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『賢者タイム』という科学的過ぎる魔法制限 〜賢者魔法のご利用は計画的に〜  作者: ぷれみあむ猫パンチ
第3章 『闇の(ダーク)道化師(クラウン)』との死闘
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第51話 プロローグ〜殺人鬼『レッドラム』の過去 〜

神視点で書いています。

 数年前、ある一人の若者が、とても幻想的な光景を目撃していた。世界屈指のとりでとして名高い軍事施設が、8歳の子供によって全滅させられていたのだ。後々の調査で聞いた情報によると、その子供の悲惨な過去が明らかになった。


 まず、その子供の父親が、その軍事施設で働いていた一兵士だった。別に、取り立てて優秀というわけでもなく、激しい戦闘の起こるような場所には配属されない平凡な生活を送っていた。いわば、軍事施設内の事務職といったポジションだ。


 彼には、目立った特徴は無いが、その奥さんには美しい容姿とプロポーションを兼ね備えていた。何人もの男達がこぞって求婚したが、彼女が選んだのは、平凡で優しいその兵士だった。その子供も2人の間に生まれて、しばらくは幸せな生活を送っていたのだ。


 問題は、彼の上官から発生した。上官は、簡単な操作ミスをして、基地内の重要機密を外部に漏らしてしまったのだ。基地内の機密事項が漏れた事は、すぐに知れ渡った。この基地の存続をある程度左右するほどの重要機密だった為、誰かが処分される必要に迫られていた。


 上官は、事もあろうに、その兵士が秘密事項を漏らしたという疑いを一方的にかけて、彼を追い詰めていた。基地内では、彼が情報を漏らしたというデマを拡散させていた。彼は、その上官に抗議したが、公務執行妨害という汚名を着せられて、その場で射殺された。


「ふん、一兵士が、上官のために死ぬのは当たり前の事だ。それが貴様の仕事なんだからな。せめて、貴様の代わりに、貴様の残して来た女と子供を大切にしてやるさ。俺なりの方法でな!」


 上官の男は、兵士の妻を貪欲にも欲していた。類稀たぐいまれなる美しい容姿により、多くの兵士達から求愛されていた。上官の男もその1人だったが、彼女が最終的に選んだのは、冴えないと思っていた優男やさおとこだった。


 上官は、日々嫉妬の炎を燃やして、憎しみを増幅させていた。長年兵士として立派に仕事していても、自分が彼女と結婚できない事を嘆いていた。そのような時に、彼のヘマで情報が漏れてしまったのだ。


 最初は、彼も絶望感にさいな)まれていた。しかし、情報を漏らしたのが、自分の部下のパソコンから発生したと知った時は、歓喜した。生意気で優秀な部下を亡き者にでき、更に、彼の妻と子供を路頭に迷わせないために、自分が結婚するという計画が完成したのだ。


 多少の矛盾は出てくるかもしれないが、部下を犯人として処刑してしまえば、情報を漏洩ろうえいさせた責任も負わなくなり、自分に気概が及ぶ事もなくなるのだ。


 上官は、適切な裁判の処置もとらずに、彼を一方的に)めるような策略を用いて、問答無用で射殺してしまった。


 敵国に情報が漏れてしまったので、多少は警備がキツくなるかもしれないが、彼の妻と子供を手に入れられれば、仕事が忙しくなるくらいどうという事もなかった。


「この度は、旦那さんが大変なミスをされて、その事を絶望して自ら命を絶ったのです。俺は、上司として何もしてあげられなかった。


 まさか、アイツが犯人で、そこまで思い詰めていたとは……。あの男の責任は、上司である俺の責任でもあります。


 仕事上の責任を負う事は最早できないが、せめて彼の愛した妻とその子供だけは大切に守って行く。すでに、結婚の手続きも済ませました。


 彼から手紙も預かっており、万が一にも死んだ場合には、俺が奥さんと子供を幸せにするようにお願いされていたんです。


 多少窮屈きゅうくつ)かもしれませんが、俺の所有する軍事施設の部屋で一緒に暮らしていきましょう!」


 上官は、裏で手を回して、奥さんと子供を自分のところに引き取る事を政府にも願い求めていた。未亡人になった奥さんとその子供を引き取りたいというなら、政府としても大助かりだった。


 保障金なども抑える事ができるし、作業できる人材も確保できるのだ。こうして、上官の思惑通りに事は運んでいた。彼女も、事件の真相さえ知らなければ、悪くはない条件だと思って受け入れていた。


 何より、子供を養うには、女手1つよりもやはり父親が必要だという事だ。ほぼ強制的に結婚させられてしまうので、自然になるように任せていたのだ。それが、彼女とその子供の地獄の始まりだった。


 彼が思っていたよりも状況は最悪だったらしい。厳しい演習や雑務に明け暮れていた。部下の空けた穴は、思ったよりも大きかったらしい。上官程度では埋める事はできず、毎日がギリギリの状態になっていった。


「ふん、まさか、ここまで追い詰められるとはな……。まあ、良い。時間が経てば生活も慣れて来るだろう。それよりも、今はアイツの体を堪能したいぜ!」


 上官は、職場でのストレスを全てぶつけるかの如く、彼女の妻を抱いていた。優しさや愛情などない、欲望によって彼女を辱めるような抱き方だ。嫌だと言おうが、ムリやり襲われるようにして抱かれる。その場所に、幸せなどなかった。


「ふん、仕事も満足にできないクズ女が!」


 上官は、酷い男だった。獣のように性行為を求めてくるし、些細な事で彼女を殴ったりしていた。かつては美しかった彼女も、見る見るうちに無残な姿になっていった。笑顔で笑う事はなくなり、ただの人形と化していたのだ。


 心さえ閉ざして仕舞えば、彼がどんな事をしても耐える事が出来ていた。軍事施設は牢獄のようになっており、彼女が逃げ出せる機会はない。他の人物に訴えても、上官によって揉み消されていた。


「ふん、お前もずいぶん劣化してきたな。俺に対しての反応も良くない。このままでは、お前の子供をボロボロにしてしまおうか?」


 上官は、彼女の子供にも手をかけようとする。暴力を受けて、腹や頰を叩かれていた。男にとっては、2人はただのストレスの発散道具にされており、母親への関心も次第に薄れていった。そして、ついに母親は、死亡した。


 病気で死んだのか、自殺したのかは分かっていない。あるいは、その両方の可能性もある。生きているのが嫌になり、絶望の内に亡くなったようだ。残された子供も悲惨な状態に陥っていた。上官は、その子への暴力を止める事はない。


 首を絞められて殺されかけたり、腹を殴られて嘔吐する事も珍しい事ではなかった。その子供もまた、母親と同じような人形と化して、全ての苦痛を耐えていた。そうしている事で、男の関心も無くなっていく。


「ふん、つまらん餓鬼だ! やはり、新しく妻を得た方が良さそうだな。今度は、アイツの妻を狙ってやるか。もう一度、お前の父親のように、俺の手で殺してな! そう言っても聞こえていないか? はっはっはっはっはっは!」


 その子供の目に殺意が宿る。無表情で人形のような顔付きをしているが、心と体は勝手に動き始めていた。彼の油断している隙を突き、銃のホルダーから拳銃を取り出す。考えて動いていたわけではないが、銃の取り扱いを知っているようだ。


 おそらく父親が軍人であった事もあり、銃の使用を何度か、その目で見ていたのだろう。赤ん坊の時の記憶かも知れないが、その脳裏にはしっかりと刻み込まれていた。上官のホルダーからスッと銃を抜き取り、父親を殺したであろう銃で、目の前の男を撃つ。


 一撃で彼のこめかみをブチ抜き、即死させた。サイレンサーなど取り付けられていない普通の拳銃だ。基地の中は狭く、その銃声の音が響き渡っていた。銃の発砲音を聞きつけ、部屋の近くにいた兵士が扉を開ける。


 扉が少し開いた瞬間、バンッという乾いた音が響き渡った。その子供は、この基地内にいるどの兵士よりも天才的な銃の扱いに長けていた。走ってくる足音、扉を開けるタイミングなどを見計らい、寸分違わずに相手の急所を撃ち抜いていた。


 その兵士の銃や武器も奪い取り、駆け付けてくる兵士どもを次々と葬り去っていく。数時間経った頃には、その子供1人で全ての兵士を皆殺しにしていた。どの兵士も、上官のやっている悪行を分かっていたが、止める事はしなかったのだ。


 その子供の心に、同情心や哀れみなどは無くなってた。ただ、目の前にある全ての者を破壊する化け物となっていたのだ。情報が入ったのは、基地の人間が殺されてから数時間後の事だった。


 基地の様子がおかしい。もしかしたら、兵士が全滅している可能性があるという報告を聞き、1人の若者が調査に来る。幾多の兵士の死体の中に、幼い子供が立っているのを発見した。その子供はボロボロであり、虐待を受けていた事がわかる。


 その若い男にとっては、素晴らしい光景に思えた。搾取されていたはずの無力な幼い子供が、搾取していたはずの男達を全滅させていたのだ。その男の顔に、思わず笑みが溢れる。


 たった1人で数百人の兵士を殺した子供、それが殺人鬼『レッドラム』だ。その体を鮮血で染めて自由を得ても、やはり自らが犠牲になるような生き方をしているようだ。暗殺者として、数百万人を殺した暗殺者として名を轟かせていた。

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