第31話 夜のショッピングモールに忍び寄る恐怖
私とハンナは、無人となったショッピングモールを回り始めていた。1時間前までは賑やかだった場所も、従業員がいなくなると途端に怖い場所に変わる。秘書室からマスターキーを貰い、順番にショッピングモールを歩いていく。
回数は10階まであり、ここの店に入る必要はないが、通路を全て確認しなければならない。レストランや商店は、シャッターが降りていて、中を確認する事はできるが、通り抜ける事はできなくなっていた。
「秘書室は分かり易い場所で良かったわ。後は、このくらい通路を順番に通り抜けるだけなんだけど……。暗いとやっぱり怖いわね。お化けとかは信じてないけど、怪しい人物がいるかもしれないし……。ローレンのライトが頼りなんだから、しっかりと照らしてよね?」
「うん、分かってるけど……。なんで、私の魔法技術に合った仕様に改造されているんだろう? 常に電気を発生させていないと、明かりが消えちゃうよ……」
「一応、充電されているみたいだけどね。賢者タイムになって、明かりが付かなかったら大変だし……。そういう意味では、あんた無限賢者に近いのかもね。電気を充電さえしていれば、賢者タイムに陥ってもある程度は武器を使えるわけだし……。
このライトも、ちょっと変わっているけど、ちゃんと武器の形になっているわ。ちょっと形が変だから気になったけど、スタンガンに変化するんじゃない? ちょっと弄ってみなさいよ……」
「スタンガンって、何? 拳銃なの?」
「ああ、知らないのね。殺傷能力を抑えた電気ショックを与える武器よ。高電圧が発生して、敵に接触させる事でダメージを与えつつ、行動不能にさせるの。電気ショックを浴びせるだけだから、気絶するかどうかは分からないけどね。
後は、電気が発生する金属製の弾を発射させて、遠距離から電気ショックを与える物もあるみたい。これ、多分高性能だから、どちらもできるように改造されているんじゃないかしら? 子供が扱うには、ちょっと危険な武器よね?」
「あっ、本当だ。なんか変化して武器になった!」
「危険だから、必要がある時だけ使いなさい。今は、ライトだけで充分よ!」
銃型の武器に変化させると、高電圧の電気が発生して、バチバチと音を出していた。雷が発生しているようで、綺麗な光に見惚れる。ハンナの警告を聞き、すぐにライトの形状に戻しておいた。
「あの秘書、ちょっと気に食わないわね。何か、企んでいる感じがする。私達のことを観察するようにじっくりと見てきたし……」
「美人だったよね! 良い匂いもしたし、優しそうな感じだった。将来は、あんな感じの大人になりたいな!」
「まあ、美人で服のセンスが良い事は認めるけど……」
私とハンナが話していると、遠くの方で物音が聞こえた。どうやら、何者かがいて、不注意で何かを倒したような音だった。私とハンナは、音のする方向に注目する。
お客さんがまだ残っているだけかもしれないし、従業員が作業している可能性もある。音がした原因を探る必要が出てきた。
「うう、暗くて怖いのに、変な人と遭遇するのはやだよ」
「そうは言っても、確認して見ないことには……。大方、大したことのない理由かもしれないし……。
私は、格闘スキルもあるから、怪しい人物がいた場合でも倒すことができるとは思うわ。不意打ちを喰らわない限り、こっちが有利だから安心しなさい」
「うう、そうは言っても怖いよ……」
「ゆっくりと辺りを確認して、警戒していなさい。そろそろ、音がした場所に近付いているわよ」
私達が近付いていくが、音はしない。その代わり、ハンナが謎の気配に気付いていた。どうやら居場所を察知する能力もあるらしい。一気に気配のする方に近付いて行く。格闘センスと自分の魔法技術が分かっているからこそ、できる芸当だった。
「そこになんかいる!」
怪しい影は、高速で彼女から逃げる。素早い動きだったが、彼女も速い。床を蹴る力と彼女の魔法が合わさり、高速で動けるようだ。まるでバネでも付いているかの如く、跳躍していた。直線距離で素早く追っていき、早くも謎の生物を追い詰めていた。
「ふう、ちょっと手こずったけど、なんとか角に追い詰めたわ。ローレン、ライトでコイツを照らして。私が一気に捉えるから……」
「うん……」
私は、彼女に言われた通り、謎の生物にライトを向けた。一瞬だけだが、ヒョウのような巨大な猫が姿を見せていた。私がライトを向けると、その生物は一気に私の方に突進して来た。直撃を受ければ、私でも吹っ飛ばされるくらいの大きさだ。
「うわぁ、向かって来た!」
「怖がらないで。スタンガンで感電させるのよ!」
「そっか!」
私は、素早くライトからスタンガンに切り替える。バチバチという音と共に、謎の生物を攻撃した。ギャンという鳴き声が響いて、謎の生物は気絶していた。動かなくなったのを確認すると、ライトを当てて姿を見る。
「あれ、思っていたより小さい。子猫みたい……」
「どうやら、ペットショップから逃げ出した猫みたいね。暗闇で怯えていたんだわ。とりあえず、ホテルまで連れて行って世話しましょう。一応、ペット用のカゴも持っていきましょうか?」
「うん、怪我してないと良いけど……。思いっ切りスタンガンを当てちゃった。こうして見ると、可愛いね」
「とりあえず、私が抱いておくわ。気が付いても、逃がさない自信があるからね。なんだったら、私の家で飼おうかしら?」
「うー、私の部屋でも飼いたいよ……」
こうして、私達は、ショッピングモールの見回りを続けた。その猫以外には変わった様子はなく、猫もずっと大人しいままだった。私は、猫が死んじゃったのではないかと心配するが、心臓も動いており生きているようだった。
「うーん、綺麗だから衰弱している様子もないけど……。きっと疲れて寝てるだけだわ。しばらく抱いたまま寝かせてあげましょう。それなら、起きても暴れたりしないと思うし……」
「うわぁ、ハンナちゃんのオッパイに包まれて気持ち良さそう……。私もそのくらいあったら良いのに……」
「ちょっと成長し過ぎかな……。肩凝りやすいのよね。たぶん、格闘技とかを習って体を鍛えているから、他の子達よりも成長しているだけだと思うけど……」
「ちょっと触って良い?」
「ダメ! 猫なら触っても良いけど……」
「えー、じゃあ、猫さんを触るよ……」
私は、膨よかなハンナの胸を見ながら、猫を撫でる。猫の頭がスッポリとオッパイの間に挟まれ、彼女が巨乳である事を確認していた。触りたい衝動を抑えて、ひたすら猫を撫でる。撫でる毎に、彼女のオッパイがポヨンと揺れていた。
「はう、揺れている……」
「ちょっとお触り厳禁だからね! 今、私のオッパイに触れて良いのは、猫ちゃんだけなんだから……」
ハンナは、ずっと猫を抱いたまま、ショッピングモールの警備を続けていた。粗方見回りを終え、秘書室へ戻る。鍵を返せば、今日の仕事は終わりなのだ。
「ふう、なんとか見回りました。1匹猫が脱走していましたが、それ以外は問題ありませんでした」
「そう、ありがとう。その猫、気に入ったのなら持って帰って良いわよ。後、そのスタンガン付きライトもね。何かに役立ててくれたら嬉しいわ」
「はあ、ありがとうございます。じゃあ、猫とライトは貰っていきますね!」
2人は、なんの疑いもなく、猫とライトを持って帰る。私達が帰るのを見守り、ダイアナと呼ばれる秘書が笑っていた。
「さて、本番はここからよ。あなた達、生きて、グロリアスのところまで辿り着けるかしら?」
不気味な笑いが薄暗いショッピングモールの一室で響いていた。




