘になっても困るわ。『闇の(ダーク)道化師クラウン』の素性は分かっている。危険な奴らだけど、一般人に手を出すような奴らではないはずよ。ターゲットはあくまでも私達、私達がいなければ危険もないわ」


「ならば、急いで逃げたほうが良さそうですね。危険な武装をした奴が近付いて来ています! 薬莢の匂いが微かにしております!」


「さすがは、ロバート。私の六神痛は遠くを見通せる千里眼も持っているけど、意識しないと見通せないのよ。その点、あなたは嗅覚で危険を察知するから助かっているわ。私の第七番目の眼力というわけよ、ふふふ」


「ダイアナ様の一部となれて至極しごく恐悦きょうえつ)です」


 私とカステラを抱きかかえるようにして、急いで個室から出て、駅のホームへと向かう。2分後、入れ替わるかの如く、赤いコートを着た可憐な少女が姿を現した。予約席は、もう1つ空いており、部屋の中に残った2人が彼女の席であると思う。


「あれ〜、ここじゃないのかな?」


 少女は、友達を探すように辺りを見回していた。茶髪のセミロングをしており、可愛い東洋人の顔をしていた。明るい感じで、無邪気な可愛い笑顔の美少女だった。少年は、思わず席を立って、彼女に近付いていった。雰囲気は、どことなくダイアナに似ている。


「あの女の子達を探しているの? ちょっと前に急いで出て行ったけど……。銀髪の格好良い女の子に、長い黒髪の可愛い女の子、君みたいな茶髪のショートカットのお姉さんもいたよ。後は、イケメンの男性が一緒だった。服とこの帽子をプレゼントしてくれたんだ!」


 少年は、彼女に自慢するように赤い帽子を見せびらかしていた。茶髪の少女は、少年の被っている赤い帽子に興味を示していた。目をキラキラと輝かせて、少年に帽子を見せてくれるように要求する。


「へえー、良い帽子だね。ねえ、その帽子、ちょっと見せて?」


「良いけど、汚さないでよ。銀髪のお姉ちゃんが一生懸命に作ってくれた大切な帽子なんだから……」


「分かってるって」


 少女は、少年の手から帽子を受け取った。素材の良し悪しや、縫い方の強度を確かめるように確認する。帽子のイニシャルも確認して、真剣な顔付きになる。笑顔が消えて、驚いたような顔をしていた。少女は、少年にこうお願いする。


「ねえ、この帽子、私にちょうだい!」


「ええ、嫌だよ! 銀髪のお姉ちゃんが僕のために作ってくれた帽子なんだよ!」


「肺がボン!」


 少女は、赤いコートの袖から手と同時に、黒い物体を突き出した。少年も、老人も、一瞬何を出したのか理解できなかった。無邪気な少女が持つには相応しくない、リボルバー式の銃だった。サイレンサーを取り付けてあるため、ポピュッという間抜けな音を立てていた。


「え、何これ……、苦しい……」


 少年の胸には、小さな穴が開く。指先よりも少し小さい穴だったが、そこから大量の血が流れ出していた。少年が膝を折って、地面に跪く。そして、そのまま流れるように床の上に倒れ込んだ。その光景を見て初めて、老人は少女が危険な人物である事を悟っていた。


「うわああああああああああああ、私の孫が……。お前、いったい何しているんだ!?」


「脾臓ボン!」


 少女は、ためらう事なく、老人の頭に向けて銃を発砲する。老人の腹に当たり、苦痛で叫び声を上げていた。そこを容赦なく、少女の銃弾が発射される。


「うぐぐぐぐ……、誰か、助けてくれ!」


「腎臓ボン!」


 叫び声を上げた老人に対して、トドメの一撃が撃ち込まれる。銃弾は、老人の心臓をぶち抜いて、綺麗な赤い湖を作り出していた。老人の最後の叫びを聞きつけて、車掌3人が個室に駆け付ける。


 車掌の1人が扉を開けると、2人の人間が血だらけで倒れており、その部屋の真ん中に、銃を持った少女が待ち構えていた。少女は歌を歌うリズムで、車掌達を次々と殺していく。ポピュッ、ポピュッという玩具のような音が鳴っていた。


「突然破裂して、ようやく気がつく致命傷。

 あなたにとっては衝撃的な出会いだったね。


(でもね、本当は私にも刺激的な出会いだったんだよ。

 撃たれるって知らないあなたの顔がとてもクールだったんだもん。

 私の銃弾で、あなたに私の存在を気付いて欲しかったの♡)


 次の標準はどこにする?

(デートスポットを決めるようで、ちょっと楽しいね)


 頭? 頭?

 痛みも無く、あなたの脳を直接ぶち抜いて、すぐに逝かせてあげるよ!


(印象は強烈!)


 心臓? 心臓?

 あなたのハートを貫いて、絶対的な恋愛を教えてあげるね!


(私しか、愛する事は出来ないんだってね)


 腹部? 腹部?

 大切なあなたと私の愛する(デート)時間タイム)、すぐに終わらせちゃうのはつまらないよね♡


(カラオケにでも行って、あなたの素敵なシャウトを聞いてみたいな。

 きっと私の心にもビートが響くから)


 スコープ越しの刹那に出会う一期一会の機会。

 最後は、私のキュートな笑顔で逝かせてあげるわ。

 バイバイ、マイダーリン♡」


 彼女が歌を歌い終わる頃には、数人の死体が個室に散乱していた。赤いコートに隠した銃を大量に所持しており、それをキュートな笑顔でぶっ放していた。彼女の歌が、一章の歌い終わらないうちに、誰も個室に侵入して来ることがなくなっていた。


「うふふ、凄い可愛いデザインの帽子を手に入れちゃった!ラッキー、イエーイ!」


 少女は、少年の死体には目もくれずに、個室をスキップしながら出て行く。個室の扉を閉めたタイミングで、サングラスを掛けた男と鉢合わせしていた。背は180センチほどあり、筋肉質な体型をしており、茶色い革のコートを着こなしていた。


「キング、おそーい!」


「悪いな、ちょっとトイレが混んでてよ……。列車のトイレって、数が少なくて困るな……。女性が独占していると、数分間は開かないんだよ」


 少女は、頭を指差して、さっき手に入れた赤い帽子に注目させる。彼女にとっては、クレーンゲームの景品を取ったような感覚なのだろう。


「ねえ、これ見てよ! 凄く可愛くない!? RRって刺繍までしてあるんだよ!?」


「ふーん、お前に似合ってるな。なかなか可愛いんじゃないか?」


「でしょう!? いやー、頑張って盗った甲斐かいがあったよ!」


「それよりも、早く列車から降りるぞ。ターゲットは、すでに列車から降りてるらしい。急がないと、見失ってしまうぞ」


「はーい、一生付いていきます!」


 少女は、無邪気な子供の笑顔でそう冗談を語る。男と一緒にいる時は、13歳の子供の姿に戻るようだ。しかし、恐ろしい戦闘力を持った化け物である事には間違いない。彼女によって、この数分間で8人が殺されたのだ。

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