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『賢者タイム』という科学的過ぎる魔法制限 〜賢者魔法のご利用は計画的に〜  作者: ぷれみあむ猫パンチ
第2章 『3つの(トリプル)王冠(クラウン)』の絆(きずな)
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第29話 所長、連行される

 私がウエイトレスの服を脱ぎ、下着姿になっていると、所長が話しかけてきた。テーブルクロスを交換する為に、一時的にここを立ち寄ったみたいだ。私の泣く声を聞き、心配になったらしい。


「どうやら、失敗して仕事を辞めようとしているようだね。だが、サイズ調整を失敗したのは、こちらのミスだ。職場で部下が失敗する場合のほぼ全ての原因は、管理者の配慮の無さが原因だ。


 職場が良く片付けていなかったり、危険な場所で作業させていたり、部下はその最悪な環境で作業させられて、ミスを連発する。だから、君は責任を感じる必要はない。すぐに現場に戻って、新しい客に接客して貰いたい」


「でも、私はハンナちゃんみたいに上手くできるとは思いません! やっぱり、私の不注意が原因だと思います」


「ハンナちゃんは、確かに凄い。応対する能力は、僕以上だろう。それを、君に同じように仕事しろというのは、酷な話だと思うよ。まずは、客に水をあげることから始めれば良い。少しずつ、作業ができるようになっていけば良いのだ。


 まずは、難しい事は考えず、お客のノドを潤す事を考えてごらん。客は、広いショッピングモールを歩き回って疲れている。


 一杯のコップに入った水でさえ、彼らにとっては癒しとなるはずだ。それを、笑顔の君に届けられたら、嬉しくなるんじゃないのかな? 僕なら、疲れなんて吹っ飛んでしまうと思うけどね」


「むー、頑張って、続けてみます!」


「うん、頑張ってね!」


 こうして、私は所長に励まされて、サイズの合ったウエイトレスの服を着る。水を運ぶだけなら、自分でもできると思っていた。何より、お客さんの喜ぶ顔が見たいと感じ始める。


(ふふ、君は、もっと成長できるよ。そして、僕に下着姿を見せてくれてありがとう。まだ成長途中だが、なかなか綺麗な肌をしている。将来は、君もハンナちゃんのような美女になれる事だろう。まあ、僕は巨乳派なんだけどね!)


 所長は、如何わしい目で私を見ていたようだが、今の私は気にしていなかった。まずは、同じ失敗を繰り返さないように心掛ける。テーブル席を見ていると、1人の老人が席に着いていた。


「い、いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


 私は頑張って水を置き、なんとか話しかける。笑顔とか、全然忘れていたと思うが、老人は気にせず答えてくれた。どうやら男性のようで、動作がぎこちない。私は、ゆっくりと落ち着いて対応する。


「あー、メニューを見せてくれませんか?」


「はい、ただいま」


 私は、急いでメニューを持って再び老人の元を訪れる。何度か往復して順調ではないが、男性は気にしていないようだった。どうやら急いでいる感じはしない。ショッピングモールで歩き疲れた感じなのだろう。


「メニューをお持ち致しました」


「うーん、どの料理がオススメかな? 私は、あまり量が食べられないのだけど……」


「ちょっと、他のスタッフの方にお伺いして来ます。しばらくお待ちください」


 私は、とりあえず所長の元へ駆け寄る。料理の量が問題では、あまり店の事を知らない人物では分からないだろう。


「あの、料理が少ない物ってどれですか?」


「それなら、食べたい料理を選んでもらって、少なめにしてもらうようにスタッフにお願いするんだ。値段は、少し下げるようにしておこう!」


「 分かりました」


 私は、お年寄りの男性の元へ戻る。余分に紙を持ち、スタッフにも分かるように紙に書いておく。値段も安くなるように書いておいた。


「お待たせしました。少し料理のボリュームを下げる代わりに、ちょっと値段がお安くなります。どれでも好きな物を選んでください」


「おお、それはありがたい……。じゃあ、このオムライスとスープのセットにするよ。それとコーヒーとデザートのセットも追加でお願いします」


 私は、結構食べるなと考えながらも、彼の要求に合わせていた。厨房スタッフに無事伝わり、数分して料理が届けられた。ドリンクセットのカップも持ち、デザートも一緒に皿に盛られていた。


「お待たせしました。オムライスとスープのセットに、コーヒーとデザートのセットになります。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください」


「ちょっと、ドリンクバーは最初に説明してくださいよ。後、デザートは食後と決まっているでしょう? 常識も分からないんですか?」


「うー、すいません。では、デザートは最後にお持ち致します。ドリンクは、あちらの中から好きな飲み物をお選びください。では、失礼致します……」


「待ってくださいよ! オムライスにケチャップがかかっていませんよ! メイドさんが、可愛い絵で盛り付けてくれるはずでしょう?」


「ええ、そんなスキルないよ……。ちょっと、他のスタッフに相談して来ます。ちょっとお待ちください」


 私は、再び所長の元へ訪れていた。オムライスの上に、ケッチャプで萌え絵を描くというサービスをしなければならない。素人ではまずお客さんを満足させる事はできないだろう。所長は、私に対応を変わるようにさせる。


「どうやら、メイド喫茶と勘違いしているようだ。まあ、この制服とスタッフが可愛いから勘違いしても仕方ないが……。ここは、僕に任せなさい。毎日メイド喫茶に通い詰めていた僕の実力を見せてあげるよ。


 ハンナちゃんも、僕の技量にメロメロになるはずだ。ちょっとスタッフを可能な限り集めてくれ。このくらいの事ができなくては、レストランのウエイトレスは務まらないからね」


「はい!」


 私は、所長に言われるままに、手の空いているスタッフを呼び寄せていた。老人男性の周りに、スタッフが勢ぞろいして、トンデモナイ賑わいになっていた。


「はーい、注目! これから、僕がこのオムライスに魔法をかけて美味しくします。スタッフの皆さんは、これくらいの魔法が使えるように日々精進してください」


 私達が見ていると、所長は踊り始めた。どうやら最近の美少女アニメの踊りらしい。振り付けも音楽に合わせて巧みに踊る。これが、プロのパフォーマンスかと多くの人が魅入っていた。音楽に合わせて、歌も完璧に歌う。


「ウッフーン、僕の描くハートで、このオムライスをもっと美味しくしてください。萌え萌えプリンセス『キューティー』ちゃんの萌え絵だよ! はい、召し上がれ♡」


 お客さんのオムライスの上に、可愛い美少女戦士の姿が描かれていた。萌え絵を描き終わった瞬間、所長は崩れ落ちるように倒れた。息も絶え絶えになり、相当のダメージを受けているようだ。ハンナが反射的に彼を抱きとめていた。


「ちょっと、大丈夫?」


「ぐっは……、思った以上に集中力を使い切ってしまった。萌え絵を描く事はできるが、ワンチャンで描くというのは、かなりの精神力を消費する。後は、君達に任せた……」


「所長!」


「ハンナちゃん、君とはもっと一緒に仕事をしていたかった……。だが、僕はもうダメみたいだ……。最後に、キスしてくれないか?」


「えっ、キモい踊りを踊ってドン引きしているのに、その上キスとか無理ですよ。むしろ、トドメを刺したいくらいでしたから……」


「くう、なんという事だ……。だが、安心するが良い。僕も君と同じように肉体にはかなりの自信があってね。後、5分も休憩すれば体力を回復する事ができるだろう……」


「青白い顔して、しかも筋肉も付いてないモヤシじゃないですか。そんなハッタリは言わない方がマシですよ。というか、そのまま終了時間まで寝ててください。


 その方が仕事がはかどるような気がします。まあ、ローレンちゃんを励ましてくれたのには感謝しますけど……」


「やれやれ、やはり彼女がショックを受けていることに気付いていたか……。僕が励まさなければ、君が彼女を励ましていたのかな? そういう気遣いをできる君が、堪らなく好きだよ!」


「うわぁ、キモい! 私とあなたの年齢という物が分かっているんですか? 25歳以上の差があるんですよ?」


 従業員のアレクサンドラも、所長に本気でドン引きしていた。周りにいる女性スタッフが、彼の言動に注意している。それほどまでに、ロリコンは警戒されているのだ。


「最後の一言はヤバイです。確実に、通報物ですよ?」


「ええ、僕は真実を告白しただけなのに……」


 所長がまだ話しているうちに、ショッピングモールのアナウンスが流れ始めた。綺麗な声の女の人であり、とても落ち着いた雰囲気をしていそうだった。その声が、所長を名指ししてアナウンスしてきた。


「ただ今、レストラン内でキモい発言をされた所長様、大至急秘書室までお越しください。来られない場合は、こちらから強制的に逮捕する事になります!」


「ええええ、もうなんか警備員が集まって来てるし……」


 警備員数人によって、女性と化している所長は捕らえられた。背中に担がれ、強制的にレストランから退場させられていく。


「わっしょい、わっしょい! ダイアナ様のご命令だ! 魔法技術マジックスキルで変装しているようだが、ダイアナ様の目は誤魔化せないぜ。さっさとこのキモい男を連行するぞ!」


「イエッサー!」


 こうして、訓練された警備員によって、秘書室へ運ばれて行った。抵抗などできるはずもなく、屍のような状態で軽々と運ばれて行く。どうやら、警備員も相当鍛えられているようだ。軍隊のような警備員が、このショッピングモールには配備されているようだ。


「なんか、連れて行かれちゃった……」


「これで、普通にアルバイトができるようになるわね。まあ、面白い男だった事は認めてあげるけど……」


 ハンナちゃんは、彼を見送って笑っていた。どうやら、少しは気に入っているらしい。私達は、所長が消えた事で、ちょっと作業量が増えていた。でも、スタッフ1人1人の能力が凄くて、彼がいなくなっても大して困りはしなかった。


 私も仕事が慣れて、トラブルも少なくなっていた。なんか、仕事が面白いと思うようになった時には、作業終了という時間になっていた。アッという間だったが、賄いの食事も食べれて、高額の給料4万円も手に入っていた。

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