第45話 ダイアナ妃のプレゼント
グロリアスは、朝のお風呂上がりに、メールを確認する。コーヒー牛乳を片手に、半裸で頭にタオルを被り、パソコンを開く。彼の毎日の日課だった。
どんな依頼や連絡が来ているかを小まめにチェックしないと、すぐにメールが100通にもなってしまう。それを防ぐ為にも、パソコンを開いてメールを閲覧していた。
「うーむ、ほとんどがダイアナのメールだな。屋内温水プールの修繕費をかなり細部まで丁寧に説明して来やがる。依頼を断れば、本当に2億以上の請求をされかねない。おっ、でも彼女にも良い所は沢山あるんだよなぁ。
ローレンとハンナの為にプレゼントを用意してくれたらしい。おそらくは、彼女達の賢者能力を成長させる為のアイテムだろう。ホテルの廊下に置いてあるそうだ。後で見に行ってみるか……」
グロリアスは、ダイアナのメールを一通り確認した後、別のメールも確認する。一通りメールを確認するまでは、行動を起こす事は少ない。ホテルの廊下なので、プレゼントを誰かに盗られる心配もないだろう。
続けてメールを見ていると、知らない人物からのメールを見付けた。パソコンのウイルス対策は万全を期しているので、メールを確認してみた。そこには、こう書いてあった。
「どうも、『三つ(トリプル)王冠』のグロリアスか? 賢者協会の切り札とまで言われているそうじゃないか。俺のところまで、その名を轟かせているよ。はっきり言って、あんたの事は尊敬している。
だが、仕事の邪魔になるというのなら話は別だ。殺す気で相手になろう。俺もそれなりに名の知られた暗殺者だよ。『闇の(ダーク)道化師』という名前なら聞いた事があるだろう。今の世間を騒がせている事件の黒幕的な存在だ。
今回連絡して来たのは他でもない、あんたにある依頼を断って貰いたいだけだ。賢者協会の秘書『ダイアナ・フィリプス』から受けた社長の護衛の件だ。あんたをみすみす殺すのは、もう少し後の方が望ましい。
俺達の狙いは、賢者協会の社長ただ1人だけだ。事実上、賢者協会のトップは、ダイアナという秘書だろう? お飾りの社長1人が死んでも大した損害にならないと思うが?
まあ、突然にそう言われても戸惑うだろうな。今日1日だけ猶予をやろう。俺達『闇の(ダーク)道化師と戦って、無能な社長を守って死ぬか、それとも依頼を断って生きるかだ。よく考えて決めてくれ。では、失礼する!」
「『闇の(ダーク)道化師』か。確か、『赤い(レッド)羊』と呼ばれる凄腕のスナイパーと、『殺人王冠』と呼ばれる殺人賢者、『アリスちゃん』とか呼ばれる女性の3人組だったな。
データーは過去の物だから、多少は入れ替わりがあるかもしれないが、そこまでの変化はないだろう。奴らが暗殺し始めたのは、8年前からと言われている。俺達『三つ(トリプル)王冠』に対抗意識を燃やしているようだな。
まあ、訓練旅行という名の護衛には、俺達の他にも『四天王』が守っているし、『ダイアナ軍隊』もいる。万に一つも負ける要素はないだろう。所詮は、小物の暗殺者集団だ。俺達の敵ではないな。逆に、一網打尽にしてやるわ!」
グロリアスは、大した興味も示さずに、パソコンを閉じてシャットダウンする。これから私とアリッサとハンナ、ジャックの4人と遊園地で遊ぶ為、出かける準備をする。ダイアナの用意したプレゼントを手に持ち、私達と廊下で合流した。
「うわぁ〜、なにそれ!?」
私はグロリアスに会うなり、いきなりそう切り出した。見た目は思いっ切りプレゼントのようだし、子供には好奇心の対象となるだろう。青い包み紙と緑色の包み紙とに分けられていた。私は、青い方がちょっと大きくて欲しいと感じる。
「ダイアナからのプレゼントだ。青い方がローレンのプレゼント、緑色の方がハンナのプレゼントだ。ちょっと落ち込んでいたようだから気を利かせてくれたんだろう」
「うん、プールを壊したのが私だと思ったら、悪い事したと思って落ち込んでいたよ……。うわぁ、嬉しい! 青い方のプレゼントだぁ!」
「なに、お前ばかりの責任ではない。俺達の監督不行き届きだった。あれでもかなり警戒していたのだが、お前の潜在能力を見誤っていて失敗してしまったというところだ。まあ、ダイアナが訓練に興味を持ってくれたから全体的に見てプラスの方が多いな。
お前の賢者能力は、訓練すれば相当の戦力になる。まずは、威力を調節する事が重要になってくるが……」
「ダイアナさんにお礼を言わないと……」
「それは良い心掛けだ。まずは、彼女のプレゼントを開けて、中身を確認してみろ。不具合品だったら、すぐにでも交換して貰えると思うから……」
「そうだね!」
私は乱雑に包み紙を破って開ける。
「この包み紙、すごく可愛い」
逆に、ハンナはゆっくりと包み紙を破らないように注意して開けていた。どうやら、取っておいて再利用する気らしい。ハンナの女の子らしい開け方を見て、グロリアスは私に意見する。
「もう少しハンナを見習えよ。二度と使う事はないのだろうが、ゴミは最小限少なくなるようにして欲しいものだな」
「ゴミ……」
ハンナは、彼の言葉を聞いてショックを受けていた。大切にしまって置こうとした包み紙がハラリと落ちる。可愛いから取って置こうとしたが、現実で使われる事などほとんどない。
収納の場所を取ったあげく、そのまま捨てられるのがほとんどだった。グロリアスは、ハンナの態度を見て、自分が酷い事を言ったと認識する。彼女の落とした包み紙を拾い上げ、こう提案した。
「折り紙に使おう! なんか、鶴とか亀とかいろいろ作って飾る事ができるぞ。テレビの上にちょっと乗せておけば、すごくオシャレに見える。アリッサの家は、旅館だから凄い主要があるよ」
彼は、しばらくハンナを気遣っていた。おそらく彼女の家には、使われていない包み紙が沢山あるのだろう。2人が話している間に、私はプレゼントの中身を確認していた。いったい、何が入っているのであろうか?
「わぁ、拳銃だ! カッコイイ!」
私のプレゼントは、特殊な形の銃らしい。普通の銃よりも一回り大きく、小型のショルダーバックにすっぽり収まる程度の大きさだ。
色は、銃身が青色メインで、グリップが白色メイン、リボルバー部分は外側が白色で、内側は青色で作られているという感じだった。
リボルバー部分は特に大きく、ダイヤルを回転する事で、8種類の攻撃方法が可能になっていた。グリップ内には専用のバッテリーが装着されており、賢者タイムになってもバッテリーを使用する事で攻撃はできるらしい。
専用の青色のショルダーバックも用意されており、見た目的にもオシャレだった。ただし、私の賢者能力を訓練する為に、バッテリーは接続されていない状態だった。
つまり、私の魔法技術のみで攻撃しなければいけないのだ。当然、賢者タイムにもなる。無限賢者になれる仕様だが、敢えて賢者タイムになるように設定されていた。
バッテリー内にあるエネルギーで使用できるのは、ライトとスタンガンのみである。グロリアスは、説明書に書かれている事を要約してくれた。
「どうやら、その武器は、『8つの属性を持つ(エイト)銃』という名前らしい。お前の賢者能力に合わせて、8つの属性が使えるようになる魔法銃だ。
様々な自然属性を合わせて使うという応用は効かないが、全ての自然属性を扱う事ができるらしい。それと、機械を通す事によって、自分の賢者能力をコントロールし易くなるようだ。
まずは、賢者能力の使用と、威力の調節を重点的に訓練するみたいだな。自然属性の説明は、後々やっていく事によって、銃なしでも扱う事ができるようになる。いわば、赤ん坊の歩行器と言ったところか」
「赤ん坊……」
「賢者としては、危険な赤ん坊だな」
「どうやって使うの?」
「リボルバーとなっているダイヤルを、使いたい能力に合わせて変更する。次に、お前が電気を発生させる事で様々なギミックにより、自然属性のエネルギーが溜まる仕組みだ。
そして、トリガーを引けば、お前が発生させたエネルギーに応じて、強力な自然属性の弾が発射されるらしい。まずは、普通に使ってみて、自分の賢者能力がどんな威力を持っているかを知る必要があるな。
何もない上空に向かって撃てば、被害は出ないし、連続してどれだけ撃てるのかも測る事ができるだろう。自分の戦力を知っておくことは大切だ。他人を傷付けない為にもな」
「うん、使ってみるよ!」
私は、何もない空に向かって、銃口を定める。まずは、ダイヤルを回して、火属性のマークが記された攻撃に変更する。他にも、風や土なんかのマークが記されていた。グロリアスの確認を取り、銃を撃とうとする。
「火のマークが拳銃みたいだよね。じゃあ、撃つよ!」
「待った! その姿勢では危ないぞ。腕を真っ直ぐに伸ばして、体で衝撃を吸収するように撃つんだ。普通の拳銃でもかなりの衝撃を受ける。この銃ならなおさら危険な物だろう。中途半端な姿勢で撃てば、怪我をする危険があるぜ」
「ええ! 腕を伸ばして、体で支える? こうかな?」
私は、腕を上空に挙げて伸ばし、肩で衝撃を吸収するような姿勢をする。グロリアスの許可が下りたので、銃を撃つ事にした。トリガーを引くと、空気を取り込むような音がし始めた。1秒ほどすると、銃口から巨大な火球が飛び出していた。
直径4メートルはある火球で、一瞬にして私の周りを熱くさせる。まるで、小さな太陽が飛び出したような威力だった。私は銃を撃った衝撃で後ろへ飛ばされる。かなりのスピードで後ろへ飛ばされたが、ジャックとハンナが支えてくれていた。
2人が支えてくれなければ、私は地面に叩きつけられた事だろう。撃った火球の威力は凄まじく、当たれば車も消し飛ぶほどの威力だった。私は2人に支えられながら、呆然と立ち尽くしていた。グロリアスは、私にこう語る。
「これで、お前の賢者能力が危険である事を認識できただろう。威力を調節しなければならないという課題もな……。少なくとも、自分が弾き飛ばされないレベルに威力を抑える必要がある。
後は、どれだけ撃って賢者タイムになるかを知る事だ。連発して撃ち、火球が出なくなるまで続けろ。どの程度まで使用できるのかを知るのも、戦力分析には重要な要素だ。
どこかに閉じ込められた場合には、脱出の為の有効な武器になるし、切り札としても重宝するだろう。俺達も、お前の現状の攻撃力を知っておく方が都合が良いのさ。ちょっと衝撃がキツイだろうが、慣れるまで頑張ってくれ!」
「は〜い」
私は、1分間以内に可能な限り火球を撃ち出す。衝撃がキツイが、なんとか慣れ始めていた。後ろに何か支えを設置しておけば、1人でも発射する事は可能になっていた。
最初の1発目から数えて4発が発射された。それ以降は、火球が出なくなり、賢者タイムに入っていた。
「あれ、火球が出てこなくなった」
「どうやら、4発がお前の限界らしいな。10分ほどは、賢者タイムで電気放電も、火球の発射もできなくなるぞ。だが、スタンガンとライトは充電式のバッテリーが内蔵されているから、護身用として使用できるぞ」
私はそれを聞いて、電気の付いたマークにダイヤルを合わせてみた。すると、バチバチバチという音がなる。
「あ、本当だ。スタンガンとライトは普通に使える」
「威力を調節する事ができれば、もっと戦えるようになるだろう。今は、最大火力の攻撃しかできないが、自分で調節するコツを掴めば、徐々に威力を落としていく事は可能だ。銃の衝撃を、後ろに支えを置く事によって耐える工夫は驚かされた。
そういう工夫が賢者には必要なんだ。じゃあ、賢者タイムの切れる10分くらいまで遊ぶぞ。時間が経ったら、また訓練をしてやるからな。威力を調節できるように、電気の発生をもう少し抑えるようにしてみろ!」
「うん、分かった!」
「じゃあ、遊ぶぜ!」
「おー!」
私は、『エイトガン』を専用のホルスターに納めた。ホルスター内には電気を抑える機能が付いており、私が電気を発生させても暴発しないように出来ていた。




