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第23話 登山という名の怪物

 私達は、ガイドと合流して、5人で登山を開始する。今は、深夜の2時だ。この暗闇を、素人だけで登っていけば、遭難する可能性が高い。安全面と道案内として、訓練された男性ガイドが案内する。


「ハーイ、ガイドのダニエルです! 」


 そう言って笑顔で現れた黒人のガイドは、ガタイの良い男性だった。女性1人くらい背負って走る事など容易にできる良い体付きをしている。ライトや換えのシューズ、ジャンパーなどを全員分支給してくれた。


「本日は、良い天気なので、雨は降りません。皆さん、とても付いてますね。ほら、夜空もしっかりと見えますよ」


「わあ、キレイ……」


 私達が星を眺めていると、ダニエルはメンバーを確認し始めた。登山する人間を確認するのは普通の行為だが、彼の目的はそうではない。嫌らしい目付きで女性達を見始めていた。


(ほほう、3人は女の子ですか。なかなか全員レベルが高い。まあ、子供ガキのローレンちゃんは、2年後に狙うとして……。今日の獲物は、金髪ロングヘアーのアリッサさんとショートカット清楚系美女のアレクサンドラちゃんですかね?


 アレクサンドラちゃんには、ショボいながらも彼氏がいますか……。ならば、まずは、アリッサさんを口説きにかかりますか。ミーのテクニックで、即恋人同士になってあげますよ!)



 ダニエルは、イスに座り、靴を履き替えるアリッサに近付く。そして、手を差し出してきた。自己紹介兼肉体的接触により、後々の行動の伏線とするためだ。


「ハーイ、アリッサさん、山道は暗くて狭くて、非常に危険です。ミーの手をしっかりと繋いで、逸れないようにしてください。地面も滑り易いですからね。ミーがしっかりと支えてあげますよ!」


「私は、大丈夫よ。山道には慣れているし、過去に山小屋に住んでいた事もあるわ。無茶さえしなければ、遭難する危険はないわ!」


 そう言って、彼女は、ダニエルの手を振り払った。ダニエルの心が分かっているのだろう。握手することさえ拒否していた。


「オウ、クールビューティー!」


 ダニエルは、そう言ってアリッサを褒めるが、内心では違う事を考えていた。表面上は優しい感じを装っているが、心の内はドス黒いようだ。


(チッ、あのアマ……。まあ、良い。まだ、もう1人の美女が残っている。彼氏付きのようだが、ミーのテクニックにかかれば、彼などナンパ道具の1つでしかない。所詮は、ミーと彼女を繋ぐ架け橋だという事を、クッパとかいう男に体全身で教えてあげよう。


 くっくっく、彼女が、身も心もミーの物になった時、彼はどんな顔をするのか楽しみだ。付き合い始めで山デートなど、別れさせてくれと言っているようなもの。ましてや、ガイド付きともなれば、彼氏のダメな部分が見え始め、ガイドであるミーに心を奪われ始めるのだ。


 若いカップルがあまり初期の段階でしない方が良いデート『ガイドマン付きの山登り』を喰らって、絶望と孤独を味わい尽くすが良い。一生女の子が信頼できない体にしてあげるよ!)



 ダニエルは、アリッサから狙いを変更して、アレクサンドラに切り替えた。クッパがいようともお構いなしにアタックして来る気のようだ。私は、彼の眼中には入っていない。2年後なら危険だったが、今の歳なら安全圏にいるようだ。



「ダニエル、あまり舐めない方が良いかもしれないわよ?」


 アリッサさんは、ダニエルの行動に警戒しつつも、行動を阻止しようとはしなかった。ガイドという仕事もあり、ナンパかサポートかも区別できないからだ。仮に、体を触ろうにも、危険だったから支えたと言われれば、納得するしかない。



「じゃあ、準備もできたようなので、山道に入っていきますよ!」


「ええええ、まだ靴ヒモが結べていないよ……」


 ダニエルは、私を無視して、ガンガン山道を進んで行く。所詮は、バイトガイド。事故で人が亡くなっても仕事をクビになる程度で済む。それよりは、可愛い彼女をゲットすることに必死なのだ。


「私がいるから大丈夫よ!」


「アリッサさん……」


 こうして、私とアリッサさんは、少し離れて3人に付いて行く事になった。ダニエルは、アレクサンドラの手を握り、2人でデートするように早足で歩く。クッパの体力を消耗させ、早急に勝負を決めてしまう気のようだ。



「アレクサンドラさん、大丈夫ですか? 疲れたら、ミーが負ぶってあげるから心配いりませんよ?」


「ありがとうございます。今は、大丈夫です。それに、クッパ君もなんとか追い付いているし……」


「そうですか」


 クッパは、よろめきながらもなんとか根性で付いて行く。成人男性は、仕事や運動で鍛えているから、登山くらい楽勝だと思っているようだが、素人には相当キツイ。足場は悪いし、筋力などは重みとなって負荷がかかる。適度なペース配分が重要なのだ。



(ちっ、少しは根性があるようですね。彼女か、彼氏、どちらがへばっても良いように、ちょっとペースを上げたのですが……。


 まあ、まだ初期の段階。崩れ始めるのは、時間の問題ですね。ミーが、今日で2人の関係を終わりにさせてあげましょう。最後に、彼女が抱かれに来るのは、ミーの腕の中だ)


 ダニエルは、自分のペースでアレクサンドラを引っ張って行く。建前は、安全な道を歩かせる事だが、少しでもコケたら抱きしめて止めるつもりだ。


 クッパも、彼女の反対側の手に引っ張られて、なんとか追い付いていた。ダニエルの陰謀が、男だから分かっているのかもしれない。


「あの、ちょっと休憩したいんですけど……。クッパ君も限界みたいですから……」


「うむ、仕方ありませんね。なるべく早く頂上にたどり着いた方が、綺麗な景色が見られるのですが……。じゃあ、10分休憩ですね」


 この10分間の間に、私とアリッサが追い付いてきていた。アリッサのペース配分は無理しないように私を気遣ってくれており、ちょっと息切れするが、疲れたと感じるほどではない。私の筋肉もさほどないので、持久走には向いているようだ。



「ひー、やっと追い付いた……」


「じゃあ、そろそろ出発しましょうか?」


「えー、もう行っちゃうの?」


 私は、ダニエルの早過ぎる行動にクレームを出す。すると、アレクサンドラが彼にこう言い出した。


「ダニエルさん、綺麗な景色を見るのも大切ですが、それ以上にみんなと一緒に登る事に意味があります。ゆっくりでも良い、ちょっとずつ登って行きましょう……」


 ダニエルは、笑って優しい笑顔を見せる。これもナンパテクニックの1つのようだ。アレクサンドラの両手を握り、お互いに 見つめ合った状態で止まる。告白する気満々だ。


「おう、ミーとしたことが、ガイドとして一番重要な事をアレクサンドラさんに教えてもらいました。これからも教えて欲しいです。ミーが立派に、あなたの未来をガイドできるようにできるまで……。おおっと、これは、冗談ですよ?」



「まあ、ダニエルさんって、面白い方ね……」


 ダニエルとアレクサンドラは笑い合っているが、私からして見たら、ダニエルが彼女を口説こうとしているのは明らかだった。


「アイツ、嫌い……。明らかに、ナンパ目的だよ? 接客も、人への接し方もおかしいよ!」


「でも、下手に刺激すると、攻撃して来るわ。奴の土俵で戦って、勝つしかないわね。大丈夫、アレクサンドラは賢い子だから……」


「じゃあ、どうするの?」


「あなたがへばったら、私が負ぶってあげるわ!」


「出来るだけ頑張ります!」


「体力も、賢者には必要な能力の1つよ。鍛えておいて損はないわ!」


 こうして、私達5人は、再び登り始めた。クッパの体力消耗が激しいのか、3人はしばらくゆっくりのペースで歩き続ける。その間に、私はどんどん進んで行けるようになっていた。最初は疲れたが、しばらく同じペースで歩き続けると、平気になっていった。



 ダニエルは、私とクッパを比較し始めた。非力な私と比べる事で、クッパの頼りなさを強調している。普通のガイドでも、絶対にそんな事はしない。


 コイツは、体力自慢のニワカガイドだった。数日間、山を登り続けて、体力は付いているようだが、窮地に陥った事などないのだろう。


「クッパ君、ダニエルさんって、凄く頼れるね。どうかな、私とクッパ君の間に入って、サポートしてもらうというのは?」


「お安いご用です! 美しい女性だろうと、弱ったヘタレ男だろうと、このダニエルが運んで見せます!」


「キャー、超カッコイイ!」


 ダニエルは、勝利の笑みを浮かべた。アレクサンドラの隣を奪い取ったのだ。彼女はもう、自分にメロメロだと思っている。


(くっくっく、意外と呆気ない幕切れでしたね。まあ、女性である以上、それが自然というものですよ。すまないね、童貞ボーヤ。この世は、弱肉強食(強い者が生き、弱い者を搾取する)、それは女の子も同じなのでーす! 彼女が私の子供を産んだ暁には、メールで幸せな画像を送ってあげましょうね。たのしみにまっていなさーい!)




 クッパは、敗北を悟って、肩を落としていた。疲れた背中に哀愁が漂う。これが、山デートの危険な所なのだ。疲れたところに、彼女からの無言の別れという敗北感が重なるのだ。並の男ならば、立ち上がる事さえできない。

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