第50話 暗殺少女『アリスちゃん』登場!
ハンナが、殺人神父に強烈な一撃をぶち当てて、顔面をボコボコにしようとしていると、足の方に異変を感じていた。
蛇のような物体が足に巻き付いて来て、悪寒を覚える。足を絡め取られて引っ張られる事により、殺人神父にはトドメの一撃を加える事が出来なかった。彼の額を軽く削り、被っていた黒い帽子をはたき落した程度に終わる。
「おのれぇ、この小娘どもが……。よくも、俺の額に傷を付けてくれたなぁ!」
さっきまで、紳士的で優しいと感じていた彼は、一気に恐ろしい口調の悪魔に豹変していた。目付きも殺意を含んだ表情であり、怨みを込めてハンナを睨み付けていた。ハンナは、一瞬びっくりしたが、それよりも自分の足の方が気になっていた。
「蛇型のワイヤーかな? バリアーで解除っと!」
ハンナが足にバリアーを張ると、巻き付いていたワイヤーがすぐに外れて地面に落ちた。蛇型のワイヤーは、生き物のように動き、一気に神父を絡め取って、引き倒していた。神父は手も足も出せず、地面に引き摺り回される。
「おのれぇ、アリスかぁ!?」
「ふん、無様だね、殺人神父。女の子2人に油断して、もうちょっとで本気も出せずにゲームオーバーだったわけか。賢者タイムにも陥って、私がいなければ、捕らえられていたはずだよ?」
「くそおおおおおおおおおおおおおお、この小娘ども、今度は確実に捉えて、裸にしてやるからなぁ! 俺が受けた屈辱を数倍にして返してやらなければ、俺の怒りが収まらんわぁ!」
「はあ、この殺人神父は、下品で好きになれないねぇ……。普段は、優しくて良い男なんだけど……。二重人格って奴は、賢者能力が強い反面、こういう厄介な性格も出て来るのよねぇ……」
アリスと呼ばれる女性は、悪魔のように豹変した神父をワイヤーで引っ張って回収する。彼女は、ハーレーダビットソンの黒いバイクに跨っており、神父を自分の後ろに巻き付けて荷物のように乗せていた。
バイク専用のライダースーツを着ており、体のセクシーなボディーラインがハッキリと見て取れる。アリッサと同じEカップのオッパイを持っており、胸の間から谷間が見えていた。年齢は、私達よりも少し年上の18歳くらいだろう。
「ふふ、お騒がせて申し訳ないね。馬鹿な男どもが、どうしてもあんたらに自己紹介したいって聞かないんだよ。付き合わされる私の身も危ないっていうのに……。でもまあ、少しはヤル気も出たかしらね」
アリスと呼ばれる女性は、自分のヘルメットを脱ぐ。自己紹介のつもりなのだろう。素顔を晒して、私達に自分の存在をアピールしていた。美しいセミロングの黒髪がなびいて、時間を一瞬止めていた。
「私のコードネームは、『アリスちゃん』って呼ばれている。可愛いお嬢ちゃん達の相手をする気は無いけど、敵になれば容赦なく潰させてもらうよ。とはいえ、今日はもうお開きにするから安心して遊園地を楽しむと良い。じゃあ、またね!」
アリスは、再びヘルメットを被って、バイクを発進させようとする。そこをハンナが突進して攻撃して来た。神父は、彼女のワイヤーで動けないし、彼女を捉えれば戦力を削る事はできる。
「逃がさないわよ!」
「ふん、血気盛んなお嬢さんだ。嫌いじゃないタイプだけどね!」
ハンナは、蛇型のワイヤーの攻撃を受ける。ムチのようにしなり、頭の部分が少し太くなっていて、攻撃力を高めるデザインだ。彼女は、バリアーを使い攻撃を受けないようにしているが、アリスが逃げるまで動きを止められていた。数発の連続攻撃を受けて、逃げる時間を稼がれてしまう。
「くっそ、アイツに近付けない……」
ハンナが動けないなら、私の火球をぶつけるまでだ。私は、彼女に向かって火球を撃ち出した。神父を攻撃した時と同じ最大級の火球だった。当たれば、アリスと神父をバイクごと吹っ飛ばして、2人を捉える事ができる。
「おっと、危ない危ない!」
ハンナを攻撃していたワイヤーが、今度は私の放った火球の中に飛び込む。すると、火球が大爆発を起こして消滅した。爆風によって、私の火球を相殺したようだ。誰もいない空中で爆発して、爆風と衝撃波が私とハンナを襲う。私達の視界を遮る程度には、余力が残っていた。
辺りが収まる頃には、バイクに乗った2人はどこかへ逃げ去っていった。殺人神父とライダースーツに身を包んだ黒髪の女性、彼らも暗殺者達の一味なのだ。
「はあ、はあ、はあ、ジャックを医務室まで運びましょう! 悔しいけれど、今日はもうお開きにするしかないわ。アイツらの賢者能力は、危険過ぎる……」
「うん、凄く危険な感じがした」
私とハンナが、ジャックを医務室まで運ぼうとすると、観覧車からグロリアスとアリッサが降りて来た。グロリアスが自らの賢者能力を使い、観覧車を動かないようにしっかりと固定していた。
彼は、必死でジャックを運ぼうとする私達を見て、無言で協力する。ジャックの体を運びやすいように、飴で作った担架を出現させる。これで、スムーズに怪我人を運べるようになった。グロリアスは、私達を笑顔で褒める。
「ローレン、ハンナ、良くやった! あのまま神父が攻撃を続けていれば、ジャックは死んでいただろう。お前達が決死の覚悟で戦いを挑んだから、あの程度の怪我で済んだんだ。
だが、お前達も危険な状況に陥った事は間違いない。俺とジャックが危険な目に遭わせたようなものだな。すまない……」
彼は、申し訳なさそうな表情をする。どうやら私達が危険に遭った事を憂いているようだ。彼は、私達に危険が及ばないように配慮していた。それが、第一級犯罪者の彼らと遭遇させてしまったのだ。普通の人間ならば、怖くて震えているだろう。
「ふん、賢者能力を使えるようになった時点で、危険は覚悟していたわ。むしろ、あんな危険な賢者能力を持つ敵と互角に渡り合えて嬉しいわよ。ローレンは、どうだが分からないけど……」
「私は、自分の賢者能力が怖いかな。早く制御できるようにならないと、ハンナとかジャックが傷付いちゃう!」
「ふん、私は大丈夫だから、ガンガン攻めなさい! まあ、周りの人の為には、それなりに制御できるようになった方が良いだろうけど……」
「うん、頑張る!」
私とハンナは無邪気にはしゃいで見せるが、グロリアスは心配していた。今回は、誰も死ななかったが、次はどうなるのか分からないのだ。危険と隣り合わせの世界である事を痛感しているようだ。
オマケ
私が壊した屋内温水プールは、次の日にはもう復興し始めて直っていた。完全に吹っ飛んだと思われた屋根も、修復されており、もう営業できるほどの作業の速さだ。
「凄い、1日で修復しちゃったよ!」
「そんなに驚く事か? こんなの、最低限の修復魔法を使っただけに過ぎないぜ!」
驚く私に、グロリアスは自信満々でそう言った。ジャックも昨日は、気絶していた程度で済んだようで、回復してピンピンしている。2人揃ってニコニコ顔だと、イライラする。ハンナは、冷静にこう言って回答を教えてくれた。
「コイツらのポケットマネーから2億円が出てるからね。修復が得意な業者でも雇っているんでしょう。そんなに驚く事でもないわ!」
「おいおい、人がチート能力を持っている雰囲気を作ってるのに、ネタバレするなよ!」
こうして、私達が遊園地で遊んでいる間に、壊れていた屋内温水プールは完全修復されていた。早めに営業が再開して、私もホッと胸を撫で下ろしていた。




