第53話 危険なゲーム対決
ダイアナ達の乗る席は、個室となっていた。キマイラ軍団は、1つの車両を占拠して、私とカステラ、ダイアナとロバートが豪勢な個室の部屋で隣に座りながらくつろぐ。
部屋の中には、2人座れる座席が8つあり、左側を私達が占拠していた。どうやら他の客も個室での予約席を取っているらしい。
最初の内は空いていたが、徐々に電車内が混むようになって来ていた。私達は個室の為、あまり不便を感じないが、一般の乗客はすし詰め状態で身動きも取れない。そう思っていると、個室の扉がノックされた。
「こちらで宜しいでしょうか?」
「はい、どうぞお入りください!」
扉が開き、お爺さんと男の子が部屋の中へ入って来た。私よりも少し幼い10歳くらいの男の子だ。ボロボロの服を着ており、見るからに貧しそうだ。それでも、お爺さんの為に、良い客室を選んで買っていた。活発で利発そうな子供だ。
空いている席へ申し訳なさそうに座り、男の子もその隣へ座る。男の子と私は、通路を挟んで隣り合っており、いろいろ話し始めた。
「うわぁ、お人形さんみたいなお姉さんが2人もいるよ!」
「ふふ、ませた餓鬼だな。私とカステラちゃんの事をそんなに褒めても、ポッキーくらいしか出ないぞ。大人のような感想を述べた君には、このビター味を進呈しよう。一足先に、大人の世界を堪能するが良いぞ」
「えっ、お姉ちゃんの事じゃないよ。そこの日本人形みたいな黒髪のお姉さん(カステラ)と、茶髪で美人なお姉さん(ダイアナ)の事を言ったんだよ。お姉ちゃんは、普通かなぁ」
「君、女の子の扱い方が分かっていないようだねぇ。女の子という生き物はね、全体を1つの団体として見る傾向にあるんだよ。つまり、個別の美しさで態度を変えるような男の子は、下衆中のゲスだ。
合コンなどでも相手にされなくなるから、今の内に改善しておいた方が将来の為だぞ。格好良くて、できるイケメンは、全ての女の子に公平に接することができるのだ。それのできない男の子など話にならん、出直してこい!」
「えー、お姉ちゃんだって、イケメンの男の子とブサイクな男の子だったら、見る目が変わるのに?」
「うっ、それは……。他人の事なんて気にするな。モテる男の子になりたいのなら、モテる男の子を真似する事だ。できていない奴など無視して構わん!」
「お姉ちゃんも、少し女子力を身に付けた方が良いんじゃない? 素材は良いと思うけど、見るからに男の子って感じだよ。オッパイだってないし……」
男の子は、おもむろに私のオッパイを触る。まさか、10歳くらいの男の子に触られるとは思っていなかった。完全に油断していた私は、あまりの出来事に驚く。
「きゃああああああ、何すんのよ!」
「へー、少しは女の子だったんだね。柔らかくて、気持ち良かったよ。まあ、摘めるくらいにはあるみたいだね。揉めるほどではないけど……」
「なああああああ、これから大きくなるもん! まだ成長期なんだもん!」
私と男の子は、それなりに仲良くなっていた。それを側で見ていたカステラが笑う。カステラの笑顔を見ていると、男の子は静かになっていた。
この餓鬼、私にはいろいろしたのに、カステラにはオッパイを触ることも、失礼な態度も取っていない。彼女に惚れたのだろうか?
「じゃあ、ポッキーゲームでもしてみる? 君とカステラちゃんで、どこまでキスできずに、ポッキーを食べられるかの勝負だよ!」
「なあああああ、そんなのできるわけないじゃないか!」
男の子は照れてそう言うが、カステラの口にはすでにポッキーがセットされていた。カステラは真面目ちゃんだった。危険な遊びとも知らずに、私に言われた通りのゲームを行う。ある意味、危うい子でもあった。
「あらあら、私と偶にしているものね。今では、私とキスせずに終わる事がほとんどだわ。本当に、カステラちゃんは真面目なんだから……」
「ダイアナ様の唇と触れ合うなど、私には大それた事です。ロバートというイケメンの男がいながら、私にも気を使ってくださりありがとうございます。
しかし、私の心には、ダイアナ様が自らの意思で私にキスしてくださるような関係にならない限り、指一本も触れる事は気が咎めてしまうのです。
ダイアナ様は、私の宝。決して、決して傷付けてはいけないのです。数日前までは、唇を重ねるというミスを犯しましたが、修行によってミリ単位まで目算する事ができるようになりました。彼との戦いも、私が勝利して見せましょう」
「じゃあ、キスしたら男の子の勝ち。ギリギリで耐えたら、カステラちゃんの勝ちよ。残して良いポッキーは、1センチ以内です。勝った方が、ローレンちゃんとの決勝戦に挑みます。そして、ラスボスは私ですよ!」
「必ず勝って、ダイアナ様の唇を奪ってみせます!」
カステラは本気モードになっていた。しかし、男の子も負けてはいない。ダイアナという大人の美女にキスできるという事で、エロに目覚めつつあったようだ。
唇をペロリと舐めて、戦闘に備えていた。ポッキーゲームという激しい心理戦が開始されようとしていた。男の子は、大胆にも勝利宣言をして来た。私とカステラを倒して、ダイアナの唇さえも奪う気のようだ。
「僕は勝つよ! 勝って、2人を倒して、ダイアナさんと……」
「どうやら、とんでもない化け物が誕生しそうですね。誰が勝つにしても、楽しみだわ。私に勝ったら、プレゼントをあげちゃおうかな」
ダイアナは、男の子の服装をちらりと見る。服を買えないぐらい貧しいのだろう。ところどころ、穴が開いていたり、糸が解けたりしている。服が限界に来ていることを理解していた。その隣の老人も似たような感じの服装だった。
「じゃあ、ポッキーゲームスタート!」
「絶対に、ダイアナ様の唇は守って見せまふ」
順調に距離を測っているカステラだったが、ダイアナが謎の指示を出すと、変な声を上げて驚いていた。意味は分からないが、何かとんでもない作戦らしい。彼女の動きが止まり、ポッキーの領域の1センチを超えて近付いても反応しない。そのまま唇が触れ合っていた。
「あらあら、カステラちゃんの負けね。じゃあ、次はローレンちゃんね」
ダイアナは、私にポッキーを差し出してきた。カステラは、それを見てこう提案する。
「ダイアナ様だけ最後に戦うというのは卑怯です。負けた私ですが、トーナメント戦形式を所望致します!」
「あらあら、それもそうね。じゃあ、ローレンちゃん、しちゃおうか?」
ダイアナは、私にポッキーを咥えさせ、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。甘いポッキーの味と、甘い香りが漂う。
彼女の大人の色気に酔ったのか、私は「はい」と呟いていた。その瞬間、彼女は凄いスピードでポッキーを食していく。
ギリギリなどで止める気はない。確実に私の唇を奪う気のようだ。カステラは、こう叫ぶ。どうやら、私のファーストキスを心配しているらしい。
「ダイアナ様が、ギリギリで止まってください! じゃないと、負けになってしまいますよ!」
ダイアナは、私とのキスがあと数ミリというところで止まる。5ミリも無いほどのスレスレだった。それでも、彼女にとっては、数ミリ以内で止まることなど容易な事なのだ。残りのポッキーを口に含み、勝利の笑みを浮かべる。
「ふう、ローレンちゃんとキスしたら私の負けにルールを変更するとは……。カステラちゃん、後でお仕置きタイムね。まあ、ローレンちゃんのファーストキスは、じっくりといただく事にしますか……」
なんとか私のファーストキスは守られていた。しかし、ミリ単位の接近をしていた事で、気分的にはキスしたような気がしていた。顔が赤く火照り、唇が触れ合ったような吐息の温度を感じる。カステラは、ホッと息を吐いて安心していた。
これで、私とカステラが敗北した。後は、少年とダイアナの一騎打ちとなるのだ。ダイアナは、妖艶な笑みを浮かべて、少年と見つめ合っている。少年も、内に秘めた欲望が目覚めさせられたようだ。恐るべき戦いが開始されようとしていた。




