第22話 私と彼女の修行
私達は、山に向かう夜行バスに乗る。1人1人が眠れる場所に、少し固まって話せるテーブル席が用意されていた。私達は、テーブル席を独占して、修行を開始する。ほとんどが寝静まっているので、テーブル席を使う者はいなかった。クッパは早めにご就寝させた。
「さて、特訓を始めるわよ」
アリッサはカーディガンを脱ぎ、そう宣言する。私とアレクサンドラは、彼女の色っぽさにドキドキしていた。アレクサンドラは、今の状態では男の子、少ない知識ではあるが、男女間の行為も知っていた。
「あの、どんな事をするんですか? 一応、どんな事でもしますけど、クッパ君を裏切るような事はしたくないです。今は、男の子で童貞の状態ですけど、初めては好きな人としたいと思っています」
「うん? 何か、勘違いしていない? 暑いから脱いだだけなんだけど……。そんな難しい事しないわよ。あなた、ずっと田舎暮らしで、通信教育で成長して来た子でしょう? あんまり同い年の女の子と遊ぶ機会が無かったんじゃないの?」
「え、どうしてわかるんですか? そうです! 私、18歳までは、親と一緒に暮らしていて、同い年の友達もいなかったんです。19歳になり、都会に出て働こうとしてみたら、あんな状態に……」
「ふむ、今までは同性と会う機会もなかったから気付かなかったようね。確かに、男の子も魅力的だったんだろうけど、初めて会う女性にドキドキしていたんじゃないかしら? それがトリガー(引き金)となり、性別変換能力が起こった」
「はい、そうだと思います……。職場では、なるべく接触しないでいられる環境でしたけど、デート中は油断してしまうのか、すぐに性別変換してしまうんです。実家に帰って、田舎でひっそりと暮らそうかと考えていました。
そんな時、クッパ君が話しかけてくれたんです。まるで、『君はここに居ても良いんだよ』、そう語りかけてくれたようで嬉しかった。そりゃあ、短過ぎる付き合いだけど、この出会いを大切にしていきたいんです」
「あなたがそれで良いなら……。あなたの特訓は、同性を意識しないようにすれば良いのよ。幸い、ここにはローレンちゃんも私もいるわ。ローレンちゃんの特訓をサポートしていれば、自然とそっちに意識が向いていくはずよ。」
「そうなんですか?」
「まあ、多少の接触程度なら耐えられるようにはなるでしょう。そして、ローレンちゃんは、手と足の指10本全てから1分間に200回以上の放電をする事。彼女がちゃんと記録しているから、超正確に測ることができますよ」
アリッサは、オッパイの谷間から計測器を取り出して、アレクサンドラに渡す。ちゃんと時間を測っての正確な計測だ。グロリアスのような大雑把な計測ではない。
「ええ……」
「ふう、足の指は、親指2本だけの計測で良いわ。実際に重要なのは、手の指10本から放電できる事だから……」
「まずは、やってみてから考えます!」
「その方が良さそうね……」
私とアレクサンドラの特訓が開始された。私は、得意な右手の人差し指から放電してみせる。1分間に250回以上という好記録を生み出していた。その後も、右手の指は問題なくクリアーしていった。
「ふう、とりあえず右手の指は全てクリアーですね。次は、左手か……」
「なんか、飽きたわね。ちょっと女子トークでもしながら話さない?」
アリッサの一言から、私の計測は正確ではなくなる危険があった。私も修行に飽きてきた為、左手を放電させながら話を聞く。アレクサンドラは優秀なのか、無意識のうちに、私の放電回数を記録していた。仕事はできる人らしい。
「一応、私の話は全部話し終わったんですけど。何を話します? 私としては、アリッサさんの経験というのを聞いてみたいのですが?」
「私も聞いてみたい!」
私とアレクサンドラの言葉に、アリッサはギクッとなっていた。思いも寄らぬ自分への振りに、ちょっと戸惑っているようだ。彼女が、紅茶を飲もうとすると、その手がアレクサンドラによって止められる。お茶を飲もうとすると、隠し事も一緒に飲み込んでしまうのだ。
「おっと、させませんよ。私の男姿を見たんですからね。親にだって見られたことのない姿だったのに……。少しは、あなたの経験も知らないと、納得できませんよ」
「分かったわ。少しだけよ……」
アリッサは、無駄に色っぽい仕草をして、返答する。どうやら初恋を思い出しているようだ。おそらくグロリアスと関係があるのだろう。
「私も15年前に、あなたと同じような状態になったのよ。両親も、私の異変が魔法技術の発動だというのは気が付いたけど、対処する事はできなかった。
その頃の私は、『心の(マインド)侵入者』と呼ばれて、どうしても真実を知りたいと私を訪ねてくる人が大勢いたわ。犯人と思われる人物の心の内を探る事で、犯人ではないかどうかを探ろうという考えね。
浮気調査や男女間の恋愛をサポートさせるなんていうサービスもしていた。でも、毎日何百人もの人間の心を読んでいると、気持ちも荒んでくるわ。
最初の内は、自分で制御できている気でいたけど、徐々に大量の人間の声が自然と頭の中に流れてくるようになった。毎日、定期的に大勢の声が聞こえるようになるの。私も、精神が壊れるかと思ったわ。
賢者タイムの数分間が無ければ、狂っていたかもね……。でも、解決策が無ければ、それも時間の問題だわ。徐々に精神的に追い詰められていって、生きるのが苦痛になっていったの……」
「まさか、そんな状態を救ってくれる王子様が現れたとか? それは、惚れるしかないわ!」
「ふふ、察しが良いわね。そのまさかよ……。殺して……、殺して……、を連呼するようになった頃、グロリアスが現れた。見かけは、ただの二十代のおっさんだったけど。それでも、カッコ良かったかな。
魔法技術の訓練には、人の多い都市部ではなく、山岳地帯や田舎が良いと提案された。それで、両親が旅館を経営し始めたのよ。意外と観光地だった事も重なって、落ち着いてはいても収入源が入る人気の宿になったわ。
それでも、しばらくは、精神的に限界な状態が続いたわ。笑いもせず、目を開けていても寝ているような状態よ。両親は、しばらくこの状態で放置するしかないと考えていたわ。他に、方法が無いものね……」
「そこを、グロリアスって人が救ってくれたんですね? キャー、ロマンチック!」
「そうよ。だから、私は、グロリアスを、恋人にしようって思ったの……。他に、私の状況を理解してくれる男の子もいないし、恩義もあるからね。それに、同じ超能力者タイプで苦しんでいる子にも助けを差し伸べたかったの。
超能力者タイプって、実は意外と絆が深いのよ。苦しんで、制御できないタイプが多いから……。その能力を取り除いてあげたいと思ってしまうのね。同じように苦しんだ経験があるからこそ、人を助ける事ができると思うわ」
「へー、で、グロリアスさんとの恋愛話は? もう、キスとかした? それとも、プロポーズの段階とか?」
「発展無し……。あー、この話はもうやめ! これ以上は、恥ずかしくて死んじゃう!」
「もう、アリッサさんって可愛いんだから……。照れちゃって♡」
しばらく女子トークを続けていると、アレクサンドラは女の子の姿に戻っていた。アリッサや私がしばらく触れてみるが、体は変化しないくらいに制御できるようになっていた。これならば、デート中に男の子の姿になる事もないだろう。
「どうやら、それなりに能力を制御できるようになったみたいね。これなら、ちょっと触ったくらいなら性別変化は起きないわ」
「ありがとうございます! でも、自分で性別変化を起こしたいときはどうすれば良いんでしょうか? これだと、今度は変化できなくなる気がするんですけど……」
「それは、たぶん女の子の特徴的な部分、つまりオッパイを触れば変化するのよ!」
「ええ、自分でオッパイを揉むんですか? 結構、頻繁にあると思うんですけど……」
アレクサンドラは、自分でオッパイを触り始めた。しかし、体に変化は発生しない。しばらく揉み続けていても、変わらなかった。
「あの、変わりませんけど……」
「うーん、生殖行為は、3大欲求にも含まれるくらい重要な物だからね。自分で揉んで変化しても困るのか……。ならば、私が触れば、変化するのかも?」
アリッサは、彼女のオッパイを強く揉みあげた。「あーん」という色っぽい声が夜行バス内に響き渡る。幸い、乗客はみんな寝ていて気付いていなかった。
アリッサがワン揉みしただけで、彼女は男の体へと変化していた。どうやら、女性にオッパイを揉まれることによって、男性の体へと変化するようだ。
「ふう、これで、事件は解決ですね!」
「アリッサさん、私の能力開発の手助けをしてくださってありがとうございます。でも、あんなに強く揉まなくても良いじゃないですか。お陰で、変な声が出てしまいましたよ。お返しです!」
「あっ、ダメ……。私には、心に決めた人がいるの!」
「本来は女同士なんですから良いじゃないですか。ワン揉みさせて♡」
アリッサは、彼女にオッパイを揉まれ、「はーん」という声を出していた。夜行バスの車内に、再び変な声がこだまする。すると、アリッサの体にも変化が生じていた。なんと長髪ロングのイケメンが誕生していたのである。
「ワオ、アンビリーバボ! この金髪イケメンが、今の私? 超カッコイイ! 残念ながら、豊満なバストは消えてしまったけれど、下半身にはそれに匹敵する立派な物が……」
「それ以上は、ヒロインの立場上確認しない方が良いんじゃ……」
「それもそうね……」
アリッサは、アレクサンドラの魔法によって、男性の姿に変えられていた。その矛先は、容易に私の方にも向いてくる。無邪気に修行を続ける可愛い私に、野獣のような男性の目が向けられていた。
「ローレンちゃん、いえ今は、ローレン君だったかしら? 中途半端よね? 女なのに男の子の格好とか……。ちょっとお兄さん達と遊ばない? 男の子の体が実体験で分かるようになるわよ?」
「あ、いえ、私、まだ13歳なので、男性経験を知るのは、もう少し後が良いかなと……」
「そうなの? あら、ブラジャーがズレてるわよ。型崩れしたら大変よ。直してあげるわ!」
「えっ、本当?」
「うん、これから男の子になるからね」
アリッサの指示により、アレクサンドラの手によって、私は男に生まれ変わっていた。少し自慢だった大きくなりかけのオッパイは消え失せ、下半身に可愛いゾウさんが生えて来ていた。
「あああああああああ……」という絶叫と共に、ちょっとカッコ可愛い男の子に変化していた。夜行バスの車内に、不思議な声が三度響く。
「酷いよ、酷いよ……」
「まあまあ、ちょっとしたお遊びですよ。どうせ、1時間もすれば、元に戻れると思うから……」
アリッサはそう言うが、夜行バスは目的地に辿り着いた。バスを駐車場に停めて、15分ほどしてから来るガイドと合流する。それまで、車内で待機していた。私達は、絶望的な状況にいることを悟る。
「男4人で登山……、むさ過ぎる……。ガイドも含めれば、男性5人、全然爽やかじゃないわ。せめて、1人くらいは女性が居ないと、ガイドの接客にも違いが出て来るわ。女性が1人でもいれば、絶えず関心を示すフリはしてくれる。
だけど、男性4人の場合は、死なない程度に頑張ってくださいっと言って、どんどん1人で登って行く。所詮は、アルバイトガイド、数人が死んでも、事故死として処理されるだけだわ。この差は、死活問題になりかねない!」
「そういえば、もう1人女性になれる可能性のある人物がいましたよね? クッパ姫とか流行ってるから、ちょっと女の子になった方が人気が出るかもしれません。それに、男性にも私の能力が通用するか試さないと……」
「そうね。確認は大切よね?」
こうして、私達3人は、ゾンビのようにクッパの寝ている場所へ移動していた。何も知らない哀れな子羊のような男性は、寝息をたてて眠っていた。しかし、私達の作業も難航していた。
「クッパ君を女性にする事はできると思うんだけど、どこを触れば良いんだろう? 下半身とか、乳首とかも、行為の時には良く触るよね? そうちょくちょく性別変化してたら、性欲が萎えちゃうし……」
「とりあえず、試すしかないわね。玉、握ってみる?」
アレクサンドラは、玉を強く握る。すると、クッパの体が女性に変化し始めた。オッパイが膨らみ、下半身も変化する。クッパは、短髪の女の子になっていた。ブラジャーをしていない、ちょっとだらしのない感じの女の子だったが、男性4人だけよりはマシだろう。
「やっぱりね。玉は、男性の急所。そこを強く刺激すると、女性になるみたいね。行為の時は、優しく愛撫するから変化しないけど、玉を蹴ったりすれば変化すると思うわ。これで、男女どちらにも変化を与えられることが証明されたわね。
とりあえず、卒業おめでとうと言ったところかしら? これからは、この能力を自分の力でアレンジしていくのよ。使い難い能力かもしれないけれど、あなたの生活に役立つことになるはずだわ」
「はい、アリッサさん、ありがとうございます!」
「しっ、クッパが目覚めるわ。 隠れるのよ!」
私達は、各々隠れ、クッパがどのような行動を取るかを観察する。最初は、寝ぼけて異変に気付かなかったが、次第に意識がはっきりしてきたようだ。まず、オッパイを触り、揉み始めた。夢でも見ている気分なのだろう。
「凄い、柔らかい……。これが、女の子のオッパイ……。俺の妄想なんだろうけど、臨場感が凄いな。オッパイなんて揉んだこともないのに、実物を揉んでいるようだ。きっと、アレクサンドラの事を考えているから……」
彼女の名前が出た途端、彼はオッパイを揉むのをやめる。さっきまで激しく揉みしだいていたのに、突然やめた。アレクサンドラの顔に不安がよぎる。
「どうしたのかしら? やっぱり、私が男の子になる能力が嫌だったとか?」
「しっ、黙っていなさい!」
私達が彼の様子を伺っていると、今度は「ぎゃああああ」という絶叫がこだました。どうやら女の子になった事は気付いていないようで、玉がない事に驚いたようだ。
事故で潰れたとか考えていたのかもしれない。オッパイは、腫れかなんかだと思っているのだろう。
幸い、4人が性別変化したおかげで、15分後のガイドが到着する時刻には、全員が元の姿に戻っていた。賢者タイムは、能力の使い方によって、発生する時間帯も変わる。
ブラジャーを整えるという作業は手間取ったが、それ以外に登山に影響の出る変化はなくなっていた。ジャンパー、ライトなんかは、ガイドから借りて、夜の闇へと出かけていく。




