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第15話 賢者タイムへ

「終わりじゃあ!」


 クリストファーは、賢者タイムとなったグロリアスに攻撃を仕掛けてきた。完全武装している兵士と丸腰の人間くらいの差がある。本来ならば、グロリアスには攻撃も防御も許されない状況だった。だが、グロリアスは勝負を諦めてはいない。


「それは、どうかな?」


 クリストファーが攻撃しようとグロリアスに近付いた瞬間、柱状に固まっていた飴が上空から彼を攻撃する。咄嗟に避けたのでダメージは無かったが、グロリアスに近づく事が困難になっていた。



 その後も、次々と連続して攻撃されて、防戦一方に追い込まれていた。数十メートル離れて、ようやく攻撃が止まる。


 グロリアスの周りには、大量の飴の柱が立っていたが、全てが一斉に崩れ落ちて、何もない空間が出現していた。そこは、太陽の光が当たっており、グロリアスの影もない。


「何が起こった?」


 クリストファーの脳裏には、無限賢者の4文字が浮かび上がる。しかし、確かな事が分かるまでは、思考を研ぎ澄ませて分析しなければいけない。一旦攻撃の届かない場所まで移動して、周りの状況を確認し始めていた。


(ふう、危なかった! 飴状の柱による攻撃は当たってもダメージはないが、光による攻撃は別じゃ……。直射日光を喰らって仕舞えば、わしの体でもタダでは済まん……。


 じゃが、奴が攻撃して来た方法は分かったぞ。飴をレンズ状にして、太陽の光を集中させていたか。優秀な飴細工職人ならば、光や空調の温度によって、飴細工で作った花のつぼみを開花させる事が出来ると聞く。おそらくは、その応用じゃろう。


 賢者タイム前に作った飴の柱に、太陽の光が当たるように仕掛けをして、わしが攻撃してきた時に防壁となるようにしたのじゃろう。光が当たり始めたのは偶然じゃろうが、無限賢者と呼ばれていただけのことはあるわい)



 グロリアスは仕掛けておいた罠がヒットせず、思わずつぶや)いていた。


「惜しい、もう少しでダメージを与えられたはずなのに……」


「ふん、飴の柱など喰らってもダメージにはならんわい!」


「そうですか。なら、攻撃して来たらどうですか? 俺は無防備な姿をさらしていますよ!」


 グロリアスは挑発するような事を言うが、クリストファーは攻撃して来るのを躊躇ちゅうちょしていた。


(くっ、まさか、ワザとなのか? 飴のレンズを使って、影のできない空間を作り上げるとは……。迂闊うかつに飛び出して行けば、モロにダメージを受けてしまう。わしの能力が光に弱い事を知っておるようじゃ……)



「どうしました? せっかく作った有利な条件も、俺の賢者タイムが終わって仕舞えば、意味はありませんよ。それどころか、あなた自身が賢者タイムとなってゲームオーバーになりますよ。


 どうやら魔法のキレや戦略面ではおとろえていなくても、体の衰えはいちじるしいようですね。賢者タイムになれば、その差は致命的なものとなりますよ」


「ふん、攻撃できなくなったと思って、そう言っているのか? 残念じゃが、飴の防壁ごときで攻撃できないわしではないぞ。見誤ったようじゃのう、グロリアスとやら。


 賢者でありながら、武器を一切持っておらぬとは……。魔法に頼り過ぎているのが貴様の敗因じゃ。賢者タイム中に、ナイフの直接攻撃を弾き返す事はできまい!」


 クリストファーは、グロリアスに向かって、ボウガンを使ってナイフを発射する。彼独自の連射技術を用いて、3本ほどのナイフをグロリアスに目掛けて発射していた。武器のないグロリアスでは、攻撃を防ぐ事はできない。



「くっくっく、チェックメイトじゃな!」


「武器ならありますよ!」


 グロリアスは、クリストファーに見えないように、自分の体で作った飴の武器を隠し持っていた。


 単純に考えれば、飴の武器を使用すれば良いだけの話だが、元々手ブラだっただけに、クリストファーの判断力を鈍らせていた。精神的なトリックと言えるだろう。


 グロリアスは、飴の武器で全てのナイフを弾き返す。やはり、身体能力だけで言えば、彼の方が圧倒的に強いのだ。


(そう来たか。だが、わしも一筋縄ではいかんぞ。影が無いのならば、自分で影を作り出せば良いだけの話じゃ。刺し違える覚悟で勝負してやるわ!)


 グロリアスの弾いたナイフの影から、3体のクリストファーが出現した。2体は陽動用の分身体であろうが、咄嗟とっさの判断で本体を見分けるのは難しい。増してや、グロリアスはナイフをなんとか弾き返した状況だった。



「くっ、なんて技だ……」


(これで終わりじゃよ。影を使って移動する『オバケの動き(ゴーストムーブメント)』と『影の分身ドッペルゲンガー』を合わせた必殺技『影の分身による勝利ドッペルゲイナー』じゃ!)



 クリストファーは、グロリアスに近付き、彼の防御できないところをナイフで切り裂いていた。グロリアスの腕から血が出始めて、攻撃を受けた事を悟る。お互いに無傷の状態が続いていた為、このダメージは精神的にも痛い。



「ぐわぁ……」


「くっくっく、お互いに無敵の体が武器だったようじゃが、わしの方が一枚上手だったようだのう。その傷では、今までのような動きはできまい。終わりじゃよ」


「ふふ、俺が傷を負わされたのも久々ですよ。しかし、あなたへの切り札は、あらかじめ準備していました。チェックメイトですよ!」


 グロリアスは、爆弾のような物を見せ付ける。


「そ、それは……、閃光弾……」


 グロリアスと、クリストファーの2人がまばゆ)い光に包まれていた。私は、目をつぶって、強力な光に耐えていたが、次第に明るさが無くなっていく。私が目を開けてみると、クリストファーが呆然とした様子で座り込んでいた。



「まさか、強制的に賢者タイムにされたというのか?」


「その通りです。あなたならば、危険を承知で攻撃してくるでしょう。そこを狙い打ちしました。これで、あなたは賢者タイムに陥るが、俺は賢者タイムが終わって魔法が自由に使えます。形勢逆転ですよ!」


 閃光弾の光によって、クリストファーの闇が一気に消え去り、憐れな老人が座り込んでいる。グロリアスの賢者タイムが終わった事を悟ると、自身の敗北を悟っていた。賢者タイムに陥っては、抵抗する事さえもない。



わしの負けじゃ……。殺せ……」


「いえいえ、俺の目的は、あくまでもあなたに冷静になってもらう事でした。どうやら、戦闘をしていた事によって、ボケの症状も改善されて、以前のあなたに戻ったようですね」



「何が望みだ? わしの命ならばくれてやる。しかし、エミリーだけは傷付けないでくれ……。あの子だけは、幸せに生活させて欲しい……」


「あなたがエミリーさんとご主人の仲を認めれば、何も望みはありませんよ。後、数ヶ月もすれば、可愛いお孫さんもできると思いますし……」


「なんじゃと……。おのれ、エミリーの体を……」


「あなたは、イーライ・スミスさんとエミリーさんの仲を引き裂こうとしていましたが、それだとあなたの孫にまで悲しい思いをさせてしまいます。


 エミリーさんを愛しているのは分かりますが、今度からはお孫さんにも、その愛情を注いであげてはどうですか?」


「孫か……」


 グロリアスとクリストファーの決着が付いて、2人で話し始めたようなので、私は2人の元へ駆け寄っていた。数分ほどで、2人が戦っていた橋の上に到着する。


「ふう、決着は付いたみたいだけど、最後はどうなったの?」


 クリストファーは、私の方を見ていた。クリストファーは、私に教えるように、グロリアスに質問を投げかける。彼の賢者タイムが訪れるには、まだ時間があったにも関わらず、突然賢者タイムになったのはなぜか、という質問だ。



「ふん、優しいお爺ちゃんになったようだな。ローレンの為に、そう訊くのか? 自分で答えが分かっているはずなのにな」


「はっはっはっ、孫も良いかもしれんのう!」


 2人の賢者は笑い合っていた。私は、意味が全く分からず、苦笑いする。しばらく笑い合っていると、グロリアスが勝負の決め手となった最後の状況を説明してくれた。


「いいか、ローレン。賢者タイムに入る条件は、『魔法を一定時間使って、体がこれ以上は危険だと認識した場合』と、『魔法技術マジックスキルが特殊な為に、この状況は体にとって危険な状態だと認識した場合』だ。


『魔法を一定時間使って、体がこれ以上は危険だと認識した場合』の条件は、一般的な賢者タイムと呼ばれているものだ。生物である以上、これは絶対に避けては通れない賢者タイムの条件だと言われている。


 もう1つが、大変珍しい『魔法技術マジックスキルが特殊な為に、この状況は体にとって危険な状態だと認識した場合』の条件は、クリストファーのように体を魔法技術マジックスキルで『闇』にしていた場合に、光を浴びてしまった時などに起こる。


『闇』が光によってかき消され、体が消滅してしまう事を防ぐ為だろう。それを、『強制賢者タイム』と呼んでいる。いくら魔法を少ししか使っていなくても、一般の賢者タイムが来てしまったのと同じ状態になり、しばらく魔法の使用は禁止された状態に陥る。


 滅多に起こる状況ではないが、『闇』や『火』属性などに起こり易い。一瞬にして体が消滅してしまうのを防ぐ為、人体が強制的にストップをかけるのだろう。一応、認識として覚えといてくれ」



「ふーん、そうなんだ」


「ああ、特殊な条件下で起こる賢者タイムだ。認識として、『強制賢者タイム』がある事だけは知っておいてくれ」


「うん、分かったわ……」


 私が飽きた表情でグロリアスとの話を終えると、死にかけの老人クリストファーが興奮し始めて、元気を取り戻していた。昔を思い出してボケは治っているようだが、怪しさは異常レベルに到達していた。私は、ガチでドン引きする。


「うおおおおおおおおおおおおおおお、これが孫の可愛さという奴か! ちょっと年齢は大きい気がするが、エミリーの小さい時を思い出させる。こんな可愛い女の子が、お爺ちゃん大好きとか言って来たら震えてしまうぞ。


 これは、あの男とも表面上仲良くなって、孫の世話を任されるくらいまで信用されるしかない。ボケてなどいられる時間は1秒たりともない。孫の名前を決め、ことある毎に的確なアドバイスをする為に、いろいろ準備をしなければ。


 と言うわけで、さらばじゃ! 孫が生まれたら遊びに来てくれても構わんぞ!」



 クリストファーは、老人とは思えぬほどのフットワークで帰って行く。後20年は、殺そうとしても殺せないであろう、そんな素早い足取りだった。私はビックリしていたが、彼の家族間の関係が良くなったのを見て笑顔になる。



「ふう、とりあえずの任務は果たしたな。奴も、イーライ・スミスと仲良くして行くことであろう。孫が生まれた後は知らんが……」


「お孫さんを取り合う姿が目に見えるようだけどね……」


「帰るか」


「うん!」


 私とグロリアスは、再び船と馬車を乗り継いで、アリッサのいる宿へと帰り始めた。私は、疲れていたのか馬車の中で眠り始める。グロリアスにもたれ掛かり、吐息を吐いていたが、彼によって膝枕させられる感じになった。



「うーん、気持ち良い……」


 馬車に揺られて寝落ちしていた私を、グロリアスは揺すって起こす。


「おい、起きろ。というか、起きてくれ……。膝に限界が来たんだ……」


「うん、もう朝?」


「朝じゃない、夕方だ。それよりも、早く退いてくれ、足がった。気持ちよく寝ているところを起こして申し訳ないが……」


「ごめん、馬車を使って、足の裏を伸ばしたよね」


「ああ、助かった……」


 グロリアスは、馬車の壁を使い、)った足を戻す。水中で足がった場合は、生命の危機を感じるレベルだ。膝枕で気持ち良さそうに寝ていると、恋人でもムリやり起こしたくなる。優しく起こしてくれただけ、彼は優しい方だ。



「わあ、凄い綺麗……。夕陽に照らされて、街が洞窟の中にあるみたい! 全部が岩を彫られてできているような錯覚に落ちいるよ」


「全体が赤色一色だからな。夕陽に照らされて、屋根の赤も壁の赤色も、白い壁も全部夕陽色に染まるんだ。すると、人間の目の錯覚から、一枚の赤い岩を彫って作ったような感覚に落ちいるのだ。街全体が、古代へタイムスリップしたみたいだろう?」


「うん、まるで異世界へ来てしまったような不思議な感覚に陥っているよ!」


 私は、夕陽に染まる街の景色に見惚れていたが、次第にその景色も終わり、夜の暗闇へと変化して行った。街灯の明かりだけが、ロマンチックな雰囲気を演出していた。薄暗い馬車の中で、私とグロリアスの2人きりなのだ。



「はう、まるで恋人同士になったみたいだ……」


「ローレン、1つお願いがあるんだが……」


「ふえ、このシュチュエーションでお願い? 何……」


「非常に言い難いのだが……、聞いてくれるか?」


「うん、聞くよ……」


 私は、顔を赤くして答える。くちびるをキュッと噛み締めて、キスができる覚悟をしていた。ディープキスは難しいが、軽いキスならばしたい気分になっていた。今日は、グロリアスの本当の実力を知ることができた。彼が強くて、惚れてしまったのかもしれない。



「実は、家に帰って、すぐにアニメ観賞をしなければならないのだ。お前に構っている暇は、1秒たりともないと思う。だから、今日は、馬車に乗った状態で特訓をして良いか? どうせ、ノルマは達成しているだろう?」



 グロリアスは真剣だった。熱い男の眼差しを感じる。その顔面をぶん殴りたい気分になっていた。彼とのキスシーンまで妄想していただけに、恥ずかしさが込み上げて来る。彼は悪くないのだが、攻撃せずにはいられなかった。


「痛たたたた……。足を踏むのをやめろ!」


「この、この、この!」


「うわああああ、静電気まで……。分かった、合格だ! すでに1分間で60回は攻撃しているだろう……。痛いからやめてくれ……」


「うう、もっと強く攻撃したいのに……。威力が上がらない……」


 私は、グロリアスに1分間に250回の電撃を浴びせていた。しかし、全て静電気程度のショックであり、彼は痛がるだけの攻撃だった。私的には、感電させてやりたいくらいの気分だったにも関わらず、電気ショックの威力は一定のままであった。



「くう、合格クリアー条件の4倍以上か……。お前の成長速度には驚かされるよ……」


五月蝿うるさい!」


「ああ、俺の乳首を攻撃するな。分かった、何かプレゼントを用意するから……」


「ええ、グロリアスのプレゼント?」


 私は、プレゼントと聞いて態度を変える。女の子は、ケーキとフラペチーノとプレゼントに弱いのだ。電気ショック攻撃を止めて、彼に甘え始めていた。


「どんなプレゼントをくれるの? 指輪、それともネックレス?」


「さっきフラペチーノ飲んだだろ。そんなに高価な物をやれると思うか? せいぜい、どこかへ遊びに連れて行ってやるくらいが精一杯だ」


「じゃあ、遊園地が良い! せっかくのロマンチックな雰囲気が台無しにされたから、リベンジマッチしたい!」


「はいはい、次の課題ができたら連れて行ってやるよ!」


「どんな課題なの?」


「10本の指、それぞれが1分間に200回以上の電気ショックを発生させる事だ。できれば、足の指も練習しておいて欲しい。期間は1週間以内だ。頑張れるか?」


「うええええええええええ、なんかキツそう……」


「この訓練は、後々の修行で役に立つはずだ。前持ってできるようにしておいた方が、今後の修行をスムーズにするはずだ。難しいかもしれないが、頑張ってできるようにしておいてくれ。可愛い水着を買ってやるから……」



「うわぁ、水着を買ってくれるの? うふふ、それを着て、俺と一緒に海へ行こうって事だね!」


「いや、そこまでは……。それに、アリッサやハンナもいるだろうし……」


「うふふ、可愛い水着で、デート。頑張って修行するぞ!」


 私はやる気になっていた。馬車を降りると、グロリアスは消えるように素早く帰って行く。私1人だけポツンと残されたところを、アリッサが出迎えてくれた。やはり、持つべき者は、父親よりも母親であることを実感していた。



 こうして、夕食を食べた後で、自分の部屋で特訓をする。気持ちはやる気十分だが、体は付いてこなかった。5分ほど修行をしていると、いつの間にか寝てしまっていた。また、明日の楽しい時間が訪れようとしていた。

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