第47話 クソ高い飴の反撃!
私は、グロリアスに言われてエイトガンを構える。安全バーがあって動き難いが、なんとか両腕で銃を構える事ができた。ジェットコースターのスピードが速すぎて、どこを移動しているのか分かっていないが、彼の指示が来るのを待つ。
「ふん、良くもやってくれたな。タダでお帰りさせるわけにはいかないぜ。お前らにも甘いプレゼントをくれてやるぜ! タップリと味わうと良い!」
私のエイトガンは、風属性になっていた。まだ使用したことは無いが、どんな威力を持っているだろうか?
「ローレン、今だ!」
私は、彼に言われた通りトリガーを引く。指示された場所は、ジェットコースターのコースの中で一番高い場所であり、レールを見上げるようになっていた。レールの代わりに、前方には観覧車が見えている。
「行け、『エアバスター』!」
「おっ、必殺技名が付いたか。なら、ローレンと俺の合作技は、『スイートレイン』にしておくか! このジェットコースター全体に、飴の雨を降らせるぜ!」
すると、前方の視界がグロリアスの作り出した巨大な飴玉に遮られた。直径4メートルほどの飴玉だ。どうやら、この巨大な飴を私のエイトガンで撃ち砕けという事らしい。1秒ほどのわずかなタイムラグによって、飴玉が出現した瞬間に私の技が出現した。
私の風属性による攻撃は、台風のようなきりもみ状の雲が出現した。巨大な飴玉と同じくらいの大きさであり、それが弾として撃ち出されたのだ。
台風の弾は、巨大な飴玉に打つかり、飴玉を細かく砕きながら、ジェットコースター全体に飴のカケラを降り注いでいた。高温になっているレールと接触して、粘着性の飴に変化している。
それが私達の乗っているコースターを減速させ始めていたのだ。程よい粘着性があり、みるみる内にスピードが落ちていった。
「凄い、スピードが落ちてる!」
「ふっ、それだけじゃないぜ。お前の『エアバスター』の風に乗って、飴のカケラを含んだ攻撃が奴らを襲っているぜ。無事に逃げ切れれば良いけどな」
--------
私の台風のような威力の弾は、真っ直ぐに観覧車付近にいる暗殺者達を攻撃していた。まず、突風が吹き荒れ、それから殺人級の空気弾が襲って来る。当たれば即死するほどの威力だった。
「キャー、もうエッチな風ねえ♡」
体がスッポリと収まるマントのような赤い服を着ている女の子は、突風によってスカートがめくれ上がり、セクシーな黒いパンティーを露わになる。必死で押さえているが、台風のような風の前にはなすすべもない。
ダンディーな態度を示している茶色いコートの男も、思わぬパンチラに興奮を隠し切れなかった。親心を装っているが、男の本能が思わず出てしまっていた。
「おお、黒いパンティーだ!」
(まさか、13歳で黒を着こなしているとは……。ちょっと教育を間違えてしまったのだろうか? アイツにはまだ早い気がするが……。いや、アイツは、このくらいの色気が魅力的なはずだ!)
キングという男性は、13歳の少女のパンティーを真剣な顔付きで見つめる。ただ黒いだけではない。レースのように巧みに編み込まれており、白い肌を際立たせるという効果も持っていた。普通の男ならば、彼女を女性として性的に見ている事であろう。
「キング、危ないよ〜」
少女の言葉で我に帰る。私とグロリアスの合体技が、彼の前に迫っていた。確実に当たるという距離で、もう1メートルほどの差もない。身体能力だけでは、確実に避けきれないであろう。彼は冷静さを取り戻し、懐から二丁の拳銃を取り出した。
二丁の銃を使い、銃を撃つ衝撃によって回避しようとしていた。銃の衝撃+彼の超人的な体術によって、なんとかギリギリ空気の弾を回避する。鼻先だけが軽く触れて、鼻の頭から血を流していた。それでも、彼らの笑顔が絶える事はない。
「あっぶね! もう少しで死ぬところだったぜ!」
「ぷっ、今ガチで死にかけたよね? 私のパンティー姿に悩殺されちゃうところだった?」
「まあ、そんなところだ。早いとこ、ズラかろうぜ!」
「ぷっ、キング可愛い♡」
彼にとっては死ぬところをギリギリで回避していたのだが、軽いノリで逃げて行く。その明るい性格こそが、彼が幾多の死線を潜り抜けてきた証拠なのだ。彼は、死にかけたくらいで怯えるような弱い精神を持ち合わせてはいない。
--------
グロリアスはジェットコースターが減速するのを見て、自分の技が上手くいった事を悟る。レールの上は、水飴が塗られたような光沢を放っており、光によって反射していた。時間をかければ、自然とコースターは止まるだろう。
だが、グロリアスは自然と止まるのを待つ事はない。今度は、自分の体から出した飴を蜘蛛の糸状にして、コースターを絡め取る事によって止める。丁度コースターの停車位置を狙って止めていた。おそらく私とハンナが降りられやすいように配慮してくれたのだろう。
狙撃をした暗殺者達は逃げて行った。私達は、ジャックの提案によって遊園地で遊ぶ事を続ける。
「良し、観覧車なら安全だろう。奴らは逃げて行ったし、再び現場に戻って来ることもないよ!」
「良いけど、何かあったら、あんたを真っ先に切り捨てるからね」
「じゃあ、決まりだ!」
ただし、グロリアスだけは反対していた。まだ、何かしらの罠があるかもしれないし、敵はあの2人だけとは限らないのだ。
「ジャック、どういうつもりだ? ローレンとハンナを危険に晒すような判断は、お前らしくもないが……」
「なーに、狙い易い場所の方が、逆に危険は無いんだよ。それに、この観覧車は防弾ガラスによってコーティングされている。観覧車自体の強度もかなりあるから、狙撃するには場所が悪いよ。それに、敵さんが登場してくれた方が、対策は立て易い」
「まあ、ホテルに帰っても危険がないわけでは無いのか……。なら、奴らが狙って来た場合にも対応し易い場所に移動するというわけだな。遊園地のオーナーでもあるお前ならば、ある程度までは奇襲を受け難いというわけか」
「まあ、そういう事。僕を頼りにしてくれて良いよ。それに、今度はアリッサさんも一緒だしね。感知能力は、暗殺者よりもはるかに上だと思うけど……」
「分かったよ。『レッドラム』とかいうヤバそうな狙撃手は逃げたようだしな」
「そう来なくちゃ!」
ジャックは意気揚々としているが、グロリアスは不安を感じていた。少なくとも後1人は男性の仲間がいるはずなのだ。ジャックの言うように、奇襲され難い場所を選んだ方が有利にも思える。その為、遊ぶのを継続する。
「グロリアスとアリッサは一緒に乗ると良い。ローレンちゃんとハンナちゃんは、僕が面倒を見るから……」
彼のその提案に、彼以外の全員が不審の目をしていた。はっきり言って、グロリアスとアリッサ、私とハンナ、ジャック1人の方が安全と認識する。彼以外の全員が納得する中、彼1人が猛烈に抗議していた。
「観覧車に乗るといったら、当然男女混合だろう? 男1人で乗るとか、絶望を感じてしまうじゃないか。観覧車は、男女が良い雰囲気になって、キスする為に作られたんだ。ちゃんと観覧車の使用目的を果たしてあげないと可哀想だろう。
本来のところは、僕とハンナちゃんの2人きりで乗りたいところだったけど、グロリアスとアリッサの事を考慮して、僕とハンナちゃんのラブラブ観覧車に、ローレンちゃんも一緒に乗せてあげようと思っているんだよ。
これ以上の妥協は許されない。危険な暗殺者に狙われているから、僕かグロリアスが一緒に乗らなきゃいけない。このくらいの洞察力を働かして欲しいものだよ。でなければ、全滅してしまう危険だってあり得るんだよ?」
「うわぁ、完全にハンナちゃんをロックオンしているよ。どうする、ハンナちゃん?」
私は、心配になってハンナちゃんを見る。こんな変態にストーカー行為をされているのだ。私だったら怖くて震えてしまう。そう思って、彼女の顔を見ると、怪しい表情でメッチャ笑っていた。意外と気に入っているらしい。
「私は、別に良いわよ? この狭い空間なら、逃げる事は出来ないもの。15分の間に、ボコボコにしてあげる。それに、ローレンのバズーカーも有るから、死体の処理には困らないもの。下手な事をすれば、即殺してあげる♡」
「私の武器、バズーカーじゃないんだけど……」
確かに、観覧車という狭い空間ならば、ジャックがいかに素早くても逃げるのには限りがある。私の火球をまともに喰らえば、骨も残さずに溶ける事だろう。こうして、ジャックが何か変な事をして来た場合、存在が消し飛ぶという条件で一緒に乗る事になった。
グロリアスとアリッサは、お互いに緊張して付き合い始めのカップルのようになっていた。向かい合って座り、しどろもどろに話し始める。私は、彼らが気になっていたが、仕方なく隣のゴンドラに乗り込んだ。




