第12話 迫り来る七賢者の恐怖
エミリーさんは、グロリアスに手足を封じられて、身動きができない。そのおかげで、彼女の最大級の技を発動させずに済んでいた。技を発動させていた場合、辺り一面が荒野と化し、彼女が作り出した無数の剣が、グロリアスを追い詰めていたであろう。
「はあ、はあ、はあ、浮気と聞いて、怒りを制御できなくてごめんなさい……」
「奥さん、とりあえず、コレを舐めて落ち着いてください。甘くて美味しいですよ」
エミリーさんは、飴となったグロリアスの体の一部を舐め始めた。這い蹲るように四つん這いになって、子供のように真剣に舐める。太い棒状の飴を、先端を舐めたり、喉の奥まで咥えるように舐めていた。
「コレは、何かしら? ああん、太くて、甘いわ!」
「落ち着きましたか? ふふ、子供のように真剣に舐めて可愛いですね。そんなに美味しかったですか? まずは、糖分をとって冷静さを取り戻してください」
「はい、ちゅぱちゅぱちゅぱ……。もう少し舐めていたい気分です……」
「どうぞ、好きなだけ舐めてください。ですが、後数分ほどで賢者タイムが来ます。もう暫くしたら、舐めるのをやめてください」
「もう少しだけ……。今度は、ブルーベリーの味だわ。男性のたくましい太さと硬さに加えて、味まで変えれるなんて……。もっと食べさせて欲しいわ」
「おう、もう直ぐ来ます! 早く口を離してください!」
「ふふん、私は構わないわよ。大人だからね!」
エミリーさんは、優しくグロリアスの体を甘噛みする。そうしていると、彼の賢者タイムが訪れていた。それでも、エミリーさんは甘噛みを止めようとしない。
「うおお、痛くないけど、変な感じが……」
「ふふ、グロリアスさんの本来の味は、ちょっと塩っぱいのと苦い味が混ざっているのですね。大人の味がいたしますわ。ごっくん、ご馳走さま……」
「俺の親指を舐め回して、最後に甘噛みするとは……」
「ふふ、悪戯が過ぎましたかね?」
彼が賢者タイムになっても、エミリーさんは大人の余裕を見せ付けていた。魔法では彼に勝てなかったので、軽い悪戯心が出て来たようだ。
小悪魔のような妖艶な目でグロリアスを見つめていた。奥さんは、乱れた着衣を整えていると、グロリアスは本題に入ろうとする。ようやく落ち着いて話し合いができそうだ。
「それで、要件というのはですね……」
「はい、なんでしたっけ?」
一通りの工程を経て、奥さんは落ち着いて話を聞いていた。途中で浮気などの単語が出ても、興奮して暴れるようなことはしない。彼が離し終わる頃には、全ての事情を納得して受け入れていた。
「そう、お父様が私と彼の仲を引き裂こうとしていたのですか……。お母様が亡くなって、寂しい思いをしていたのでしょうね。
1人だから消極的な考えになると思い、一緒に生活していたのだけれど、まさか、そんなことを考えていたとは……。
彼の悪いところを徹底的に批判していた裏には、そういう訳があったんですね。でも、分かっていても1人にしておくこともできませんわ……」
「私としましては、お孫さんでも出来れば、ご主人のことは考えなくなると思うのですが……」
「それは良い方法ですが、子供が出来るまでに10ヶ月はかかります。子供が出来てから可愛いと思うのでは遅いのです。少なくとも、自分の孫が欲しいと思わなければ……」
「子供の存在が確認できるまで3ヶ月かかりますね。そこまで行けば、ご主人を排除しようという気にもならないのでしょうが……」
「それでは、時間がかかり過ぎます。お父様は、暗殺のプロ。あまりにも強過ぎて、暗殺業者からも早めの退職を言い渡されたのです。突然の無職に精神が蝕まれ、ボケ始めていますが、それでも魔法技術は衰えていません。
このままでは、夫を殺してでも私を奪っていこうと考えますわ。この世界では警察もあまり機能していません。実質、グロリアスさんが警察のような役目ですから。お父様が本気になれば、夫を殺害して消し去ることも可能なのです!」
「そういえば、彼は『七賢者』でしたね」
「ええ、『元』最強賢者の一格ですわ……」
聞き慣れない単語に、私は興味を示す。私の特訓は上手くいっており、すでに1分間に50回は突破していた。そろそろ電気を放電するのに慣れて、集中しなくてもできるようになっていた。はっきり言って、数えてなんかいない状態だ。
「七賢者?」
私の呟きに、グロリアスが反応していた。どうやら説明してくれるらしい。
「ああ、簡単に説明してやろう。『賢者』は、魔法を扱える者たち全てを指す言葉だ。強い奴も、弱い奴も、一応魔法を扱えれば、『賢者』と呼ばれる。
『大賢者』は、魔法の基本を知っていて、弟子を育てる事ができる人物を指す言葉だ。実力があれば呼ばれる事もあるが、基本は賢者の教師に与えられる称号だ。
『七賢者』は、魔法技術が七つの属性の一つになっている人物を指す。例えば、お前を例に挙げて考えてみよう。本来は、電気を放電させる能力だが、一定以上の実力になると、体が『光』になれる状態になるという。
その状態を自分の意思で扱えるようになった人物に対して、『七賢者』と呼ばれている。『火』『水』『風』『土』『木』『光』『闇』のどれかに体が変わるという能力に昇格しているのだ。
一般的に、魔法技術が自然属性に変化させた方が強いと言われている。もちろん、万能ではなく弱点も多少はあるのだがな……」
「強いんだ! 『無限賢者』よりも強いの?」
「『無限賢者』というのはな、全ての賢者がなりうる可能性を持っているんだ。賢者タイムを克服した者に与えられる称号だ。方法は様々だが、戦い方を工夫する事で、『無限賢者』になれることが可能だ。
要は、発想力の問題とも言える。お前も賢者タイムをなんとかする方法を考え出せば、魔法が使えるようになった時点で『無限賢者』と言えるんだ。もちろん、実践と経験を積んで、百戦錬磨の賢者に与えられるのが一般の見方だけどな。
『無限賢者』になろうとする事自体は悪い事ではない。実力が拮抗し合えば、賢者タイムは生死を分ける境目にも、勝敗を決する境界線にもなり得るからな」
「ふーん」
「お前はまず、課題を着実に合格する事だ。まあ、見たところ、今日の課題はもう合格しているようだがな……」
私は機械的に電気ショックを発生させていた。その数は、1分間に100回は超えているであろう。記録を取っていないから分からないが、すでに合格ラインの1分間に60回は軽く合格していた。
すると、階段から何者かが降りてきた気配がする。壁越しでも、その危険度が漏れ出しているのが分かった。どうやらお父様が起きていらっしゃったらしい。相当機嫌が悪く、いきなり私の行動が気に障ったようだった。黒いシルクハットを被り、白髪をなびかせるオシャレな感じのお爺さんだった。
「何を騒いでいるんじゃ! さっきからバチッバチッ五月蝿いわ! 電気を放電させて、儂を感電させるつもりか? やっぱりあの男の嫁にするわけにはいかん! エミリーは、儂が大切に養ってやるわ!」
どうやら、イーライ・スミスさんの仕業だと思っているらしい。私とグロリアスの姿を確認して、黒いマントをばっとなびかせて、仁王立ちで止まっていた




