第39話 揺れる心
アリッサは準備運動をしながら、Eカップのオッパイを揺らす。筋肉、オッパイの形、共に良い体付きの女性だった。ダイアナは、彼女の体を見て驚いていた。彼女は、自信満々にダイアナにこう言い始めた。
「私、こう見えても運動得意なんですよ? 格闘スキルもあるし、持久力もあるんです。超能力者タイプの女の子なら、身体能力の差で圧倒してしまいますかね?」
「確かに、良い体付きね。身体能力では、私とほぼ互角くらいの筋力差か。でも、オッパイが……、オッパイが……、オッパイが……。絶対に、あなたには負けない!」
2人は闘志を燃やし始め、ダイアナはこう提案する。
「普通に勝負してもつまらないわね。何か、この勝負に物を賭けましょうか?」
「ごめんなさい、賭け事は嫌いなの」
「あら、負けるのが怖いのかしら? あなたにもメリットのある勝負よ。どう、勝った方がグロリアスと結婚するというのは? お互いに、彼の恋人同士だし、条件は公平でしょう? それに、無理矢理するくらいじゃないと、彼は結婚なんてしてくれないわよ!」
「面白いじゃない。勝った方がグロリアスと結婚か……。その勝負、受けて立つわ!」
「くっくっく、私に勝てると思っているの、お馬鹿さん」
こうして、グロリアスとの結婚を賭けた戦いが開始された。スタート位置に立ち、グロリアスにスタートの合図をするようにお願いする。どちらが勝っても、グロリアスには可愛い奥さんが手に入るのだ。度胸が無い以上、グイグイ押してくれる女性が彼には必要だった。
「グロリアス、私が勝ったら、豪華な料理でパーティーをしてあげるからね。その後は、結婚届を書いて提出しましょう。その後は、2人でたっぷり愛し合いましょう。気絶しようが、意識がなくなろうが、じっくり可愛がってあげるわ!」
「くう、ダイアナ……」
ダイアナは挑発的なポーズを取り、グロリアスを誘惑する。とても同い年には見えないほどの肌のハリとスタイルの良さだ。なぜ今まで結婚できなかったのかが不思議なくらいの美女だった。絶対に多くの男達から結婚を迫られた事であろう。
「グロリアス、私が勝ったら、一緒にお風呂を入って、添い寝してあげるわよ! 結婚は、焦らなくて良いから、じっくりと計画して式を挙げましょう。幸せにしてくれるって、信じているから……」
「アリッサ……」
グロリアスもどちらを応援すれば良いのか分からない表情だ。お互いに仕事を長年こなし、一番付き合いの長い女であるダイアナ。その姿は20年過ぎた今でも全く変わることはなく、常に美しさを保っていた。
不死身の肉体を持っているのでは無いかと勘違いするほどだ。魅力的な彼女を放置していたのは、彼女との関係を壊したくなかったからに他ならない。1分、1秒でも彼女と一緒にいたいという気持ちで仕事していたものだ。
一方、アリッサとの関係も短く無い時間となっていた。最初は、自分の『賢者能力』に苦しんでいる彼女を助けるだけのつもりだったが、今では彼のパートナーになりつつあった。一緒にいる事が当たり前のようになっていたのだ。
「くう、どちらも幸せになれる魅力的な女性だ。俺が優柔不断でなければ、どちらも今頃は俺の妻になっていた事だろう。両方と結婚して幸せにすることは、俺には不可能だ。必ず、どちらか一方を選ばなければならない。くう、どっちを選べば良いんだ? 分からん!」
「グロリアス、勝った方と結婚するで良いでしょう?」
アリッサとダイアナが2人でそう宣言してきた。彼も、2人の意見に従い、勝った方と結婚する事に同意した。同意の意味を示す開始の合図を、自らの能力で作り出した銃で返す。パンッという乾いた音がプール中に鳴り響いた。
スタートは、アリッサが有利に立つ。脚力を使い、一気にダイアナの前を泳ぐ。わずかな差ではあるが、2人の身体能力が同じならば、その差は後半に響いてくるはずだ。ジャンプ時に大きなオッパイが揺れて、グロリアスを魅了していた。
ダイアナも彼女の実力を目の当たりにし、本気で勝負する気になった。六神通の眼で一瞬グロリアスを見たが、アリッサのオッパイに釘付けになっていた。ダイアナを怒らせるには十分な理由だ。
(なかなかの良いスタートじゃない。でも、勝負はここからよ! グロリアスとの結婚はどうでも良いとか思っていたけど、このまま2人がすんなりと結婚するのは気に入らない! それに、ズルズルと引き延ばすグロリアスにも殺意を覚えるしね!)
ダイアナは本気になり、一気に追い抜いていった。水の流れを的確に掴み取り、最小限の動きでスピードアップを図る。体力と腕力で勝るはずのアリッサを圧倒していた。水着も競技用のギチギチに体を覆うタイプの水着だ。
(何ですって? 私を軽々と引き離した!)
ビキニ姿のアリッサでは勝つ事ができない。アリッサも、リードするダイアナを見て、全力で泳ぎ始めた。余力を残して後半戦に臨むつもりが、前半で一気に体力を使う泳ぎで追いかけて行く。
そうしなければ追いつく事も、付いていく事もできないほどのスピードなのだ。それでも、わずかにダイアナがリードしたまま後半戦に突入していた。壁に足を蹴ってターンする。後は、一直線に泳ぎ切れば勝負が決まる。
(くっ、一瞬も気が抜けない! ここまで付いてこれるのは、正直敬意を払うわ! 心を読む能力によって、効率良く格闘スキルを習得したようね。おそらく、どんな格闘技でも最短で覚えて来た事でしょう。
私と似ていて笑けてくるわ。でも、自然の力や他の物の力を借りる能力は無いはず……。水の流れを読みきり、最小限の動きで泳ぐ私には勝てないわよ! グロリアスとの結婚、諦め掛けていたけど、本気で狙っても良いかもね!)
ダイアナは、スピードをアップさせて引き離しにかかる。彼女もアリッサと同等程度に鍛えているのだ。更に、オッパイの大きさと競泳水着によって、水泳勝負では優位に立っていた。本気になったので、体力も消耗するが、スピードも上がる。
(くう、私が付いていけない!? このままでは、負ける……)
アリッサは追い込まれていた。グロリアスとの楽しい日々が頭の中を過る。絶対に負けれない勝負だと確信して、彼女の賢者能力に新たな能力が開発され始めた。彼女には、ダイアナの考えている事も的確に分かる。
さっきまでは本気でなかったが、今では本気である事を理解していた。その為、更に深くまでダイアナの心を探り始めた。2人の賢者能力は、共に近いタイプの能力だ。
ダイアナがどのようにして水の流れを読んでいるかもトレースする(真似る)事で、同じ能力をコピーする事ができていた。わずか10メートル以内にいる超能力者タイプの相手に限るが、5分間だけ同じ能力を得る事に成功していた。
それにより、アリッサも極限状態ながらスピードアップする。ダイアナ自身もアリッサの変化に驚いていた。六神通の眼力によって、即座に真後ろに強敵がいる事を理解していた。共に全力で並び、差は数ミリ単位でしかない。
(何ですって!? ここに来て、スピードアップ!? このアリッサという娘、グロリアスを賭けた戦いで私に匹敵する能力を身に付けたというの……。努力は認めるわ。でも、負けるわけにはいかないの! 私ももうすぐ40歳を過ぎるのよ!)
ダイアナは、相当なプレッシャーを感じて、世界というプールの中を泳いでいた。いずれは、グロリアスが自分と結婚してくれるという淡い期待を抱いていたのだ。そこを、数年前に会った小娘に邪魔されようとしていた。
彼女は、体力も限界に近かったが、意地で喰らい付いていた。ダイアナとアリッサは横一線に並び、ビデオ判定でなければ勝敗は分からないくらいの接戦になっていた。両者、もう何も考える余裕さえもない。必死でプールの壁に手を付こうとしていた。
「ゴール! 勝ったのはどっち!?」
ダイアナがそう叫び、グロリアスにビデオ判定を要求する。それを確認する必要はなかった。なぜなら、プールの壁がタッチした瞬間におかしい事に気が付いたからだ。
グロリアスが、自分の能力を使って、彼女の前の壁だけ触る事ができないようにコーティングしていたのだ。
いくら速くても、壁にタッチする事ができなければ、勝った事にはならない。かといって、勝負を妨害したので、勝負自体も無効に近い状態だった。
「グロリアス……」
ダイアナの美しい顔が、初めて人間らしく醜く崩れた。いつもは鏡で自分の顔を見て、美しい笑顔や表情を出しているが、好きな男に振られたので怒りを露わにしていた。怖い形相でグロリアスを睨む付ける。




