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第18話 ダブルデート前の話し合い

 私達が待ち合わせ場所に辿り着くと、いきなり声をかけられる。どうやら依頼主のようだが、ナンパが成功して自信が付いたのか、チャラい感じになっていた。確かに、グロリアスと一緒にいた時の男性のようだが、人を苛つかせる能力も向上していたようだ。


「ヘイ、彼女。1人なの? 彼氏に振られちゃったのかな? イケメンの僕が、君の相手をしてあげようか? 君ほどの美人ならば、大歓迎だよ。どうやらオッパイも大きそうだし……」


 男性は、アリッサの腰に手を回し、いきなり近くのホテルへ連れ込もうとしていた。目付きが完全に飢えた野獣の目に変わっている。美味しそうなオッパイに釘付けになり、そこの一点を凝視していた。私の存在など見えていないかのようだ。


「テイ! 生憎あいにく連れがいますので……」


 アリッサは、男性の足を踏んで回避する。手で私の存在を指差していた。とても男には見えないのだろうが、知り合いなので納得してくれる。


「イテテ、冗談ですよ、アリッサさん。本気でホテルに連れ込もうとするわけないじゃないですか……」


「目が本気だった。絶対に冗談ではなかった!」


「ちぇっ、グロリアスさんと別れたなら、僕が慰めてあげようと思ったのに……」


「彼女が出来たんでしょう? そっちを大切に扱いなさい。私をホテルに連れ込もうとしているところを見られただけでアウトなんじゃないの?」


「いやー、約束の時間まで1時間近くあるし、アリッサさんが本気になったら、そっちの方が良いかなと……。どうせ、彼女との関係は出会って1日程度だったし……」


『サイテー……』


 私とアリッサは、男性の態度にそろってドン引きしていた。このように、女性を取っ替え引っ替えするような男に、多くの女性は嫌悪感と殺意を抱くのだ。みんなは、1人の女性だけを愛するように尽力しようね。


 私とアリッサは、朝ご飯もまだなので、マックで食事をすることにした。チャラそうな男だったが、彼女の話になると真剣になりだした。不真面目な内容ならば、即解散になるから真面目ぶっているようだ。


「実は、一昨日の夕方頃に知り合ったのですが、デートをしていたら突然に態度が変わるのです。今まで仲良くなって、笑い合う仲になっていたと思ったら、俺との距離を取り始めたり……。


 最初は、奥ゆかしい子だな程度に思っていたのですが、一時などは思いっ切り突き飛ばされたりしました。俺も大人で怒りはしませんでしたし、彼女も平謝りしていたので水に流したのですが……」


「なるほど、大体の事情は分かりました。可能性として考えられるのは2つです!」


「ええ、もう原因が分かってしまったのですか? 有能過ぎますよ!」


「ふっ、伊達にメガネは掛けていませんよ。小説家は、名探偵と同等レベルの推理力を持っているのです。かの有名なコナン・ドイルも事件を解決した経験があるみたいですしね……。推理力と洞察力は、常人のそれとは訳が違いますよ!」


「おお、頼もしい! それで、2つの可能性というのは?」


「1つは、あなたとの話がつまらなかった事。最初は、ノリで笑っていましたが、突然賢者タイムになり、『この男の話、クッソつまんね……』とか思っているのかもしれません。距離を取り始めたのも、他人の目を気にしてのことでしょう。


 もう1つは、あなたの口臭が臭くて、思わず突き飛ばしてしまったのかもしれません。最初は乗り気で付いて来ましたが、百年の恋も冷める『臭いスメルブレス』を喰らい、二度と会いたくないと思っているのかもしれませんね!」


「そ、そんな馬鹿な……」


「こうなると、今日のデートも来るかどうか分かりませんね。じゃあ、任務は完了したと言うことで……。早めに出るわよ、ローレンちゃん!」


 私は、ハンバーガーセットを持って、屋外へ出ようとする。野郎と一緒よりは、アリッサと2人きりで公園の敷地内で食べる方が、よっぽど美味しいだろう。金だけ彼に払ってもらい、依頼料のタブレット代を請求し始めた。


「待ってください、アリッサさん!」


「おっと、私を口説こうとしないでください。一応、この通り彼氏もいますから……」


 アリッサは、私を指差してそう言った。男性は、さらに食い下がって来る。


「どう見ても女の子じゃないですか! 世間は百合を認め始めたかもしれませんが、俺は認めませんよ! 可愛い女の子は、男性と付き合うべきなんです。それだけは、何世紀経っても変わってはいけません。それを許していたら、人類が死滅してしまいます!」


「ちっ、じゃあ、延長戦ですよ。今日の約束の時間までに彼女が来てくれれば、依頼を継続して調べてみます。まあ、可能性は絶望的だとは思いますが……」


「絶対に来ます! そんな薄情な女の子ではないはずです!」


「まあ、先に依頼料を請求しておきますよ。新しいタブレットと同じ料金です」


「ええ、そんなに……」


「これから、2人の幸せな未来が始まるかもしれないのです。それを思えば、タブレット代くらい激安だと思いますが……。彼女が来なかった場合には、その辺を歩いている女の子を彼女にしてあげましょう。実際、私の魔法で落とせない人物はいませんよ?」


「本当ですか? いずれの状況にしても、俺に彼女ができるという事ですね……」


「ふっ、毎度あり!」


 こうして、アリッサは依頼を引き受ける事にした。彼女が来ようが来まいが、彼に彼女を作れば納得するだろうという安易な考えだ。アリッサには、他人の心を読む能力がある。それと併用してナンパすれば、確かに誰でも落とせるであろう。


「ところで、あなたと彼女の名前は?」


「あ、はい、俺は『ゲヴィン・クーパー』。彼女は、『アレクサンドラ・ウィル』です」


「はいはい、クッパに、アレクサンドラね。一応、彼女の名前を覚えておいたから、最低限の合格ラインを突破したわ。おめでとう!」


「今、適当に名前を変えませんでしたか?」


「名前は覚えやすい方が良いわ。特に、小説の登場人物はね……。クッパ姫が流行っているし、クッパにしておきなさい。どうせ、この話が終われば登場する事も無くなるし……」


「うう、一回限りかよ……。分かりました」


 私達がハンバーガーを食べていると約束の時間になる。彼は不安になり、そわそわし始めた。アリッサは、もうこれ以上待てないという意思を込めて、席から立ち上がった。すでにハンバーガーも食べ終わり、コーラを飲み干すだけとなっていた。


「あ、アイツだ……」


「妄想はやめなさいよ。ナンパした女の子が来る可能性なんて、ほぼゼロに等しいんだから……」


「本当に来たんですって!」


 2人が話していると、私の気分が悪くなる。調子に乗って、冷たい飲み物を飲み過ぎたようだ。悪阻つわりのような吐き気が私を苦しめていた。


「ウップ、気持ち悪い……」


「もう、お子様なんだから……。はい、ダーリン、ハンカチよ♡」


 私とアリッサは、ラブラブモードに突入し始めた。彼の知り合いが来て、私達が彼女とは思われたくないのだろう。これ見よがしにイチャ付き始めていた。


「ちょっと、彼女が来ましたよ。ガラス越しに立って手を振っているのが彼女です!」


「勘違いしているんじゃないの? あなたに手を振っているんじゃなくて、その後ろの店員に挨拶しているだけよ。すぐに注文を取りたいだろうから……。あんな可愛い女の子が、あなたの彼女なわけないじゃない。現実を見なさい!」


 アリッサは、彼女を指差して否定する。すると、彼女がゆっくりと近付いて来た。ガラスの扉を開けて、私達の元に近付いてくる。黒髪のショートカットで、青いカーディガンに水色のスカートを履いている。笑顔の可愛い女の子だった。


「クッパ君、待った?」


 男を虜にするようなアニメ声の女の子が、彼に語りかけて来た。アリッサの顔から笑顔が消える。まさか、本当に彼女がクッパと付き合っているとは思わなかったようだ。しかも、カップルになりたてのラブラブな空気が感じられた。


「まさか、本当に彼女だったなんて……。お金で雇われた役者とか、妹ちゃんじゃないわよね……。あり得ない、マジであり得ない……」


「ショックを受けないでくださいよ!」


 アレクサンドラと呼ばれる女性が目の前に立っていた。歳は、20歳くらいのようだが、童顔で16歳くらいに見える。化粧は軽めで、清楚系な美少女だった。アリッサが驚くのも無理はないくらいの感じの良い女の子だった。


「クッパ君、この人達がダブルデートするお友達の方? とても美人な女性に、女の子みたいな男の子ですね。ちょっと嫉妬してしまいます……」


「ああ、俺の友人だ。アリッサさんとローレン君だ。ちょっと歳は離れているが、相思相愛なんだ。さっきまで2人の世界に浸っていたし……」


「ふーん、アリッサさんとローレン君か……。今日は、私とクッパ君のデートに協力してくださりありがとうございます! 足手あしでまといな感じになるかもしれませんが、今日のデートを楽しくするように尽力致しますので、よろしくお願いしますね!」


 アレクサンドラは、怪しい女性と子供みたいな男の子に丁寧に挨拶をする。アリッサは、サングラスを掛けて、軽く挨拶する。ヤンキーな女性の方が、ショタみたいな男の子と付き合っても違和感が無いという彼女なりの配慮らしい。


「チース!」


「ヨロシコ!」


 怪しい挨拶をする事により、アレクサンドラの目には、私とアリッサがカップルに見えたようだ。下手に普通の挨拶を返すよりは、ちょっと失礼な方が自然なようだ。実際、アリッサは歳上だから、暗黙の了解で納得してくれる。とはいかず、2人でこそこそ話し始めた。


「クッパ君、ちょっと不安な2人なんだけど……」


「いや、急遽きゅうきょ決まった代役なんだ。元々仲の良かったグロリアスさんが病気で寝込んでしまって、特別に手配して貰った2人なんだ。容姿と性格は変だけど、悪い人達ではないと思うよ、たぶん……」


「そうなんだ……」


「ああ、俺は君を大切に扱いたい。でも、愛情が暴走してしまって、君を傷付ける可能性もあるからね。俺は、真剣にアレクサンドラちゃんと付き合って行きたい。傷付け合って別れるなんて、絶対に嫌なんだ!」


「まあ、クッパ君、本気なんだ。嬉しい……」


 アレクサンドラは、ハニカミながら笑顔で答えた。私達としては、クッパをボコボコにして、彼女を抱き締めてしまいたいくらいに可愛いが、理性でなんとか抑えていた。これからデートが始まるのだ。クッパを亡き者にする機会はいくらでもある。

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